相場展望11月3日号 米「利上げ緩和観測」で上昇も、イベント通過で「下落」 パウエル議長「利上げ停止検討、かなり時期尚早」と希望的観測を否定

2022年11月3日 10:24

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)10/31、NYダウ▲128ドル安、32,732ドル(日経新聞より抜粋
  ・前週末までの6日続伸で+2,500ドル強上げた後とあって、米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表を11/2に控えて目先の利益を確定する売りが優勢となった。
  ・米長期金利が上昇したのも、相対的な割高感による株売りを誘った。
  ・NYダウは月間では+14.0%上昇し、1976年1月以来の高い上昇率となった。
  ・米連邦準備理事会(FRB)は今回のFOMCで4会合連続+0.75%の利上げを決める。その次の12月会合での利上げ減速期待が最近の株高を促してきたが、政策金利を最終的にどこまで引上げるかは不透明感が強い。FOMC後のパウエル議長の記者会見での発言を確認したいとして、買いを見送る市場関係者が多かった。
  ・米長期金利が一時4.1%台と前週末終値4.02%から上昇した。金利上昇時で割高感が意識されやすい高PER(株価収益率)のハイテク株が売られ、スマートフォンのアップルやソフトウェアのマイクロソフトが下げ、アナリストが投資判断を引下げた建機のキャタピラーや化学のダウなど景気敏感株も売られた。
  ・米金利上昇で金融株が上げ、ディフェンシブ株の一角も買われた。

【前回は】相場展望10月31日号 WSJ紙の楽観記事と好決算で上昇、FOMCに注目 NYダウ上昇に後れを取る日経平均

 2)11/01、NYダウ▲79ドル安、32,653ドル(日経新聞より抜粋
  ・米雇用指標が堅調で、米連邦準備理事会(FRB)のタカ派姿勢が続くとの観測が相場の重荷になった。もっとも、11/2の米連邦公開市場委員会(FOMC)後のパウエル議長の記者会見を見極めたい投資家も多く、積極的な売買は見送られた。
  ・11/1発表の9月雇用動態調査(JOLTS)で非農業部門の求人件数が前月比で2カ月ぶりに増え、市場予想を大幅に上回った。失業者数を求人件数が大幅に上回り、賃金上昇につながるとの見方を誘った。
  ・FRBは今回のFOMCで4会合連続+0.75%の利上げを決める見込み。市場の関心はその次の12月会合の利上げ幅や政策金利の終着点に移っている。市場が見込む12月会合の利上げ幅は+0.75%と+0.50%に二分されており、投資家は議長会見で政策の行方を探ることになる。「議長会見の内容が目先の株式相場を大きく左右する」との見方から、様子見ムードが強かった。
  ・JOLTS発表後に長期金利が下げ止まり、長期金利上昇時に売られやすい高PER(株価収益率)のハイテク株が下げ、アマゾン・アルファベットの下落が目立った。アップル・マイクロソフト・セールスフォースはいずれも▲2%安で終えた。製薬のメルク、医療保険のユナイテッドヘルスなどディフェンシブ株も安い。半面、米経済は堅調との見方から景気敏感株の金融・建機の一角が買われた。

 3)11/02、NYダウ▲505ドル安、32,147ドル(日経新聞より抜粋
  ・パウエルFRB議長が11/2記者会見で、「利上げ停止時期を考えることは時期尚早」と指摘、政策金利の水準が想定以上に高くなることも示唆したことで、景気の一段の冷え込みを懸念する投資家の売りが広がった。
  ・記者会見前のFOMC声明文で、市場では「早ければ12月会合で利上げ幅が縮小される」との期待が先行し、NYダウ一時+400ドル以上高くなる場面があった。
  ・だが、パウエルFRB議長はタカ派姿勢を維持し、利上げの早期打ち止め観測を退け、投資家はリスク回避姿勢を強めた。10月の月間上昇率が+14%と46年ぶりの記録だったため、反動が出やすかった。

●2.米国株:FOMCの「ややハト派的」観測で大幅上昇も、イベント通過で「下洛」

 1)NYダウは、FRBのウオッチャーで信頼性の高いWSJ紙の「12月利上げ緩和観測」で楽観論が広がり、10/1~28までNYダウは+4,138ドル・上昇率+14.4%した。

 2)最近の米株相場は、イベント毎に「上昇」⇔「通過で下落」を繰返してきた。今回は、10月の大幅上昇に対して、11/2のパウエル記者会見で反動安となった。

 3)11/2はFOMCの「ややハト派的声明」で、NYダウは一時+400ドルを超える上昇をしたが、その後のパウエルFRB議長の「タカ派発言」でNYダウは▲505ドル安となった。「イベント通過後の反落」であり、リズムが繰返されている。

 4)WSJ紙の「12月金利引上げ緩和観測記事」を、市場が拡大解釈をして大幅上昇に誘導したものと見ている。WSJ紙は、「金利引上げ停止」とは言っていない。「12月+0.75%引上げ⇒+0.50%引上げ」への変更の可能性を記事にしただけである。

 5)今後の相場展開の予想
  ・12月FOMCイベント前までの11月は概ね反落すると思われる。
  ・決算発表本格シーズン中は底堅い場面を予想するが、11月中旬以降の相場には注意。
  ・そして、12月FOMC前後から年末にかけて上昇するリズムにあると、見ている。

 6)今年初めから「逆金融相場」となって下落基調が続いている。その下落基調の中の、一時的な大幅反発が10月相場であり、次の下落に向かうだろう。恐怖(VIX)指数は25程度であり、「1番底」はまだ見えていないと思われる。

●3.米短期金融市場は11月FOMCを受け、2023年の政策金利5.1%を織込む(フィスコ)

 ・米10年国債金利は11/2に一時4.1%台乗せた。

●4.11月FOMC結果公表とパウエルFRB議長の記者会見の内容要旨(フィスコ)

 1)米FOMC、政策金利を+0.75%引上げ
  ・政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利を+0.75%引上げ、3.75~4.00%とすると発表した。市場の予想通りだった。
  ・力強い雇用の伸びを予想。

 2)パウエル議長記者会見
  ・持続的な労働市場の伸びのためにも物価安定が必要。
  ・最終的な金利は従来想定された水準を上回る。
  ・金利において、まだ引上げが必要。
  ・利上げ減速が早くて次回会合になる可能性も。
  ・利上げ停止を考えるのは非常に時期尚早。
  ・インフレ抑制には時間が掛かる可能性。
  ・2008年の危機のような住宅市場の弱さは見られない。

●5.米国で、前年比M&A▲2割減、新規上場▲8割減で市場不安定化(時事通信)

●6.中国発、欧米行き「国際コンテナ運賃」急落、10月はピーク時の7~8割安(東洋経済より抜粋

 1)海運大手も赤字に、予定運航便数の▲22%減便(米西海岸向け▲28%、米東海岸向け▲21%、欧州向け▲17%減)。

●7.ユーロ圏CPI(消費者物価)、10月は前年比+10.7%増、ECBは利上げ継続へ(NHK)

●8.ユーロ圏GDP(域内総生産)、7~9月は前年比+2.1%増、景気後退に陥る可能性(ロイター)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)10/31、上海総合▲22安、2,893(亜州リサーチより抜粋
  ・経済活動の停滞が不安視される流れとなった。
  ・国内で新型コロナ新規感染者数が増加傾向を示す中、広東省広州市や湖北省武漢市などは新たな行動規制を実施した。コロナ感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策に関しては、市場の一部で近く緩和されるとの期待もあったが、実際には強化。
  ・中国景況感の悪化も懸念材料。10月製造業PMIは49.2となり、予想49.8以上に前月実績50.1から低下した。景況判断の境目50を再び割込んでいる。ただ、「経済指標の悪化は景気対策につながる」との見方も根強く、下げ渋る場面もあった。
  ・業種別では、不動産の下げが目立ち、エネルギー・銀行・保険も冴えない。ITハイテク関連は物色され、医薬品・自動車・証券・軍事関連も買われた。

 2)11/01、上海総合+75高、2,969(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済の過度な先行き不安が薄らぐ流れとなった。
  ・民間集計の10月財新・中国製造業PMIは49.2となり、市場予想48.5以上に上昇、前月48.1からも改善した。
  ・人民元安の進行が一服したのもプラス。11/1の外国為替市場では、米10年債利回りの低下を手掛かりに、対米ドルの人民元は前日から一転して、元高で推移している。
  ・また、上海総合指数はこのところ急ピッチに下落し、約半年ぶりの安値水準に落ち込んでいただけに、値ごろ感も着目された。
  ・業種別では、消費関連の上げが目立ち、医薬品・ハイテク・素材なども買われた。

 3)11/02、上海総合+34高、3,003(亜州リサーチより抜粋
  ・投資家のリスク選好が継続する流れとなった。
  ・中国の経済再開(リオープン)が期待された。当局は事実確認できないとしたが、「中国が2023年初めにも通関再開する」との観測が引続き材料視された。
  ・また、投与方法が簡単な「吸入型新型コロナワクチン」の接種が複数都市で始まり、感染拡大が落ち着くとの見方も広がっている。
  ・朝方は弱含む場面が見られたが、指数は徐々に上げ幅を広げた。
  ・業種別では、消費関連の上げが目立ち、医薬品が急伸、石炭・ハイテク・不動産も高い。半面、軍事関連は冴えず、銀行・証券は売られた。

●2.中国株:中国経済の成長率は、2022年に初めてASEAN諸国に抜かれる見込み

 1)IMFの推計
  ・        2022年  2023年
    中国     +3.2%  +4.4
    ASEAN諸国  +5.3   +4.9

 2)GDPに占める消費部門の成長が未熟で、投資に依存した成長は限界に達しつつある
  ・GDPに占める消費部門の割合が、中国は4割と低く、この割合の増加策が重要。
   米国7割、OECD国6割、中国4割。
  ・不動産投資の急ブレーキ。
  ・インフラ投資に依存した成長は限界が見えてきた。高速道路・新幹線網・港湾設備の拡大も、案件減少と付加価値低い投資に転換。
  ・輸出のかげりが見受けられる。一帯一路政策に対する警戒が表面化、中国離れも増加。欧米の経済成長が低下している。

 3)成長著しかった中国の民間部門を共産党コントロールに置くことで、中国のGDP成長率は縮小方向に向かうと思われる。

●3.中国製造業PMI、10月は49.2に低下し、予想外に節目の50割れ(共同通信)

 1)習近平新指導部の3期目が発足したが、経済下押し圧力は深刻。当局は「ゼロコロナ」政策を続けており、行動制限による先行きの不透明感は強い。

●4.中国非製造業PMI、10月は48.7に低下、コロナ規制が影響(ロイター)

●5.中国不動産大手の龍湖、香港で一時▲45%安、会長辞任で懸念拡大(ブルームバーグ)

●6.中国BYD、7~9月決算は前年同期比+350%増益、幅広い品揃えが貢献(ロイター)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)10/31、日経平均+482円高、27,587円(日経新聞より抜粋
  ・前週末10/28の米株式市場の急伸を受け、東京市場でも主力株を中心に幅広く買いが入り、9/20以来およそ1ヶ月ぶりの高値水準となった。
  ・10/28の米株式市場では、ハイテク株比率の多いナスダック総合が+2.9%高、主要な半導体銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数が+4%近く上昇し、東京市場でも東エレクなど半導体関連株に買いが波及した。
  ・米株高を受け、海外短期筋による先物買いも断続的に入った。
  ・指数寄与度の高いソフトバンクGが+6%超上昇して年初来高値を更新し、日経平均を1銘柄で約76円押し上げた。
  ・キーエンスや日立は10/28発表の決算内容が好感され、大幅高となった。年間配当の引上げを発表した商船三井は上げ幅を広げた。
  ・市場では「円安の進行を背景に、国内の企業業績は概ね堅調で、日本株の追い風になっている」との声があった。
  ・ジェイテクト・川崎汽船の上げが大きく、スズキ・ニコン・京セラが買われた。一方、太平金・ガイシ・TOTO・三菱電機・サイバーが売られた。

 2)11/01、日経平均+91円高、27,678円(日経新聞より抜粋
  ・香港市場でハイテク株を中心に大きく上昇し、投資家心理の支えとなった。主要企業の決算発表を手掛かりに個別株への物色も強まった。もっとも、全般に様子見ムードも漂い、上値は限られた。
  ・日経平均は明確な方向感が出にくく、小幅に下げる場面もあった。米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果公表を控え、「国内勢を中心に売買を控えていた」との声があった。
  ・一方、企業の決算発表が本格化しており、業績や収益見通しなどが材料になった。配当計画を積み増したJTや三井物産に買いが集まった。反面、4~9月の業績が市場予想に届かなかった京セラが大幅安になるなど、個別株で値動きの大きさが目立った。今期業績見通しを据え置いたトヨタは一時▲2%超下落。
  ・パナ・NTN・ソフトバンクGが上昇し、海運株・塩野義・大塚が安い。

 3)11/02、日経平均▲15円安、27,663円(日経新聞より抜粋
  ・米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表とパウエルFRB議長の記者会見を控え、また11/3が文化の日で休場とあって、利益確定売りがやや優勢だった。ただ、好決算銘柄への買いが活発で相場を支えた。ソニーなどの上昇が目立った。
  ・東エレク・花王・第一三共・ファナックが下洛し、TDK・ソフトバンクG・KDDI・SUBARUが上昇した。

●2.日本株:決算が本格化したが、業績次第で個別銘柄は乱高下。高値警戒。

 1)決算発表シーズン入りが本格化
  ・好業績・配当上積み・自社株買いで株価大幅上昇。
  ・期待を下回った個別銘柄は大幅下落と、業 績次第で極端な反応が特徴。

 2)テクニカル指標のストキャスティクスに「やや過熱感」が見られる。
  ・RSI 70、FAST 97、SLOW 81(11/2現在)

 3)外国人先物買いは10月以降継続しているが「買い枚数が少ない」ので、日本株に対して「強い買い」とは認められず、注視が必要と思われる。

●3.政府の10月為替介入額は6兆3,499億円(NHK)

●4.11/1から値上げ「パック牛乳」など833品目、来年も2,000品目超え、円安で(帝国データ)

 1)上場する主要飲食料品メーカー105社は10月末までに累計20,743品目値上げした。

●5.企業動向

 1)ブリジストン ロシアでの生産事業から撤退に向け検討始める(NHK)

●6.企業業績の動向

 1)ジェイテクト  通期純利益+485⇒+595億円に上方修正(フィスコ)
 2)三菱電機    4~9月決算の営業利益は前年同期比▲41.6%減の+805億円(時事通信)
          部品不足や物流費高騰が響いた。売上+9.4%増の2.3兆円で過去最高
 3)キーエンス   4~9月営業利益は前年同期比+33%増の1,387億円(ブルームバーグ)
 4)ANA      4~9月最終利益+195億円黒字と3年ぶり黒字転換(日テレ)
 5)パナソニック  4~9月最終利益は前年同期比▲29%減の+1,073億円(NHK)
 6)日興證券    4~9月最終利益▲94億円赤字、2009年以降過去最大赤字(NHK)
          相場操縦事件の影響
 7)日本ハム    2023/3期純利益は前期比▲46%減の260億円、予想比▲50減(日経新聞)
 8)JR東日本   4~9月純利益+271億円黒字、レジャー客戻り大幅回復(TBS)
 9)村田製作所  通期見通し下方修正、営業利益は前年比▲10.4%減3,800億円(ロイター)
 10)商船三井   通期見通し営業利益を700⇒860億円に上方修正(ブルームバーグ)
          コンテナターミナル事業の米子会社ITIを売却し特別利益126億円計上
 11)トクヤマ   4~9月営業利益は前年比▲29%減の82億円、原材料・物流高騰(新周南)
 12)LIXIL    通期見通し下方修正、前年比▲49%減の260億円、原料高騰(ロイター)


■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします)

 ・4004 昭和電工   業績堅調。先端半導体材料事業に期待。
 ・9989 サンドラッグ 業績好調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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