相場展望7月31日号 日本株: 「立ち上がれ!日銀」国民を高インフレから守るために

2023年7月31日 11:17

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)7/27、NYダウ▲237ドル安、35,282ドル(日経新聞より抜粋
  ・朝方は買いが先行したものの、次第に売り優勢に転じ、14営業日ぶりに反落。
  ・米経済の強さを背景に利上げが継続する可能性が意識された。米長期金利が大幅に上昇、株式の相対的割高感が出たとの見方も重荷となる。NYダウは前日まで13日続伸した後で、利益確定売りが広がった。
  ・7/27発表の米経済指標は軒並み米景気の底堅さを示した。4~6月期の実質国内総生産(GDP)は前期比年率+2.4%増と、2023年1~3月期の+2.0%増並みになるとの市場予想を上回った。6月の耐久財受注は前月比+4.7%増と、市場予想+1.5%増以上だった。週間の新規失業保険申請件数は増加を見込んだ市場予想に反して前週から減り労働需給の引締りを映した。
  ・米連邦準備理事会(FRB)は7月の会合を最後に利上げを停止するとの観測が、足元の株高を支える一因となってきた。だが、7/27の市場では「これだけ米経済が強さを維持する環境で、FRBの利上げが終わったと判断するのは早計だ」との見方が次第に広がったという。
  ・米長期金利は午後にかけて上昇幅を拡大し、一時は前日比+0.15%高い4.02%を付けた。NYダウは前日まで、1987年以来の記録となる13連騰となっていた。13営業日の間の上げ幅は+1,800ドル近くとなり、金利上昇も利益確定売りを促すきっかけとなりやすかった。
  ・日経新聞は米東部時間の7/27午後、「日銀は7/28開催の金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の修正案を議論する」と報じた。長期金利の操作の上限は+0.5%で据え置くものの、市場動向に応じて一定程度超えることも容認する案が浮上しているという。米市場では「投資家はサプライズを嫌う。日銀が政策修正に動くとすれば、グローバルな投資スタンスに悪影響が生じかねない」との見方もあった。
  ・一方、米企業業績の改善への期待は、NYダウが売りが広がる前には+125ドル高となる場面があった。交流サイトのメタは市場予想を上回る4~6月決算や7~9月期の売上見通しを発表し+4%高と、強気の投資家心理を支えた。4~6月期決算が市場予想を上回った外食のマクドナルド、化学のダウ、IT技術のIBMが高い。4~6月期決算で市場予想に届かなかった機械のハネウェルが▲6%安、クレジットカードのアメリカンエキスプレスやソフトウェアのマイクロソフトも売られた。

【前回は】相場展望7月27日号 米国株: 好業績期待で上昇しただけに、材料出尽くし懸念がある 日本株: 短期筋海外投資家は「先物売り」継続、「現物株」動向に注視

 2)7/28、NYダウ+176ドル高、35,459ドル(日経新聞より抜粋
  ・7/28発表の経済指標がインフレ圧力の高まりを示さなかった。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ継続の懸念が和らぎ、買い優勢となった。
  ・7/28発表の米6月個人消費支出(PCE)物価指数は変動の大きいエネルギー・食品を除くコア指数が前年同月比+4.1%上昇と、5月+4.6%上昇から減速し、市場予想+4.2%上昇も下回った。賃金インフレの動向を見る上で重要な4~6月期の雇用コスト指数の伸び率も前期比+1.0%と市場予想+1.1%以下となった。
  ・物価上昇の勢いが和らいでいると受け止められ、FRBによる現在の利上げサイクルが終了するとの観測が強まった。市場では「米経済がソフトランディング(軟着陸)できるとの期待が高まった」との見方があり、投資家心理が楽観に傾いた。
  ・企業業績が改善するとの期待も相場を支えた。7/27夕発表の4~6月期決算が市場予想を上回った半導体のインテルは+7%高。日用品のP&Gにも決算を好感した買いが集まった。ソフトウェアのマイクロソフトやスマホのアップルが上昇した。
  ・米長期金利が低下し、相対的な割高感が薄れた高PER(株価収益率)のハイテク株が買われた。交流サイトのメタや電気自動車のテスラの上昇が目立った。半面、ドラグストアのウォルグリーンズとネットわーク機器のシスコシステムズは下落した。保険のトラベラーズにも売りが出た。

●2.米6月コアPCE(消費者物価)価格指数+4.1%、予想+4.2%・5月+4.6%を下回る(フィスコ)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)7/27、上海総合▲6安、3,216(亜州リサーチより抜粋
  ・米中対立の警戒感がくすぶる流れとなった。
  ・米財務省の高官は7/26、バイデン政権は米国と同盟国の安全保障を確保するため、中国に対し「的を絞った行動」の用意をしていると述べた。半導体分野を巡る対立に関しても、解決の糸口はつかめていない。中国は8月から半導体製造に不可欠なレアメタルの輸出を許可制にする。米国は昨年秋以降、先端半導体の中国輸出を制限。輸出許可制は対抗措置との見方だ。
  ・中国の景気支援スタンスが改めて材料視され、底堅く推移していたものの、指数は引けにかけてマイナスに転じた。
  ・業種別では、ハイテク関連の下げが目立ち、医薬品も安い。半面、銀行・保険はしっかり、消費関連・空運も買われた。

 2)7/28、上海総合+59高、3,275(亜州リサーチより抜粋
  ・本土株の先高観が強まる流れとなった。
  ・中国共産党が7/24の中央政治局会議で、今年下半期に「資本市場を活性化させ投資家の信頼感を高める」方針を示したことなどが改めて材料視された。
  ・業界関係者の間からは、証券取引印紙税の引下げなどを期待する声が上がった。
  ・米金利高などを嫌気した売りが先行したものの、指数は程なくプラスに転じた。
  ・業種別では、金融が相場を牽引し、不動産も高く、消費関連もしっかり。インフラ建設関連・運輸・素材・エネルギー・半導体・医薬品も買われた。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)7/27、日経平均+222円高、32,891円(日経新聞より抜粋
  ・7/26の米連邦公開市場委員会(FOMC)を受け、先行きの米追加利上げ観測が後退し、投資家心理を支えた。日欧の金融政策の発表を控え、様子見の雰囲気が漂うなか、主要なアジア株価指数やハイテク株比率の高い米ナスダック100株指数の先物が上昇し、日経平均も堅調な動きとなった、
  ・米連邦準備理事会(FRB)は7/26まで開いたFOMCで市場の想定通り+0.25%の利上げを決めた。パウエルFRB議長が記者会見で、次の9月会合で政策金利を据え置く可能性に言及した。米金融引締めによる景気下押し懸念が和らいだ。
  ・チャートの分析上で日経平均は上値抵抗線として意識される25日移動平均線の32,781円を上回り、先物主導で上昇に弾みがつく場面もあった。
  ・一方、国内の主要企業の決算発表が相次いでおり、業績の冴えない銘柄への売りが優勢となり、日経平均は午前に下げる場面があった。
  ・ファストリ・東エレク・ソフトバンクGなど値がさ株が高い。テルモ・中外薬・三井不・三菱UFJも買われた。一方、前日発表の4~6月期決算が振るわなかったアドテストと日東電工が下落し、大成建設・日産自も売られた。

 2)7/28、日経平均▲131円安、32,759円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米国株安や外国為替市場での円高・ドル安が重荷となり、朝方から幅広い銘柄に売りが出た。日銀が今日まで開いた金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の運用の柔軟化を決め、後場には先物主導で売りが加速する場面があった。下げ幅は一時▲850円を超えたが、大引けにかけ下げ渋る。
  ・7/28付けの日本経済新聞朝刊が「日銀は7/28まで開く金融政策決定会合でYCCの修正案を議論する」と報じたのをきっかけに為替市場では円相場が円高ドル安に振れ、東京市場では自動株など輸出関連銘柄を中心に売りが先行した。
  ・後場は荒い値動きとなり、日中値幅(高値と安値の差)は809円と、今年2番目の大きさを記録した。日銀が午後の取引開始直前にYCCの柔軟化を決めたと発表し、日経平均は前日比▲40円程度安まで下げ渋ったものの、その後は外国人投資家と見られる売りが膨らんだ。
  ・大引けにかけては再び下げ幅を縮小した。市場では「日銀が『連続指値オペ』の利回りを0.50%から1%に引上げたにもかかわらず、長期金利は思ったほど上がらず、株式市場では買い安心感が広がった」との声が聞かれた。
  ・オムロン・日野自は大幅安、ルネサス・キャノン・富士通も売られた。半面、三菱UFJなど銀行株が上昇、富士電機・小田急も買われた。

●2.日本株:「立ち上がれ!日銀」 高インフレから日本国民を守るために

 1)日銀は長期金利の上限を0.5%超えに修正
  ・日銀は7/27~28開催の金融政策決定会合で0.5%超えを認めた。しかし、これは大規模金融緩和策の枠組みを維持するもので、変更ではない。
  ・現状の長期金利(10年物)の金利は、7/25時点で0.456 %と何時0.5%を上回るかもしれないという状況にあった。0.5%を超えてからの決定では、「日銀が追認した」という形を避けたかっただけである。したがって、今回の修正は「単に10年長期金利の上限を0.5⇒1.0%」に変えただけではないか。
  ・よって、短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%とするイールドカーブ・コントロールという従来の大規模金融緩和策の大枠を維持した、と見る。
  ・日銀は大規模金融緩和策を一歩も修正していない。植田日銀総裁は、長期金利が一定程度「上がることを容認」しただけである。一定程度とは「0.5%超~1%程度」を指すものと思われる。

 2)日経平均は一時大幅安を記録したが、冷静さを取り戻す
  ・特に短期筋の海外投資家は、発表当初は驚いて先物などを中心に売り浴びせた。そのため、7/27の日経平均は過剰反応して一時▲850円の大幅下落した。
  ・その後、海外投資家は日銀の修正が小手先だと判断し直して、買い戻しをした。結果として、日経平均は前日比▲131円安と、前日NYダウ▲237ドル安に対応下落幅に落ち着いた。

 3)日銀の国債保有比率50%超えへの対応か
  ・日銀は長期金利の上昇を抑え込むため、無理な国債買い上げを実施して大量の国債を市場から吸収してきた。
  ・結果として、政府が発行した国債の日銀保有率は50%を超えた。これは事実上の「財政ファイナンス」と見る。財政ファイナンスは法令で禁止されている。
  ・今回の上限金利を0.5⇒1.0%に引上げたのは、日銀の保有比率上昇スピードを緩やかにする効果を狙ったとも思われる。

 4)日本の物価上昇(インフレ)率は3%を超え、上昇加速の段階にある
  ・日本のインフレ率は低水準に抑え込まれてきたが、日銀の物価上昇目標2%を超える3%超になっている。6月全国消費者物価指数は、生鮮食品を含む全体では前年同月比+3.3%に上昇。7/28発表の7月東京都消費者物価指数は高水準が続き、生鮮食品を除く食料は+9.0%の上昇となった。
  ・岸田首相は3%以上の大手企業の賃上げを推進したが、さらなるインフレ上昇を招く結果となろう。  
  ・レストラン価格は、すでに2~3割も高騰している。サラリーマンのランチも1割上昇も当たり前となっている。コーヒーなどの喫茶代金もすでに大幅値上げをしている。
  ・大手電力会社の電気料金の値上げ幅は15~39%となる予定だ。加えて今後、賃上げが物価上昇の要因となる。
  ・実質賃金は、13カ月連続のマイナスを記録している。
  ・小手先の日銀の長期金利上限0.50~1.0%の変更で、「円安が進行」した。
   139.415円/ドル ⇒ 141.172円/ドル   +1.757円の円安進行
   本来なら、長期金利上昇は「円高」に振れるものである。なぜ、「円安」に振れたのか?日銀は自問自答すべきでないか。「円安は物価上昇の要因」である。
  ・植田日銀総裁は「物価上昇目標2%に、達していない」としている。その根拠として、翌年末の物価上昇が1%台に低下すると見ているためである。国民の生活状況の変化を見ようとしていない、のではないだろうか。

 5)「立ち上がれ!日銀」
  ・日銀の長期金利の上限を0.5⇒1.0%に引上げたのも、市場金利の上昇に合わせただけで、日銀の金融政策の変更を意図したものではない。
  ・それだけに、海外投資家の日本国債の売り仕掛けはより一層激しくなりそうだ。一部の海外投資家の日本国債売りは「総枠の上限枠に達している」。今回のような意味不明の小手先の金融調整では、ますます海外投資家の日本国債売りを加速させるだけとなろう。
  ・日銀は債券市場から追い込まれている。日銀は国民の下僕であるはずだ。政府首脳や財務当局の下部組織ではない。国民をインフレ上昇からも守るために、「立ち上がれ!日銀」。

●3.日銀、長期金利の変動幅の運用を柔軟化、0.5%の上限超えを容認(NHK)

●4.アサヒ、傘下の「なだ万」とビール園の売却検討(NHK)

●5.トヨタ、世界生産489万台、前年同期比+12.1%増、過去最高を更新(中京テレビ)

 1)国内生産は前年同期比+29.2%増の164万台、海外+5.1%増の325万台

●6.GSユアサ、鉛蓄電池製造の中国子会社2社の株式70%売却(日刊自動車新聞)

 1)ゼロコロナ政策で収益悪化

●7.企業業績

 1)日野自  4~6月期純損益▲165億円の赤字、前年同期+7億円黒字(時事通信)
        エンジン認証不正響く
 2)JR東海  4~6月期純利益+905億円黒字、+92.7%増(東海テレビ)
        運賃収入はコロナ禍前の9割ほどの水準に回復
 3)富士通  4~6月期営業利益+26億円黒字、前年同期比▲90.7%減(ニュースイッチ)
        半導体需要減が響く
 4)ANA   4~6月期純利益+306億円黒字、通期+800億円黒字(TRAICY)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・3697 SHIFT    業績好調期待。
 ・7148 FPG      高配当期待。
 ・7270 SUBARU     円安メリット。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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