相場展望3月9日号 米利上げ再加速、リセッション懸念強まる インフレ鈍化は一時的、賃金インフレ抑制は相当困難

2023年3月9日 11:26

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)3/6、NYダウ+40ドル高、33,431ドル(日経新聞より抜粋
  ・アナリストが買いを推奨したスマホのアップルが上昇し、相場を支え、4日続伸した。ただ、3/7~8にパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の議会証言を控えて様子見ムードが強く、買いの勢いは弱かった。長期金利上昇も重荷だった。
  ・アップルは+3%超上げる場面があった。音楽配信などサービス部門の収益拡大を見込み、ゴールドマンサックスが「買い」で銘柄調査を始めたのが好感された。米株市場で時価総額が最大の銘柄とあって、投資家心理を下支えした。
  ・もっとも、相場の上値は重かった。パウエル議長は3/7に上院、3/8に下院で最近の金融政策について証言する。「インフレ抑制が1~2カ月前ほどには進んでいないことを強調する」と見られており市場ではタカ派寄りの発言が警戒されている。朝方に一時3.8%台に低下した長期金利が4%近くに戻したのも、株式相場の重荷だった。
  ・製薬のメルクや飲料のコカコーラなどディフェンシブ株が買われた。半面、化学のダウや航空機のボーイングなど、前週に買われた景気敏感株を下げが目立った。米国で高額車種を値下げした電気自動車のテスラが下落した。エヌビディアなど半導体株も総じて下げた。

【前回は】相場展望3月6日号 米国: 株式は「楽観」・債券は「慎重」と「まちまち」 日本: 次期日銀総裁の金融政策の「転換」に注目

 2)3/7、NYダウ▲574ドル安、32,856ドル(日経新聞より抜粋
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が3/7の議会証言で、利上げペース加速や利上げ長期化の可能性を示した。金融引締めへの警戒感が改めて強まり、幅広い銘柄に売りが広がった。
  ・パウエル議長は米上院銀行委員会での議会証言で、直近のデータの強さに言及し、「最終的な政策金利の水準が従来の想定よりも高くなる可能性があることを示している」と述べた。データ次第で「利上げペースを加速させる用意がある」とも指摘した。市場では「予想していたよりも引締めに積極的なタカ派だった」との声が目立ち、3/21~22の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ幅が0.5%に拡大されるとの見方が強まった。
  ・議長発言を受け、債券市場は金融政策の影響を受けやすい2年債利回りが一時5.02%と2007年6月以来の水準に上昇した。一方、利上げが米景気を冷やすとの見方から、2年債が10年債利回りを上回る「逆イールド」は一段と強まった。利ざや縮小が意識され。金融のJPモルガンチェースやゴールドマンサックスの下げが目立った。建機のキャタピラーなど景気敏感株やホームセンターのホームデポなど消費関連株の一角も売られた。
  ・午後に掛けて、NYダウは下げ幅を広げた。2年債利回りが節目の5%を上回ったのに加え、多くの機関投資家が運用指標とするSP500は前日比▲62安い3,986で終えた。

 3)3/8、NYダウ▲58ドル安、32,798ドル(日経新聞より抜粋
  ・前日に大幅に下げた反動で、ハイテクや景気敏感株に押し目買いが入ったが、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ再加速を警戒して買いの勢いは弱かった。NYダウで比重が大きいヘルスケアやエネルギー株が下げ、指数の重荷となった。
  ・3/8は米労働市場の底堅さを示す経済指標が相次いだ。2月のADP雇用リポートでは非農業部門の雇用者数が前月比+24.2万人増え、市場予想の+20.5万人を上回った。1月の米雇用動態調査(JOLTS)でも高水準の求人件数が確認された。
  ・堅調な雇用を背景に、市場では今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ幅が+0.5%に拡大するとの観測が強まっている。FRBのパウエル議長は3/8、前日の上院に続いて下院で金融政策について証言した。政策金利が従来の想定よりも高くなる可能性に言及するなど前日と同様の発言を繰返した。
  ・上院での議会証言を嫌気して前日に株は売られていたため、3/8は散発的な押し目買いで上げた銘柄が多かった。もっとも、3/10に発表される2月米雇用統計など今後の重要経済指標を見極めたい投資家が多く、反発力は弱かった。
  ・前日に売られた景気敏感株や消費関連株の一角が買われ、建機のキャタピラーとホームセンターのホームデポが高い。同じく前日に下げたハイテク株も総じて堅調だった。半導体のエヌビディアや半導体製造装置のアプライド・マテリアルズの上げが目立った。半面、ヘルスケアなどディフェンシブ株に売りの矛先が向かい、製薬のメルクや保険のトラベラーズ、通信のベライゾンが安い。原油先物相場の下落で石油のシェブロンも下げた。

●2.米国株:米「利上げ再加速」と「リッセッション(景気後退)懸念」が強まる

 米インフレ鈍化は一時的、賃金インフレ抑制は相当困難

 1)米債券利回りは3/8終値で、2年国債5.070%、10年国債3.991%に上昇した。
  ・10年債と2年債の「逆イールド」は、▲1.079%となり、初の▲1%超に拡大した。
  ・1981年来で最大の逆イールドになった。
  ・米債券市場は、依然として米経済の「リセッション(景気後退)」懸念を強めている。

 2)米利上げ加速と同時にリセッション懸念も強まる

 3)3月FOMC前に発表される2月雇用統計、消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)で、
  ・米雇用が果たして依然として逼迫しているのか、
  ・インフレ鈍化傾向が反転して強まるのかどうか、
  を確かめていくことになる。   
  なお、3月に入って発表された統計データでは「雇用の逼迫」の継続を示している。
  ・民間の統計である2月ADP雇用統計では+20.4万人増。
  ・1月JOLT(求人労働調査)求人件数は1082.4万件と、予想1054.6万件を上回った。12月は1101.2万件。
  ・依然として、求人件数は1,000万件を超え、「雇用の強さ」を表わしている。
  ・このことから、賃金上昇によるサービス価格の上昇は避けられず、「賃金インフレ」続行すると見る。
  ・米経済の7割がサービス部門を占めている。サービス部門では賃金コストが重きをなしているため、賃金の上昇が止まらない限り、サービス部門の値上げ継続は避けられない。賃金インフレの根は深いのである。
  ・民主党は労働組合の支持を基盤とした政党であり、バイデン大統領は民主党左派の強力な応援で大統領に選出された経緯がある。そのため、バイデン政権は支持基盤の機嫌を失うような政策をとれるとは思えない。イエレン米財務長官が学んだのも「労働政策」であり、民主党員でもある。よって、「賃金インフレ」は続き、FRBは「利上げ加速でインフレ抑制」を図ることになるだろう。なお、パウエルFRB議長は企業を支持基盤とする共和党の党員である。

●3.米株は1~3月の上昇後、下落も(ブルームバーグより抜粋

 1)モルガン・スタンレーのウィルソン氏、米国株は短期的に上昇が続き、次の上値抵抗線はSP500で3/3終値を約2.5%上回る4,150と見ている。現在の上げは短期的な反発にとどまり、中期的には一段と下洛すると予想。企業利益を中心にファンダメンタルズの悪化は続いていると指摘した。企業の利益率は現在の市場予想を「大幅に」下回るとの見方を示した。

 2)JPモルガンのマティカ氏、現在の上昇相場を活かして、株式の割合を減らすことを推奨。ドル下落と債券利回り低下が続けば、短期的には上昇余地があると分析した。金融引締めの影響は、株式市場に遅れて表れると説明した。

●4.クリーブランド連銀、2月消費者物価指数(CPI)前年比+6.2%、予想+6.0上回る(フィスコ)

 1)コアCPIも前年比+5.5%、予想+5.4を上回った。

 2)インフレの長期化観測を一段と裏付けた。

●5.ゴールドマン、米政策金利のピーク予想を5.5~5.75%に上方修正、FRB議長証言後(ブルームバーグ)

●6.米2月ADP雇用統計は+24.2万人、予想+20.0・1月+10.6万人を上回る(フィスコ)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)3/6、上海総合▲6安、3,322(亜州リサーチより抜粋
  ・中国の景気テコ入れ策強化に対する期待感がやや後退する流れとなった。
  ・全国人民代表大会(全人代)が3/5に開幕した。冒頭で読み上げられた「政府活動報告」では、今年のGDP成長目標が2022年の「5.5%前後」から「5.0%前後」へと低く設定されている。
  ・また、上海総合指数はこのところの上昇で、昨年7月以来、約8カ月ぶりの高値水準を終値ベースで回復。利食い売りも出やすかった。もっとも、下値を叩くような売りは見られてない。
  ・上述した全人代は開催中のため、これから明らかにされる具体的な政策に対する期待感が残る状況。
  ・業種別では、不動産の下げが目立ち、金融も安い。半面、ITハイテクはしっかり。

 2)3/7、上海総合▲36安、3,285(亜州リサーチより抜粋
  ・様子見ムードが強まる流れとなった。
  ・中国では全国人民代表大会(全人代)が開催中とあって、政策動向を見極めたいとスタンスが広がった。
  ・中国貿易統計の内容も嫌気された。昼頃に公表された今年1~2月の統計では、輸入が前期同期で縮小。内需の弱さが意識されている。中国景気の早期持ち直しが期待され、指数は小高く推移していたが、後場からマイナスに転じた。
  ・業種別では、不動産の下げが目立ち、ITハイテクも冴えない、消費関連・素材・運輸・証券が売られた。半面、エネルギーは高い。

 3)3/8、上海総合▲1安、3,283(亜州リサーチより抜粋
  ・前日までの軟調地合を継ぐ流れとなった。
  ・中国の内需不振が引続き売り材料視されたほか、米利上げ再加速観測も重石となった。
  ・昨日公表された今年1~2月の中国貿易統計では、輸入が前年同期比で市場予想以上に縮小。市場関係者は、内需の回復が遅れているなどと指摘した。
  ・ただ、下値は限定されている。
  ・中国では全国人民代表大会(全人代)が開幕中とあって、経済政策に対する期待感は根強く、指数は引けにかけて下げ幅を縮小した。
  ・業種別では、金融が下げを主導し、医薬品も安く、エネルギーも冴えない。

●2.「中国から資金持ち出させず」、著名投資家モビアス氏の発言が拡散(ロイターより抜粋

 1)「中国政府は国外への資金流出を制限している」と指摘。銀行は「お金を出すことはできない」とは言わない。銀行は「どうやってこのお金を稼いだのか、20年分の記録を全て出せ」という。「これはクレイジーだ」と述べた。

 2)モビアス氏は、「現在、中国政府は全土の企業で黄金株を保有している。つまり、彼らは全ての企業を支配しようとしている。政府が経済においてますます支配志向を強めているのを見るのはあまり良い事とは思わない」と語った。

●3.中国2023年政府予算、軍事費が前年比+7.2%増、30.5兆円(テレ朝)

●4.鉄鉱石や銅が下洛、中国が大がかりな刺激策発表せず、成長目標5%も響く(ブルームバーグ)

●5.ホンダ、1~2月の中国新車販売は前年同月比▲45.2%減、政府支援策終了で(時事通信)

●6.中国「政府活動報告」、不動産デベロッパーのリスクを警戒(ロイター)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)3/6、日経平均+310円高、28,237円(日経新聞より抜粋
  ・終値で28,000円台を回復するのは昨年12/15以来およそ2カ月半ぶりで、昨年11/25以来の高値水準。前週末の米株式市場で主要指数が揃って大幅上昇したのを受け、東京市場でも運用リスクをとる動きが広がった。
  ・前週末の米市場では長期金利の低下を背景にハイテク株を中心とした物色が強まり、東京市場でも東エレクやアドテストといった値嵩のハイテク株をはじめ幅広い銘柄に買いが入った。これまで上値抵抗となっていた28,000円を超えたことで、短期筋による先物の買戻しも断続的に入り、指数を押し上げた。
  ・後場に入ると上昇が一服した。心理的な節目の水準に到達したことで目先の達成感が意識され、次第に利益確定や戻り待ちの売りが出た。
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の議会証言や日銀の金融政策決定会合を週内に控え、市場では上値追いの持続性に懐疑的な声も聞かれた。
  ・ソフトバンクG・信越化・ソニー・富士電機・TDK・三菱商・丸紅が上げた。半面、INPEX・出光興産・コンコルディア・T&Dが下げた。

 2)3/7、日経平均+428円高、27,927円(日経新聞より抜粋
  ・日経平均は大幅に反発し、約2カ月ぶりの高値水準となった。前日の米株高を受け、朝方から幅広い銘柄に買いが先行した。その後も、短期筋による日経平均先物への買いが断続的に入ったほか、売り方の買戻しも上昇に弾みを付けた。
  ・指数への寄与度が高いファストリが日経平均を+100円余り押し上げた。2月の「ユニクロ」の国内既存店売上高の伸びを好感した買いを集めた。
  ・中国の景気回復への期待から、機械や資源関連株の上昇も目立った。3/5に中国の全国人民大会(全人代)が開幕するのを前に、景気刺激策への思惑が高まった。
  ・日経平均は今年の取引時間中の高値など直近の上値を抜けたことで、上昇に勢いに追随した買いや、上値の重さを見込んでいた売り方の買戻しが一段高につながったとの見方が多い。
  ・丸紅・神戸鋼・日立建機・信越化・オークマ・第一三共・HOYAの上げも大きかった。一方、大塚が大幅安、フジクラ・日本紙・MS&AD・アサヒが下落した。

 3)3/8、日経平均+135円高、28,444円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米株安を受けて朝方は下落して始まったが、先高観が根強く、ほどなく上昇に転じ、2022年9/13以来のおよそ半年ぶりの高値で終えた。円安を追い風に、日経平均の上げ幅は+150円を超える場面があった。
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の3/7、米議会証言を受け、米利上げ加速の観測が強まり、3/8の為替相場で円相場は137円台後半と、2022年12月以来の円安・ドル高水準となった。前日から2円を超える円安の進行で、株価指数先物主導で日本株を買う動きが強まったとの指摘があった。
  ・3月から中国からの渡航者向けの水際対策が緩和されたこともあり、インバウンド(訪日外国人)消費の本格回復への期待も強く、百貨店株や鉄道株といって関連銘柄に買いが集まった。
  ・3月末の配当の権利取り狙いの買いも続いた。
  ・東証による低PBR(株価純資産倍率)企業への改善を求める機運を背景にバリュー(割安)株の物色も継続。
  ・一方、米金融引締めが再び強まるとの見方は、株価の上値を抑える要因となった。前日のNYダウが▲500ドル超安となるなど米株相場が大幅下落した流れを受け、朝方は日経平均やTOPIXも下げる場面があった。
  ・ファストリは株式分割を考慮したベースで昨年来高値を更新した。高島屋・JR東海・不動産・建設株も上げた。一方、日産自が大幅安。住友鉱・INPEXの下げが目立った。

●2.企業動向

 1)エーザイ  認知症薬「レカネマブ」、FDAで適応症の追加申請受理  (ロイター)

■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします) 

 ・4471 三洋化成   業績堅調。
 ・5726 大阪チタ   黒字転換。
 ・6768 タムラ製   業績好調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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