相場展望7月10日 米国: FRBは7月にも利上げ再開へ⇒株価が割高感増すリスクも  日本: 日本株は直近の大幅下落で、目先、反動高も

2023年7月10日 10:03

印刷

■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)7/6、NYダウ▲366ドル安、33,922ドル(日経新聞より抜粋
  ・7/6発表の米雇用指数が市場予想を大幅に上回った。労働需給の引締まり感が強いなか、米連邦準備理事会(FRB)の金融引締めが長期化するとの観測から売りが出た。
  ・6月のADP全米雇用リポートで、非農業部門の雇用者数は前月比+49.7万人増と、ダウジョーンズ通信がまとめた市場予想22.0万人を大きく上回った。レジャーなどサービス業を中心とした雇用増が牽引した。
  ・7/7発表の6月米雇用統計で雇用者数の増加幅の予想を引上げる金融機関もあり労働需要の逼迫が高インフレの継続につながると警戒された。
  ・FRBは6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を据え置いたが、7月には利上げを決めるとの見方が一段と強まった。年内に7月を含め2回の利上げがあるとみる市場参加者も増えた。米金利先物の値動きから、市場が織り込む利上げの確率を算出する「フェドウオッチ」によれば、7月と9月に利上げする確率は約28%と前日の18%から上昇した。
  ・7/6の米債券市場では10年物国債の利回りが一時4.08%と、3月以来の高水準を付けた。金利の上昇で割高感が意識されたのも株式相場の重荷となり、NYダウの下げ幅は一時▲500ドルを上回った。
  ・個別では、消費関連を含む景気敏感株への売りが目立った。ホームセンターのホームデポや工業製品・事務用品のスリーエム、クレジットカードのアメリカンエキスプレスが下落した。ネット通販のアマゾンやネット検索のアルファベットも下げた。一方、アナリストが目標株価を引上げたソフトウェアのマイクロソフトが上昇スマホのアップルも買われた。

【前回は】相場展望7月6日 米国: 「金利引き上げ再開」とNYダウのチャート「下落示唆」に注目  日本: 外国人の先物筋と現物筋の「売り」揃い踏みに注意、物色に変化

 2)7/7、NYダウ▲187ドル安、33,734ドル(日経新聞より抜粋
  ・朝方発表の米雇用統計で、雇用数の増加幅は縮小したものの、時給の伸びは鈍らなかった。前日に高まっていた米連邦準備理事会(FRB)による金融引締めへの過度な警戒は解けず、FRBの利上げが長期化するとの観測が改めて強まり、株売りが一段と広がった。ただ、下値は限られた。
  ・6月の米雇用統計では非農業部門の雇用者数が前月比+20.9万人増えた。ダウジョーンズ通信がまとめた市場予想+24万人増には届かなかったほか、4月と5月の増加幅も下方修正された。一方、平均時給は伸び率が前月比+0.36%と、市場予想+0.3%を上回った。失業率は、3.6%と前月3.7%からやや改善した。賃金と連動性が高いとされるサービスインフレの鈍化に時間がかかると受け止められた。
  ・前日に発表された6月のADP前米雇用リポートでは非農業部門の雇用者数が前月比+49.7万人増と、市場予想+22万人増を大きく上回っていた。労働市場の過熱感が警戒された後で、市場では「今日の雇用統計は、昨日に浮上した懸念を和らげ、投資家心理をわずかに改善させた」との声も聞かれ、NYダウは上昇に転じる場面があった。
  ・個別では、バイオ製薬のアムジェンや医薬・日用品のJ&J、製薬のメルクといったディフェンシブ株を中心に売られた。半導体のインテルやスマホのアップルも下落した。交流サイトのメタや動画配信のネットフリックスが下げた。一方、建機のキャタピラーや工業製品・事務用品のスリーエムは上げた。原油価格の上昇で、シェブロンなどの石油株も高かった。ネット通販のアマゾンも買われた。

●2.米国株:FRBは、7月にも利上げ再開を予想⇒株価が割高感増す可能性

 1)FRBは、7月にも利上げ再開へ
  ・6月の雇用統計が発表された。雇用者数の伸び率が鈍化していることを確認できた。だが、(1)賃金の上昇率は+4.4%と、4月以降高水準を継続している。(2)失業率は3.6%と、労働市場が引続き逼迫し売り手市場が継続。
  ・インフレ率は鈍化傾向にあったが、再び上昇に転じる様相をみせている。しかも、FRB目標の2%の倍となる4%程度で、高値圏にある。
  ・以上の観点から、FRBは6月に金利引上げを停止したが、意味がなかった。むしろ、低下傾向にあったインフレが、再上昇に転じる様相をみせており、金利引上げ圧力を高めることになったようである。したがって、7月にFRBは利上げを再開すると予想する。

 2)金利は上昇へ
  ・短期の2年物国債利回りは、5%目前まで上昇した。
   6/1 4.341% ⇒ 7/6 4.981%、7/7は株安の影響で4.95%に低下。
  ・長期の10年物国債利回りは、4%台に乗せて上昇した。
   6/1 3.595% ⇒ 6/16 3.761% ⇒ 7/7 4.066%に上昇。

 3)米国株式の株価は重くなるリスクが増す
  ・金利上昇は株価にとって、割高感が意識され、負の影響が出ると思われる。

●3.米経済は予想以上に好調、一段の利上げが必要=ダラス連銀総裁(ロイター)

●4.米6月非農業部門雇用者数は前月比+20.9万人増、市場予想+22万人を下回る

 1)賃金は前月比+0.4%増、市場予想+0.3%増より高く、力強い労働市場を示唆。

 2)労働市場が徐々に減速しつつあるが、賃金はなお力強い労働市場を示唆。

 3)失業率は3.6%と、市場予想3.7%より改善(ブルームバーグ)

●5.米6月ADP民間雇用は49.7万人増、予想22.8万人を上回った(ロイター)

 1)金利上昇に伴いリセッション(景気後退)リスクが高まっているにもかかわらず労働市場では依然として堅調であることが示唆された。

●6.米6月ISM非製造業景気指数は53.9と、予想51.3・5月50.3を上回った(フィスコ)

●7.米5月JOLT求人件数は982.4万件と、予想990.0・4月1010.3万件を下回る(フィスコ)

 1)依然として高水準を維持しているが、労働市場が徐々に緩和していることを示唆

●8.米政府、原油600万バレルを追加購入へ、戦略石油備蓄を補充(ブルームバーグより抜粋

 1)米政府はロシアのウクライナ侵攻後、戦略石油備蓄(SPR)から過去最大の1億8,000万バレルを放出していた。

 2)米エネルギー省は市況次第で、備蓄用の原油をさらに購入する方針だと述べた。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)7/6、上海総合▲17安、3,205(亜州リサーチより抜粋
  ・前日の軟調な地合いを継ぐ流れとなった。
  ・中国景況感の低迷や、米中の経済対立などが引続き投資家心理の重しとなっている。中国が半導体製造に必要な素材の一部を輸出規制すると発表するなか、米商務省の報道官は7/5、「中国の規制措置に断固反対する」と抗議し、同盟国と対応を協議することを明らかにした。
  ・それより先、事情に詳しい複数関係者の話として「バイデン米政権は中国企業を対象に、米国のクラウドサービスの利用を制限する準備を進めている模様」などと外電で7/4に報じられている。
  ・もっとも、下値を叩くような売りはみられていない。指数はプラス圏で推移する場面もあった。
  ・中国の景気回復遅れが鮮明化するなか、当局は景気対策を強めるとの期待は持続している。
  ・また、イエレン米財務長官は7/6夕方、中国の政府高官と会談するため、北京を訪問。市場の一部では、関係改善の期待も高まっている。
  ・業種別では、医薬品の下げが目立ち、消費関連も総じて冴えなかった。前日、急伸したレアアース・非鉄も安い。エネルギー・公益・運輸も下落。半面、不動産はしっかり、自動車とハイテクの一角が買われた。

 2)7/7、上海総合▲8安、3,196(亜州リサーチより抜粋
  ・投資家の慎重なスタンスが持続する流れとなった。
  ・中国景況感の低迷や、欧米の金融引締め長期化観測などが不安材料として意識された。もっとも、下値を叩くような売りはみられない。
  ・資金流出の懸念がやや薄らぐなか、指数はプラス圏に浮上する場面もあった。
  ・中国の政府系メディアが足元の人民元安をけん制する論説記事を相次ぎ発表。直近では、中国人民銀行(中央銀行)系の金融時報が7/6、「人民元相場がパニック的な下落に陥ったとしても、中国には為替相場を安定させるための政策ツールは豊富にある」とする記事を掲載した。
  ・業種別では、ハイテクの下げが目立ち、消費関連も総じて安い。通信ネットワークも冴えない。メディア・娯楽・インフラ関連・医薬品などが売られた。半面、空運はしっかり、エネルギー関連も物色された。

●2.TSMC、「生産に直接的な影響なし」、中国の半導体素材輸出規制で(ロイター)

●3.アントに消費者保護や資金洗浄で罰金1,400億円、中国当局(共同通信)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)7/6、日経平均▲565円安、32,773円(日経新聞より抜粋
  ・世界景気の先行き不透明感から7/5の欧米株式相場が下落し、東京市場でも運用リスクを避ける目的の売りが優勢だった。7/6はアジア株も総じて軟調で、日経平均の一時下げ幅は▲700円を超えた。
  ・7月上旬は日本株の上場投資信託(ETF)の分配金捻出に向けた売りが出る見込みで、需給悪化への警戒も株安に拍車をかけた。米利上げ継続観測の強まりを背景に、7/5の米株式市場で半導体株が下落した流れを受け、東エレクやアドテストなど値がさの半導体株が冴えなかった。
  ・半導体設計のソシオネクスに売りが殺到、投資家心理冷え込みにつながった。7/5に富士通などの大株主が保有するソシオネクス株を海外市場で売り出すと発表し、需給悪化懸念が広がった。
  ・7/7は6月の米雇用統計の発表を控える。市場では「雇用統計の結果次第では米株が調整局面に入る可能性があり、日本株も連れ安しそうだ。日経平均は急ピッチで上昇してきただけに、32,000円近辺まで下げるシナリオも考えられる」との声が出ていた。
  ・ファストリ・ダイキン・ソフトバンクGなど値がさ株の下げが目立った。ファナック・安川電・日立建機も安い。三井物産・三菱商事も売られた。一方、味の素・大塚・スズキ・横河電機・富士通・神戸製鋼が高い。

 2)7/7、日経平均▲384円安、32,388円(日経新聞より抜粋
  ・米金融引締めの長期化観測から前日の米株式相場が下落し、東京市場でも主力株を中心に売りに押された。今晩に6月の米雇用統計の発表を控えていることも見送り気分を強めた。
  ・日経平均は朝方に▲400円超下げる場面があった。前日の米雇用関連指標が市場予想以上の強さとなったことで、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを継続するとの見方が強まった。前日の米主要株価指数が軒並み下落した流れを東京市場も引き継ぎ、業種別では機械や自動車などの下げが目立った。
  ・上場投資信託(ETF)の分配金拠出に伴う売りへの警戒も引続き重荷となった。朝方の売り一巡後は株価指数先物への押し目買いや売り方の買い戻しなどで下げ渋る場面もあったが、大引けにかけて再び売りが優勢となった。
  ・市場では「FRBの金融引締め長期化警戒から投資家は利益確定売りを進めており、日経平均は25日移動平均線(32,944円)が上値抵抗線になりつつある」とみているとの声があった。
  ・エーザイが大幅安、トヨタ・ダイキン・信越化・三菱UFJ・丸紅が売られた。一方、中外薬・任天堂・JALは高い。

●2.日本株:今週は自律反発か

 1)外国人・先物筋は7/6「買いに転換」⇒日経平均の反発につながる公算が強まる
  ・外国人・先物の手口の推移(単位・枚数)
           7/3    7/4    7/5    7/6    7/7
   外国人先物  +1,584枚買 ▲4,983枚売 ▲1,458 +3,451  +5,822
   日経平均値動き+564円高 ▲330円安  ▲  83  ▲ 565  ▲ 384

 2)日経平均は短期間で急落
  ・7/3終値33,753円⇒7/7終値32,388円⇒下げ幅▲1,365円安

 3)今週は反発か
  ・自律反発を予想する要因
   (1)上場投資信託(ETF)の分配金捻出のための売りが先週で一巡した。
   (2)外国人の先物筋が買い転換した。
   (3)この4日間で、日経平均は▲1,365円の大幅安もあり、売り疲れ。
   (4)目先の懸念材料だった米雇用統計の発表が通過した。
   (5)次の懸念材料となる米連邦公開市場委員会(FOMC)まで時間があり、
   (6)売り方の買い戻しが出る可能性がある。
   (7)買い方の買い出直し期待できる。

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・4384 ラスクル    黒字化。
 ・6196 ストライク   業績堅調。
 ・7733 オリンパス   業績回復期待。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

記事の先頭に戻る

関連キーワード

関連記事