相場展望3月13日号 日本株: 米国株に対し強い相場も、難問山積・過熱感 米国株: SVB銀行問題で、金融危機へと波及?注目

2023年3月13日 09:21

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)3/09、NYダウ▲543ドル安、32,254ドル(日経新聞より抜粋
  ・朝方は買いが先行し、NYダウの上げ幅は+200ドル高に迫る場面があった。朝方に発表された週間の新規失業保険申請件数は21.1万件と、市場予想19.5万件を上回った。また、米企業などの1~2月の人員削減が18万人を超え、同期間としては2009年以来の高水準となった。経済指標の悪化で金利の低下が進み、株買いにつながった。
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ再加速への懸念が高まる中、3/10には2月の米雇用統計の発表を控える。予想を上回る内容への警戒から、株売りが出て、昨年11月上旬以来およそ4カ月ぶりの安値となった。一部地銀株が急落し、金融株を中心に相場の重荷となった面がある。
  ・ダウジョーンズ通信が集計した2月も雇用統計の市場予想は、非農業部門の雇用者数の増加幅が前月比+22.5万人、失業率が3.4%となっている。市場予想並の結果でも、次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBが+0.50%の利上げを決める方向に傾くとの見方もあり、株式の持高を減らす動きが出やすかった。
  ・NYダウの構成銘柄ではないが、3/8に大規模な資金調達を発表した金融のSVBファイナンシャルが急落した。傘下銀行の清算を決めたシルバーゲート・キャピタルも大幅安となり、大手銀や地銀を中心に金融株が全面安となり、投資家心理を冷やした。
  ・金融のJPモルガンチェースやドラッグストアのウォルグリーンズ・ブーツ・アライアンス、建機のキャタピラーの下げが大きかった。電気自動車のテスラ、半導体のエヌビディアが下げた。NYダウ構成銘柄では、半導体のインテルだけが上昇した。

【前回は】相場展望3月9日号 米利上げ再加速、リセッション懸念強まる インフレ鈍化は一時的、賃金インフレ抑制は相当困難

  2)3/10、NYダウ▲345ドル安、31,909ドル(NHKより抜粋)(日経新聞より抜粋
  ・米株式市場は、西部カリフォルニア州に拠点を置き、スタートアップ企業向けの融資で知られる「シリコンバレーバンク」が経営破綻したことを受けて、金融業界に及ぶ警戒感から売り注文が膨らみ、一時NYダウは▲400ドルを超える値下がりとなった。リスク回避姿勢を強めた投資家が、資金を株式から相対的に安全とされる米国債に移している面もある。
  ・NYダウの値下がりは4日連続で、この間の下落幅は▲1,500ドルを超えた。IT関連銘柄の多いナスダック総合指数も▲1.7%の大幅下落となった。
  ・朝方に発表された2月米雇用統計が、非農業部門の雇用者数が前月比+31.1万人と、市場予想+22.5万人を上回った。一方、失業率は3.6%と市場予想3.4%より悪化。平均時給の伸び率は前月比+0.2%となり、市場予想+0.4%に届かなかった。米連邦準備制度理事会(FRB)が3/21~22の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ幅を再び0.5%に拡大するほどではないと受け止められ、NYダウは上昇する場面もあった。
  ・市場関係者は「この日、発表された雇用統計を受けて米国の利上げのペースが速まることへの懸念がいくぶん後退した一方、米連邦預金保険公社(FDIC)は3/10、SVBファイナンシャル傘下のシリコンバレーバンクが経営破綻し事業を停止したと発表した。『シリコンバレーバンク』の経営破綻の影響が不透明だとの見方から、ひとまず売り注文を出す投資家が多かった」との指摘があった。
  ・建機のキャタピラー、化学のダウ、映画娯楽のディズニーといった景気敏感株と消費関連株に売りが広がっている。一方、製薬のメルクやバイオ製薬のアムジェンなどのディフェンシブ株の一角が上昇。

●2.米国株:米2008年金融危機以来の銀行破綻の波及を警戒

 1)米2年債券利回りは3/8に5.6%と、FRBの政策金利レンジの上限4.75%を上回った。FRBの金利低下時期は、上限レンジを下回ってから4カ月~15カ月の遅れがある。このため、米金利の低下局面は当然ながら当面は望めない。したがって、3/10は長期金利低下して3.704%になったが、短期金利はFRB政策金利上限レンジを超えているため、株価は上昇しても一時的な現象と受け止めるべきだろう。
   米国債利回り    3/8    3/9   3/10   金利低下幅(3/8⇒10)
    10年債利回り 3.991%  3.903  3.704   ▲0.287%
     2年債利回り 5.070%  4.870  4.593   ▲0.477%
  金利低下した理由は、米国株安を受けて株が売られ⇒比較的安全資産へのの逃避のために債券買いをして、 債券市場に資金が向かったため発生したことによる。したがって、株式相場が落ち着けば一時待避した資金が株式市場に戻ってくる。そうなると、「債券売り⇒株買い」となり再び金利は上昇する構図となる。このように一時的金利低下を受けて株価上昇する局面があるが、「だまし」の上昇となるケースがあるので気をつけたい。むしろ、一時的金利低下で株価上昇したら「売り」場面と受け止めるべきと思われる。その反対場面は「買い」であろう。

 2) パウエルFRB議長は議会証言で、前回FOMC後の記者会見で述べた「ディスインフレ(インフレ沈静化)初期の兆候」には言及せず。もっとも、パウエル氏の記者会見での上記発言は、直後にFRB高官から打消し発言が繰返しされた。

 3)2月雇用統計では、雇用者数は引続き強い伸びを示したが、失業率が3.6%と前月3.4%と予想外に悪化、賃金の伸びも予想を下回り、2月小売売上高は1月から伸びが縮小する見通しのため、短期金融市場では3月FOMCでの利上げ観測の0.50%が後退した。年内の利下げ観測も浮上した。

 4) ただ、新興企業に特化した「シリコンバレー銀行(SVB)」は資金運用していた債券の評価損を嫌気した預金者の預金流出で経営破綻したが、2008年の金融危機以降で最大となった。これによりFRBの急激な利上げの影響を受けた『金融危機への懸念』が浮上し、3/10の米国株式市場で大幅下落を引き起こした。SVB総資産(2022年末)2,090億ドル(約28兆2,150億円)、全米16位(東京新聞)金利低下局面で株価上昇するはずのハイテク株の多いナスダック総合指数も下落した。

 5) 2月CPIやPPIが想定通りのペースで鈍化が進んでいない場合、3月FOMCで利上げ再加速の観測が強まる可能性があるため、発表に注目したい。加えて、SVB問題が他の銀行の経営破綻を引き起こす波及関連にも同様に注意したい。さらに、SVBに運転資金を集中させていた一般企業の資金繰り逼迫が懸念される。従業員への給与支払い・取引先への支払いが滞る恐れが浮上している。支払いができなくなると従業員解雇や資金繰り不可での連鎖倒産のリスクに直面する。

 ・イエレン財務長官、複数の銀行を「注意深く」監視、SVB巡る混乱続く中(ブルームバーグ)

 6)SVB問題が拡大するか否かは、預金者への預金保全状況次第と見る。
  ・預金が完全に保全できるなら「時間と共に懸念は消滅する」。預金保全が不十分なら「問題が波及し、金融危機へと拡大する恐れ」がある。
  ・金融システムの信頼性を早期に明示する必要がある。イエレン財務長官の声明は「安心してくれ」と言うだけで、「なぜ安心なのか説明不足」である。

 7) 今週の注目イベント(米国)
  ・3/14  2月消費者物価指数(CPI)
  ・3/15  2月生産者物価指数(PPI)
       2月小売売上高
  ・3/17  3月ミシガン大学消費信頼感指数

●3.バイデン大統領、2024年度歳出額6.9兆ドル(約940兆円)の予算教書公表(ブルームバーグ)

●4.米人員削減、1~2月は18万人超の減少、2009年以降で最多に(ロイター)

 1)雇用削減した18万人のうち3分の1以上がハイテク部門。2月の雇用削減は▲7.78万件と、前年同期比1.5万人から5倍超に膨らんだ。現在、テクノロジー業界での雇用削減が圧倒的に多く、個人消費が経済状況に一致しているため、小売業や金融業でも雇用削減が見られる。

 2)2月の雇用計画は2.88万人、前年同月の21.5万人から▲87%減少した。

●5.ガンドラック氏、2年米国債利回りはまだピークを付けていない (ブルームバーグ)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)3/09、上海総合▲7安、3,276(亜州リサーチより抜粋
  ・前日までの軟調な地合を継ぐ流れとなった。
  ・中国の内需不振や、米利上げペース再加速の警戒感が重石となった。
  ・また、中国物価統計が朝方公表され、中国景気の回復遅れが連想された。
  ・消費者物価指数は(CPI)は前年同月比+1.0%となり、上昇率は市場予想+1.9%以上に前月実績+2.1%から鈍化した。生産者物価指数(PPI)は▲1.4%となり、下落率は市場予想▲1.3%と前月実績▲0.8%から悪化した。
  ・ただ、中国の政策期待を支えに下値は限定的。
  ・開催中の全国人民大会(全人代)では、大規模な景気刺激策は期待できないものの、的を絞った支援策が徐々に明らかにされると予想されている。
  ・指数はプラス圏で推移する場面も見られた。
  ・業種別では、消費関連の下げが目立ち、素材も冴えず・金融・不動産・公益が下落。

 2)3/10、上海総合▲46安、3,230(亜州リサーチより抜粋
  ・前日までの軟調地合を継ぐ流れとなり、約3週間ぶりの安値水準に落ち込んだ。
  ・中国の景気鈍化が引続き不安材料として意識された。
  ・国内では、直近で公表された経済指標の内容を受け、内需の回復遅れが指摘された。2月の物価統計は予想以上に弱いものとなり、1~2月の貿易統計では輸入が前年同期比で予想以上に縮小した。
  ・また、米国で米金利動向を占う意味で重要な指標となるためだ。米利上げペースの加速が警戒されている。
  ・業種別では、自動車の下げが目立ったが、主要な国内メーカーが販売価格をそろって引下げる中、利益率の悪化や競争激化意識された。エネルギーも安い素材も冴えず、食品酒造・不動産・インフラ関連・金融も売られた。

●2.中国、65歳以上が2億人に、高齢化と人口減少といった課題が山積みに(時事通信より抜粋

 1)高齢化先進国の日本企業に商機

 2)中国では「1人っ子政策」の影響で、2034年には全人口の21%超を65歳以上が占める「超高齢社会」に突入する見通しだ。

●3.中国は習氏側近の李強新首相を選出、中央政府で勤務経験なし・経済政策の手腕は未知数(読売新聞)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)3/09、日経平均+178円高、28,623円(日経新聞より抜粋
  ・3/8の米ハイテク株高や足もとの円安・ドル高基調を受け、幅広い銘柄に買いが入り一時+290円高となった。ただ、買い一巡後は短期的な過熱感から利益確定売りが出て上値を抑えたが、昨年8/26以来約6カ月半ぶりの高水準で終えた。
  ・米株式市場で主要な半導体関連株で構成する米フィラデルフィア半導体株指数(SOX)が+2.67%高で終えるなどハイテク株が上昇したことから、東京市場でも東エレクなど半導体関連や精密機器への買いが目立った。
  ・東証による低PBR(株価純資産倍率)企業への資本効率の改善要請を期待し、バリュー(割安)株の買いも続き鉄鋼・金融株が上昇した。
  ・市場関係者は「企業が低PBRの対応に動く可能性が高くなったことを、特に外国人投資家が前向きに捉えており、足もとの買いにつながっている」と見ていた。
  ・セブン&アイが大幅高、アドテスト・信越化・東京海上・日本製鉄が高い。半面、ファストリ・東レ・日揮は売られた。

 2)3/10、日経平均▲479円安、28,143円(ロイターより抜粋
  ・米雇用統計への警戒感から米株安となった流れを引き継ぎ、6日ぶりに反落した。前日までに5連騰し+1,000円超上昇していたため、短期的な過熱感から利益確定の売りも見られた。海運株や金融株を中心に幅広い銘柄で売りが先行した。
  ・日経平均は▲237円安でスタート。寄り付き後も下げ幅を広げ、前引けに掛けて▲350円ほど安い28,200円台後半で推移した。前引け直後に、日銀が大規模な金融緩和策を維持すると発表すると、日経平均先物は下げ幅を縮小した。ただ、後場に入ると海運や金融株、主力銘柄を中心に売り圧力が強まり、大引けに掛けて一時▲500円を超える下げとなった。
  ・前日の米国市場で銀行株が大幅安となったことで、東京市場でも朝方から金融株の下落が目立った。加えて、「日銀が追加の政策修正を行なわなかったことで、後場は一段安となった」と市場関係者は言う。
  ・「前日の米市場でフィラデルフィア半導体株指数(SOX)やナスダック総合が大きく下落した割には、関連銘柄への影響は限定的だったし、『日本株の底堅さを示す動き』」との指摘があった。   
  ・米金融引締めで景気減速が懸念される米国に対し、「コロナ渦からの経済正常化が遅れた日本は経済回復が意識されている」との見方もあった。
  ・東証33業種では、銀行・海運・保険など31業種が値下がり、値上がりはゴム・パルプ紙の2業種だった。
  ・郵船▲6.5%安、みずほ▲4.5%、三井住友▲5%・三菱UFJ▲5.6%安と大手行が軒並み大幅安、指数寄与度の高いファストリ・ソフトバンクGも軟調だった。

●2.日本株:米国株に対し強い株式相場だが、過熱感強く・問題山積で警戒したい

 1)外国人先物は売越し継続(売7日・買1日)に対し、国内勢の買いが勝ち日経平均は上昇
  ・外国人先物売買状況  3/1  3/2  3/3  3/6   3/7  3/8   3/9  3/10
      売枚数(▲) 9,339 2,648     22,724 49,457 14,062 6,241  4,056
      買枚数(+)       3,191
      日経平均上下幅 +70円 ▲17 +428 +310  +71   +135 +178 ▲479

 2)日米の株価変動(3/1~10) : 日経平均の強さ、NYダウの軟調が目立つ
  ・NYダウ  ▲747ドル下落(▲2.2%下洛)
   日経平均  +698円上昇 (+2.5%上昇)
  ・今後、日経平均の下洛リスクが高まると予想する。

 3)新高値・新安値銘柄数の推移 : 圧倒的に新高値銘柄数が勝り、相場を牽引
  ・         3/1  3/2  3/3  3/6   3/7  3/8  3/9  3/10
   新高値銘柄数   115  153  153  189  207  237  328  79
   新安値銘柄数    16   13   3   3   1   1   4   8
   日経平均上下幅 +70円 ▲17  +428 +310  +71 +135  +178 ▲479
  ・上昇相場は3/9でピークを打った模様、3/10で79に減少したが、買いの強さ残る。
  ・相場は3/3と3/6の強さと比べ、3/9は新高値銘柄数が328と多い割に日経平均の
   上昇幅が小さい。⇒ 上昇相場のかげりを示唆している可能性が出てきた。

 4)指標は過熱感示す : 3/9は強度の過熱感を示す、3/10は下洛もまだまだ高い過熱感
  ・騰落レシオ   3/1   3/9  3/10
    25日移動  113.97 132.64 127.62
    6日移動 121.06 230.28 173.20
  ・ストキャスティクス
           3/1   3/9  3/10
    FAST    61   94   82
    SLOW    52    95   91
  ・強い過熱感の中、3/10の日経平均▲479円安も、過熱感は解消せず。しばらく下落局面の継続を示唆。

 5)相場は過熱と見た東証が、信用規制を強化⇒今後、相場にはマイナスに働く
  ・東証は3/9、信用取引の規制強化。日証金も担保金徴収の増措置。

 6)黒田日銀総裁、最後の金融政策決定会合「金融緩和は成功、継続を」「雇用増」を強調
  ・黒田総裁の記者会見の問題点
  ・「大量国債保有は何の反省ない、負の遺産と思わない」
  ・「物価目標2%未達」 : 達成時期6回先延ばし、2018/4からは時期を示さず。
  ・黒田総裁に新鮮味があったのは3年、その後の7年は「日銀総裁をやっていただけ」。
  ・黒田総裁が貢献したのは「株式相場」の立て直し。ETF購入で株式相場に直接介入。ETFは50兆円を超え、主要企業の大株主になったが、その処分は難問。
  ・政府発行の国債の半分以上を日銀が保有するという、歪な状況を作り上げた。異次元緩和の副作用が大きくなる中、出口を示さないまま、新総裁に引き継ぐ。 ⇒ 黒田総裁の負の遺産は、そっくりそのまま次期日銀総裁に譲渡。
  ・日銀総裁交替後は、日本株式相場に大きな負のリスクの表面化の可能性。膨らませた負のリスク動向に注目する時期が到来と予想。

●3.企業間取引の企業物価+8.2%上昇、前年同月比、日銀発表(FNN)

 1)政府の経済対策の効果で、電気・ガス料金が抑えられたことで、上昇率が2月の+9.5%から縮小したものの、依然として高い水準が続いている。

 2)調査した515品目のうち、9割近い452品目が上昇している。企業間で、原材料価格の上昇を価格に転嫁する動きが長期化している。

●4.企業動向

 1)7&I   イトーヨーカ堂店舗126⇒93まで削減、衣料品から撤退(ロイター)
 2)日本郵船  4年間で事業投資1.2兆円、液化天然ガス輸送・船舶の脱炭素化(時事通信)

■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします) 

 ・2801 キッコーマン  業績堅調。
 ・4307 野村総研    業績堅調。
 ・7085 カーブス    業績堅調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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