相場展望6月9日 米国株は過度な悲観論が後退し、株価反発 遅れて、金利再上昇・景気後退など懸念材料膨らむ

2022年6月9日 13:58

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)6/6、NYダウ+16ドル高、32,915ドル(日経新聞より抜粋
  ・中国の経済正常化期待や中国当局による企業規制の懸念が和らぎ、上げ幅は一時+300ドルを超えたが、米長期金利が3%台に乗せを嫌気した売りでNYダウは伸び悩んだ。
  ・中国・上海市は6/14に都市封鎖を解除、北京市は6/6に新型コロナ行動規制を緩和。
  ・米WSJ紙が6/6、中国当局が配車アプリの滴滴出行(ディディ)に対して利用者の新規獲得の禁止などの規制を解除すると報じた。中国企業に課している規制が緩められるとの見方も投資家心理の改善につながった。
  ・5月雇用統計が堅調で、米連邦制度理事会(FRB)が積極的な金融引締めを続けるとの見方が長期金利上昇を招いている。市場では金利上昇の背景として、「中国の経済市場化は経済成長を支える反面、需要拡大で世界的なインフレ圧力につながる可能性が意識された」との指摘もあった。
  ・ハイテクの一角と消費関連が売られ、原油先物の下落で石油銘柄が下がり、金利上昇で金融銘柄が買われた。アルファベットやメタが+2%高、株式分割したアマゾンも上昇。

 2)6/7、NYダウ+264ドル高、33,180ドル(日経新聞より抜粋
  ・朝方は企業収益への懸念から一時▲270ドルあまり下げる場面があったが、米長期金利の上昇が一服し、ハイテクの買い直しが優勢となり、今日の最高値圏で終えた。セールスフォース+2%高、アップルやマイクロソフトも上げた。
  ・中国の経済活動正常化への期待から、中国売上高比率が高いキャタピラー、ナイキ、ボーイングが買われた。

 3)6/8、NYダウ▲269ドル安、32,910ドル(日経新聞より抜粋
  ・欧州の金融大手クレディ・スイスは、2022年4~6月期に赤字に転落すると発表し、米国でも業績懸念からゴールドマンSとJPモルガンチェースがともに▲2%下落した。
  ・アナリストが12月期通期の業績見通しを引下げた半導体のインテルが▲5%強下落し半導体関連の売りを誘った。今週は企業業績の下振れを示す材料が相次いでいる。
  ・景気冷え込みへの警戒も強く、OECDはウクライナ戦争によるエネルギーや穀物の価格上昇を理由に、2022年と2023年の世界経済成長率の見通しを下方修正した。
  ・また、米抵当銀行協会が6/8発表した週次調査で、住宅ローンの申請規模を示す総合指数が22年ぶりの低水準になった。
  ・輸送など景気敏感が幅広く売られ、ホームデポなど消費関連の下げが目立った。反面、原油高を受けシェブロンが買われた。

●2.米国株:過度な悲観論が後退し米国株は反発したが、先行きの懸念材料も膨らむ

 1)米国株の最近の上昇理由
  ・8週間にわたる大幅下げで、自律反発しやすい地合があった
  ・インフレのピークアウト感
  ・FRBの金融引締めが9月に緩和される見通しの強まり
  ・米長期金利の低下

 2)同時に懸念材料が膨らんできた
  ・欧州のインフレ加速(英国+9.0%など)、ECB(欧州中銀)の7月利上げの可能性
  ・米国で最大雇用主のウォルマート、アマゾンが採用抑制を示唆
  ・米テスラのマスクCEOは「採用停止、従業員▲10%削減」発言
  ・FRBによるQT(量的緩和縮小)が6/15から実行、9月から倍増の▲950億ドル毎月縮小するが、その影響への懸念
  ・堅調な米国経済も、先行きを懸念する声の増加
   JPモルガンチェースのダイモンCEO
   シティのフレーザーCEO
   ゴールドマンSのウォルドロン社長
  ・原油再上昇 122.56ドル(6/8)、米10年債利回り上昇 3.025%、
   ガソリン価格もドライブシーズンもあり上昇

●3.ドイツ銀行、米株式市場は米景気後退をほとんど織込まれず(ブルームバーグより抜粋

 1)米金融当局の利上げで米経済がリセッション(景気後退)入りする恐れがあると、ウォール街の著名人が最近相次いで警告した。
 2)しかし、それは今のところ、市場の投資家には織込まれていないと、ドイツ銀行のストラテジストらはみている。成長鈍化は広く織込まれているように見受けられるが、景気後退まで予想している人はほぼいない。

●4.イエレン米財務長官、米インフレは「高いまま」で「著しい物価圧力」を警戒(時事通信より抜粋

 1)イエレン財務長官は6/7、上院財政委員会で証言し、
  (1) 米国のインフレについては、「高いままで推移する」との見通しを示した。
  (2) インフレは今後の低下に期待を示す一方、「著しい物価上昇圧力があるのは間違いない」と述べ、警戒感をあらわにした。

●5.ロシアvsウクライナ関連

 1)ロシア新車販売、5月前年比▲85.3%減少、西側の制裁で部品不足・価格高騰(ロイター)

 2)米IBM、ロシアで事業停止していたが、全従業員を解雇すると発表(Gigazine)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)6/6、上海総合+40高、3,236(亜州リサーチより抜粋
  ・財政・金融政策や、経済活動再開の期待が投資家心理を上向かせ、好地合続く流れ。
  ・中国人民銀行(中央銀行)副総裁は6/2の記者会見で、「穏健な金融政策を強化し、景気対策を前倒しする」と表明した。財務部長も同日の記者会見で、「景気刺激策を確実に実行していく」などと強調している。
  ・新型コロナ感染対策で実施していた行動制限に関しては、事実上のロックダウン(都市封鎖)を6/1に解除した上海市に続き、北京市では6/6から飲食店での食事が一部地域を除いて再開された。
  ・業種別では、ITハイテク・非鉄・レアアース関連の上げが目立ち、不動産は冴えず。

 2)6/7、上海総合+5高、3,241(亜州リサーチより抜粋
  ・中国で経済活動が再開しつつあることや、中国当局の財政・金融政策に対する期待感が投資家心理を上向かせて、3日続伸し約2ヶ月ぶりの高値水準を切り上げた。
  ・また、産業規制の動きが一巡したとの見方もプラスで、配車サービス中国大手の滴滴出行など3社に対し、中国当局がサイバーセキュリティ問題を巡る調査を近くするもようと伝わった。今週中にも、新規ユーザーの登録禁止措置を解除見込み。
  ・ただ、上値は重い。指数はこのところの急ピッチが速かったこともあり、売り圧力が意識されている。
  ・業種別では、消費関連の上げが目立ち、医薬品・金融が高く、自動車が安い

 3)6/8、上海総合+22高、3,263(亜州リサーチより抜粋
  ・景気持ち直しへの期待が相場を支える流れとなった。
  ・中国の経済活動正常化や景気刺激策、産業統制の緩和などが引続き支援材料だ。
  ・売り圧力が意識される中、指数は安く推移する場面がみられたものの、引けにかけて再び上昇の勢い増している。
  ・業種別では、石炭・石油・消費関連の上げが目立ったが、不動産が冴えなかった。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)6/6、日経平均+154円高、27,915円(日経新聞より抜粋
  ・米株価指数先物が堅調に推移し、日本株の買い安心感につながり2ヶ月ぶりの高値。
  ・円安・ドル高も進み、自動車や機械など輸出関連銘柄高も支えとなった。
  ・前週末には観光需要喚起策「Go To トラベル」の再開が政府内で浮上したと伝わり空運・鉄道、百貨店など関連する内需株の上昇が目立った。
  ・政府は経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を6/7に閣議決定する。岸田政権としては初の骨太の方針で、成長戦略も盛り込まれる見通し。政策的な経済への下支えへの期待も引続き日本株を支える材料になっている。
  ・レモンド米商務長官が6/5に対中制裁関税を引下げる候補として日用品や自転車になるとの見方が伝わり、米国の高インフレ対応とみられ、関税引下げが米中の経済には、プラスになるとの見方も、株式市場にはポジティブに受止められたようだ。
  ・JR東日本・ANA・Jフロント・川重・三菱重が上昇し、川崎汽・ヤマトが下落。

 2)6/7、日経平均+28円高、27,943円(日経新聞より抜粋
  ・円相場の下落を背景に輸出関連を中心に買いが入り、一時28,000円を上回ったが、利益確定の売りなども出て上値を抑えられたが、3/30以来およそ2ヶ月ぶりの高値。
  ・円安急伸は、金融緩和を続ける日銀と、金利引上げを進める海外中銀との違いが要因
  ・米株価指数先物が軟調に推移したのも投資家心理の重荷になった。
  ・マツダ・SUBARU・神戸鋼・カシオが買われ、川重・エムスリーが安かった。

 3)6/8、日経平均+290円高、28,234円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米株式相場の上昇を受けて、東京市場でもグロース(成長)を始め幅広い銘柄に買いが入った。円安・ドル高で133円前半の高水準になり投資家心理を支えた。
  ・200日移動平均線を上回ったことから、売り方の買い戻しもあり押し上げた。
  ・三菱商事・三井物産が上場来高値を更新、ダイキンも上げ、海運の下落が目立った。

●2.日本株:上昇も踊り場にさしかかった、といえそう

 1)日本株が米国株に比べて堅調な理由
  ・7月参議院選挙を意識した大型補正予算による景気刺激策関連銘柄の買い
  ・円安(対ドル、対ユーロ)で輸出関連株(自動車・機械など)が好調
  ・中国の都市封鎖解除による中国景気回復の恩恵期待

 2)テクニカル指標は、過熱感を示唆
  ・ストキャスティクスは過熱を示す(6/8時点)
    RSI(14日) 81、 FAST 95、 SLOW 95
  ・騰落率も過熱状態を示す(6/8時点)
    25日移動平均 111.57、 6日移動平均 163.96

 3)日経平均vs NYダウの乖離幅の推移からみると、踊り場にさしかかっている
  ・現時点では、(1)日経平均が下がるか、(2)NYダウの上昇幅に合わせてあがるか、
   という状況にあるといえそう。
  ・ただ、参院選挙前であり、下げるとしても限定的、と思われる。

●3.企業動向

 1)ユニクロ  フリースを1,000円など秋冬商品の値上げ(時事通信)
 2)富士通・NEC・NTT 「6G」共同実験へ、100Gbps超の安定通信目指す(アスキー)
 3)岩谷産業  ノルウェーの鉱物資源企業に26億円出資(高純度チタン)(時事通信)
 4)JFE     鋼材を6月以降から4割の再値上げ、主原料・物価上昇で(ブルームバーグ)

●4.企業業績

 1)シャープ  今期純利益▲32%減、液晶パネル事業の不振で(日経新聞)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・1605 INPEX    業績好調
 ・4021 日産化    肥料価格上昇
 ・6141 DGM森精機 受注好調で好業績

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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