相場展望2月9日号 FRB議長「ハト派」発言を、FRB高官が「タカ派」で打消 インフレ目標2%に向け、金利7~8%程度に引上げ?

2023年2月9日 11:07

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)2/6、NYダウ▲34ドル安、33,891ドル(日経新聞より抜粋
  ・労働市場の需給逼迫を背景に米連邦準備制度理事会(FRB)による早期の利上げ停止や年後半の利下げ転換の観測が後退し、売りが出た。半面、米景気の強さに着目した買いが相場を支えた。
  ・前週末発表の1月米雇用統計は雇用数が市場予想を大きく上回って伸びた。失業率も半世紀ぶりの水準に低下し、FRBが「ハト派」に転換するとの期待が薄れた。米長期金利が3.6%台に上昇(前週末終値は3.52%)し、相対的な割高感が意識された高PER(株価収益率)のハイテク株の下げが目立った。
  ・もっとも、売り一巡後にNYダウは下げ渋り、小幅高に転じる場面もあった。米景気自体は強いとの見方から、建機のキャタピラーや機械のハネウェルなど景気敏感株の一角が買われた。前週までハイテク株買いの陰で売られていたヘルスケアなどディフェンシブ株の上昇もNYダウの下値を支えた。

【前回は】相場展望2月6日号 米国経済は予想以上に堅調、インフレ圧力強く ⇒ドル高・金利引上げ・高金利水準が長期化へ

 2)2/7、NYダウ+265ドル高、34,156ドル(日経新聞より抜粋
  ・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の2/7のインタビューが警戒していたほどタカ派寄りではなかったと受け止められ、買い直しが優勢となった。
  ・パウエル議長はインタビューで、前週の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見と同じく「ディスインフレのプロセスが始まった」と発言した。「今年はインフレが大幅に鈍化する年」とも述べた。市場では前週末の強い1月の米雇用統計を受け、パウエル議長がインフレを警戒した発言をすると警戒していた。
  ・ただ、パウエル議長は1月雇用統計について「あれほど強いとは予想していなかった」と述べ、高い金利政策を維持する姿勢を示した。
  ・FRBはインフレ警戒姿勢を緩めたわけではないとの見方から株が売られ、発言後はNYダウが▲250ドル強下げる場面もあった。売り一巡後はじり高になる展開だった。
  ・ハイテク株が買われ、ソフトウェアのマイクロソフトやスマホのアップルが高い。間接部門の人員削減を発表した航空機のボーイングが上げ、原油高を受け石油のシェブロンが高い。エヌビディアが+5%高など半導体株が総じて買われた。一方、ディフェンシブ株が売られた。

 3)2/8、NYダウ▲207ドル安、33,949ドル(日経新聞より抜粋
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)高官の発言がタカ派寄りと受け止められ、米利上げの早期停止観測や年内の利下げ期待が後退した。このため、ヘルスケア以外の幅広い業種で売りが優勢になった。
  ・FRBのウォラー理事が2/8の講演で、インフレ抑制について「努力は報われ始めたがまだこれからだ。長い戦いになるかもしれない」と金融引締め継続を示唆した。
  ・前週末の強い米雇用統計を受けて、インフレへの警戒度を高めたようだ。同氏はFRB高官の中でも論客として知られ、発言が市場で注目されやすい。NY連銀のウィリアムズ総裁も2/8、「十分に引締め的な金融政策を継続する必要がある」と述べた。
  ・市場では「政策金利が想定よりも高い水準に長くとどまる可能性が改めて意識された」との声があった。前日にはFRBのパウエル議長が「ディスインフレのプロセスが始まった」との従来の見解を繰返し、市場には楽観的な見方が広がっていた。
  ・利上げ継続が米景気悪化を招くとの懸念から、景気敏感株が売られた。スマートフォンのアップルなどハイテク株も全般に安い。一方、業績が景気に左右されにくいヘルスケア株は総じて上昇した。ネット検索のアルファベットが▲8%安と急落。検索サービスでの人工知能(AI)活用で、ライバルのマイクロソフトに出遅れるとの懸念が売りを誘った。

●2.米国株:パウエルFRB議長「ハト派」発言を、FRB高官が「タカ派」発言で打ち消す

 金融引締めは継続し、インフレ率よりも高い金利7~8%まで上昇の可能性も

 1)明確になった米国インフレ率の鈍化傾向
  2022/1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
   7.5%  7.9  8.5  8.3  8.6  9.1  8.5  8.3  8.2  7.7  7.1  6.5
  ただし、FRB目標の2%には、まだ程遠い。

 2)株式市場では、利上げはあと1回もしくは2回実施した後で、「打ち止め」という期待シナリオだった。

 3)2/1のFOMC(米連邦公開市場委員会)結果発表で、株式市場は利上げ継続と受け止めNYダウは▲500ドルを超える下落となった。

 4)ところが、FOMC後のパウエルFRB議長の「ハト派発言」の記者会見を受けて、NYダウは猛烈な+500ドルの反発となり、2/1終値は前日比+6ドル高、34,092ドル。パウエル議長発言「ディスインフレ(インフレの鎮静化)のプロセスは始まった」を受け、株式市場は「利上げ停止・金利引下げ期待」が高まり、買い優勢となった。2/1のNYダウは乱高下の激しい1日だった。

 5)2/2に米雇用統計が発表され、予想以上に強い労働市場の逼迫が明らかになり、米景気の力強さを示した。これにより、金利引上げ継続が意識され、NYダウは2/2~6で▲201ドル下落した。

 6)2/7、パウエルFRB議長はインタビューで、「ハト派」発言を再度繰返し、株式市場は好感しNYダウは+265ドル上昇した。

 7)2/8、FRB高官はFRBの真意が株式市場に伝わっていないと判断したのか、一斉に「タカ派」発言をし、パウエル議長発言を打ち消した。これにより、NYダウは▲207ドル下落した。
  ・パウエル議長は市場との対話を重んじてきたが、今回の「ハト派発言繰返し」には大丈夫かと危惧する。

 8)米雇用統計で予想以上の逼迫が明らかとなり、米経済の力強さが証明された。力強い労働市場が賃金を引上げた場合、インフレ鈍化は止まるため、FRBはインフレ抑制のため利上げ継続を迫られることになる。

 9)インフレ抑制のための金利引上げは、米景気後退を招くことになる。米国の強い需要を低下させないことには、インフレ抑制はできない。つまり、米景気後退なくしてインフレ退治はできない。まして、FRBのインフレ目標2%を達成しようとするならば、なおのことである。

 10)債券市場では、景気後退を読んで「長短金利の逆転幅」を拡大させている。
  ・2/1 ▲0.689% ⇒ 2/8 ▲0.810 (10年国債利回りー2年国債利回り)

 11)米政策金利は7~8%に上昇する可能性が増す
  ・現在のFRBの政策金利目標は5%強であるが、既に市場は6%を読み始めている。

 12)2024年は米国大統領選挙の年である。
  ・バイデン政権は再選や民主党政権の継続をねらって、大規模な米国景気浮揚策を打ち出す可能性が大である。
  ・つまり、この経済支援策は「新たなインフレを醸成する」ものである。

 13)米インフレ退治、FRBのインフレ目標達成には、政策金利7~8%が必要となる可能性があると思われる。

●3.パウエルFRB議長、2/7のインタビューでの発言

 1)「ディスインフレ始まった」と再び発言。(日経新聞)

 2)「もし、強い労働市場のデータが続けば、ピーク金利が高くなる可能性」(フィスコ)
   「データ次第で対応」

 3)「2023年は、インフレが著しく鈍化する年になると予想」(フィスコ)

●4.NY連銀ウィリアム総裁発言(フィスコ)

 1)もし、金融状況を緩和したら、一段の利上げが必要になる。

 2)0.25%の利上げは正しい幅である可能性。

 3)ピーク金利5.0~5.25%は引続き理にかなう。

●5.アトランタ連銀ボスティック総裁、「FRBは予想以上の利上げが必要になる可能性」(ロイターより抜粋

 1)予想以上に好調だった1月雇用統計を受け、述べた。

●6.ミネアポリス連銀カシュカリ総裁、「インフレ抑制のため、政策金利5.4%に」(日経新聞)

●7.クックFRB理事、「1つの指標結果を過剰に重要視すべきでない」(フィスコ)

 1)「さらなる利上げが必要、インフレ抑制に向け」

●8.企業動向

 1)米デル  世界従業員の5%に当たる6,650人削減へ、PC需要減少(ロイター)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)2/6、上海総合▲24安、3,238(亜州リサーチより抜粋
  ・米長期金利の上昇や、中国人民銀行(中央銀行)の資金吸収スタンスが嫌気された。
  ・人民銀は2/6、 3,730億人民元を市中から引き揚げた。先週も、連日で巨額の資金を吸収している。
  ・米中関係の悪化も警戒。米軍は2/4、米本土の上空に飛来した中国の「大型気球」を撃墜した。中国外交部は2/5、「民間の無人飛行船が米国に入ったのは不可抗力」だとし、「撃墜は無責任な行動」と強く非難した。
  ・業種別では、消費関連の下げが目立ち、不動産も安く、ITハイテク関連も冴えない。半面、発電・ガスなど公益はしっかり。空運や軍事関連の一角も物色された。

 2)2/7、上海総合+9高、3,248(亜州リサーチより抜粋
  ・中国の景気テコ入れスタンスが改めて意識される流れとなった。
  ・湖北省の武漢市政府は2/6、住宅購入制限の緩和を発表し、即日で実施した。その他の複数地区でも、制限が大幅に緩和されている。
  ・リオープン(経済再開)の進展もあり、中国経済が早期に持ち直すとの見方も根強い状況だ。もっとも、上値は限定されている。
  ・米金融緩和の期待後退や、中国人民銀行(中央銀行)の資金吸収が引続き相場の重石となった。
  ・業種別では、不動産の上げが目立ち、発電やガスの公益も高く、自動車・金融が上昇。半面、医薬品は冴えず、運輸・半導体・食品・酒造が売られた。

 3)2/8、上海総合▲15安、3,232(亜州リサーチより抜粋
  ・米金利高が嫌気される流れとなった。
  ・米10年債利回りは先週末から上昇に転じ、2/8は約1ヶ月ぶりの高い水準で推移している。
  ・中国本土からの資金流出も警戒された。
  ・もっとも、下値を叩くような売りは見られない。指数はプラス圏で推移する場面もあった。リオープン(経済再開)の進展や、当局の景気テコ入れスタンスが引続き相場の下支え要因となっている。
  ・また、中国人民銀行(中央銀行)が資金供給に転じたこともプラス。人民銀行は4,860億元を市中供給している。前日までは、巨額資金を市中から連日で引き揚げていた。
  ・業種別では、ハイテクの下げが目立ち、素材が冴えず、消費関連・インフラ関連・エネルギー・公益・金融・軍事関連が売られた。半面、医薬品はしっかり。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)2/6、日経平均+184円高、27,693円(日経新聞より抜粋
  ・日銀の次期総裁人事に関する報道を受けて為替市場で円安・ドル高が進み、輸出関連株や株価指数先物に買いが先行し、午前は上げ幅を+300円を超す場面があった。もっとも、一方的な上値追いは続かず、午後は次第に上げ幅を縮小した。
  ・日銀の緩和姿勢が続くとの見方から円相場は132円台まで下落し、トヨタなど自動車株は、輸出採算の改善を期待した買いで上昇した。
  ・しかし、日本でもインフレが顕著になる中で、次期総裁の下でも金融政策の修正を徐々に進めるという観測は根強い。
  ・円安進行が一服し、長期金利が上昇すると日本株の上昇の勢いも鈍った。
  ・前週末の米株式市場では1月米雇用統計が労働需給の逼迫を示す内容となり、米利上げの早期停止期待が後退。
  ・米長期金利の上昇と日米のハイテク株売りを促し、東エレクなどの下落が重荷となる。日経平均が心理的節目の28,000円に接近するにつれ、戻り待ちの売りも出やすかった。
  ・ファストリ・KDDI・三菱商事・デンソーが上昇し、アドテスト・エーザイ・ソニー・エムスリーが下落した。

 2)2/7、日経平均▲8円安、27,685円(日経新聞より抜粋
  ・円安進行を背景に買いが先行し上げ幅は一時+100円を超えたが、国内企業業績への警戒感も拭えない中で買いが続かず、次第に利益確定売りなどに押された。
  ・午前は円相場が132円台半ばまで下落し、輸出採算の改善を期待して電気機器や機械といった輸出関連株の一角に買いが先行した。前日の米長期金利の上昇を背景にした金融関連株への買いも相場を支えた。
  ・しかし、上値は重く、日経平均は午後には下げに転じた。
  ・最近の上昇で昨年12月半ば以来の水準まで上昇しており、利益確定や戻り待ちの売りが次第に優勢となった。
  ・前日に今期業績を下方修正したJFEが急落して他の鉄鋼株にも売りが波及するなど、主力銘柄の業績への警戒も投資家心理の重荷になった。
  ・住友不・大林組・富士通・カシオが下げた。半面、ヤマトが大幅高、三菱UFJ・みずほ・T&Dが上昇した。

 3)2/8、日経平均▲79円安、27,606円(日経新聞より抜粋
  ・主要企業の決算発表が本格化する中、業績が悪化したり収益見通しを引下げた銘柄が売りに押され、全体の重荷となった。一方、銀行株や医薬品株の一角が上昇し、相場を支えた。
  ・前日の米ハイテク株高を受け、朝方に日経平均は上昇する場面があった。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が2/7、米インフレの先行き鈍化に改めて言及し、米株高を誘った。一方で、円高・ドル安が進んだことで、日本株の買い勢いが続かず、上値が重くなった。
  ・戻り待ちの売りにも押され、日経平均の下げ幅は一時▲200円を超えた。前日に決算を発表し、業績が悪化したソフトバンクGが大きく下落、収益見通しを下方修正した任天堂も売りが強まった。
  ・午後の日経平均は下げ渋った。「決算を受けて大きく下げた銘柄に、国内投資家から下値を拾う動きが散見された」との声もあった。好決算の銘柄も買われた。
  ・シャープが▲12%安、丸井・東レも安い。半面、GSユアサ・協和キリン・第一三共・アドテスト・東エレクも上げた。

●2.日本株:企業決算発表が本格化する中で、「慎重な企業スタンス」が目立つ

 1)企業決算の動向
  ・人流回復、インバウンド効果などで小売など消費財関連銘柄が好調決算。
  ・円高転換で、輸出関連企業の業績低下。
  ・4~12月業績好調ながら、通年予想を据え置く企業が目立つ。
  ・予想外の業績下方修正の企業が見受けられる。外人先物手口は、買越し継続している。

 2)外国人先物は買越しが継続
  ・ただ、ゴールドマンサックス、Cスイスの売越し継続に注目したい。
  ・外国人の先物買枚数が減少傾向にあり、注視したい。

●3.次期日銀総裁に雨宮副総裁との報道で円安・株高が進む(日テレ)

 1)金融緩和が続くと捉えられた。

●4.12月実質消費支出は前年比▲1.3%、ロイター予測▲0.2%(ロイター)

●5.企業動向 

 1)三菱重工  国産ジェット旅客機開発で約1兆円投資、事業化メド立たず撤退(共同通信)
 2)出光興産  豪州石炭鉱山の権益85%を300億円で売却(時事通信)
 3)ルノー   日産自の出資比率見直しによる株売却は「時間がかかる」(毎日新聞)
 4)日清食品  170品目を6/1から10~13%値上げ、昨年6月以降で2回目(NHK)
 5)ヤマト   宅配料を4/3から約10%値上げ(日テレ)
 6)任天堂   従業員給与を4月から10%引き上げ(京都新聞)

●6.企業業績

 1)シャープ 通期営業利益+250⇒▲200億円の赤字に下方修正、ディスプレー不振(NHK)
 2)任天堂  通期最終利益予想+4,000⇒+3,700億円に下方修正(NHK)
 3)ソフトバンクG 4~12月最終損失▲9,125億円赤字、前年同期+3,926億円(毎日新聞)
          中国AI開発のセンスタイム、インドネシア電子証取引のゴートゥ、米料理宅配のドアダッシュの株価下落が響いた。
 4)スズキ   2023/3期営業利益+2,900⇒+3,100億円(前期比+61.9%増)(ロイター)
 5)ダイキン  4~12月最終利益+2,089億円と最高益、前年同期比+16.9%増(読売新聞)
        通期見通し最終利益+2,350億円(前年比+7.9%増)は据え置き
 6)住友商事  4~12月純利益+4,642億円で過去最高、前年同期比+38.5%増(ロイター)
        通期純利益+5,500億円、前期比+18.6%は据え置き
 7)日本郵船  4~12月純利益+9,203億円、前年同期比+33.0%増(ロイター)
 8)商船三井  4~12月純利益+7,232億円、前年同期比+48.5%増(ロイター)
 9)川崎汽船  4~12月純利益+6,382億円、前年同期比+50.8%増(ロイター)
 10)三井金属  2023/3期純利益+360⇒+130億円黒字に下方修正(日経新聞)
 11)日本マクドナルド 通期営業利益+338億円黒字、前年比▲2.1%(NHK)

■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします) 

 ・3141 ウエルシア  業績堅調。
 ・3391 ツルハ    業績好調。
 ・9432 NTT     業績堅調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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