相場展望3月10日号 米国株: 「強国復活」目指すトランプ氏が「米国を引き落とす」懸念 日本株: 海外投資家の日本株離れ・米国ハイテク株安で、軟調懸念

2025年3月10日 11:05

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)3/6、NYダウ▲427ドル安、42,579ドル
 2)3/7、NYダウ+222ドル高、42,801ドル

【前回は】相場展望3月6日号 米国株: 金利低下=株高が法則なのに、金利低下⇒株安を紐解く 日本株: トランプ関税に引っ掻き回される

●2.米国株:「強い米国復活」を目指すトランプ氏が「米国覇権を引きずり出す」リスク

 1)トランプ氏の政策狙いは「強い米国復活」で、達成手段として「関税」を使う
  ・米国復活させるための政策の狙い
   (1)貿易不均衡の是正
   (2)米国製造業の活性化
   (3)連邦政府の歳入増加
   (4)違法薬物の流入禁止

 2)関税の狙い撃ちの相手国は、まさかの「同盟国」と敵対国・中国
  ・カナダ、メキシコ
  ・欧州
  ・日本、台湾、韓国、ブラジル、パナマ
  ・インド
  ・中国

 3)同盟国を不快にさせ、不信感を増長させるトランプ政権
  ・カナダ  : 米国の51番目の州になれと要求。
  ・デンマーク: グリーンランドの領有化。
  ・ウクライナ: 鉱物資源の摂取。
          ロシア侵略時の米国への避難民24万人を送還検討。
  ・パナマ  : パナマ運河の返還要求。

 4)これらの国は、大量の米国債を購入・保有
  ・1月の海外諸国の米国債保有残高は8兆0,200億ドル(約1,203兆円)。
    ・日本が1兆1,530億ドル(約172兆9,500億円)で、保有第1位。海外勢の保有額の14.37%を占める。
    ・中国が7,977億ドル、日本の保有額を上回っていたが減少が継続。
    ・英国が7,535億ドル。

  ・米国の財政赤字▲1兆8,330億ドル(2024年)、貿易赤字▲7,798億ドル(2023年)である。

  ・この赤字を、世界各国からの米国債・株購入が支えているのが現状である。

  ・中国は、米国との対立後から米国債の保有を減額している。そして、中国は金や通貨ユーロの保有を増やしている。さらに、中国は「中国元」の取引決済高を増やし、元の基軸通貨化を目指している。

  ・米国の同盟国などが米国債の保有減額に転じれば、米国は財政的に行き詰まることになる。トランプ氏はこうした現実を回避できる手段を持っているのだろうか。どうも、トランプ氏は考えていないと思われる。

 5)「ドル離れ」の深化が、米国を危険に導く
  ・米国は超貿易赤字&財政赤字が継続するが、それが許されたのは基軸通貨としての「ドル信認」があったからだ。

  ・米国債の保有国が、米国債を売って、金やユーロなどを購入するケースが考えられる。

  ・そうなった場合は、基軸通貨「ドル」の信認は揺らぐことになる。

  ・トランプ氏は「ドルを危険な方向に導いている」。

 6)「資本」が、米国から欧州・中国に流出するリスク

 7)トランプ氏は、「米国を覇権国⇒普通の大国」へ導く

 8)二転三転し、混迷のトランプ方針
  ・親ロシア寄りの発言から、一転、「ロシアに大規模な銀行制裁、経済制裁、関税を検討」へ方針転換=3/7トランプ氏のSNS投稿

  ・カナダに2/4、25%の関税発動⇒3/6、幅広い品目を対象外に決める。⇒「相互関税」の考え示す。

  ・ウクライナとは2/28、ゼレンスキー大統領との首脳会談で決裂し、軍事支援の一時停止を決定。3/4の施政方針演説で、ウクライナから書簡を受け取ったので「関係回復」の方向と述べた。しかし、書簡を受け取ったような発言をしたが、SNSの記事だったもよう。SNSでは外交文書にはならない。

 9)トランプ政権内でもマスク氏への不満が広がっている
  ・マスク氏とルビオ国務長官、人員削減を巡り閣議で衝突との報道。(NYタイムズ)
  ・ダフィー運輸長官もマスク氏に不満を伝えた。

 10)3/7、パウエルFRB議長の発言で安心感広がりNYダウはプラス
  ・朝方は米国景気の先行きに警戒感が高まり、一時▲400ドル超の下落。
    ・米国雇用統計で就業者数の伸びが市場予想を下回った。
    ・失業率も4.1%と+0.1%上昇。

  ・その後、パウエルFRB議長が講演で「経済は底堅いペースで成長してる」発言で、買い安心感が広がりNYダウは一時+300ドルを超える値上がり。NYダウの終値は+222ドル高。

  ・ただ、週間では大幅下落。

●3.米国、1月雇用者は+15.1万人増で予想+16万人増を下回る(ロイター)

 1)失業率は前月比+0.1%増の4.1%に上昇した。

 2)年初来の雇用者数の伸びは月間平均で+13.8万人。昨年の10~12月期の平均雇用者数は+20.9万人増だった。

 3)米国の貿易政策を巡る不透明感の高まりや、連邦政府による大幅な支出削減により、堅調に推移してきた労働市場に陰りが出始めているもよう。

●4.ウォルマート、中国サプライヤーに大幅値下げを要請=関税を転嫁(ブルームバーグ)

●5.原油価格、1年10カ月ぶり安値、WTIが65ドル台、トランプ高関税が要因(グーグル)

 1)トランプ大統領の高関税政策が原油需要を停滞させる可能性が要因となり、今後も不透明感から原油価格を下押ししそうだ。

●6.「米国例外主義」が終焉か、投資マネーが欧州・中国へ(ロイター)

 1)要因
  (1)歴史に残るような貿易戦争が始まる兆し
  (2)欧州の大規模財政出動
  (3)最先端技術開発競争における中国の台頭
  (4)米国の経済の勢いが弱まわっており、トランプ関税が国内外に不安を与えている。

 2)投資家の間で「米国例外主義」が共有されていた。それは、米国が成長率や株価、人工知能(AI)開発などで抜き出ていたから。

 3)世界は今、米国モデルが変わってきたと認識している。米国はもはや貿易相手として信頼できないし、防衛力も自前で何とかする必要があると自覚し始めている。

●7.トランプ氏、米国教育省を廃止へ、大統領令3/6にも、WSJ紙報道(ロイター)

●8.カナダの報復関税で、物価高に苦しむNY市民に電気代上昇が追打ち(ブルームバーグ)

 1)トランプ関税の報復として、カナダのオンタリオ州はNY州など3州に送電する電力に25%の輸出税を課す方針を示した。

 2)NY市では、家賃が跳ね上がり、卵の価格が1ダース約1,500円を超える中、市民は電気代の急上昇の可能性に脅かされている。

●9.カナダ西部のアルバータ州、米国産アルコールの購入停止、石油・ガスのアジア・欧州への輸出増加へ(ブルームバーグ)

 1)カナダ・アルバータ州は世界第3位の原油埋蔵量を誇り、米国がカナダから輸入する日量400万バレルの大半を供給している。

●10.メキシコ、アジアや欧州への原油輸出模索、米国関税発動で(ロイター)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)3/6、上海総合+39高、3,381
 2)3/7、上海総合▲8安、3,372

●2.中国2月消費者物価指数(CPI)は▲0.7%下落、1年1カ月ぶりマイナス、デフレ懸念続く

 1)中国経済は不動産不況と内需低迷に直面して、物価の伸び率は低水準にとどまり、デフレ懸念を払しょくできないでいる。

 2)北京で開催されている全国人民代表会議(全人代)で李強・首相は政府活動報告で、2025年の物価上昇率目標「+2%前後」とし、昨年の「+3%前後」から引き下げた。昨年のCPIは前年比+0.2%の伸びにとどまっている。

 3)2月工業製品卸売物価指数(PPI)は前年同月比▲2.2%と下落した。2年5カ月連続のマイナスとなった。(産経新聞)

●3.大王製紙、中国の紙おむつ工場を売却、競争激化で現地企業に(ロイター)

 1)売却額は58億円、損失額は40億円、譲渡日は6/30を予定している。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)3/6、日経平均+286円高、37,704円
 2)3/7、日経平均▲817円安、36,887円

●2.日本株 : 海外投資家の日本株離れ・米国ハイテク株安を受け、軟調懸念

 1)トランプ関税で右往左往の日経平均
  ・上昇要因
    ・3/6、関税措置の1カ月猶予で、自動車株買い。
    ・3/6、防衛費のGDP比3%引上げ要請で、防衛関連株が上昇。

  ・下落要因
    ・米国の株価指数下落の流れを受ける。
    ・円高・ドル安傾向で輸出関連株に業績懸念。
    ・トランプ関税で不況。

 2)日経平均のボックス相場は、40,000~38,000円⇒38,000~37,000円に下落?
  ・現在は37,000円の攻防戦となっているが、その動向が注目される。
  ・ただ、日経平均は売り圧力が依然として大きいと見られる。今日、日経平均が37,000円台回復できなければ、底を探る展開もあり得るだろう。

 3)海外投資家は2月3~4週で▲1兆7,929億円売越し、欧州株価の方が魅力的に
  ・売越し額は、現物物株と先物の合算。

 4)円高で147円台に高騰3/6
  ・日本・米国の10年物利回り差は縮小傾向にあるため、円高・ドル安へ。
  ・米国は株式売り⇒債券買いで国債利回りが低下している。日本は、日銀の金利引上げ方向にある。日銀は、物価上昇(インフレ)対策含めて金利を引上げざるを得ない。

 5)日経平均、半年ぶり37,000円割れ
  ・日経平均は3/7、昨年9/18以来となる37,000円割れとなった。
  ・本日3/10は、前週3/7の▲817円安の大幅安の反動と、NYダウの上昇を背景に、反発高すると見る。
  ・しかし、海外投資家の現物株投資は2/17~28の2週間で▲7,704億円の売越と、日本株離れが起きている。海外投資家は、欧州株投資の方が魅力と映っているようだ。したがって、今日、日経平均は反発上昇したとしても、限定的と見ざるを得ないと思われる。

 6)日本は今こそ精神的にも経済的にも「自立した独立国」へ
  ・トランプ氏は「日米安保条約に不満を表明」(毎日新聞)。「いかなる状況下でも日本は、米国を護る必要がない。誰がこのような取引をしたのか?」とも語った。

  ・しかし、日本は米国の核抑止策などを含めた対価として、米軍基地を無償供与し、「思いやり予算」として追加負担もしてきた。米軍基地の土地代などだけでも年1兆円をはるかに超える。

  ・日本が米国を盟主としているから、太平洋の全域を米国が自由に使用できている。日本の基地撤退ならば、米国は太平洋の東半分しか自由使用ができなくなる。その空いた領域に、海軍力を増強した中国が入り込むことになる。艦船数は中国の方が米国より多く、造船所の数は圧倒的に中国が多い。

  ・日本の空域は、米軍が自由に使い、日本は限られた空域でしか使えない。

  ・米国は、核抑止力網の傘に同盟国・日本を入れてきた。しかし、トランプ氏はその代金を要求するだろう。トランプ氏の要求通りに巨額資金を負担しないと、核の傘から外すだろう。

  ・今まで、日本は中国・ロシア・北朝鮮の攻撃に備えてきた。ところが、トランプ2次政権で背中から撃たれるリスクが生じてきた。日本は自前で核抑止力の保有を考えざるを得なくなった環境に置かれた。そのような、今まであり得ない状況に日本は置かれようとしている。「自立した日本」の構築を、トランプ氏が追い込んでいるともいえる。「自我の目覚め」のチャンスとしたいものである。

●3.セブン&アイ、米国子会社を2026年下期までに上場、2030年までに自社株買い2兆円(ロイター)

●4.長期金利3/6、一時1.5%台に、16年ぶりの水準(毎日新聞)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・4301 アミューズ     業績好調
 ・7898 ウッドワン     黒字転換
 ・9508 九州電力      業績堅調

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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