相場展望9月18日号 米国株: 株価は支持線に支えられ堅調も、短期的に「変調の兆し」 中国株: 習主席の政府閣僚に「異常事態」が続出 日本株: 衆議院解散・総選挙期待で上昇した株価、削ぎ落ちる懸念も

2023年9月18日 14:47

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)9/14、NYダウ+331ドル高、34,907ドル(日経新聞より抜粋
  ・9/14の英半導体設計のアームの上場が好調な滑り出しとなり、投資家心理の改善につながった。朝方発表の米経済指標を受け買いも入り、景気敏感株を中心に買いが広がった。NYダウの上げ幅は+400ドルを超える場面もあった。
  ・ソフトバンクG傘下のアームは9/14に米証券取引所ナスダックに上場した。その後も買いが続き、63.59ドルで取引を終えた。スマートフォン向けの半導体の設計に強みを持ち、最近では人工知能(AI)やクラウド向けなど成長市場でのシェア拡大が期待されている。市場では「投資家心理の改善につながり、他のAI関連株やハイテク株への投資意欲を高めた」との見方があった。
  ・朝発表の8月の卸売物価指数(PPI)の前月比の上昇率は+0.7%と、ダウジョーンズ通信がまとめた市場予想+0.4%を上回った。8月の小売売上高も前月比+0.6%増と、市場予想+0.1%を超えた。ただ、いずれも原油などエネルギー高の影響が大きく、来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備理事会(FRB)が政策金利を据え置くとの見方は変わらないと受け止められた。「米消費が依然として底堅く、米経済はソフトランディング(軟着陸)に向かう」との声も聞かれた。
  ・欧州銀行(ECB)は9/14の理事会で、10会合連続の利上げを決めたものの、利上げの打ち止めを示唆したとの見方が広がった。
  ・中国でも景気刺激策の観測が改めて浮上し、米株式相場の支えとなった。
  ・個別銘柄では、金融のゴールドマンサックスや同業のJPモルガンチェースが買われた。前日は下げが目立った景気敏感株の一角が買い直され、建機のキャタピラーや化学のダウが高い。ハイテク株も買われ、スマートフォンのアップルとソフトウェアのマイクロソフトが上昇した。交流サイトのメタやネット検索のアルファベット、電気自動車のテスラが買われた。

【前回は】相場展望9月14日号 米国株: 米国は「3重苦」で米経済悪化懸念 日本株: 9月相場は、9/27まで堅調と予想

 2)9/15、NYダウ▲288ドル安、34,618ドル(日経新聞より抜粋
  ・米長期金利の上昇が続き、株式の相対的な割高感が意識された。半導体需要が想定以上に落ち込むとの懸念が浮上したのも、ハイテク株全般に重荷となった。
  ・米長期金利は前日比+0.04%高い(債券価格は安い)4.33%に上昇する場面があった。
  ・9/15発表の8月の輸出入物価指数は前月比で伸びが加速した。8月の鉱工業生産指数は市場予想を上回り、ニューヨーク連銀の9月製造業指数も改善した。米原油先物相場が連日で約10カ月ぶりの高値を更新したこともあり、エネルギー高や足元の米景気の底堅さを背景に米金利が高止まりする可能性が意識された。
  ・ロイター通信が9/15に関係者の話として、半導体受託製造の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が複数の取引先に高性能半導体の製造装置の出荷を遅らすように要請したと報じた。詳細は分からず、一時的な出荷見送りと伝わっているが、半導体需要やIT(情報技術)投資の弱さが意識された。インテルが下落し、半導体関連銘柄が全般に売られた。
  ・自動車大手3社の従業員が加盟する全米自動車労組(UAW)と経営側が労使交渉で合意できず、9/15に各社の従業員が一部工場でのストライキに突入した。自動車生産は全体で米国内総生産(GDP)の約3%を占めるとされる。ストが長引いた場合の米景気への影響が懸念され、投資家心理を冷やしたとの見方があった。
  ・9/14に上場した英半導体設計のアームの株高が好感され、前日のNYダウは+330ドル強上げていた。週末や9/19~20の米連邦公開市場委員会(FOMC)を控えて持ち高を中立に戻す動きがあった。
  ・9/15は株価指数と個別株の先物・オプションの売買最終日だった。持ち高調整の動きに絡んで値動きが大きくなったとの声もあった。
  ・個別株では、ソフトウェアのマイクロソフトや顧客情報管理のセールスホースなど金利上昇局面で割高感が意識されやすい高PER(株価収益率)のハイテク株の下げが目立った。ホームセンターのホームデポなど消費関連株の一角も売られた。半導体のAMDやエヌビディアの下げが目立ち、アームも▲4%安と売られた。交流サイトのメタの下げも大きかった。

●2.米国株:株価は上昇支持線に支えられ堅調も、短期的には「変調の兆し」

 1)米インフレ再加速が懸念され、米連邦準備理事会(FRB)の年内利上げを予想
  ・米消費が強く、リセッション懸念が後退。
  ・だが、インフレ再点火の可能性が増している。
  ・WTI原油先物価格が9/14、90ドル台に乗せてきた。
  ・8月ガソリン価格は+20%高したが、さらなる加速を強めている。
   WTI原油先物価格の推移
    ・9/1 85.55ドル ⇒9/15 91.20ドルまで上昇
  ・米8月生産者物価指数(PPI)は前月比+0.7%と、7月+0.3%から予想以上に伸びが拡大している。2022年6月来で最大となった。
  ・消費者物価指数(CPI)に続き、PPIも再び加速している。
  ・労働市場はなお逼迫している。
  ・9/9までの1週間の新規失業保険申請件数は22万件、予想21.7万件から増加
  ・ただ、歴史的にはなお低水準にあり、解雇された労働者が短期間に再就職できていることを示している。

 2)米消費者需要・半導体需要の低迷を懸念して、半導体株が下落
  ・半導体受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が半導体製造装置の納入延期の報道を受けて、半導体株指数(SOX)は押し下げた。

 3)米金利の上昇
  ・市場では、9月米連邦公開市場委員会(FOMC)での金利を据え置くとの見方をしている。
  ・だが、市場から資金が吸い上げられているため、米金利は上昇している。

 4)チャートからは、中期的には上昇支持線に支えれらているが、短期的には注意
  ・NYダウは、3/13の31,819ドルから始まる上昇支持線上にある。ただ、短期的には8/1の35,630ドルを高値に弱い展開となっており、注意。
  ・SP500は、上方にダブルトップを形成し、下方圧力が掛かっている状況にある。
  ・半導体株指数(SOX)は、2022年10/14の2,162から始まる上昇支持線上にある。しかし、9/15現在ではこの上昇支持線まで下落しており、注目したい。

●3.米生産者物価指数(PPI)の8月は前月比+0.7%上昇、7月は+0.4%上昇(ブルームバーグ

 1)1年ぶりの大幅な伸びとなった。

 2)8月はガソリン価格が+20%急伸し、指数全体の上昇の大部分を占めた。

 3)食品とエネルギーを除くコアPPIは、前月比+0.2%上昇。

 4)サプライチェーンの正常化に加えて、諸外国の多くで景気減速しており、生産者レベルでのインフレ圧力は全般的に緩和してきている。しかし、原油価格の上昇でこれまでの改善が脅かされる恐れがでている。前年同月比でのPPIは1年にわたって減速トレンドが続いていたが、7月と8月は2カ月連続での伸びの加速となった。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)9/14、上海総合+3高、3,126(亜州リサーチより抜粋
  ・米金利の下落基調が好感される流れとなった。
  ・8月の米消費者物価指数(CPI)で食品とエネルギーを除くコア指数の伸びが前月から減速する中、米債券市場では長期債利回りが低下している。また、中国当局の元安牽制スタンスもプラスとなった。ただ、上値は限定的。
  ・中国指標の発表が気掛かり材料となっている。国内ではあす9/15に、8月の各種経済統計(小売売上高や鉱工業生産)、9月の中期貸出ファシリティ(MLF)金利などが公表される予定だ。
  ・指数は安く推移する場面もみられた。
  ・業種別では、エネルギー関連の上げが目立ち、銀行もしっかり、公益・通信・運輸・証券なども買われた。半面、ハイテクは冴えず、不動産・医薬・素材・インフラ関連の一角が下落。

 2)9/15、上海総合▲8安、3,117(亜州リサーチより抜粋
  ・中国の景気懸念がくすぶる流れとなった。
  ・取引時間中に公表された8月の中国経済統計では、小売売上高や鉱工業生産が予想を大幅に上回る一方、設備関連の指標は弱かった。指標発表後は買いで反応したが、上値は重く、指数は後場途中からマイナスに転じた。市場の一部から「中国の景気改善はまだ本格化していない」との声も聞かれた。
  ・また、中国と欧米の対立も気掛かり材料として意識されている。
  ・業種別では、発電の下げが目立ち、銀行・証券も冴えず、エネルギー・消費関連・素材・軍事関連なども売られた。半面、医薬品・半導体・不動産が買われた。

●2.中国株 :習・国家主席の政府閣僚に「異常事態」が続出

 1)中国では国防大臣が2週間以上姿を消す、外相に続き異常事態が発生、捜査報道も
  ・秦剛・外相の消息が途絶え、7月末に解任されたばかりである。
  ・そして、李・国防相が8/30以降、消息が伝えられていない。中国外務省の報道官は9/15に「状況を把握していない」と述べた。
  ・中国人民解放軍で、戦略ミサイル部隊「ロケット軍」のトップ2人が7月に突然入れ替わった。この司令官は数か月にわたり公の場に姿を見せていなかった。

 2)習・主席は、権力基盤を固めるのに「腐敗一掃」を軸に推し進めた
  ・習主席の1期目当初は、政権幹部での習一派は2~3人程度であった。
  ・「腐敗撲滅」運動にことかけて、江沢民・胡錦涛派の一掃を達成した。3期目にあたり、習一派が政権幹部の全てを握った。
  ・そして次に、その習一派の中での幹部粛清が始まったと思われる。
  ・中国は政治主導の国であるため、経済に影響を与えるので、今後の動向に注視していきたい。

●3.中国株、海外勢が8月に▲149億ドル売り越し、2015年以降で最大=IIF(ロイターより抜粋

 1)国際金融協会(IIF)

 2)投資家は、中国の景気低迷に加え、7月末時点で中国政府が景気刺激策を打ち出さなかったことに失望。不動産セクターの新たな波乱も、投資家の心理を一段と悪化させた。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)9/14、日経平均+461円高、33,168円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米ハイテク株高を受けて運用リスクを取りやすくなった投資家の買いが東京市場で優勢だった。午後に入ると、20年債入札を波乱なく通過したことによる買い安心感や早期の衆院解散・総選挙観測を背景に、海外勢の先物買いが膨らんで日経平均の上げ幅は一時+500円を超えた。
  ・前日の米株式市場でハイテク株比率が高いナスダック総合指数が反発した。同日発表の8月の米消費者物価指数(CPI)をきっかけに米金融引締めの長期化に対する過度な警戒が後退した。9/14の東京市場では、半導体装置などハイテク銘柄を中心に買いが入った。
  ・午後に入ると、日経平均は上げ幅を拡大した。財務省が今日実施した20年物国債入札が投資家需要を集める「堅調な結果」となり、国内金利の先高観が後退した。9/13の岸田首相による内閣改造・自民党役員人事を受けて政策期待が高まったほか、衆院解散・総選挙による「株高アノマリー(経験則)」も意識され、海外勢による先物買いの勢いが増した。
  ・日経平均の寄与度が大きいファストリ・東エレクが上昇、三菱UFJ・トヨタも買われた。一方、傘下の英半導体設計アームの売り出し価格が決まったソフトバンクGは下げた。ファナックなど機械関連の下げも目立った。

 2)9/15、日経平均+364円高、33,533円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米株高や中国景気に対する不安感が和らいだことなどから投資家心理が上向き、幅広い銘柄が買われた。外国為替為市場で円安・ドル高基調となっていることも支えとなり、7/3以来の水準で終えた。
  ・9/14の米株式市場で主要3指数がそろって上昇した流れを引き継ぎ、主力の大型株を中心に買われた。同日発表した流れ8月の米小売売上高が市場予想を上回ったことで、米国の消費が想定以上に堅調との見方から輸送用機器株などが買われた。足元の原油高から資源株も上昇した。
  ・9/15発表の中国の8月鉱工業生産が市場予想を上回ったことも日本株の追い風となった。
  ・「円安による業績改善期待に加え、日本企業の業績を左右する米国と中国の景気が底堅いとの期待感が投資家心理を上向かせた」との見方があった。
  ・個別株では、傘下の英半導体設計アームが上場したソフトバンクGが買われた。トヨタ・デンソー・東エレク・KDDI・パナソニック・TDKも高い。半面、日東電・セブン&アイ・JALは売られた。

●2.日本株:衆院選挙の見通しで株価上昇、選挙先送りなら剥げる可能性あり

 1)衆議院解散・総選挙が見込まれ、景気刺激策で株価上昇期待が増す
  ・衆議院解散材料で、9/14~15の2日間で日経平均は+827円上昇した。

 2)日米長期金利差の拡大観測で、円相場が円安に下落し、株価上昇に貢献
  ・日米10年物金利差が拡大  9/1 3.560%  ⇒9/15 3.633%
   円相場          9/1 145.52円 ⇒9/15 147.78円
  ・米国の金利上昇は続く見込みであり、さらなる円安を指向。
  ・ただ、年末ごろから米金利上昇にブレーキがかかり、「円高反転」リスク。

 3)日本のインフレ圧力が増し、国民は生活防衛にシフト
  ・7月実質家計消費は▲5.0%減と、国民は物価高に苦しめられ生活防衛に追い込まれている。(総務省・家計調査)

 4)半導体需要の減少に警戒
  ・台湾TSMCが半導体製造装置の納入延期など、半導体を取り巻く環境が悪化。
  ・生成AIなどの注目材料があり、エヌビディアやマイクロソフトなどの株価上昇が見られたが、半導体総需要は減速している。
  ・中国含む世界景気の減速に注目したい。

 5)支持率上昇を狙った岸田内閣改造は「期待外れ」
  ・岸田首相は支持率上昇を狙って閣僚・党役員の変更を実行した。女性閣僚も5人と最大数に並べた。
  ・今までは、内閣改造すると支持率が上がるのが普通であった。しかし、結果は「内閣支持率は35%と横ばい」だった。

 6)何がしたいのかよく見えない内閣改造
  ・女性閣僚も世襲議員が多数を占め、各派閥への配慮が中心で何をしたいのか「本気度が見えない人事」になってしまった。
  ・政治を分かっていない息子を、首相は首相秘書官に任命した。ところが、外遊時の土産物買いや見学、首相公邸での騒ぎを起こした。
  ・岸田首相自身が世襲議員であり、物議を醸しだした息子を後継に据えようとしている。「政治家を家業」としていると見られてもしかたがない。
  ・今までの首相は、「派閥の会長を首相就任と同時に会長辞任」してきた。派閥を超えた政治をするためであった。ところが、岸田首相は就任後いまだに「派閥会長」を続けている。これでは「派閥会長としての目線」を超えられない。
  ・「日本のリーダー」としての視線の高さを感じさせない。今回の人事では、世襲議員と閣僚就任期待議員の在庫一掃となる閣僚任命を実行した。これでは、何のための内閣改造であったのか不明であり、国民は新鮮味や期待感を持てない内閣改造となった。しかも、女性重視といいながら、女性の副大臣・政務官はゼロと「支離滅裂」。昨年の内閣改造で女性の副大臣・政務官は54人中のうち11人⇒今回はゼロ。加えて、「女性ならではの感性に期待」と述べ、性差別的な発言をしている。副大臣・政務官から女性を外したのは、男性中心社会を正当化し、女性には補助的でアシスタント的な役割を期待してきたとの考えを示している。半面、副大臣・政務官54人のうち、糾弾されてきた統一教会関係議員は26人。内閣支持率が上がらないのも「国民から見透かされ」て、当然と思われる。

 7)今回の内閣改造の目的は、来年9月の自民党総裁選挙対策
  ・今回の岸田首相の内閣改造目的は「来年の自民党総裁選挙での勝利を見込んだ内閣改造」と見ると、判りやすい。
  ・閣僚19人のうち、初入閣組が11人、女性閣僚が過去最多に並ぶ5人となった。入閣で恩を売って、自民党総裁選挙に備えようとするのが透けて見える閣僚人事となった。
  ・したがって、国民からは「岸田首相が何をしたいのかよく見えない」内閣改造と映り、支持率向上につながらなかった。

 8)衆議院解散・総選挙は延期で、株価は期待外れで売り圧力が増す可能性
  ・この内閣支持率の低迷の局面打開ができず、衆院選挙の実施は先送りされる恐れが出てくると思われる。
  ・選挙期待で上昇した日経平均は、上昇分が削ぎ剥がされるリスクに直面する。注意したい。
  ・衆議院解散・総選挙を期待して、株価は上昇したが、先行きは波乱含み。

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・7013 IHI     業績悪化は織り込み、航空機需要増加期待。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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