相場展望11月21日号 露原油の価格制限、滞留資金で株価反発もあり 先回り買いで、年末ラリーは期待薄か?

2022年11月21日 09:15

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)11/17、NYダウ▲7安、33,546ドル(日経新聞より抜粋
  ・米連邦準備理事会(FRB)高官が金融引締めに積極的な「タカ派」姿勢を示した。米長期金利が上昇し、株式の相対的な割高感を意識した売りが優勢となった。もっとも、好決算を発表した銘柄などが上昇し、取引終了に掛け下げ幅を縮小した。
  ・セントルイス連銀総裁が講演で、今の政策金利について「まだ十分に景気に制限的な水準に達していない」と述べ、一段の利上げの必要性を主張した。米長期金利が一時3.80%と前日終値3.69%から上昇し、NYダウは一時▲300ドル強下げる場面があった。
  ・急速な、金融引締めが景気を冷やすとの見方から消費関連銘柄や景気敏感銘柄などの下げが目立った。ディズニー、アメックス、キャタピラー下落。金利上昇でハイテク株も売られた。アマゾン、テスラなども下落した。
  ・売り一巡後は、小幅高に転じる場面もあった。業績を上方修正したシスコシステムズが+5%高、メルクなどディフェンシブ株も買われ、指数を下支えした。市場では「FRBが12月に利上げ幅を縮小観測は根強く、買い直された」との指摘。

【前回は】相場展望11月17日号 米中間選挙は上下両院で「ねじれ」に、政策に苦慮 決算発表イベントはまもなく終了、相場に変化も

 2)11/18、NYダウ+199ドル高、33,745ドル(日経新聞より抜粋
  ・小売企業などが発表した決算が市場予想を上回り、投資家心理が改善した。反面、石油・ハイテクが売られNYダウは下げる場面もあった。
  ・衣料のギャップ・小売のウォルマート・半導体のアプライドマテリアルズ・ネットワーク機器のシスコシステムズの決算が予想を上回り買われた。ディフェンシブ株である製薬のメルク・医療保険のユナイテッドヘルスも上昇した。
  ・市場では「経験則的に年末に掛けて株価が上昇しやすくなるのを見越し、機関投資家が持ち高を増やし始めている」との指摘もあった。

●2.米国株:ロシア産原油等の輸出制限強化。滞留する余剰資金で株価反発局面あり。

 1)米10月消費者物価指数(CPI)の上昇率が予想を下回ったことに反応し、株価・債券が大幅上昇した。
  ・総合CPIは前年同月比+7.7%上昇で、予想+7.9%・9月+8.2%を下回った。食品とエネルギーを除いたコアCPIも前年同月比+6.3%上昇、予想+6.5%・9月+6.6%を下回った。

 2)CPIの鈍化を受け、FRBは積極的な利上げを検討するのではとの投資家の見方が浮上し、株式市場と長期金利低下を受けた債券市場は大幅上昇した。

 3)しかし、「楽観主義」の株式市場に対し、インフレ率と中味を見ると違う風景がある。CPI鈍化した要因は、(1)中古自動車価格と(2)健康保険の低下が大きく寄与していた。生活するものにとって重要な(1)食品(2)エネルギー(3)住居費は、横ばい程度であり、鈍化したとは言い難い。株式市場の「楽観論」の成せる話であったように思う。

 4)欧州では、12/5からロシア産原油の上限価格制が始まる。さらに、欧米による海上保険引受けサービスの停止が予想される。現在、ロシア産原油・ガスの輸入拡大をする中国・インド、輸入検討のインドネシアなどは影響を受ける。中国は国家がリスクを負うとの方針を出すと思われるので、ロシア産原油等は輸入継続するだろう。しかし、欧米の海上輸送保険サービスなしのロシア産石油輸入は、リスクがあるため現状通りの輸入には限界がある。さらに、欧州は2023年2月から、ロシア産軽油なども輸入禁止する予定にしている。

 5)以上の要因を俯瞰すると、原油価格は12月以降に再騰する可能性がある。さらに、ロシア産農薬の供給低下と価格上昇、食料品価格の高止まりが続いている。金融市場もFRBやECBなど各国中央銀行は紙幣を大増刷して、インフレを招いた。そして、インフレ抑制のため市場から紙幣の回収を始めたばかりである。金利も引上げ始めて時間が経っていない。そのような観点から、インフレ抑制には長期間が掛かると思われる。

 6)株式市場には巨額マネーが流入し、今回の株価上昇を演じさせた。各国中央銀行が発行した紙幣の回収は着手したばかりの段階であり、市場から株式市場に流入させられる余剰資金はまだまだ滞留している。しかし、FRBなどの資金回収が進んでいくと、今回のような株式市場の活況は、次第に細っていくと見ている。

 7)年末の株式相場は上昇するという経験則がある。だが、既に株価は先回りして高水準にあり、年末ラリーを期待できるか疑念が脳裏をかすめる。ただ、余剰資金が市場に滞留している限り、反発局面はあるので、割り切って短期間の上昇波動に乗るのも良いパオーマンスを得られると機会だと思われる。

 8)今週の予定
  ・11/23 新規失業保険申請件数
      11月製造業PMI
      11月ミシガン大学消費者信頼感指数
      10月新築住宅販売
      11月開催分FOMC議事要旨公表
  ・11/24 感謝祭で株式・債券市場は休場

●3.セントルイス連銀総裁、「十分抑圧的な金利水準は5~7%程度」を示唆(ブルームバーグ)

 1)現在のFRBの誘導目標レンジは、3.75~4.0%。

 2)より厳格な仮定では、7%以上への利上げが推奨されるとした。

●4.JPモルガン、米国は来年「緩やかな」景気後退、利上げで雇用喪失(ブルームバーグより抜粋

 1)利上げは、12月+0.5%増、年明け2会合で各+0.25%引上げ、4.75~5.0%で停止。

 2)雇用▲100万人減。

 3)2024年4~6月から▲0.5%ずつ利下げを開始。政策金利は年末までに3.5%の見通し。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)11/17、上海総合▲4安、3,115(亜州リサーチより抜粋
  ・前日の軟調な地合を継ぐ流れとなった。
  ・中国の新型コロナ感染再拡大が引続き嫌気された。足もとの新規感染者数は、上海市がロックダウン(都市封鎖)中の4月以降で初めて2万人を突破。一部地区では外出規制など防疫措置が強化されている。
  ・人民元安の進行も警戒感が再燃された。中国人民銀行(中央銀行)は、人民元レートの対米ドル基準値を5日ぶりに元安方向へと設定した。
  ・業種別では、エネルギー関連の下げが目立ち、発電電力設備、消費関連も冴えない。反面、ITハイテク・医薬品・不動産・空運・保険銀行は買われた。

 2)11/18、上海総合▲18安、3,097(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済活動の停滞が懸念される流れとなった。
  ・国内では新型コロナの感染が再拡大し、複数地域で行動抑制が強化される状況だ。コロナ防疫措置に微調整の緩和の動きがあるものの、当局は感染を徹底的に封じ込めるゼロコロナ政策を堅持しているだけに、経済正常化には時間がかかると見られる。
  ・社会不安も警戒された。政府の厳しいコロナ政策に抗議し、大規模街頭デモが発生。
  ・中国経済対策への期待感で買われる場面が見られたが、結局はマイナス圏に沈んだ。
  ・業種別では、ハイテク関連の下げが目立ち、運輸・不動産が安く、医薬品が高い。

●2.中国アリババ、7~9月売上高は前年同期比+3%増も予想下回る、個人消費低迷(ロイター)

 1)7~9月期決算、約▲4,000億円の赤字、ゼロコロナ響く(共同通信)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)11/17、日経平均▲97円安、27,930円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米株式市場で半導体株が下落した流れを受け、東京市場でも半導体関連株に売りが波及した。もっとも、日経平均は小幅に上げる場面があるなど底堅さも目立ったが、1日を通して方向感に乏しい展開だった。
  ・半導体メモリーの米マイクロンテクノロジーが生産削減計画を発表し、前日の米株式市場では半導体株に売りが出た。国内の半導体関連株はこのところ急ピッチで上昇していたため、リスク回避の売りと 共に利益確定の売りも出やすく、相場全体の押し下げ要因となった。
  ・一方、リオープン関連や内需株の一角に買いが入り、相場を支えた。日本政府観光局(JNTO)が11/16に発表した10月の訪日客数が前月比+2.4倍の49万人と大幅に増加し、インバウンド(訪日外国人)の需要回復が意識された。「国内外の機関投資家からも陸運株への買いが入った」との声が出た。
  ・東エレク・アドテスト・SUMCOが下げ、マツダ・住友鉱山も売りに押された。安川電・日本電産も安い。日揮・高島屋・三越伊勢丹が高い。

 2)11/18、日経平均▲30円安、27,899円(日経新聞より抜粋
  ・週末を控え心理的節目の28,000円近辺で利益確定売りに押された。
  ・米FRB高官が金融引締めに積極的なタカ派姿勢を示し、投資家心理を下向かせた。
  ・日経平均は今週に入り、28,000円を上回ると上値が重クなる展開が続いている。11/18は米株式相場の流れを受けた半導体関連株が、円安進行で輸出関連株が上昇。ただ、日経平均が+100円を超えると個人投資家からの売りが嵩んだ。
  ・ソフトバンクGが▲4%下げ、1銘柄で日経平均を▲50円押し下げた。楽天・エムスリー・リクルート・海運が下げ、東ガス・大ガス・マツダが高い。

●2.日本株:10月からの先回り買いで、年末ラリーは期待薄か?

 1)海外投資家の動向 
  ・10/24~11/11の3週間で、現物+先物合計で+1兆1,617億円の買越し。
  ・12月初旬以降は、買越額から見ると、売越し転換する可能性があり注意したい。
 
 2)相場の流れ
  ・株式相場の年末ラリーは、10月以降の先回り買いで上昇したため、期待薄となりやすい。
  ・経験則的にも、年間の上昇率トップは「11月」で、12月は「やや上昇」となっている。
  ・中国の輸出が伸びていない。これは、米国のクリスマス商戦が期待できないという理由で発注が手控えられたと、考えられる。米国株と連動しやすい日本株なだけに、12月米国クリスマス売上げ動向が気になる。

■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします)

 ・1605 INPEX     原油価格再騰ねらい。
 ・6457 グローリー   業績回復期待。新紙幣需要期待。
 ・8410 セブン銀行   業績堅調。インバウンド期待。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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