相場展望8月11日 インフレ鈍化で楽観も、賃金高くFRBは利上げ継続へ 日本株:閑散相場の中、外国人先物買い減少に注視

2022年8月11日 09:42

印刷

■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)8/08、NYダウ+29ドル高、32,832ドル(日経新聞より抜粋
  ・前週発表の米7月雇用統計が市場予想を大幅に上回り、米景気への懸念が後退した。
  ・ただ、半導体のエヌビディアが業績の下方修正を発表したのを嫌気し、ハイテク株を中心に売りが出て上値は重かった。
  ・雇用統計では雇用者数の増加が市場予想の2倍に達し、米連邦準備理事会(FRB)が速いペースで利上げを続けても米経済は耐えられるとの見方が広がった。景気敏感株や消費関連株の一角が買われた。
  ・ただ、NYダウの上値は重く、小幅に下げに転じる場面もあった。NYダウ構成銘柄ではないが、エヌビディアが8/8に5~7月見込みの売上高と売上総利益を大幅に下方修正し株価は▲8%安、アップルなどハイテク株の売りを誘った。
  ・8/10には米7月消費者物価指数(CPI)の発表を控える。金融政策を左右しかねないだけに、内容を見極めたい投資家が多く、相場方向に欠けた一因になった。

【前回は】相場展望8月8日 米7月雇用の好調で、FRBは9月大幅金利引上げ? 最近の日経平均は、28000円台から反落する傾向

 2)8/09、NYダウ▲58ドル安、32,774ドル(日経新聞より抜粋
  ・半導体大手の業績予想の下方修正が相次ぎ、ハイテク株への売りが優勢となった。ただ、米7月消費者物価指数(CPI)の発表を8/10に控え、積極的な売りは限られ、相場の下値は堅かった。
  ・半導体のマイクロンは8/9、パソコン向けなどの需要減を理由に2022年6~8月の売上見通しを引下げた。9~11月も厳しい環境が続くという。前日には同業のエヌビディアも見通しを下方修正しており、収益懸念から半導体を中心にハイテク株に売りが広がった。インテルやセールスフォースも安い。
  ・一方、ディフェンシブ銘柄が買われ、相場を支えた。保険のトラベラーズ、製薬のメルク、米原油先物高で石油のシェブロンも買われた。
  ・CPIに関しては、原油安を反映し、上昇が鈍ると予想されている。市場予想ほどにインフレ圧力が和らがなければFRBによる利上げ加速の観測が強まる。一方、市場予想以上にインフレが減速すれば株買いを促す可能性がある。CPIの内容を見極めたいとして、8/9は積極的な取引を見送る投資家が多かった。

 3)8/10、NYダウ+535ドル高、33,309ドル(ロイターより抜粋
  ・米インフレ率が鎮静化し、FRBが予想ほど積極的な利上げを行なわないとの見方が台頭したことが、大幅上昇の背景となった。
  ・米労働省が8/10発表した7月消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比+8.5%で、6月の+9.1%から鈍化した。市場予想は+8.7%の上昇だった。
  ・これを受け、株価は広範に上向き、SP500の主要11セクターが全て上昇し、グロース株がバリュー株よりも大きく上げた。
  ・7月CPIを受け、FRBが9月会合で+0.75%の利上げを決定する確率は43.5%に低下、一方で+0.50%の利上げ確率は56.5%と上昇した。
  ・市場では「インフレ率はなお極めて高い水準にあるが、6月にピークを付けたという楽観的な見方が出ている」と指摘。また、「労働市場が持ちこたえる中、インフレ低下の兆しが見え始めたことで、市場は『適温』状態にある」との声もあった。
  ・国債利回りの低下を反映し、高成長の大型株であるアップル、アルファベット、アマゾン、マイクロソフトは2%超上昇。景気敏感な銀行株も上昇。テスラ、メタも上げた。

●2.米国株:米インフレ鈍化期待も賃金インフレで抑制困難に⇒FRBは利上げ継続へ

 1)原油価格の低下傾向で、ガソリン価格や光熱費が上げ止まって、下げ基調になったことでインフレ鈍化観測が出てきている。原油先物価格は既に、ロシアのウクライナ侵攻前の水準まで急落している。FRBが物価上昇インフレに対する抑制策として、3月から政策金利の上昇を始めた。FRBの狙いは、政策金利の上昇効果で「需要の抑制」を図ったことにある。原油価格低下、住宅販売キャンセル増加など経済指標も一部に経済鈍化を示唆し始めた。そして、長期金利が低下を始めたことを受け、株式相場は反転し大幅上昇した。加えて、FRBによる金利引上げペースの緩和も期待された。だが、原油価格の低下は先物主導の下落基調となっており、ロシア問題は解決していない。反転上昇する可能性がある。

 2)また、平均時給の伸びが前年比+5.2%と大幅上昇が続き、失業率も3.5%と最小水準に達し、求人数は求職者数の1.8倍と、労働市場は活況のままである。このことから、労働コストのインフレは止まることはなさそうである。

 3)かつ、 賃金インフレの状況下でも、賃金の上昇率は物価上昇率より下位にあるため、実質賃金はマイナス状態にある。そのためこの賃金インフレ抑制の処方箋は描けない状態にある。

 4)食料品も前年同月比+10.9%上昇と、1979年来で最大の伸びを記録し、高騰の勢いは止まらない。

 5)物価指数にウェートを占める家賃の高騰が続いている。家賃は下落抵抗性が高く、いったん上昇し始めると、下げることは至難の業である。しかも、インフレはピークアウトしたとしても、高止まりが続くと思われる。FRBの物価上昇目標が2%であり、現状はFRB目標の3倍近い水準となる。したがって、FRBによる政策金利引上げは2022年内、FOMC開催ごとに引上げられるだろうし、2023年も通常ベースの+0.25%単位で引上げられ、政策金利は5%(現状2.25%)までは覚悟する必要が出てくる可能性がある。

●3.米7月消費者物価指数(CPI)は前年比+8.5%上昇、3カ月ぶり減速(時事通信より抜粋

 1)最近の原油相場の下落などを受けて伸び率が前月の+9.1%上昇を下回り、減速した。市場予想+8.7%上昇も下回ったが、インフレは引続き高水準で推移しており、FRBは大幅利上げを続ける構えだ。

 2)CPIの項目別では、ガソリン価格が前年同月比+44.0%の大幅上昇。だが、前月比で低下。半導体不足による自動車生産の停滞を反映し、新車は前年同月比+10.4%上昇と高止まり。航空運賃は+27.7%上昇した。

 3)価格変動の激しい食品とエネルギーを除いた「コア指数」は+5.9%上昇。前月並みの伸び率で、インフレ圧力の根強さが示された。

 4)米国では新型コロナ危機からの需要回復に供給が追いつかず、物価が上昇。ロシアのウクライナ侵攻に伴う食品とエネルギー価格の高騰も重なり、記録的な高インフレに見舞われている。

 5)FRBは物価抑制に向け、7月の金融政策決定会合まで2連続で通常の3倍となる+0.75%の利上げを決定した。しかし、雇用の伸びなどに鈍化は見られず、次回9月会合でも大幅な引上げが見込まれている。

● 4.ABCニュース、経済悪化していると考える米国人は69%、2008年来の高水準(ブルームバーグ)

●5.ボウマンFRB理事、「物価高鈍るまで+0.75%幅の利上げ継続」、利上げ減速に慎重(日経新聞)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)8/08、上海総合+9高、3,236(亜州リサーチより抜粋
  ・中国景気の先行き不安後退で買われる流れとなった。
  ・中国海関総署(税関)が8/7公表した7月貿易統計では、輸出の伸びは人民元建ベースで+23.9%となり、減速予想(+19.6%)に反し、前月+22.0%から加速した。
  ・中国経済の持ち直しが期待されている。
  ・国内の新型コロナ感染再拡大などを嫌気した売りが先行したものの、下値は堅く、指数は程なくプラスに転じた。
  ・業種別では、石炭が高く、発送電関連銘柄もしっかり、反面、旅行関連・金融は安い。

 2)8/09、上海総合+10高、3,247(亜州リサーチより抜粋
  ・投資家のリスク選好が持続する流れとなった。
  ・中国当局の産業支援策強化や、中国経済の持ち直し期待が引続き相場を支えている。
  ・ただ、上値は重い。国内の一部地域で新型コロナ感染が再拡大し、行動制限を強化していることが不安材料だ。
  ・指数発表も気懸かり。中国では8/10、今年7月の物価統計が公表される予定だ。
  ・業種別では、石炭の上げが目立ち、運輸・物流関連が物色され、反面、医薬品が下落。

 3)8/10、上海総合▲17安、3,230(亜州リサーチより抜粋
  ・中国の新型コロナ感染再拡大が不安視される流れとなった。
  ・新規感染者は観光地を中心に増加しつつあり、一部の地区で行動抑制が強化されている。国内経済に与える影響が懸念された。
  ・中国7月物価指数は、消費者物価指数(CPI)の上昇率が+2.7%(予想+2.9%)、生産者物価指数(PPI)の上昇率が+4.2%(予想+4.9%)とそれぞれ予想を下回った。ただ、予想ほどではなかったとはいえ、CPIの上昇率は2020年7月以来の大きさ。
  ・米国で今夜発表される7月CPIに関して、内外から強い関心が寄せられている。
  ・業種別では、消費関連の下げが目立ち、医薬品・金融が安い。反面、素材が買われた。

●2.中国アリババ、4~6月上場来初の減収、従業員1万人近くを削減(ブルームバーグ)

●3.中国7月消費者物価は前年同月比+2.7%上昇、2年ぶり高い伸び(ブルームバーグ)

 1)豚肉価格が前年比+20.2%の値上がりが主因。

 2)消費者需要は引続き低迷しており、物価上昇圧力は総じて抑圧されている。

●4.中国2023年にも「人口減少」に突入、2024年には60歳以上が人口比率2割に(東洋経済)

 1)2020年国勢調査では、農村人口の高齢者比率は既に24%に達し、都市部16%だった。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)8/08、日経平均+73円高、28,249円(日経新聞より抜粋
  ・好業績銘柄に買いが集まったほか、これから決算発表を控える東エレクなどの銘柄に先回り買いが向かい、相場を押し上げた。
  ・先週末に米ハイテク株が下落した流れで、日経平均は安い始まったものの、次第に買いが優勢となったが、上値で売りに押される動きもあり、相場の上値を抑えた。
  ・8/10発表の7月消費者物価指数(CPI)で米金融政策の先行きを見極めようというムードが広がりやすくなった。
  ・第一三共・スズキ・バンナム・ファストリ・キャノンが高く、コナミ・東京海上が下落。

 2) 8/09、日経平均▲249円安、27,999円(日経新聞より抜粋
  ・決算内容が嫌気された主力株の東エレクとソフトバンクGに売りが出た。この2銘柄で日経平均を▲228円押し下げた。
  ・日経平均は8/8に約4カ月ぶりの高値で終えて、戻り待ちの売りなどが優勢だった。
  ・3月や6月の高値だった28,300円台を前に跳ね返された。「上値の重さが意識されれば、投資家心理の悪化につながる。8/10発表の米7月消費者物価指数(CPI)への警戒感から一段安となる可能性もある」との指摘がある。
  ・ヤマトやキリンが大幅安、アドテスト・鹿島・アサヒが下げ、出光・東レが上げた。

 3) 8/10、日経平均▲180円安、27,819円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米半導体株の下落で投資家心理が悪化。東京市場でも東エレク・アドテストなど半導体関連株が売られ、相場の重荷になった。
  ・企業決算を材料にした個別物色が続いたが、米7月消費者物価指数(CPI)の発表を控え、後場は様子見ムードが強まった。
  ・8/11は東京市場が祝日休場のため、米市場の動きを見極めたいとの雰囲気も広がった。
  ・岸田首相が8/10、内閣改造に着手し、午後に閣僚名簿が発表されたが、市場では材料視する声は目立たなかった。 
  ・エムスリー・ソニーが下落、反面、通期見通しを上方修正した出光興産が上昇した。

●2.日本株:閑散相場の中、外国人の先物買い手口が減少気味、慎重なスタンスがのぞまれる

 1)夏期休暇シーズン入りした外国人投資家の先物手口は買い継続しているが、買い枚数は減少傾向にある。

 2)売買金額も1日当たり2兆円台が続き、閑散取引となっている。この状況では、強引な買い手口で株価を急騰させられる可能性もある。

 3)しかし、日経平均の28,000円台は利益確定売りも出やすい水準と思われる。昨年は該当しなかったが、8月は経験則では外国人が売越しやすい季節となっているので、慎重なスタンスが賢明と思われる。

●3.7月企業物価指数、過去最高の前年同月比+8.6%上昇、2020年比+14.5%上昇(NHKより抜粋

 1)企業の間で取引されるモノの価格を示す企業物価指数は、先月の6月に続き過去最高を更新した。値上がり品目は対象となった515品目のうち8割以上の418品目が値上がりし、企業の間で原材料費の上昇分を販売価格に転嫁する動きが広がっている。

 2)これは、ロシアのウクライナ侵攻を受けた原材料価格の上昇を背景に、電気料金や小麦粉などの「飲食料品」、それに「鉄鋼」の価格が上昇したことに加え、「円安」で輸入物価が押し上げられたため。

 3)一方、世界経済の減速懸念で、足元では、原油など国際商品市況が下落傾向に転じ、前月に比べ「石油・石炭製品」や銅などの「非鉄金属」は値下がりに転じている。

●4.ソフトバンクG、アリババの株式を一部放出し、7~9月に利益+4.6兆円計上(読売新聞)

 1)アリババの保有比率は23.7%⇒14.6%に低下し、決算の連結対象会社から外れる。

●5.企業業績

 1)ソフトバンクG 4~6月純損失▲3兆1,627億円、前年同期+7,615億円黒字(共同通信)
 2)キリン     12月通期純利益+1,340億円に上方修正、予想+1,145億円(ロイター)
           中国合弁の株式売却益+500億円などが利益押し上げ
 3)出光興産    2023/3通期純利益+2,800億円に上方修正、前年比+69.7%増(朝日新聞)
 4)ロート製薬   4~6月営業利益+83億円、前年同期比+37.8%増(フィスコ)
 5)アルバック  6月通期営業利益+300.6億円、前期比+74.8%増、来期+14.8%増(フィスコ)
 6)楽天     1~6月純損益▲1,766億円赤字、前年同期▲770億円赤字(時事通信)
 7)マクドナルド 1~6月営業利益+174億円、前年同期比+1.5%増、最高益(朝日新聞)
 8)日本郵政   4~6月純利益+1,185億円、前年同期比▲25.8%減(時事通信)
 9)資生堂    12月通期純利益見通し+255億円、前年比▲45.6%減(ロイター)

■IV.注目銘柄(投資はご自身の責任でお願いします)

 ・6080 M&Aキャピタル  好業績期待
 ・6383 ダイフク     業績堅調
 ・6967 新光電気     業績好調

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

記事の先頭に戻る

関連キーワード

関連記事