関連記事
相場展望11月7日号 米インフレ退治には、FRB政策金利の誘導目標到達点は、現在3.75~4.00%->8.00~9.00%の可能性も
■I.米国株式市場
●1.NYダウの推移
1)11/3、NYダウ▲146ドル安、32,001ドル(日経新聞より抜粋)
・パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の11/2の会見を受け、金融引締め長期化への警戒が強まった。ただ、11/4発表の10月米雇用統計を見極めたいとのムードから午後にかけて下げ渋り、持ち高調整の買いで小幅に上昇する場面もあった。
・パウエルFRB議長の会見で、政策金利の終着点(ターミナルレート)がFRBの従来予想より高くなる可能性を示唆し、早期の利上げ停止も否定した。11/3には英イングランド銀行(中央銀行)も+0.75%の利上げを決め、利下げ幅を前回の+0.50%から引上げた。高インフレから米欧の中銀による積極的な引締めが続く。
・FRBの利上げ長期化を織込み、米長期金利は朝方一時4.22%(前日4.10%)に上昇。金融政策の影響を受けやすい2年債利回りは4.74%と2007年来の高水準を付けた。金利上昇で株式の割高感が強まり、NYダウは▲420ドル下げる場面があった。アップル・アルファベットなど高PER(株価収益率)のハイテク株の売りが目立つ。
・売り一巡後は長期金利が4.1%台に戻し市場心理を支え小幅高に転じる場面もあった。
【こちらも】相場展望11月3日号 米「利上げ緩和観測」で上昇も、イベント通過で「下落」 パウエル議長「利上げ停止検討、かなり時期尚早」と希望的観測を否定
2)11/4、NYダウ+401ドル高、32,403ドル(日経新聞より抜粋)
・11/4発表の10月米雇用統計は米労働市場の引締りを示したが、米金融政策の見通しを、変えるほど強くないとの見方から、前日までの4日間で▲800ドル超下げていたこともあり、朝方+610ドル高まで株式が買い直された。ただ、米長期金利上昇を受け一時▲62ドルまで売りに押される場面もあり、不安定な相場展開だった。
・雇用統計では+26.1万人と市場予想20.5万人を上回ったが、失業率は3.7%と前月の3.5%から悪化した。米労働市場は依然として力強いものの、「FRBによる利上げ幅縮小の観測を支える程度には減速した」と受け止められた。
・FRB高官が相次いで目先の利上げ減速に前向きな姿勢を示したのも相場を支えた。ボストン連銀コリンズ総裁は11/4の講演で、「金融政策の焦点は政策金利を迅速に引上げることから、金利の最終的な到達点を決めることに移っている」と述べた。リッチモンド連銀バーキン総裁も、利上げペースを緩める可能性を述べた。FRBは利上げペースを緩めても、利上げ自体は当面続けるとの見方が多い。
・11/4は金融政策の影響を受けやすい2年国債利回りが2007年以来の水準に達し、金利上昇時に相対的割高感が意識されやすい高PERのハイテク株の一角が売られた。
・景気敏感株の化学のダウや建機のキャタピラーが大きく上げた。消費関連のナイキやアメックスが高く、アマゾンやアルファベットも上昇した。
●2.米国株:米利上げの到達点は、政策金利の誘導目標を8~9%と予想
1)今、「利上げ緩和」観測で、市場を賑わしている
・+0.75%と通常引上げ幅の3倍を、4連続とした。
・利上げは今年3月に+0.25%引上げてから、今回で5回の計3.25%となった。
・米下院議会から、「景気を冷やすな」という書簡がFRBに送られるなど、警告文がFRBに送られている。
・確かに、過去の例を見ると、通常+0.25%刻みの変動幅に対して3倍となる+0.75%を4連続も実施したのは異例のこと。しかし、下院からのFRBへの警告文は、劣勢の民主党による中間選挙を控えた
政治的なパフォーマンスと思われる。決して、「インフレ抑制効果が出てきたから、利上げの再検討を要請する内容ではない」と思われる。
2)株式市場からは「悲鳴」が聞かれる
・ハイテク株の下落率を見ると、保有投資家からの「悲鳴」もある。
・年初来もしくは直近の最高値から大幅下落している。GM▲44%下落、フォード▲44%、テスラ▲42%、ナイキ▲54%、カーニバル▲90%、半導体・同製造装置株▲44%。
3)インフレ退治には、政策金利の誘導目標を現状3.75~4.00%⇒到達点8.00~9.00%
・ピークが5%超との見解もあるが、5%程度では高インフレは収められないだろう。
・インフレ率を上回る政策金利の上昇が必要条件になると思われる。10月消費者物価指数(CPI)予想は前年比+7.9%であり、9月の+8.2%から若干鈍化すると思われるものの、依然としてFRBの物価目標+2%からは高水準にある。価格変動の高いエネルギーなどを除くコアCPIも10月予想は+6.3%、9月+6.6%。原油価格はOPECプラスの高価格政策やウクライナ侵攻もあり、また需要期の冬の到来を迎えて、高水準が続くと思われ、なかなか低下が見通せない。
4)インフレ抑制には、「需要を押し下げる」こと ⇒ リセッション(景気後退)が必須
・価格高騰は、「需要が供給を上回ると上昇する」。
・高騰する価格に対処するためには、「強い需要を抑える」必要がある。リセッションを引き起こして、需要を減退させる方法しかない。
・そのため、景気減速に効果を発揮する「金利引上げ」をせざるを得ない。
5)失業率3.5⇒5%も覚悟しなければ、インフレ抑制できず
・米国では、GDP(国民総生産)の7割を消費部門が占める。現在、失業率は3.5%と最低水準を記録している。求人件数も1,000万件を超え、求職者数575万人を大きく上回って、労働市場は逼迫が続いている。
・したがって、賃金上昇率は+5%を超えている。
・その賃金の高騰が、サービス価格の上昇を招き、高インフレに寄与する構図になっている。
・しかし、労働者にとって、賃金の上昇率はインフレ率より低く、実質賃金は目減りしており、この程度の賃上げ率では生活は厳しさを増すばかりである。
・民主党は労働組合を支持基盤としているため、「労働・賃金の抑制政策」には踏み切れない。そにため、思い切ったインフレ退治政策に舵を切れない事情がある。
・この後に及んでは、賃金上昇に歯止めを掛け、労働市場の逼迫を和らげるために、失業率の5%程度までの悪化を覚悟しなければ、インフレ退治ができないと思われる。
6)インフレの原因は、過剰金融と需要増に急アクセルを踏んだ政策の「付け」である
(1) バイデン大統領の就任時の約3兆ドルの「必要を超えた、ばら撒き」。(過剰需要を引き起こした)
(2) FRBの必要を超える約4兆ドル超の「異常な金融緩和」。(過剰金融相場を招き原油・資源・穀物などの資産の高騰の要因を作った)
(3) ウクライナ侵攻とOPECプラスの原油高値政策が加速。(原油・天然ガスなどエネルギー価格暴騰と、穀物価格を急騰させた)
7)結論:インフレ率を上回る8~9%程度までの利上げが必要。
・その結果、高インフレ退治のため、世界的な景気後退を引き起こし、株式相場は下落に追い込まれる可能性が増すと思われる。要注意したい。
・高インフレ抑制に時間が掛かるため、高金利の長期化は続くと予想する。
・次回の利上げ決定会合(FOMC)は12/13~14に開催。
●3.米FRB、米経済の大幅減速の可能性を警告(共同通信より抜粋)
1)米連邦公開市場委員会(FRB)は、11/4公表した金融安定報告で、予想を上回る物価上昇となった場合について「金利が現在の水準を超えて上昇し、米国の経済活動が大幅に減速する可能性がある」と警告した。
●4.米ボストン連銀総裁、「リスク均衡させるため、緩やかな利上げは理に適う」(フィスコ)
1)コリンズ総裁の発言を受けて、利上げ減速の思惑が強まった。
●5.米10月雇用統計(非農業部門)+26.1万人増、予想+19.6万人を上回る(フィスコ)
●6.米10月失業率3.7%、予想3.6%・9月3.5%から悪化(フィスコ)
●7.米中間選挙、バイデン民主党失速、共和党は下院で過半数・上院も勝利の可能性(朝日新聞)
●8.米リフト、従業員▲13%削減、厳しい経済情勢に対応(ブルームバーグ)
●9.ツイッター、従業員半減か、メールで通告、提訴の動きも(FNN)
●10.米ドアダッシュ、7~9月売上が予想上回る、需要確認(ブルームバーグ)
●11.米スタバ、世界既存店売上高が予想上回る、北米好調、中国は不振(ロイター)
■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
1)11/3、上海総合▲5安、2,997(株式新聞)
・売り先行の流れとなった。
・米金融引締め長期化懸念が、外資の資金流出懸念を強めている。
・また、元安の進行も引続き中国株の売り圧力を高めている。
・一方、景気再開への期待感などが引続き株式指数をサポートしている。
2)11/4、上海総合+72高、3,070(亜州リサーチより抜粋)
・中国経済対策の期待感が、投資家のリスク選好を高める流れとなった。
・国内景気悪化懸念がくすぶる中、当局は景気テコ入れを強めるとの見方が広がった。中国の劉鶴・副首相は共産党系メディアの人民日報(11/4付け)への寄稿文で、経済安定には内需拡大が有効と指摘した。
・経済再開(リオープン)への思惑も根強い。
・香港メディアは11/3、「2023年3月の全国人民代表大会(全人代)までは、中国の現行の新型コロナ防疫政策に大きな調整はないが、地方の実務レベルでは微調整が行なわれる可能性がある」などと報じた。
・業種別では、消費関連の上げが目立ち、不動産も高い。中国政府系メディアの経済日報は11/4、「不動産業界の健全な発展には、適切な金融支援が必要」と題する論説記事を掲載した。
●2.中国株:短期間で急騰も、不透明な情報のため要注意
1)上海総合の推移
・ 10/31 ⇒ 11/4 上昇幅 上昇率
2,893 3,070 +177 +6.1%
2)「ゼロコロナ政策の緩和」情報が広がり、株価が急伸した模様。情報の発信が不明なため、注意したい。
●3.中国ゼロコロナ政策、堅持揺らがないと国家衛生当局者、緩和期待くじく(ブルームバーグ)
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
1)11/3、祝日「文化の日」で休場
2)11/4、日経平均▲463円安、27,199円(モーニングスターより抜粋)
・パウエルFRB議長の記者会見で、米金融引締めの長期化が懸念され、米国株が11/2に続き11/3も下落したことを受け、前日比▲631円安まで下押した。
・売り一巡後は、大引けにかけて下げ渋ったが、戻りは限定的だった。米10月雇用統計結果を見極めたいとの空気もあり、積極的な買いが手控えられた。
・市場では「米雇用統計への警戒感もあり、日経平均は27,000円接近後、下げ渋っているが、あくまでショートカバー(買戻し)に過ぎない。米国の利上げペースが鈍化しても利上げが止まるわけではなく、利上げ長期化から12月にかけて不安定な動きが予想される」との声が聞かれた。
・AGCなどガラス土石・日水など水産農林・郵船など海運・LIXILなど金属製品が売られた。反面、JALなど空運・大阪チタなど非鉄金属・住商な商社が買われた。
●2.日本株:円安一服で、日本株は上昇相場に弱い反応
1)米国株の上昇に対し、日本株は取り残される展開となる。
2)円安で150円になるまでは日経平均は底堅かったが、一服すると米国株に抜き去れた。
3)9/30を底に日経平均は反転上昇し、上昇期間が5週間となり、相場に変化か?
・外資系は10/3までは大幅な売越し一辺倒で、日経平均も9/30まで下落基調だった。ところが外資系は先物買いに反転し10/4から買越し基調が4週間継続している。外資系の先物買いの勢いは強いとはいえないが、日経平均の上昇を支えている。
・しかし、日経平均上昇期間も5週間となり、決算発表シーズンも今週までとなり、好材料も出尽くしで、相場の流れに変化があってもおかしくない。
・米国株上昇に反し、円安一服以降は日本株の出遅れが目立つ相場付きになっている。
・次は、12月初め以降の年度末相場に期待する展開を予想する。
●3.GPIF、7~9月運用収益はリーマン危機以来3期連続赤字、収益率▲0.88%(ブルームバーグ)
1)世界最大の年金基金、年金積立金管理運用独立法人(GPIF)の7~9月▲1兆7,220億円の赤字となった。
●4.企業動向
1)川崎汽船 1,000億円上限に自己株式取得、エフィシモらが応じる意向(ブルームバーグ)
保有割合は、エフィシモ38.55%、みずほ銀行1.97%。
●5.企業業績
1)シャープ 通期最終利益+500億円⇒+50億円下方修正、原価高騰、液晶不振(HNK)
2)伊藤忠 4~9月純利益+4,830億円、前年同期比▲3.5%減、下期は慎重(ロイター)
3)スシロー 4~9月純利益+36億円、前期比▲72.6%減、不祥事で (共同通信)
4)川崎汽船 2023/3月通期営業利益+570億円⇒+800億円に上方修正(ブルームバーグ)
■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします)
・1942 関電工 業績堅調。
・3769 GMOP 業績好調。
・4686 ジャストシステム 業績堅調。
スポンサードリンク
関連キーワード
中島義之氏のコラム一覧
- 相場展望11月4日号 米国株: トランプ氏と議会選で共和党勝利⇒一時的株高⇒後、金利高で株安? 日本株: トランプ氏は同盟国にも関税10%適用⇒日本は輸出減・円安
- 相場展望10月31日号 日本株: 首相は「政権維持」に集中、「政策実行は停滞」⇒株価には重荷 一方、野党の要求を優先⇒財政拡大し、株価には追い風も
- 相場展望10月28日号 日本株: 石破政権は早晩に行き詰まり短命に 投機筋の株買いの追随は慎重に
- 相場展望10月24日号 米国株: トランプ氏勝利⇒米国はインフレ・金利上昇、中国経済は奈落へ 日本株: 円安も、短期筋の先物売り浴びせ・米国株安を受け下落に転換
- 相場展望10月21日号 米国株: 大統領選挙日の11/5までは堅調な米国株式相場が続くと予想 日本株: 「選挙は株高」という経験則は、今回は有効か?
- 中島義之氏のコラムをもっと読む