相場展望8月7日号 米国株: 利上げ「停止」期待が高まるが、インフレ再浮上に注意 相場は「夏枯れ」入り 日本株: 物色の流れに変化の兆し 日銀の長短金利操作(YCC)の修正で、「円安」進行

2023年8月7日 09:24

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)8/3、NYダウ▲66ドル安、35,215ドル(日経新聞より抜粋
  ・米長期金利の上昇基調が強まり、株式の相対的な割高感が意識された。ただ、8/3の通常取引終了後にスマホのアップルやネット通販のアマゾンが発表する四半期決算、8/4の7月米雇用統計を見極めたい投資家が多く、下げ渋った。
  ・NYダウは寄り付き直後に▲160ドル下げる場面があった。8/3の米債券市場で長期金利の指標である10年債利回りが一時、前日比+0.11%高い(価格は安い)4.19%と、昨年11月以来およそ9カ月ぶりの水準に上昇。足元の米景気が想定以上に底堅いのに加えて、米財政悪化による国債増発で金利先高観が強まっている。金利上昇で相対的な割高感が強まる高PER(株価収益率)のハイテク株の一角や配当利回りが高く金利敏感株とされる銘柄などが売られた。金利上昇が業績の逆風となる資本財関連も下げた。
  ・売り一巡後は上げに転じ、NYダウは+65ドル高となる場面があった。米連邦準備理事会(FRB)が重視する8/4の米雇用統計は金利動向にも影響を与えるとみられ、関心が集まる。8/3発表の4~6月期の労働生産性指数は市場予想を上回る伸びとなり、単位労働コストは市場予想以上に伸びが鈍化した。7月の米サプライマネジメント協会(ISM)非製造業(サービス業)景況感指数は低下したものの、好不況の境目である50を上回った。経済指標がインフレ圧力の緩和や米景気の底堅さを示したことが好感された。
  ・個別株では、顧客情報管理のセールスフォースや建機のキャタピラーが下げた。8/2夕発表の決算を受けて半導体のクアルコムや電子決済サービスのペイパルなども売られた。一方、半導体のインテルが買われた。アナリストが人工知能(AI)関連事業に強気な見方をした半導体のAMDが上昇。電気自動車のテスラも買われた。

【前回は】相場展望8月3日号 米国株: 長期金利が上昇、ハイテク株を中心に売られる展開 中国株: イデオロギーの国、中国に再成長は戻ってくるか 日本株: 夏相場に期待できるか

 2)8/4、NYダウ▲150ドル安、35,065ドル(日経新聞より抜粋
  ・朝方発表の米雇用統計では非農業部門の雇用者数の増加幅が市場予想に届かなかった。半面、平均時給の前年同月比の上昇率は市場予想以上だった。米連邦準備理事会(FRB)による利上げ継続の可能性が意識され、売り優勢となった。
  ・8/3夕に4~6月期決算を発表したスマホのアップルが▲5%安した。主力製品のスマホの回復が鈍く、売上高は3四半期連続で前年同期を下回った。時価総額が最も大きい銘柄の下落が市場心理を冷やした面もあった。市場では、「このところ割高感の強いハイテク株の先行きにも警戒感がある」との声も聞かれた。
  ・朝方は買いが先行し、NYダウの上げ幅が+290ドルに達する場面があった。7月の米雇用統計では、非農業部門の雇用者数が前月比で+18.7万人増と、ダウジョーンズ通信がまとめた市場予想+20万人に届かなかった。併せて5月と6月の雇用者数の伸びが下方修正された。労働需給のひっ迫が和らいでいると受け止められた。
  ・一方、平均時給は前年同月比の上昇率が+4.4%と、市場予想の+4.2%以上に伸びた。賃金が高止まりし、インフレの鎮静化に時間がかかるとの見方から、FRBによる利上げ継続のリスクが意識された。買いの勢いが鈍かったこともあり、次第に売りが優勢となった。
  ・工業製品・事務用品のスリーエムや日用品のP&G、製薬のメルクなどが下落。交流サイトのメタや電気自動車のテスラが下げた。一方、スポーツ用のナイキや金融のゴールドマンサックスが上昇。原油価格の上昇を受け石油のシェブロンも高かった。前日発表の決算で業績が市場予想を上回ったバイオ製薬のアムジェンも上昇。前日夕に決算を発表したネット通販のアマゾンが+8%高で終えた。

●2.米国株:

 ・利上げ「停止」への期待が高まるなか、インフレ再浮上の懸念
 ・今後の相場は「夏枯れ」か?
  1)利上げ停止の思惑への懸念
   ・平均時給が+4.4%と、予想+4.2%を超えて上昇。
   ・来週8/10発表の消費者物価指数(CPI)は、原油高でもあり警戒感がある。
    総合CPIは、前年同月比で7月+3.3%と、6月の+3.0%から加速する見込み。
    食品・エネルギー除くコアCPIは7月+4.8%で、6月と同じ伸び率を予想。
    8/11は卸売物価指数(PPI)の発表。
   ・スマホのアップルの低調な決算への失望の波及を見極める必要あり。
   ・労働市場のひっ迫は若干緩和したものの、依然として高い水準にある。
   ・米財務省の発行債券で多額な資金が市場から吸い上げで、金利上昇の懸念。

  2)「夏枯れ」入りに注意
   ・4~6月期決算シーズン終盤となり、好材料が乏しくなる。
   ・投資家の夏季休暇入りで、相場のエネルギーは低下傾向に。
   ・昨年の夏相場は軟調だった。
         8/16     9/30
    NYダウ 34,152 ドル  28,725  : ▲5,427 ドル下落、下落率▲15.9%
   ・ただし、米景気の底堅さは維持する可能性がある。

  3)バフェット氏のバークシャーが4~6月期で株式を売り越したことに、注目したい

●3.バフェット氏のバークシャー、4~6月期は営業利益好調も、株式売り越し(ロイター)

●4.ボウマンFRB理事は8/5、インフレ率2%目標達成には、追加利上げ必要(ブルームバーグ)

●5.米7月ISM非製造業景況指数は52.7、予想53.0・6月53.9を下回る(フィスコ)

●6.サウジ、9月も自主減産継続、日量100万バレル(時事通信)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)8/3、上海総合+18高、3,280(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済対策の期待感が相場を支える流れとなった。
  ・当局は足元で景気支援スタンスを強め、各種政策を相次ぎ発表している。
  ・市場では、「中国人民銀行(中央銀行)は8月中旬にも預金準備率を引下げる可能性がある」との観測も流れた。
  ・過度な景気後退もやや後退。
  ・朝方公表された7月の財新中国サービス業PMIは54.1に上向き、市場予想52.4も上回った。景況判断の境目となる50を7カ月連続で超過している。
  ・指標発表後、外国為替市場では、対米ドルの人民元が上昇に転じた。
  ・業種別では、金融が上げを主導したが、金融緩和観測のほか、当局が証券取引の活性化方針を示したことも改めて材料視された。不動産もしっかり、医薬品・発電・食品・酒造なども買われた。半面、自動車は冴えず、エネルギー・素材・運輸・メディア・娯楽が売られた。

 2)8/4、上海総合+7高、3,288(亜州リサーチより抜粋
  ・前日の好地合いを継ぐ流れとなった。
  ・中国の景気支援スタンスが投資家心理を上向かせている。
  ・国務院傘下の経済日報は8/3掲載の論説で、「民間の消費意欲を高めるため、まず株式市場を活性化させる必要がある」と強調した。それより先に、中国共産党が7/24の中央政治局会議で、今年下半期に「資本市場を活性化させ、投資家の信頼感を高める」という方針を示している。
  ・また、中国人民銀行(中央銀行)の総裁は8/3、民間企業を金融面で支援するため、資金調達手段を拡大すると述べた。市場関係者の間には、「人民銀行は8月中旬にも預金準備率を引下げる可能性がある」との見方が広がっている。
  ・ただ、指数は中盤から上げ幅を縮小した。
  ・来週は7月の重要経済指標が集中して発表されることもあり(8/8に貿易統計、8/9に物価統計など)、結果を見極めたいとするムードが漂った。
  ・業種別では、証券の上げが目立ち、ハイテクもしっかり、通信ネットワークも高い。メディア・娯楽・銀行・自動車・エネルギーなども買われた。半面、医薬品は冴えず、素材・運輸・公益・インフラ関連の一角が売られた。

●2.花王、中国で紙おむつ生産終了、構造改革費用600億円を計上(日経新聞)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)8/3、日経平均▲548円安、32,159円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米株安を背景に運用リスクを回避する売りが優勢だった。日米の長期金利が上昇し、高PER(株価収益率)の銘柄を中心に売られた。7/12以来およそ3週間ぶりの安値になった。
  ・前日の米株式市場でNYダウなど主要株価指数は下落した。米国債の格下げが嫌気されたほか、米長期金利の上昇が重荷となった。米株安をきっかけに最近まで上昇基調が続いていた日本株に利益確定売りが広がった。
  ・日経平均がチャート上で25日移動平均線を下抜けしたことも投資家心理を冷やし売りに拍車をかけた。市場では「当面は短期筋による先物主導の相場展開が続きそう」との声が聞かれた。
  ・ただ、下げ渋る場面もあった。日銀は13時過ぎに臨時の国債買い入れオペ(公開市場操作)を実施した。直後に外国為替市場で円安・ドル高が進み、輸出関連が主力の日本株に見直し買いが入った。前日も大幅安となっていたため、自律反発を見込んだ買いが入りやすかった。
  ・日経平均への寄与度が高いファストリやアドテストが下げた。TDKは急落し、前日上げていたトヨタは利益確定売りが優勢となった。一方、信越化やHOYAが買われ、郵船・川崎汽など大手海運株は大幅高となった。

 2)8/4、日経平均+33円高、32,192円(日経新聞より抜粋
  ・前日まで2日間で▲1,300円余り下げていたため、下値では国内投資家などによる自律反発を見込んだ押し目買いが入った。
  ・朝方に下げ幅を一時拡大した場面では、海外短期筋による先物買いや売り方の買いも戻しも膨らんだ。もっとも、今晩に7月の米雇用統計の発表を控えて、持ち高を積極的に傾ける動きは続かず、後場は前日終値を挟んでの一進一退が続いた。
  ・米長期金利の指標である米10年債利回りは前日に一時4.19%と、約9カ月ぶりの水準に上昇した。米長期金利の上昇を受けて前日の米株式市場が下落し、東京市場でも朝方は売りが先行した。
  ・日銀による金融政策の修正で国内の長期金利にも上昇圧力がかかるなか、株式市場では相対的に割高感が意識されやすいPER(株価収益率)の高い銘柄を中心に売りが出た。日経平均の下げ幅は一時▲200円を超え、取引時間として7/13以来、約3週間ぶりに心理的節目の32,000円を割り込む場面があった。
  ・個別株では、東エレク・ソフトバンクGが高く、三菱重・TDK・トヨタ・東京海上の上げが目立った。一方、キッコーマン・ファストリ・KDDI・ヤマハ・エーザイ・協和キリンが売られた。

●2.日本株:

 ・4~6月決算発表シーズン終盤で、物色の流れに変化の兆し
 ・日銀の長短金利操作(YCC)の変更で、「円安」が進行
  1)日本株式相場の流れに変化
   ・         8/1     8/2   8/3   8/4
    新高値銘柄数   259     172    23    45
    新安値銘柄数    18      29    84    88
    日経平均の動き +304円高 ▲768円安 ▲548   +33
   ・新安値銘柄数が新高値を逆転。
   ・日経平均が8/4に+33円高したにも関わらず、新安値銘柄数が新高値を上回る。

  2)日銀のYCCの金利上限を0.5⇒1.0%に引上げたが、その後の1週間のまとめ
   ・債券利回りと為替の推移    7/27  7/28    8/3   8/4
     10年債券の利回りは上昇  0.438%  0.556    0.631  0.636
     円安も進行        140.11円 139.03   143.52  142.38
   ・日本国債価格が金利上昇で下落⇒特に地方銀行の保有債券に含み損増加に懸念。
   ・日銀が大規模金融緩和の維持姿勢を変えないため、「円安」が進行。
   ・円安は、輸入物価を押し上げ、原材料や食料品のさらなる値上げにつながる。
   ・輸出企業は円安効果で業績は上昇も、国内企業はコスト高で業績悪化 。
   ・銀行は貸出金利上昇で、業績好調。
   ・一般庶民の生活は、円安進行は輸入物価上昇で実質賃金が減り厳しくなる。

●3.大手企業賃上げ率3.99%の高水準、1992年以来(朝日新聞)

 1)翌年以降への継続と、中小企業への波及が今後の焦点になる。

●4.企業業績

 1)三菱ケミカル 4~6月期純利益+425億円黒字、前年同期比▲5.2%減(日刊工業新聞)
 2)テレ東    4~6月期営業利益+10.9億円黒字、前年同期比▲63.6%減(フィスコ)
 3)TDK     4~6月期営業利益+263億円黒字、前年同期比▲41%減(フィスコ)
 4)ヤマハ    4~6月期営業利益+69億円黒字、前年同期比▲38.1%減(フィスコ)
 5)NOK     4~6月期営業損失▲12.3億円赤字、前年同期比+1.7億円(フィスコ)
 6)任天堂    4~6月期営業利益+1854億円黒字、前年同期比+82%増(ブルームバーグ)
 7)旭化成    4~6月期営業利益+217億円黒字、前年同期比▲55.9%減(時事通信)
 8)花王     12月通期営業利益+600億円黒字、前年比▲45%減 (日経新聞)
 9)シャープ   4~6月期営業損失▲70億円赤字、前年同期は+61億円黒字(共同通信)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・2726 パル      業績堅調。
 ・4004 レゾナック   決算発表に期待。
 ・7733 オリンパス   決算発表に期待。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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