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相場展望5月15日 米国: 中国株と共に5月に入ってから「軟化」を示す 日本: 「買い優勢」が続くが、「独歩高」のため注意したい
■I.米国株式市場
●1.NYダウの推移
1)5/11、NYダウ▲221ドル安、33,309ドル(日経新聞)
・米地域銀行の経営不安が改めて意識され、相場を押し下げた。前日に1~3月期決算を発表したディズニーが大幅に下落したのも投資家心理を冷やし、NYダウの下げ幅は一時▲400ドルを超えた。
・米地銀のパックウェストは5/11、前週に預金が▲1割弱減ったと明らかにした。経営不安が高まったことから株価は▲3割超も下落する場面があった。他の金融株にも売りが及び、投資家がリスク回避姿勢を強めた。
・NYダウ構成銘柄であるディズニーは▲9%下げ、NYダウを下押しした。5/10夕に発表した2023年1~3月期決算で成長分野の動画配信サービスの契約者数が減少したと明らかにし、売りが膨らんだ。
・5/11発表の4月米卸売物価指数(PPI)はエネルギーと食品を除くコア指数の上昇率が前月比+0.02%と市場予想に一致し、米国の物価上昇が落ち着くには時間が掛ることを示す内容だった。ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は、同日に「インフレの持続性に驚いている」と述べ、物価上昇率の高止まりに懸念を示した。
・半導体のインテルと化学のダウの下げが目立った。半面、ネット検索のアルファベットが自社サービスで人工知能(AI)の活用を拡大する方針を示し+4%高、電気自動車のテスラも買われた。飲料のコカコーラや航空機のボーイングは上昇した。
【前回は】相場展望5月11日号 米4月消費者物価は高止まり、6月FOMCで利上げか 日本株: テクニカル指標「買われ過ぎ」、市場は「個別株人気で強い」状況続く
2)5/12、NYダウ▲8ドル安、33,300ドル(日経新聞)
・米消費者の景況感悪化を示す指標を受け、米景気の先行き懸念から売り優勢となった。米連邦政府の債務上限を巡る不透明感も株式の買い手控えにつながった。ただ、NYダウは前日までの4日間で▲360ドル余り下落した後で主力銘柄の一角には押し目買いも入りやすく、取引終了にかけて下げ渋った。
・ミシガン大学が5/12午前に発表した5月消費者態度指数は57.7と、市場予想63.0を下回り、昨年11月以来の低水準になった。同調査によると、消費者が予想する5年先のインフレ率は+3.2%と2011年以来の高水準となった。市場では「消費者はかなり悲観的になりつつある一方、予想インフレ率が高止まりすれば米連邦準備制度理事会(FRB)に一段の金融引締めを強いる」と受け止められた。
・米連邦政府債務の上限を巡り、バイデン米大統領と野党・共和党のマッカーシー下院議長の協議は来週に持ち越しとなった。米議会予算局(CBO)は5/12に「債務上限が変更されなければ、6月最初の2週間のどこかで政府がすべての債務を支払えなくなる重大なリスクがある」との見解を示した。市場では「問題解決に至るまで投資家を不安にさせる」との声が聞かれた。
・景気敏感株や消費関連株への売りが目立ち、NYダウは▲200ドル近く下げる場面があった。銀行のJPモルガンチェースや航空機のボーイング、スポーツ用品のナイキが安い。米長期金利の上昇を受け、相対的な割高感が意識されやすい高PER(株価収益率)のハイテク株も売りが優勢となり、ネット通販のアマゾンや電気自動車のテスラも下落。半面、IT(情報技術)のIBMや日用品のプロクター・アンド・ギャンブルは上昇した。
・NYダウはこのところ33,000ドル前後で下値が支えられてきた。週末を控え、売りに傾いていた投資家が持高を中立に傾ける動きが出やすく、安値で押し目買いも入り、取引終了にかけて急速に下げ幅を縮小した。
●2.米国株:米国株は中国・上海株と共に、5月に入って「軟化」を示唆
1)米国・NYダウは、5月に入って「軟化」を示している
4/28終値 5/12終値 変動幅 変動率
NYダウ 34,098ドル 33,300 ▲798 ▲2.3%
ナスダック総合 12,226P 12,284 + 58 + 0.05
SP500 4,169P 4,124 ▲ 45 ▲ 1.1
ラッセル2000 1,768P 1,740 ▲ 28 ▲ 1.6
上海総合 3,328P 3,272 ▲ 58 ▲ 1.7
2)1~3月期決算発表シーズンの終了とともに、「手仕舞い売り」が散見される
・株式相場は、「利上げ停止」「低下げ期待」で反発する中、好決算発表銘柄の主導で株高となってきた。
・「インフレ率の鈍化」に焦点を合わせる姿勢で、株式相場に好環境を与えてきた。しかし、「鈍化」といっても、FRB目標値2%の倍の水準の中での「鈍化」である。どこかの地点で「インフレ率の高止まり」に視線が向く可能性があるので注目したい。
・また、決算発表シーズン終了に伴い、好材料も下火となろう。例年、7月上旬までは「不安材料の方が増す」季節となるので、注意したい。
3)注目のイベント
・― 米債務上限問題
・5/14 トルコ選挙
・5/16 米4月小売売上高
・5/18 米週次失業保険申請件数
・5/19~21 G7サミット/広島
●3.JPモルガンのダイモンCEO、「銀行規制が行き過ぎ」を警戒(ブルームバーグ)
1)地銀4行の破綻で規制当局は過剰反応しており、銀行にとっては状況が悪化するだろう。
●4.FDIC、大手銀行に多額の追加負担求める計画、SVB破綻で数十億ドル(フィスコ)
●5.米新規失業保険申請件数26.4万件、予想24.5万件(ブルームバーグより抜粋)
1)1年余りに及ぶ金利引上げと、信用状況のタイト化が経済を圧迫し続けており、今後の人員整理が続く可能性がある。
2)労働市場がゆっくりと落ち着き始めている兆しが示された。
●6.米4月生産者物価指数(PPI)は前年比+2.3%上昇、2021年初旬以来の低い伸び
1)食品・エネルギー除くコアPPIは前年比+3.2%、予想+3.3上昇(ブルームバーグ)
●7.高インフレ持続なら、長期的な高金利必要=ミネアポリス連銀総裁(ロイター)
●8.ベトナム最大級の靴メーカー、6千人解雇へ、欧米の消費者の購買意欲縮小(朝日新聞)
■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
1)5/11、上海総合▲9安、3,309(亜州リサーチより抜粋)
・中国景気の先行き不安が強まる流れとなった。
・寄り付き直後に発表された4月の中国物価統計や、先ごろ発表された中国貿易統計などの内容を受け、国内経済活動の鈍化が連想された。
・米国やカナダ・欧州など西側諸国と中国の対立も、懸念材料としてくすぶっている。ただ、下値を叩くような売りは見られない。
・景気不安は経済対策につながる、との見方も根強く、指数はプラス圏で推移する場面も見られた。
・業種別では、非鉄や鉄鋼など素材の下げが目立ち、医薬品も安く、石油などが下落。半面、ITハイテクの一角が高く、不動産もしっかり、発電電力設備・保険が買われた。
2)5/12、上海総合▲37安、3,272(亜州リサーチより抜粋)
・中国景気の先行き不安が投資家心理を冷やす流れとなり、4/26以来、約2週間ぶりの安値水準まで切り下げた。足もとで公表された経済指標では、中国経済持ち直しのペースの鈍化が示された。
・昨日引け後に報告された4月金融統計は、国内金融機関の新規融資が市場予想を大きく下回り、マネーサプライ(通貨供給量)M2の伸びも事前予想を下回った。直近で発表された物価や貿易の統計でも、内需の弱さが指摘された。指数は引けにかけて下げ幅を広げた。
・業種別では、非鉄・鉄鋼など景気動向に敏感な素材の下げが目立ち、ゼネコンや建機・建材のインフラ建設関連も安い。ITハイテク関連も冴えず、金融・不動産も売られた。半面、発電はしっかり、医薬品の一角は買われた。
●2.中国の注目イベント
・5/16 中国小売売上高、鉱工業生産
●3.米財務長官、対中投資制御、G7と協議(時事通信)
●4.中国の景気回復は「まだら模様」(ロイターより抜粋)
1)消費者需要の高まりがサービス業を後押ししたが、製造業は出遅れている。
2)不動産やハイテクは当局の規制強化で打撃を受けている。
3)負債を抱えた地方政府は財政支出に動く余裕がない。
4)若者層の失業率は全国平均を大きく上回っている。
5)中国に投資・貿易していた西欧諸国が、中国リスクから逃避し始めている。
●5.中国で雇用情勢が低迷、「銀行員ですら減給」の事態に衝撃走る(Record China)
1)中国の浦発銀行で、一般行員▲50%、幹部級で▲40%の減給。
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
1)5/11、日経平均+4円高、29,126円(日経新聞)
・前日の米ハイテク株高を背景に半導体関連株などに買いが入り指数を押し上げた。ただ、為替市場で円高・ドル安の進行を警戒し、日中はマイナス圏での推移が多かった。
・米長期金利の低下で前日の米市場でナスダック総合株価指数やフィラデルフィア半導体株指数(SOX)が上昇したことを受け、東京市場でも半導体関連などハイテク株に買いが入った。好決算を発表した銘柄への買いも支えとなった。
・朝方は一時▲93円安まで下げる場面があったが、円高・ドル安が進行したことを嫌気し、輸出関連株の一角に売りが出た。
・「企業決算のピークで全体の方向感が出にくかったが、日本株の割安感や企業業績の改善に着目した買いが入り、相場を支えた」との声があった。
・東エレク・アドテスト・富士フィルム・パナソニックが上昇した。半面、協和キリン・住友鉱山・花王・ホンダは下落した。
2)5/12、日経平均+261円高、29,388円(日経新聞)
・年初来高値を更新し、2021年11月以来、約1年半ぶりの高値を付けた。米国と比べた相対的な日本株の投資環境の良好さに目を付けた海外投資家の買いが相場を押し上げた。国内の投資家の心理もさらに上向き、決算に対する市場の評価が良かった銘柄を中心に買いが集まった。
・今日は週末とあって利益確定や持高整理を目的とした売りも上値では出たが、勢いは限られた。足もとの相場の強さが改めて意識され、日経平均は大引け前に上げ幅を+300円近く
まで広げた。
・米国では債務上限問題や地域銀行の経営不安などを巡って相場が不安定な動きをしている。一方、日本は日銀が金融政策の修正に慎重なハト派的な姿勢を示す中、株式市場にとってプラスの環境がしばらくは続くとの見方から、逃避的な買いが入りやすくなっているとの見方があった。自社株買いなど株主還元強化の動きも好感された。
・東エレク・ファストリ・アドテスト・ホンダ・コナミが上昇した。一方、ソフトバンクG・トレンド・ファナック・武田が下落した。
●2.日本株:しばらくは「買い優勢」が続くが、「独歩高」でもあり、注意
1)日経平均は5月に入って、米中の主要株式市場と比べて「独歩高」となっている
・各国の株式市場の推移 4/28終値 5/12終値 変動幅 変動率
NYダウ 34,098ドル 33,300 ▲798 ▲2.3%
上海総合 3,328P 3,272 ▲ 58 ▲1.7
日経平均 28,856円 29,388 +532 +1.9
2)日経平均200日移動平均値の乖離率は、1/4と比べ「買われ過ぎ」を示す
・200日移動平均の推移 1/4 5/12
200日移動平均値 25,716 29,388
乖離率 ▲5.68% +6.38
・乖離率の5/12「+6.38」は、過去の数値と比べても「非常に高く」警戒水準にある。
3)PER(株価収益率)は、5/12にEPSが低下する中、「18.99倍」と高い位置にある
・PERの推移 1/4 4/28 5/12
14.95倍 17.95 18.99
・EPS(1株利益) 1,720円 1,607 1,547
4)値上がり・値下がり銘柄数と、新高値・新安値銘柄数の5/12現在は「勢いがある」状況
・値上がり銘柄数 1,031数
値下がり銘柄数 737
・新高値銘柄数 246
新安値銘柄数 49
・5/12は日経平均が+261円高と大幅高の割に、値下がり銘柄数が多いのが目につく。ただ、新高値銘柄数が「246」と、新安値「49」に比べ「相場の勢い」がある。もっとも、新安値銘柄数が少しだが増加している点には注目したい。
5)結論は、高値警戒感がくすぶる中、空売り比率の低さ「5/12 40.6」もあって、株式市場の「買い圧力」の優勢が続くと見る。なお、指標は「警戒感」を示唆しており、相場の急変には注意したい。
6)注目イベント
・5/17 日本GDP(国内総生産)
●3.企業業績
1)ソフトバンクG 2023/3期純損失▲9,701億円、前期▲1兆7,080億円赤字(時事通信)
2)百十四銀行 2023/3期純利益+90億円、前期比▲21.6%減(時事通信)
3)宝 2023/3期最終利益+212億円、前年比+2.1%増(産経新聞)
2024/3期最終利益計画+150億円、前年比▲29.3%減、PCR検査需要減
4)東エレク 2024/3期営業利益計画+3,930億円、前年比▲36.4%減(ロイター)
5)ニコン 2024/3期営業利益計画+150億円、前年比▲38.9%減(ロイター)
6)日産自動車 2023/3期最終利益+2,219億円、前年比+3%増(NHK)
7)シャープ 2023/3期最終赤字▲2,608億円、液晶パネル悪化、6年ぶり赤字(朝日新聞)
■IV.注目銘柄(投資はご自身の責任でお願いします)
・3053 ペッパー 黒字転換。
・4385 メルカリ 業績回復。
・8308 りそな 業績好調。
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