相場展望12月5日号 FRB「タカ派発言」微調整、ウォール街「ハト派」解釈 日本株: 11/24高値、外国人売りで▲3.2%下落、調整モードへ

2022年12月5日 10:26

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)12/01、NYダウ▲194ドル安、34,395ドル(日経新聞より抜粋
  ・前日に+737ドル高と大幅上昇し、12/2発表の米11月雇用統計を控えて利益確定や持ち高調整の売り優勢になった。
  ・前日の決算発表を受けてセールスフォースが▲8%安と、NYダウの重荷になった。IT企業の冴えない業績見通しの発表が増えており、先行き懸念を強めた。
  ・前日の講演でパウエルFRB議長が12月にも利上げ幅を縮小すると示唆し、株買いが勢いづいたが、12/1の市場では「まだ利上げ自体は続く見通しで、景気や企業業績の悪化懸念がくすぶる中、前日の株高は行き過ぎ」との声が聞かれた。
  ・米11月ISM製造業景況指数の悪化も相場の重荷になった。49.0に低下し、好不況の節目である50を下回った。景気敏感株の売りを誘い、航空機のボーイングや銀行のJPモルガンチェース、機械のハネウェルが安い。
  ・反面、米10月個人消費支出(PCE)物価指数がインフレ鈍化を示したのは投資家心理を支え、ナイキ・ホームデポ・J&Jといったディフェンシブ株が買われた。

【前回は】相場展望12月1日号 FRB議長「利上げ減速示唆」⇒(1)米国株急反発 (2)金利低下 (3)ドル安・円高 ⇒ 「利下げではない」注意

 2)12/02、NYダウ+34ドル高、34,429ドル(フィスコより抜粋
  ・米11月雇用統計で雇用者数や賃金が想定以上の伸びとなり、長期金利の上昇を警戒した売りが先行。
  ・一方、インフレや金利のピーク感も根強く、押し目からの買いで下げ止まった。
  ・更に、世帯調査の結果、雇用が減少したことが明らかになり、金利が伸び悩むと買戻しが強まり、終盤に掛けてNYダウは上昇に転じた。
  ・セクター別では、素材・資本財が上昇、銀行が下落した。

●2.米国株:FRB「タカ派発言」を微調整、ウォール街は「ハト派」解釈で高値圏に。調整モードか。

 1)ハト派の解釈の流れ:一部の景気鈍化データで、「来年半ばに金利低下」と解釈
  ・株式市場では、「来年初期のせいぜい+0.25%の利上げを2回程度し、利上げは終了」説まで飛び出している。
  ・加えて、景気減速で金利引上げ幅のペース減速を、「来年半ばには金利低下」へと希望的解釈し、強引に流れを変えようとしていると、みえる。
  ・その希望的解釈が、米国株式上昇の牽引力にしている。

 2)だが、そうだろうか?
  ・11月雇用統計で時給の伸びが加速した。
  ⇒ これはFRB金利引上げ継続を支援する流れとなるデータである。
  ・インフレ鈍化の兆候は、10月PCE(個人消費支出)コア指数は前月比+0.2%、前年同月比+5.0%上昇に鈍化している。
  ・インフレ上昇が続く兆候が、11月平均時給の上昇に表れている。そのため、「2023年半ばに金利低下」を示す経済指標は見当たらない。

 3)ウォール街の「金利低下は希望に過ぎない」ため、慎重な姿勢が必要と思われる。
  ・FRBの目標インフレ率2%への説得ある説明が、ウォール街からなされていない。直近のインフレ率は7.7%である。まだまだ、インフレ退治できる見通しがたったとは思えない。
  ・一部経済指標データだけで、ウォール街にとって都合良い解釈に踊らされるのはリスクではないだろうか。

 4)来週の注目イベント
 ・12/5  米11月ISM非製造業景況指数 
 ・12/9  米11月PPI生産者物価指数  

●3.OPECプラス、現行の原油生産枠を維持することで合意(ブルームバーグ)

●4.米11月雇用統計の就業者+26.3万人増、失業率は3.7%(TBS)

 1)雇用統計は、景気動向を敏感に反映する「非農業部門の就業者数」が前月比+26.3万人増、市場予想+20.0万人を上回った。

 2)失業率は前月と変わらず3.7%で、米労働市場の底堅さが改めて裏付けられた。

 3)平均時給は前年同月比+5.2%増と、10月+4.9%から加速した。(読売新聞)
  人手不足で賃金上昇が続いており、インフレ圧力は強い。

●5.米11月ISM製造業景況指数49.0、10月50.2から予想以上に低下(フィスコ)

 1)パンデミックによる経済封鎖直後の2020/5以降で初めての50割れ。このため米国経済が2023年に景気後退入りするとの懸念を一層強めた。

●6.米10月食品とエネルギー除くPCEコア指数は前年比+5.2%上昇(ブルームバーグ)

 1)前月+5.2%から鈍化。景気後退なくインフレ抑制できるとの期待を生じさせる内容。

 2)総合PCEは前年比+6.0%上昇。

●7.米失業保険の継続受給者、2月以来の高水準、労働市場の減速示唆(ブルームバーグ)

 1)11/19終了週で、5.7万人増の160万人

●8.米金融大手のボーナス減少へ、利上げで大型案件の需要減少が響く(ブルームバーグ)

 1)BofA   ボーナス原資、最大30%削減
  JPモルガン・チェース 削減
  ゴールドマン・サックス 減少率▲2桁

●9.米国株は2023年上期に大幅下落、今年の安値試す可能性=JPモルガン(ブルームバーグより抜粋

 1)米国経済が緩やかなリセッション(景気後退)に陥る一方、米連邦公開市場委員会(FRB)は来年半ばまで利上げを続けるとみている。SP500は現水準から▲12%下落、年末には現在の水準より3%高い4,200を予想。企業利益は2023年で米国▲9%減少、日本は▲4%減少を見込んだ。

 2)ゴールドマン・サックスとドイツ銀行も、来年の米国株の激しい動きを予想した。

●10.G7やEUなど、ロシア産原油価格に上限60ドル設定で合意(BBCより抜粋

 1)上限設定は今年9月にG7が提案、ロシア政府が石油輸出で利益を得るのを制限しロシアの侵略戦争を阻止、同時に価格上昇を避けるのが目的だ。

 2)ウクライナを支援する西側諸国は、価格上限を守らない国について、ロシアの石油を運ぶタンカーへの保険を拒否する。これにより、ロシアは上限価格以上で石油を売ることが難しくなる。

 3)ロシアには痛手だが、現在はインド・中国への販売にシフトし、部分的に軽減される。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)12/01、上海総合+14高、3,165(亜州リサーチより抜粋
  ・リオープン(経済再開)の期待が相場を押し上げる流れとなった。
  ・中国の新型コロナ防疫措置に関して、政府のコロナ政策を担当する孫春蘭・副首相が11/30、関連部局や専門家らと会合を開き、流行しているオミクロン型は毒性も低くワクチン接種も進んでいるとし、「中国のコロナ政策は新段階に入った」と述べた。発表の中で「動態清零」(ゼロコロナ)という言葉が使用されなかっただけに、防疫措置の修正(緩和)が更に進むとの見方が浮上している。
  ・また、米利上げペースの鈍化観測が高まる中、為替市場で人民元高が進んでいる点も好感された。
  ・業種別では、消費関連の上げが目立ち、ITハイテクも高い。不動産は安い。

 2)12/02、上海総合▲9安、3,156(亜州リサーチより抜粋
  ・売り圧力が意識される流れとなった。
  ・上海総合指数はこのところ急ピッチに上昇し、足もとでは約2カ月ぶりの高水準に切り上げていた。もっとも、下を叩くような売りはみられない。
  ・中国のリオープン(経済再開)に対する期待が相場を下支えしている。
  ・指数はプラス圏で推移する場面もみられた。
  ・業種別では、不動産の下げが目立ち、自動車も安い。農業関連・半導体が上昇した。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)12/01、日経平均+257円高、28,226円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米株高を背景に東京市場でも買いが優勢となり、日経平均への寄与度が高い値嵩株に買いが入り、指数を押し上げ一時+400円を超えた。
  ・パウエルFRB議長が前日の講演で「利上げペースの減速時期は12月会合になるかもしれない」と述べた。米利上げペースの鈍化観測を背景に米長期金利が低下したことで、グロース(成長)株が買われた。
  ・朝方の買い一巡後は伸び悩んだ。円高・ドル安が136円台まで進み、輸出関連株を中心に相場の重荷となった。節目の28,500円が近づく場面では利益確定や持ち高の調整売りも出やすかった。
  ・午後に入ると、週内の米経済指標の発表を前に様子見姿勢が強まり、日経平均は小動きにとどまった。
  ・値嵩のファストリ・東エレクが買われ、エーザイが大幅高。自動車関連が冴えない。

 2)12/02、日経平均▲448円安、27,777円(日経新聞より抜粋
  ・景気減速懸念から前日の米株式市場でNYダウが下落し、東京市場でも運用リスクを回避する目的の売りが優勢だった。
  ・為替市場で円相場が135円台まで円高・ドル安が進み、採算悪化を懸念した売りも輸出関連株の重荷となった。
  ・米サプライマネジメント協会(ISM)が12/1公表した11月製造業景況感指数は49.0と、好不況の境目である50を下回った。米景気先行き不透明感から日本株も全面安で始まり、下げ幅は▲500円を超えた。
  ・前引け時点でTOPIXは▲2%を超えたため、「午後に日銀の上場投信(ETF)買いが入るとの思惑が支え」との声もあり、安い水準ながら底堅さもみられた。
  ・米11月雇用統計の発表を控え、積極的な売買は見送られたが、買戻しも入った。
  ・TOPIXは反落し▲1.64%安、全33業種が下落した。市場では「買い持ち専門の欧州投資家がディフェンシブ株の一角に売りを出していた」との指摘があった。
  ・三菱自・マツダ・第一三共・三井不・高島屋が売られ、サイバー・資生堂が上昇。

●2.日本株:11/24高値から、外国人売りで▲2.1%下落(12/2現在)し、調整モードへ

 1)日経平均の動向、11/24高値28,383円 ⇒ 12/2 27,777 ▲606円安 ▲2.1%安。TOPIXは、11/24高値2,018 ⇒ 12/2 1,953 ▲65安 ▲3.2%安。

 2)先物動向では、外国人が12/1に売り転換したが、12/2は▲17,460枚(夜間取引除く)の大幅売越しとなった。

 3)値下がり銘柄数が、値上がり銘柄数を大幅に上回り、ピークアウト感が出てきている点に注意したい。為替も円高・ドル安に転換し、物色の流れに変化が出てきた可能性がある。

●3.企業動向

 1)サッポロ  ワイン・焼酎など71品目、4/1から最大37.5%値上げ(TBS)
 2)三菱UFJ  米地銀MUFGユニオンバンク売却完了(朝日新聞)
        評価損2,000億円は2023/3期業績見通しに織込み済み

■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします)

 ・4452 花王   業績回復期待。
 ・6701 NEC   業績堅調。
 ・6702 富士通  業績堅調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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