相場展望5月30日 米株式の最近の上昇は「大幅下落の戻り」で一時的 依然として、インフレ率は高く、FRBの引締め強化へ

2022年5月30日 09:09

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)5/26、NYダウ+516ドル高、32,637ドル(日経新聞より抜粋
  ・百貨店のメーシーズや1ドルショップのダラーツリーの小売企業が市場予想を上回る1~3月期決算発表し、米経済を支える消費は堅調との見方から消費関連が買われた。
  ・インフレや供給網の混乱が収益の重荷になるとみられていたが、懸念はやや後退した。ナイキ+4%高、ホームデポやアメックスの上昇も目立った。
  ・堅調な消費に伴い、米景気の底堅さが維持されるとの見方から景気敏感株も買われた。ボーイング+5%高、キャタピラーやハネウェルが高く、ベライゾンやメルクは下落。
  ・5月に入ってからの相場下落で、年金資金の買いが入るとの観測も後押しした。

【前回は】相場展望5月26日 株価の潮流に変化、「FRB金融政策・ウクライナ侵攻」⇒『景気減速』⇒『企業業績』へ

 2)5/27、NYダウ+575ドル高、33,212ドル(日経新聞より抜粋
  ・米物価指標の伸び率が縮小し、インフレ加速への過度な警戒感が和らいだ。消費関連やハイテクを中心に買いが入り、取引終了にかけて上げ幅を広げた。
  ・NYダウは1週間で+1,951ドル高と、9週ぶりに上昇し、週間上昇率は+6.2%。
  ・米4月個人消費支出(PCE)物価指数で、変動が激しい食品・エネルギーを除くコア指数は前年同月比+4.9%上昇と、前月+5.2%から伸びが鈍化した。PCE物価指数は米連邦制度理事会(FRB)が物価指標として重視している。
  ・「秋以降に想定したほどの金融引締めを加速せずに済むとの見方が市場の一部で広がり、投資家心理の改善につながった」との声が聞かれた。
  ・発表された個人消費支出は市場予想以上に伸び、インフレに関わらず米経済を支える消費は底堅いとの見方から、消費減速への過度な懸念が和らいだ。
  ・ディズニー+4%高、ナイキ、アメックス、ビザ、ボーイングなど景気敏感も買い優勢。
  ・米長期金利上昇に一服感が出て、ハイテクが軒並み買われ、アルファベットとアマゾンが+4%高、テスラ+7%、エヌビディア+5%と、ナスダック総合は8週ぶりに上昇した。

●2.米国株:米株価は5/20から反発も、戻り高の範囲内。物価指数の上昇伸び鈍化も高水準

 1)米株価は8週連続の下落⇒先週は反発も、依然として下落途上の一時的反発とみる。
  ・NYダウの今年2回目となる「直近下落⇒反発」の状況。
  ・3/29高値35,294ドル⇒5/19安値31,253、下落幅▲4,041ドル・下落率▲11.4%。
   5/20から上昇し5/27高値33,212ドル、戻り幅+1,959ドル・上昇率+6.3%。

 2)今回の戻りは、格言「半値戻りは、全値戻り」とはならず、戻り率+63.9%を予想。
  ・下落幅に対する戻り率は5/27現在で+49.0%。
   格言「半値戻りは全値戻り」があるが、戻り幅予想を約+2,580ドル(戻り率+63.9%)とすると、上昇余地はあと+621ドルとなる。
  ・その根拠、1回目下落(1/4⇒3/18)に対する1/4高値36,799ドル⇒3/18安値32,632ドル、下落幅▲4,167ドル・下落率▲11.3%。その反発は3/29高値35,294ドルまでで、上昇幅2,662ドル・上昇率+8.2%+。戻り率は下落幅に対して+63.9%。今年2回目下落局面の戻り率を+63.9%とみた。
  ・「全値戻り」とみない理由は、
   (1)物価上昇率が4月にやや鈍化したものの依然として高水準にある。
           米PCE物価指数の推移
     2020年12/23   1.1
     2020年05/28   3.6
     2021年12/23   5.7
     2022年03/31   6.4
     2022年04/29   6.6
     2022年05/27   6.3

   (2)原油・穀物・資源などのCRB商品先物指数が5/10以降再び高騰している。上げ止まりの兆候がみられない。
    ・CRB指数の推移       ・WTI原油先物(ドル)
     2020年4/21 106.29      2020年4/20   37.63
     2022年5/10 297.09      2022年3/18   123.70
     2022年5/27 320.52    2022年4/11   94.29
                  2022年5/27   115.07

   (3)米物価指数の3割を構成する家賃の上昇の本格化はこれからであり、ガソリン価格も再騰が見込まれ、米インフレ率の伸び率は鈍化しても下落が見込めない。

   (4)ウクライナ情勢の長期化に伴い、CRB指数上昇要因が消えない。

   (5)したがって、米連邦制度理事会(FRB)の金融引締め(利上げ・供給資金の量的縮小)は継続され、強化されても緩和の見通しがない。

 3)5/27米株式市場はインフレ加速が想定以下になり金融引締めが和らぐとの見方で大幅上昇した。
  ⇒ だが、そうなるだろうか?
  ⇒ CRB指数は上昇へと加速しており、4月PCE鈍化は一時的と思われる。
  ⇒ 米FRBの金融引締めは強化こそあれ、「引締めの緩和はない」とみる。
  ⇒ インフレ高騰で、賃上げが消され、実質所得減少により消費支出の抑制。
  企業業績は売上げ不振・コスト高の値上げ浸透に不安が逆風となりやすい。上記要因の判断により、米株価の今回の反発は「自律反発の範囲での一時的」なものであり、「全値戻し」はなく、1回目下落の戻り率の範囲として、2回目下落局面の戻り率とみた。

●3.ロシアのプーチン大統領は、年金引上げを約束(時事通信)

 1)年金は、+10%増を6/1から。(インフレ率は4月+17.8%、過去20年で最高)
 2)最低賃金を、6月から+10%引上げ。
 3)幼い子供がいる女性軍人への手当を増額。
 4)ロシア志願兵の年齢制限(ロシア人40歳、外国人30歳)を撤廃。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)5/26、上海総合+15高、3,123(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済対策への期待感が相場を支える流れで、国務院は5/25、経済安定を巡り地方政府の幹部ら10万人超を動員した異例の規模のテレビ会議を開催した。報道によれば、李首相は失業率の低下に努めるように求めたほか、先ごろの常務会議で決定した33項目の景気対策について、できる限り5月末までに実施細則を発表するよう関連部局に指示した。ただ、株価指数の上値は限定的だった。
  ・感染対策の行動規制が長期化すると不安視、中国景気の鈍化懸念もくすぶっている。
  ・業種別では、インフラ建設関連・不動産が買われ、消費関連・医薬品が冴えない。

 2)5/27、上海総合+7高、3,130ドル(亜州リサーチより抜粋
  ・中国政府はこのところ、雇用やインフラ投資・産業支援・消費刺激などに関する対策を相次いで公表しており、中国政府の経済対策への期待感が相場を支えた。
  ・中国本土で新型コロナ感染者数が落ち着いていることから、一部学校が再開される。
  ・ただ、中国景気の鈍化懸念が依然としてくすぶっている。全国工業企業の利益総額は1~4月、前年同期比+3.5%となったが、増加率は1~3月の+8.5%から鈍化し、上海総合指数は安く推移する場面もみられた。
  ・業種別では、エネルギー関連の上げが目立ち、運輸・銀行保険・食品が買われ、反面、ITハイテク・不動産・自動車・証券が売られた。

●2.中国経済は5月も低迷、「ゼロコロナ」が足かせで底入れの兆し見えず(ブルームバーグ)

●3.李首相、中国経済は悪化、2020年のコロナ禍より幾つかの側面で深刻(ブルームバーグ)

 1)李首相は、地方当局者や国有企業、金融機関と景気安定の方策について協議し、「失業率の低下」に取り組むよう求めた。
 2)李首相が、3月初めに設定した5.5%成長目標の達成が「厳しい」ことを「暗に認めた」かもしれないとリポート。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)5/23、日経平均▲72円安、26,604円(日経新聞より抜粋
  ・朝方は、米FOMC議事要旨が市場予想内容にとどまったことで、日経平均の上げ幅が+200円を超えたが、前日発表の米半導体大手エヌビディアの決算が市場予想を下回ったことで、主力半導体関連銘柄が下落し、戻り待ちの売りで日経平均は下落した。
  ・東エレク・アドテストの2銘柄で日経平均を▲70円ほど押し下げた。

 2)5/27、日経平均+176円高、26,781円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米株式市場の相場上昇が投資家心理の支えとなり、半導体関連などに買い戻しが優勢、海運も上昇し一時節目の27,000円に接近したが、戻り待ちの売りも出やすく、相場の上値は重くなり下げ幅は縮小した。
  ・米景気の先行きなどに対しては慎重な見方も多く、週末で様子見ムードが広がった。
  ・東エレク・ソフトバンクG・アドテスト・信越化が上昇、KDDI・ファストリが下落。

●2.日本株:日経平均は上昇が期待できるが、米国株と同様に「戻りの範囲」

 1) 米国株は5/20以降、+1,959ドル上昇し、上昇率+6.3%。
  日本株は米国株に連動したものの、5/20からの上昇幅+379円高・上昇率+1.4%と鈍い反応となっている。 これは、米国株の下落幅が大きかったためであり、堅調だった日本株の上昇幅が小さいのに、不自然さはないといえよう。
 2)株式市場は、米FRBによる金融引締めは始まったばかりであり、下落基調のなかの「戻り」と捉えて、乱高下に対処するのが良いと思われる。したがって、戻り局面では「売り」、大きく下落したら「買い」という短期的な対処が
良さそうな日本株の展開が続くと見込む。

●3.企業動向

 1)グリコ   ポッキーなど157品目を9/1~10/1に3~11%値上げ (朝日新聞)
 2)サントリー プレモル、角ハイボール缶など507品目を9/1・10/1値上げ(朝日新聞)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・2412 ベネフィットワン 業績堅調  
 ・3038 神戸物産     業績堅調
 ・9843 ニトリ       業績堅調

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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