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相場展望5月8日号 米国:「金利引下げ」⇒インフレ再急騰・景気悪化を招く 中国: 経済の「日本化:失われた30年」へまっしぐら 日本:決算発表本格化、来週以降は材料乏しく軟化か
■I.米国株式市場
●1.NYダウの推移
1)5/4、NYダウ▲286ドル安、33,127ドル(日経新聞より抜粋)
・米国の地銀ウェスタン・アライアンス・バンコープ(WAL)が身売りを含む複数の選択肢を検討しているとの報道を材料に地銀など金融株の下落が全体の下げを牽引した。
・連邦準備制度理事会(FRB)の追加利上げを受けて地銀の経営安定性に対してさらに警戒感が強まり、下げ幅を拡大した。
・その後、WALが身売り報道を否定したほか、FRBの利上げ停止が近づいたとの見方がハイテク株を支援し、下げ幅を縮小した。
・セクター別では、銀行・耐久消費財・アパレルが下落、一方、不動産が上昇した。
・クルーズ船運営のロイヤル・カビリアンは1~3月期決算で1株損失が予想ほど広がらず、さらに、4~6月期と通年の見通しが予想を上回ったため上昇。半導体のアドバンスト・マイクロ・デバイセズはエヌビディアに対抗する人工知能プロセッサーを巡り、ソフトウェアのマイクロソフトとの協業が報じられ、買われた。マイクロソフトも上昇、競合となるエヌビディアは下落した。
・一方、地銀のパックウェストは身売りを含めた戦略的選択肢を検討との前日の報道を材料にした売りが継続。同業のWALも後に報道を否定も、身売りを含めた戦略的選択肢を検討とのフィナンシャルタイムズの報道があり警戒し売られた。金融のファーストホライゾンはカナダのトロント・ドミニオンバンクとの合併計画について、監督当局の承認取得に要する時間などを巡る不確実性を理由に撤回することで合意したとの報道で、大幅安。また、メディアのパラマウントは1~3月期決算で損失が悪化、減配を発表し大幅下落。製薬のジョンソン・アンド・ジョンソンから分社された消費財を扱うKNVUEはNY証券取引所に上場し上昇した。電気自動車メーカーのリビアンのIPO以降で最大規模。
【前回は】相場展望5月4日号 米国: 銀行の経営破綻は相次ぎ、信用不安が継続 パウエル議長「タカ派的」で、追加利上げ 日本株: テクニカル指標は「過熱」示唆
2) 5/5、NYダウ+546ドル高、33,674ドル(日経新聞より抜粋)
・前日まで急落した米地域銀行株の一角が上昇し、投資家のリスク回避姿勢が和らいだ。スマホのアップルが5/4発表した1~3月期決算が市場予想を上回ったのも投資家心理の支えになった。
・パックウェストが+8割、ウェスタン・アライアンスが+5割上げるなど、足もとで株価が暴落していた地銀株が軒並み急反発した。5/4にロイター通信が「米金融当局が銀行株の市場操作の可能性を注視している」と報じ、米証券取引委員会(SEC)による空売り規制の検討や導入が意識された。ヘッジファンドなどが週末を前に地銀株の売り持高を手仕舞ったとの指摘もあった。
・JPモルガンは5/5、ウェスタン・アライアンスとコメリカ、ザイオンズ・バンコーポレーションの3行の投資判断を「買い」に引上げた。預金残高が安定している中、預金保護を巡る制度変更や株取引に関する規制強化の可能性もあるとして株価の戻りを予想した。
・アップルは+4%余り上昇、1~3月期決算で売上高と1株利益が市場予想を上回った。主力のiPhoneが健闘し、サービス収入も堅調だった。増配や追加の自社株買いなど株主還元も好感された。
・5/5発表の4月米雇用統計は、非農業部門の雇用者数が前月比+25.3万人増と、市場予想+18.0万人を上回った。株式市場では「雇用の伸びが続く一方で、労働需給の逼迫が、緩和されつつある」と好意的な受け止めが目立った。
・NYダウは一時+620ドル上げた。前日まで4日間で▲970ドル下げていたので一部銘柄の値ごろ感も意識され、映画・娯楽のディズニーなど消費関連株が上げた。原油相場の上昇を受け、石油のシェブロンも買われた。電気自動車のテスラやエヌビディアなど半導体株の上げも目立った。
●2.米国株:「金利引下げ」⇒インフレ再急騰・景気悪化を招く
1)NYダウ、昨年高値11/30から下洛・反発を繰返しながら、高値水準を切り下げている。
・NYダウ高値の推移(2022/11/30~2023/5/5)
11/30 34,589ドル
01/03 34,302
02/13 34,245
03/13 31,819
04/28 34,098
05/04 33,127
05/05 33,674
・34,000ドル台が固い岩盤となり、跳ね返されている。今回もそうなる可能性がある。1~3月期決算発表がピークを過ぎ、好材料が乏しくなる期間を迎えるため注意。
・加えて、株価が1株利益の何倍まで買われていかを示すPERは高い水準にある。例えば、ナスダック100指数のPER(株価収益率)は約25倍と高倍率で、極めて「買われ過ぎ」の水準にある。
・そのため、「利益確定されやすい水準」になっているとも言える。何かのきっかけで、何時、反落してもおかしくない。
2)銀行破綻による「信用不安」で、FRBが7月・早いと6月にも「金利引上げ停止・引下げ」があるとの見方が急浮上している。
・米国地域4銀行の経営破綻が相次ぎ、金融信用不安が消えない中、FRBは銀行の監督責任を問われている。そのため、6月の再利上げ問題に苦慮していると思われる。
・FRBは「インフレ抑制」を経済減速対策より優先させて「5月利上げ」を実施した。
・ところが、パウエル議長は、銀行破綻について「FRBにも責任はある」と認めた。FRBはその責任問題に起因して、金融信用不安の解消のため、「7月、早ければ6月にも利上げ停止、もしくは利下げ」観測が急浮上している。気が早いもので金利スワップ市場では、織込み始めている。
・FRBの物価目標は+2.0%であるのに対して、食品とエネルギーを除くコアCPI(消費者物価指数)は5月予想で+5.5%、4月でも+5.6%である。パウエルFRB議長は、5/3の米連邦公開市場委員会(FOMC)の決定後の記者会見 で「金融不安もあるが、インフレ抑制優先で金利+0.25%の引上げ」をしたと述べた。その発言の裏には、「脆弱な金融機関などの破綻はあり得る」という前提になっているハズである。
・パウエルFRB議長の「銀行破綻の責任を認める」との「朝令暮改」に近い発言こそが、「金融の混乱を招きかねない」リスクがある。ブレない金融政策を実行していただきたい。
3)もし、「利下げ」となった場合は、需要拡大の喚起となり、さらにFRBは「インフレ急拡大⇒金利大幅引上げ」に追い込まれ⇒景気後退の谷が深くなる可能性が過去の事例から見ても高い。
・もちろん、当面は株価と債券価格は上昇する。当然、悪性インフレにつながる。そうなった場合の「インフレ退治」はより困難になるだろう。
・今の時点では、「利上げと市場から資金引き揚げ」を優先させるべきであろう。FRBは副作用としての「金融信用不安」にいちいち反応すべきではない。
4)一番の策は「現状政策の継続=高金利・市場から資金回収」を続けること。したがって、一定の期間は高インフレの下で、コアCPIはわずかな鈍化、高金利水準の長期化を予想する。
・食品とエネルギーを除いたコアCPIは前年同月比で4月予想+5.5%と、3月+5.6%と小幅改善にとどまり、依然としてインフレ圧力が根強い。
・つまり、FRBの金融引締め策は、まだ1年余りしか経過していない。金融の大規模緩和でFRBが市場に流入させた資金5兆ドルは、まだ1兆ドル強しか回収できていない。コアインフレ率は微減したとは言え、5月予想で+5.5%と極めて高い水準にある。この中途半端な時点での「金融政策の逆戻り」は「百害あり」となろう。
・「利上げ停止」「利下げ開始」時期の模索は、「時期尚早」と言える。
5)今週の注目イベント
・5/10 米4月消費者物価指数(CPI)
・5/11 米4月生産者物価指数(PPI)
●3.FRB高官発言(ブルームバーグより抜粋)
1)シカゴ連銀グルーズビー総裁、6月FOMC会合での利下げは時期尚早。
2)セントルイス連銀ブラード総裁、利上げ必要性を示唆、「インフレ低下」を確認したい。
●4.米4月雇用統計、就業者数が前月比+25.3万人増、失業率は3.4%に改善(時事通信より抜粋)
1)景気動向を敏感に反映する非農業部門の就業者数は前月から+25.3万人増加、伸びは前月の+16.5万人から拡大し、市場予想+18.0万人を上回った。
2)失業率は3.4%と、0.1%改善した。
3)平均時給は前年同月比+4.4%増で、小幅ながら前月の伸びを上回った。
4)FRBは「労働市場は引続き、極めて逼迫している」とパウエル議長は分析している。人手不足による賃金上昇が、接客などサービス分野の価格を押し上げていることに懸念を示す。
●5.米労働生産性、2023年1~3月期は前期比▲2.7%低下、労働コスト急上昇(ロイターより抜粋)
1)市場予想▲1.8%を上回る。前年同期比は▲0.9%下がり、5四半期連続の低下。
2)米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利をしばらく高水準で維持する可能性がある。
●6.「銀行に悪影響」、米政府幹部も懸念、急速利上げで高まる破綻リスク(朝日新聞)
1)利上げが銀行に多額の債券含み損を発生させ、破綻リスクを高めている現実がある。
●7.アックマン氏、米地銀システムは危機的状況、預金保険制度の更新なく(ブルームバーグより抜粋)
1)ヘッジファンド運営会社パーシングの創業者のアックマン氏は、「米地銀システムは危機的状況にあり、規制当局が預金保険制度の更新・拡大を怠ったことが、止めを刺した」との認識を示した。
●8.米地銀株の下げ拡大、パックウェスト株は時間外で一時▲60%安 (ブルームバーグ)
1)中小金融機関を巡る混乱は収束には程遠いとの懸念が強まった。
・ウェスタン・アライアンスは一時▲38%下げた。
・コメリカは▲10%強の下落。
・ザイオンズ・バンコープも▲10%強の下落。
●9.米銀4行の破綻、投資家には▲540億ドル超の損失、証券ほぼ無価値(ブルームバーグ)
1)今年破綻した米銀4行の投資家は保有していた証券がほぼ無価値となり、▲540億ドル(約7兆3,000億円)を超える損失を被った。
2)ウェルズ・ファーゴ銀行のアナリストのメイヨー氏は、「SP500を構成する銀行からの銀行が近く破綻することはこれ以上ないと見ている」と述べた上で、「商業用不動産や資産負債管理や資金調達、リセッション(景気後退)の可能性に対する懸念がなくなるわけではない。小規模銀行の多くは一歩間違えれば市場を賑わす可能性がある」と言った。
●10.大手ヘッジファンドの巨額損失は72時間以内に報告義務=SEC規制(ブルームバーグ)
1)米証券取引委員会(SEC)が新たに導入予定の規制では、運用資産15億ドル(約2,030億円)以上の大手ヘッジファンドは投資で巨額損失が発生した際などに、72時間以内に監督当局に報告する義務が発生する。
●11.米貿易赤字、3月は▲9.1%減の▲642億ドル、輸出増が寄与(ロイター)
●12.欧州中央銀行(CEB)、利上げ+0.25%にペース減速、「利上げ停止しない」とECB総裁(ブルームバーグ)
■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
1)5/4、上海総合+27高、3,350(亜州リサーチより抜粋)
・メーデー連休明け5/4の中国本土マーケットは、中国経済対策への期待感が相場を支える流れとなった。景況感悪化を背景に、当局は景気対策を強めるとの期待が広がった。
・4/30に公表された4月中国製造業PMIが節目の50を割込んだことに続き、取引時間中に公表された民間集計の財新中国製造業PMIも50を割込んだ。
・指数は安くスタートしたものの、ほどなくプラスに転じ、徐々に上昇の勢いを増した。
・業種別では、金融が相場を牽引し、発電もしっかり、医薬品・エネルギーが高い。半面、ITハイテクは冴えず、消費関連・素材・空運・軍事関連が売られた。
2) 5/5、上海総合▲15安、3,334(亜州リサーチより抜粋)
・新規材料が乏しい中で、売り圧力が意識された。
・上海総合指数は前日まで3日間続伸し、足もとでは約2週間ぶりの高値水準を回復。また、今夜発表の米雇用統計や、来週発表される中国貿易統計などの結果も気懸かり。もっとも、大きく売り込む動きは見られない。
・中国景況感の悪化を受け、当局は景気対策を強めるとの見方も続いている。
・指数は朝方、プラス圏で推移する場面があった。
・業種別では、ハイテクの下げが目立ち、医薬品も安く、エネルギー・素材が売られた。半面、銀行・証券が高く、不動産・酒造・食品の一角が買われた。
●2.中国株:
・「日本化:失われた30年にまっしぐら」、イデオロギー思想で経済は腰折れか
・中国経済回復が弱いのは、中国の経済成長がピークを過ぎ、低落傾向を反映
1)中国の経済成長の低下は、一時的なものではなく、中国の構造的な事由による。
・生産(労働)人口の減少、人口が減少期に入った。高齢化の急伸。(結婚には住居取得など条件厳しい、教育費が高いなど少子化進展)(男性が多く、女性が少ないという事情もあり未婚多い)
・失業率、特に若者層の失業率の高さ。
・賃金ベースが高くなり、生産コストが高くなった。(北京市の中途採用者の平均給与は月額26万円)
・国内総生産の約25%を占める不動産分野で、融資規制強化が行なわれ、停滞。(中国経済成長にとって大きな負担)(習主席の指示)
・住宅は、住むものであり、投資対象ではない。(不動産需要の減少)(習主席の発想)
・不動産分野の低迷で、地方政府の財源が縮小に公共投資が減少。(地方政府の収入の約4割が不動産関連収入とも言われている)
・新型コロナ根絶対策費用が地方政府の大きな負担となり、公共投資が減少。
・成長分野であるITハイテク部門に対する引締め強化(給料が高く、採用人数も多かったITハイテク・企業は業績悪化で人員整理、民間教育企業への締め付けで廃業へ ⇒若手労働者の採用停止で雇用悪化)
・「共同富裕」思想でITハイテク企業等に多額の拠出金負荷。(習主席からの指示)
・米国による中国締め付け策の進展。(トランプ:関税引上げ、バイデン:半導体関連等ハイテク分野の締め付け強化)
・中国からの輸出低下(中国の国内総生産(GDP)の約6割が輸出に依存)(中国での生産拠点を米国等に移転促進など)(米国・欧州などの景気鈍化の影響で、輸出額減少)
・生産性の低い国有企業の保護、民間企業の締め付け政策(法人税の約6割が民間企業からと言われてきたが、民業圧迫で税金減少)(金融機関の融資は国有企業を優先)
2)中国の成長回復を見込んで急伸した原油・鉱工業価格指数が、急落している。
・その要因は、中国の輸出低下による経済成長の減速にある。
・もちろん、米国・欧州などの景気減速の影響もある。
・中国に立地していた輸出生産拠点の他国への移転増加の影響もある。(サプライチェーン・リスクの認識、コスト・メリットの低下など)
●3.中国4月財新製造業PMIは49.5、市場予想50.0を下回った(フィスコ)
●4.中国で2つの異なる景気回復ペース、見通し巡り懸念強まる(ブルームバーグより抜粋)
1)最新のデータは、中国景気回復がますます「まだら模様」となっていることを示唆し、1~3月の中国経済が予想を上回る伸びを示した後、成長の見通しにかげりが出ている。
2)中国の4月製造業活動が数ヶ月ぶりの減少となる一方、連休中の旅行は急増し、個人消費を後押ししている。
・4月財新中国製造業購買担当者指数(PMI)は49.5と、前月の50から低下し、1月以来、初めて製造業活動の縮小を示唆した。
・これとは対照的に、国内旅行は2019年のコロナ前の水準を+19%上回った。ただ、観光関連の支出回復はさほど力強くなく、消費者が倹約志向を強めたことが伺われる。
●5.エスティローダー株急落、中国の旅行回復鈍く、業績見通しをまた引下げ(ブルームバーグ)
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
1) 5/4、祝日「みどりの日」で休場
2) 5/5、祝日「子供の日」で休場
●2.日本株:決算発表本格化、来週以降は材料乏しく株式相場は軟化か
1)日経平均は、過去3年間の高値水準にある⇒反落の可能性に注意
・2021/09/14 30,670円
2022/08/17 29,222
2023/05/02 29,157
2)PER(株価収益率)とEPS(1株当たり利益)の推移
・ 1/3 5/1 5/2
PER 14.95倍 18.28 17.97 : 年初比で約2割株価が人気で上昇。
PBR 1,720円 1,593 1,622 : 年初比、▲6~7%程度、収益が低下。
3)3月期決算発表は今週がピーク
・植田新総裁による金融決定会合と記者会見は終了し、材料出尽くし。
・2023年度の見通しは、企業経営者の「慎重さ」で、1株利益予想はやや減少方向にある。
・海外の年金基金など外人の需要は4月で終息し、今後、自社株買いによる需給の好転に期待したいところである。
■IV.注目銘柄(投資はご自身の責任でお願いします)
・4461 第一工業製薬 業績回復期待。
・5929 三和 業績好調。
・6098 リクルート 業績堅調。
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