相場展望3月27日号 米国株: 今や、米国が世界の「地政学リスク」の仲間入り 日本株: (1) 自動車関税25%表明 (2) 38,000円乗せで、売りに注意

2025年3月27日 13:13

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)3/24、NYダウ+597ドル高、42,583ドル
 2)3/25、NYダウ+4ドル高、42,587ドル
 3)3/26、NYダウ▲132ドル安、42,454ドル

【前回は】相場展望3月24日号 米国株: 世界をリードしてきた「民主主義」「人権」が漂流する米国 日本株: トランプ関税が4/2に「相互関税」を導入するが、内容が焦点

●2.米国株:米国が世界の「地政学リスク」の仲間入り

 1)関税巡る楽観的な見方で株式市場が高値
  ・トランプ相互関税への警戒感がやや後退関税巡る楽観的な見方で株価上昇。
  ・ドイツなど欧州株は米国関税措置を巡る楽観が後退し、株安。
  ・相互関税について「一部の国・地域は除外される見込み」と報じられた。

 2)トランプ方針の特徴は「二転三転」するため、楽観論には警戒したい
  ・自動車への25%関税が全世界に発布されれば、株式相場は総悲観に傾く可能性がある。
  ・現在の米国株式市場は、トランプ関税の二転三転に付き合って、株価も反応している。楽観視され株価が上昇しても、次の局面では悲観視され下落している。このため、楽観論が出てきた場合は警戒したい。

 3)「米国も今後は地政学リスク」の仲間入り
  ・トランプ米国大統領による政策が
    ・米国は長らく「民主主義」「人権」の旗手として、世界の警察として機能し続けてきた。その考えに同調する国々は「自由主義諸国連合」となって動いてきた。

  ・それが変調し始めたのは、オバマ米国大統領の「米国は世界の警察ではない」発言からだ。
    ・中国は米国のスキをついて、世界秩序の再構築を目指した。中国による中華思想の浸透を、政治・軍事・経済など全般にわたって推し進めた。中国はオバマ大統領に、太平洋を2分割して、西半分は中国にと要求したが、オバマ氏は吟味せずに無視した。悪いことに何らの対策もしなかった。
    ・オバマ氏による米国の世界からの退潮政策は目に見えて進行した。1つに米国の造船業の衰退が上げられる。米国の大規模造船所は全国で10カ所程度まで大幅に縮小した。結果、米国では艦船の修理ができず、韓国・日本の造船所に協力依頼するまでに低下というように、衰退してしまった。2030年で、軍艦の数は、米国299隻に対し中国は435隻になると予想されている。軍艦の配置は、米国が世界各地なのに対し、中国はシナ海という狭い海域に集中させている。空母も中国は4隻目体制に入っており、原子力空母化とカタパルトを装備し、機能面でも向上を図っている。その中国艦船は、南シナ海から西太平洋にと行動海域を拡大している。

  ・そして、トランプ米国大統領がオバマ氏の「孤独化政策」を昇華させた。
    ・オバマ氏は、米国の現状の力・中国の台頭を見誤った。とりわけ、中国には脇の甘さをみせ、中国の世界的軍事進出を見過ごした。
    ・トランプ氏は、「民主主義」「人権」で世界をリードするという方針を放棄した。代わりに、「米国第一主義」を掲げた。いわゆる、世界の超大国から「北アメリカ大陸の大国」を目指す方針とした。
    ・トランプ氏は造船業を再生すると発言した。造船業は、1隻の損益を30年間のスパンで評価する産業である。30年間の黒字を支えるには、長期志向の政府の支援が必要である。加えて、厚板鋼板を造船業に供給できる鉄鋼業の存在が必須となる。米国の鉄鋼会社は規模的にみて世界鉄鋼企業と比べて規模が小さく、技術開発力も設備投資力も劣っている。また、米国での鉄鋼消費量の23%も輸入に頼っている。
      世界の鉄鋼会社のランクと粗鋼生産量(2019年)
        日本製鉄   3位  51.68百万トン
        USスチール 27位  12.89百万トン (米国では2位)
        米国1位のニューコアでさえ23.02百万トンに過ぎない。
     このような米国鉄鋼会社を強化しなければ、造船業の再生は困難である。トランプ氏の(1)米国造船業の再生(2)日本製鉄によるUSスチール買収阻止が、米国造船業の回復、鉄鋼企業の再生につながるだろうか?

  ・トランプ大統領は、ロシアのプーチン・北朝鮮の金正恩、とりわけ中国の習近平氏に親近感とあこがれを持っている。ウクライナ停戦に向けてウクライナには恐喝まがいの譲歩を迫り、ロシアには制裁解除など融和的である。北朝鮮向けには、金正恩とは「親しい」との発言だけであり、制裁方針はない。対して、同盟国に対しては「関税」という恫喝を振りかざしている。

  ・今や、米国が世界の「地政学リスク」となってきた感がある。

●3.トランプ大統領の発言(ロイター)

 1)25%の自動車関税を表明、日本含む全輸入車が対象。(3/26)
  ・米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に準拠した自動車部品は当面免除される、とホワイトハウス副報道官は説明した。
 2)アルミ・医薬品の関税「極めて近く発表」。
 3)グリーンランドは米国の将来に関わる可能性、安全保障上重要。
 4)FRBの利下げを望む。
 5)ベネズエラの石油・ガスの購入国に25%の関税を4/2発効。
 6)「多くの国」に関税免除の可能性。
 7)ウクライナ鉱物協定は近く署名。ウクライナ発電所の米国所有を巡り協議。

●4.米国の三権分立を揺るがすトランプ氏の権力行使、司法が唯一抵抗   (ロイター)

●5.カナダ小売売上高、1月は前月比▲0.6%減、米国関税で2月もマイナス予想(ロイター)

 1)企業と消費者がトランプ米国政権による一連の関税導入に対処するなか、カナダ銀行(中央銀行)は消費支出が減少し、国内総生産(GDP)が打撃を受けるとみている。

 2)小売売上高はカナダ消費支出全体の約4割を占める。2月は▲0.5%減と予想されている。

●6.カナダ、テスラ車を補助金対象から除外、トランプ関税を理由に(ロイター)

 1)トランプ大統領は、カナダとメキシコからの大半の輸入品に25%関税を4月初旬から課す方針。

●7.米国SECで数百人が退職要請を受け入れ、主要部門の業務にも支障も(ロイター)

 1)トランプ米国政権が連邦政府職員の大幅な削減を進める中で、米国資本市場の監督を担う米国証券取引委員会(SEC)は数百人の職員が退職要請を受け入れていることが分かった。
 2)退職者には上級職員や法執行部門の法律専門家が含まれ、市場監視や投資家保護などSECの機能が大幅に損なわれる恐れがある。ホワイトハウスが自主退職を促し始めてから600人余りが退職に合意した。自主退職者数はSEC全体の12%余るに相当する。

●8.トランプ米国政権、移民53万人の「仮放免」を4/23に無効化(ロイター)

 1)米国に滞在する53万人のキューバ人、ハイチ人、ニカラグア人、ベネズエラ人の暫定的な法的な地位を4/24に無効化する。移民取り締まり強化策の一環。

 2)バイデン前政権下で米国の身元引受人がいれば空路で米国に入国することができた移民に対する2年間の「仮放免」期間を短縮する。これにより、多くの人が強制送還の対象となる可能性がある。

●8.トランプ政権の国内造船業再生案、有権者が圧倒的に支持(ロイター)

●9.NYダウ輸送株が最高値から▲17%下落、米国経済の先行き懸念増を反映(ロイター)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)3/24、上海総合+5高、3,370
 2)3/25、上海総合▲0.05安、3,369
 3)3/26、上海総合▲1安、3,368

●2.デフレ下で価格競争激化、中国の飲食店に大倒産時代(ロイター)

 1)2024年は多くの飲食店が廃業し、中国の飲食業界の売上高は前年比+5.3%増と、伸び率が前年の+20.4%から大幅に鈍化した。生き残った飲食店は、事業継続のために利益率を大幅に切り詰めなければならなかった。

●3.BYD、海外販売を今年は倍増へ、関税には現地組み立てで対応(ロイター)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)3/24、日経平均▲68円安、37,608円
 2)3/25、日経平均+172円高、37,780円
 3)3/26、日経平均+246円高、38,027円

●2.日本株:(1)自動車関税25%表明(2)38,000円乗せで、売りに注意

 1)トランプ大統領、ついに自動車関税25%を「先送り」⇒「実施発表」へ転換
  ・日本の米国向け輸出の3割を自動車が占めている。自動車産業はすそ野が広くいため、日本経済への影響は大きい。調査によると、関税で日本企業の35%が減益予想をしているという。
     
 2)バフェット氏の商社株買い増しが伝えられた商社株の動向
  ・報道に敏感に反応 : 伊藤忠・三菱商事。
   反応が鈍い    : 三井物産・豊田通商・住友商事
  ・チャートでみると、商社株は高値から大きく調整していた。そして当面の底から、這い上がろうとしていた。
  ・そのタイミングで、バフェット氏の商社株買い増し報道が出た。その報道を受けて、商社株が上昇したのである。
  ・商社株は輸出産業の一角にあり、トランプ関税の影響を受けると思われる。
  ・商社株の値動きをみると、株価の全面的見直しが入った買いではない。そのため、提灯買いは勧められない。

 3)日経平均はボックス圏の上限38,000円に到達、注意したいポジション
  ・最近の日経平均は、「朝高⇒終値で値を消す」状況にあり、強気相場にはなっていない。
  ・買い上がる勢力
    ・海外投資家による現物株買いがみられる。
    ・海外短期筋投機家は株価先物を断続的に買って、株高を主導している。
    ・3月期末決算企業の配当権利取りの動きもある。
    ・証券会社(自己部門)の売り解消の「買い越し」が目立ってきた。
    ・事業会社の自己株式購入に勢いがある。

  ・懸念材料
    ・トランプ自動車関税25%決定がもたらす、負の影響。
    ・石破政権のふらつきによる、予算審議の遅れ・実行力への不安。
    ・日経平均のボックス圏上値38,000円到達に対する利益確定売り。

  ・日本株の4月は強気スタンスだが、不安懸念も強く、全面的な買いにつながるか? 動向に注意したい。
    ・特に、4/2の株価の動きには4月相場を占う意味でも注目。

●3.日銀総裁、「食品価格上昇でインフレ広がるなら利上げで対応も」(NHK)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・5706 三井金属     業績好調
 ・7309 シマノ      業績回復期待
 ・7806 MTG       業績好調

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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