相場展望3月7日号 プーチンの9重苦 ロシアの侵攻、世界にインフレ高進・景気後退招く

2022年3月7日 09:27

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)3/3、NYダウ▲96ドル安、33,794ドル(日経新聞より抜粋
  ・ウクライナ情勢の先行き不透明で、様子見姿勢の投資家も多く、売買は限定的。
  ・ボーイングが▲5%下落し、1銘柄でNYダウを▲59ドル押し下げた。
  ・欧米の対ロシア制裁による企業業績への影響が懸念された。
  ・欧州各国はロシアの航空機に対して領空への乗り入れを禁止する制裁措置を決定。こうした動きが、航空機受注に影響するとの警戒感も出た。
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は3/3、議会上院での証言に臨んだが、原油価格の急騰などを通じて「少なくともしばらくは物価に上昇圧力がかかる」との認識を表明した。
  ・市場ではウクライナ問題は米経済にはインフレイベントになるとの見方が多い。今月以降、金融政策の引き締めが淡々と進められるとの観測が改めて強まった。
  ・もっとも、NYダウの下げ幅は限られた。事態は流動的だが、停戦協議が継続していること自体は投資家心理の支えとなった。

【前回は】相場展望3月3日号 ロシア制裁で、(1)通貨▲5割暴落 (2)物価上昇2桁へ (3)株価▲5割暴落 (4)金利2倍の20%と大惨事の入口

 2)3/4、NYダウ▲179ドル安、33,614ドル(日経新聞より抜粋
  ・ウクライナ情勢の緊迫化への懸念から投資家のリスク回避姿勢が強まり、景気敏感や消費関連株への売りが目立ち、一時▲540ドルに達した。反面、ディフェンシブ株への買いが目立ち、NYダウを下支えした。
  ・ロシア軍は3/4、ウクライナ南部にあるザポロジエ原子力発電所を砲撃し、制圧。ロシアによる軍事攻撃は激しさを増しており、欧米が対ロシアの経済制裁を強める可能性が意識され、紛争長期化が世界経済を下押しするとの懸念が一段と強まった。
  ・航空機のボーイングが▲4%下げ、1銘柄でNYダウを▲52ドルと連日の押し下げ。
  ・投資家のリスク回避姿勢の高まりで、相対的に安全な資産とされる米国債が買われ米長期金利は一時1.69%と、前日1.84%から大きく低下した。利ザヤ縮小への懸念を誘い、JPモルガンやゴールドマンSなど金融株も売られた。

●2.米国株:ロシアのウクライナ侵攻で、インフレ率加速が見込まれ、FRBの悩み深まる

 1)ロシアのウクライナ侵攻で、原油・小麦・金・パラジウム等が急伸している。米国のインフレは、1月が7.5%だったが、国際商品価格の高騰を受け、さらなるインフレの加速が予想される。

 2)FRBによる利上げ回数は、2022年で6回・+1.50%の上昇が見込まれている。ロシアの侵攻によるインフレ高進で、2022年利上げ回数は7回・+2.00%もあり得る。

 3)さらに、FRB資産縮小策を併せた、インフレ対策に追い込まれる可能性が高まった。

 4)つまり、ロシアの侵攻が、米国や世界のインフレ率上昇による害毒をまき散らす模様が濃くなりそうだ。

 5)ウクライナ紛争は、ロシアの拙攻で長期化の様相を濃くしており、ロシア経済にもブーメランとなり跳ね返ってくるだろう。ロシア経済はデフォルト(債務不履行)に直面し、崩壊の危機に直面していると
いえそうだ。いずれにしても、ロシアへの不信感を高め、世界で孤立化が進むと思われる。

 6)世界経済への影響も大きく、インフレ対策の強化による金利高騰と、景気後退というスタグフレーションの闘いが始まったといえる。

 7)株式市場にとっても、明らかな潮目の変化を迎えることになり得るか、注視したい。基本的には紛争の株式市場への影響は、数カ月で収束すると想定できそうだ。

●3.ブリンケン米国務長官は3/6、ロシア産原油の禁輸について同盟国と検討(TBS)

●4.イエレン米財務長官は3/2、ロシア制裁に『漏れ』あれば、対処する方針を示す(ロイターより抜粋

 1)イエレン氏は2/27、2/28に発動した制裁は、
  ・ロシアの銀行セクターの資産の80%が制限され、
  ・ロシア中央銀行の資産の約半分が凍結されている、
 と語った。

 2)ロシア制裁の効果は、ルーブル急落に反映され、ロシアに大きな影響を及ぼしているととも語った。

●5.格付会社フィッチは、ロシアをジャンク級に格下げし、追加制裁で返済能力圧迫(ロイター)

 1)他の格付会社S&Pは先週にジャンク級に格下げ済、ムーディーズも見直すと発表した。

●6.ロシア政策金利は2/28に9.5⇒20%に大幅引上げ(ロイター)

 1)ロシアが2014年にクリミア併合した翌2015年の17%を上回る。

●7.ロシアのカシャノフ元首相は2/28、ツイッターに投稿(時事通信)

 1)「最も重要なことは、欧米諸国がロシア中央銀行の外貨準備を凍結していることだ」。

 2)「現在、ルーブルを支えるものは何もない。通貨の印刷は続くのでインフレとなる。ハイパーインフレや経済の大惨事は、それほど遠くない」と警告した。

●8.プーチンの9重苦

 1)原油生産・埋蔵量の減少転換
  ・すでに減産段階に入っている(2019年1,125万バレル・日量を超えられない昨年12月1,090万バレル)

 2)人口が2021年に減少に転換
  ・ロシアの長期的衰退

 3)高インフレ・高金利
  ・輸入物価の高騰
  ・インフレ抑制のための高金利

 4)国民・軍部の不満
  ・物価高騰で不満増大中
  ・ウクライナ侵攻の反対運動の高まり(戦死者の帰還以降の反戦機運高まりに注意)
  ・退役将校団協会から「辞任・退任」の要求(ウクライナ侵攻反対)
  ・軍を基地に戻すと反政府勢力になるリスク(ウクライナ駐留の長期化が望ましい)
  ・野党指導者からの批判

 5)プーチンを支えるのは少数
  ・KGBの元部下と治安部隊
  ・新興財閥「オリガルヒ」・・・英国などから制裁対象

 6)ウクライナ侵攻の戦費負担の増大   
  ・欧米からの経済制裁で戦費調達も困難増す
  ・当座は、紙幣の増刷で賄うも、悪性インフレとなって跳ね返ってくる

 7)労働力不足で生産支障
  ・海外からの労働者集められず

 8)欧米諸国からの投資引上げで、縮小する国民総生産(GDP)
  ・外貨の国外流出
  ・雇用機会の縮小

 9)外貨不足を補うための原油・天然ガスなど資源の安売りがロシア苦境を長引かせる

●9.ロシア国債はデフォルトの可能性50%(ブルームバーグより抜粋

 1)ロシア国債は、1998年以来のデフォルト(債務不履行)リスクに直面している。

 2)ピクテのチャモロ氏、「ウクライナ侵攻で、デフォルト・リスクは50%超に」。

 3)投資家は、2月初め時点でルーブル建て債を約3兆2,900億円相当を保有していた。

 4)ロシア経済は崩壊状態、制裁で資金凍結され、ロシアの預託証券は▲98%安。

●10.米格付会社ムーディーズは3/6、ロシア国債を「非常に投機的」として『Ca』に再引き下げ

 1)『Ca』は格付で下から2番目の評価。(共同通信)

 2)ムーディーズは声明で、「ロシアの債務返済の意思と能力に関して、重大な懸念が生じた」と、格下げの理由を説明した。

●11.ウクライナ軍事支援

 1)カナダ、兵器の追加提供(ロイター)

 2)旧東欧諸国からミグ戦闘機提供の申し出(ロイター)

●12.ロシアの貿易での最恵国待遇から除外

 1)EU、世界貿易機関(WTO)でのロシアの最恵国待遇の適用除外を検討(ブルームバーグ)

 2)カナダ、ロシアとベラルーシに最恵国待遇を停止し、輸入品に35%関税(ロイター)

●13.ロシア新興財閥(オリガルヒ)への制裁

 1)英国:実業家ウスマノフ氏、シュワロフ氏(元第1副首相)の2人を制裁(ロイター)

 2)米国:ロシア大統領報道官でもあるセリーソ氏など19人とその家族に経済制裁と米渡航禁止(TBSNEWS)

 3)イタリア:ロシア新興財閥5人の資産合計1.43億ユーロ(約180億円)差押え(ロイター)

●14.「ロシア兵が女性に性的暴行」とウクライナが非難、「ロシアによる侵略行為を罰する特別法廷」の設置を支援と表明(AFPより抜粋

 1)英国のブラウン元首相や国際法専門家らは、特別法廷の議決を呼び掛けている。

 2)国際刑事裁判所(ICC)は、ロシアによる戦争犯罪の捜査を開始。

 3)ウクライナはさらに、国家間の紛争について裁判を行える唯一の機関である国際司法裁判所(ICJ)にもロシアを提訴している。

●15.旧ソ連と周辺国のロシア離れ鮮明化

 1)ウクライナ、EU加盟申請(ロイター)
 2)ジョージア、EU加盟申請(時事通信)
 3)モルドバ、EU加盟申請(AFP)
 4)トルコ、EU加盟申請、ウクライナと同様の扱いを要望、NATOにはすでに加盟(AFP)
 5)フィンランド、「もう中立は難しい」とNATO加盟検討、EUには加盟済(読売新聞)
 6)スウェーデン、同上(読売新聞)

●16.ロシアでの事業停止

 1)オラクル  事業停止(ZDNet)
 2)SAP     事業停止(ZDNet)
 3)スズキ   輸出一時停止(TBS NEWS)
 4)日産自   ロシア工場稼働停止(共同通信)
 5)ダイムラートラック ロシアでの全事業停止(時事通信)
 6)フォルクスワーゲン ロシアでの生産、ロシア向け輸出を停止(ブルームバーグ)
 7)マイクロソフト    ロシアへの製品・サービスの新規販売停止(フィスコ)
 8)パナソニック     ロシアへの輸出停止(NHK)
 9)サムスン電子     ロシアに全製品輸出停止(ブルームバーグ)
 10)ビザ         ロシア事業停止(時事通信)
 11)マスタード      ロシア事業停止(時事通信)

●17.ロシア軍は、ウクライナ原発に攻撃(フィスコ)

 1)米、ロシアのウクライナ原発攻撃は非常に無謀、だと非難。

 2)欧米の株価は3/4、ロシアの原発掌握をきっかけに軒並み全面安(NHK)

●18.ロシアが報道規制と遮断(ロイター)

 1)フェイスブック、遮断
 2)ツイッター、遮断
 3)ロシア「虚偽報道禁止」法案可決 : 最大15年の禁固刑(テレビ朝日)
 4)プーチン大統領「ロシア軍に関する報道規制法案」に署名(フィスコ)

●19.ロシア政府の外国メディア含めた報道規制強化(15年禁錮・罰金)を受け一時活動停止

 1)ロシア国内での取材活動一時停止 : 英国BBC、米国ブルームバーグ、カナダCBC
 2)ロシア国内での放送を一時停止  : 米国CNN、米国ABC、米国CBS (ロイター)

●20.欧米の株価は3/3、ロシア軍の原発掌握をきっかけに軒並み全面安(NHK)

●21.米クリーブランド連銀メイサ―総裁、利上げは必要、ウクライナ情勢を受けても変わらず

 1)ウクライナ情勢が、インフレの上振れリスクを増大する、と指摘。(ロイター)

 2)利上げとバランスシートの縮小を開始しても、年央までにインフレ率が予想通りに低下しなければ、緩和策をより速いペースで解消していく必要がある。

●22.米利上げ、シカゴ連銀エバンス総裁「利上げ回数は想像以上に必要かもしれない」(ロイター)

●23.米2月雇用統計67.8万人増と、予想40万人を上回る、3月利上げ正当化(ロイター・フィスコ)

 1)失業率3.8%、1月4.0%から改善。

 2)エコノミストは、年内に最大7回の利上げを見込んでいる。

●24.米2月ISM非製造業指数は56.5に低下、1年ぶりの低水準(ロイター)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)3/3、上海総合▲3安、3,481(亜州リサーチ)
  ・インフレ高進への警戒感が重石となる流れ。
  ・ロシアのウクライナ侵攻を背景に、原油や穀物などの国際商品相場が高騰した。昨夜の米商品市場では、小麦が約14年ぶりの高値水準を連日更新し、WTI原油先物は一時10年ぶりの高値に切り上げた。3/3の上海先物市場では原油がストップ高、前日に続き上場来高値を更新している。
  ・個人消費の冷え込みや、企業収益の悪化が危惧される状況だ。
  ・また、米当局による金融引き締めへの不安感もくすぶっている。
  ・もっとも、下値を叩くような売りはみられない。中国経済対策の期待感が相場を支えている。
  ・中国では明日3/4から「両会」(全国政治協商会議、全人代)がスタートする。景気テコ入れに向け、各種の方針が打ち出される見通しとなっている。
  ・業種別では、消費関連の下げが目立ち、反面、石油・石炭は続伸した。

 2)3/4、上海総合▲33安、3,447(亜州リサーチより抜粋
  ・世界経済の混乱が警戒される流れとなった。
  ・ウクライナにある欧州最大の原子力発電所が砲撃されたとの報道が流れるなか、西側諸国に対露制裁を強化する見通しだ。
  ・ロシアは資源国なので、サプライチェーンの世界分断も不安視されている。
  ・ただ、下値を叩くような売りはみられない。
  ・中国経済対策への期待感が高まる状況だ。中国では3/4、国政助言機関の全国政治協商会議が開催し、3/5には全国人民代表者会議(全人代)がスタートする。全人代の開幕式で、李克強首相が「政府活動報告」を読み上げ、2022年の政策方針などを明らかにする予定だ。
  ・業種別では、消費関連の下げが目立ち、自動車・酒造・金融・不動産が売られた。反面、医薬がしっかり、半導体が物色された。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)3/3、日経平均+184円高、26,577円(日経新聞より抜粋
  ・ロシアが停戦に向けた協議再開に意向を示し、警戒感が和らいだ。
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策を巡る短期的な不透明感が後退したこともあって買いを誘い、日経平均の上げ幅は+330円を超える場面があった。
  ・FRBのパウエル議長は3/2、米下院の証言で3月に利上げする方針を示すとともに「+0.25%の利上げを支持する提案をしたい」と述べた。金融引き締めを一気に進めるとの見方が後退し、3/2の米株式市場では主要3指数がそろって上昇したことを受け、東京市場でも幅広い銘柄に買いが入った。
  ・このところ下げが目立っていた自動車株のほか、非鉄金属・鉱業・海運の上昇が目立ち、米長期金利の上昇で、利ザヤ改善の思惑から銀行株・保険が買われた。反面、原油上昇で企業業績の悪化や個人消費の落ち込みが意識された。ロシアに対する経済制裁が与える影響が見極められないなか、売買が見送られた。

 2)3/4、日経平均▲591円安、25,985円(日経新聞より抜粋
  ・ウクライナ情勢の緊迫化を背景に投資家がリスク回避姿勢を強めた。下げ幅は一時▲800円を超え、昨年安値25,970円を下回る場面があった。
  ・前日の米国株安を受け朝方から売りが先行したが、ロシア軍がウクライナ南部のザポロジエにある原子力発電所を攻撃いたとの一報で、下げ足を速めた。
  ・その後、被害を受けたのは原発の基幹設備ではないと伝わったものの、ウクライナ情勢の警戒度が一段と引き上がったとの認識が広がった。
  ・今後、停戦交渉が難航するとの見方が投資家心理を弱気に傾けた。
  ・自動車株など輸出関連株を中心に幅広い銘柄に売りが出た。
  ・心理的な節目26,000円を下回った水準では、売り方の買い戻しが入った。ロシア軍の攻撃で原発で得発生していた火災が鎮火したと午後に伝わったことなどが支えとなった。

●2.日本株は、下落基調にあり、自律反発は「一時的」と思われる

 1)外資系先物: 買い進む展開になっていない。
  ・外資系先物残高は、2/8 88,163枚~2/24 120,750枚の間で推移。
  ・外資系先物の推移からは、外資系が買い増す動きがみえない。上記の買い残枚数の範囲内で、超短期の売買を繰り返している。
  ・米国株の上昇を背景に、外資系の買い上がりトレンドに移行しないことには、日本株の上昇につながりにくい展開となっている。

 2)年金の動向: 年金の買いがあるが、下支え程度
  ・日本株はPERが12倍と割安を受けて、年金は1月第4週から、年金の買いが続いている。
  ・年金の性格上、下値では買って下支え効果はあるものの、買い上がることはない。
  ・その年金の買い資金量が減少しており、外資系の大量売りがあると大きく下振れしやすくなっている点に注意したい。

●3.外務省は3/7、ロシア全土への渡航中止勧告、出国検討の呼び掛け(共同通信)

 1)ロシア領空の飛行禁止で、多くの航空機が減便し航空券入手が困難なため。

●4.企業動向

 1)岩谷産業  カセットこんろ用ボンベ5品目を6月から15%値上げ(共同通信)
 2)日本マクド 原材料価格高騰で3/14から2割値上げ(NHK)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・2413 エムスリー    業績好調
 ・3902 メディカルデータ 業績堅調
 ・2802 味の素      業績堅調

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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