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【QAあり】島津製作所、新中計ではヘルスケア・グリーン領域に注力 社会課題の解決に取り組み、プラネタリーヘルスを追求
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第69回 個人投資家向けIRセミナー
望月靖和氏(以下、望月):こんにちは。本日はお忙しいところ、島津製作所のIRセミナーをご視聴いただき、ありがとうございます。コーポレート・コミュニケーション部IRグループの望月です。このIRセミナーを通じて、少しでも島津製作所への理解を深めていただければうれしく思います。よろしくお願いします。
島津製作所の概要
望月:会社概要についてご説明します。島津製作所は、「名前は知っているものの、何をしている会社なのかよくわからない」と言われることが多いのですが、1875年に創業し、ヘルスケアやグリーン市場といった成長分野に力を入れている、国内最大手の分析・計測機器メーカーです。売上高は4,822億円、営業利益は682億円と、コロナ禍においても業績は堅調に推移しています。
当社は国内だけではなく、海外にも拠点を持っていて、世界で25ヶ国55拠点となっています。売上高の半分以上を占めるのが海外事業であり、国内外グループ全体の従業員数は約1万3900名と、グローバルに事業を展開しています。
当社の社是は「科学技術で社会に貢献する」、経営理念は「『人と地球の健康』への願いを実現する」です。社是に科学技術と謳っていることもあり、技術力には自信のある会社です。年間190億円の研究開発費を投じて、日々、新しい技術を開発しています。
創業の歴史 -SHIMADZUの礎を築いたふたりの源蔵-
望月:創業の歴史についてご説明します。当社の創業者である初代島津源蔵は、もともと京都で仏具職人をしていました。明治に入り、廃仏毀釈の流れを受けて仏具産業が衰退し始める一方で、当時の京都は西洋の技術を取り込んで、近代化を押し進めていました。
このような時代の中で、西洋の先端技術を身近に感じた初代島津源蔵は、「日本を科学の国にしたい」という思いから、明治8年に仏具の製造で培った技術を活かして、教育向けの理化学器械の製造を始めました。これが、当社の創業の始まりです。
ある時、京都府から「気球を上げてくれないか」という話が舞い込み、何の資料もない中で、日本で初めて人を乗せた軽気球を上げることに成功しました。また、理化学器械においては、いかなる注文にも対応するなど、顧客の要望や課題に取り組んだ創業者でした。
その創業者の後を継いだのが、息子の二代島津源蔵です。二代島津源蔵は、日本のエジソンと呼ばれるほどの天才発明家で、常々「科学は実学である。人の役に立たなければ理論だけ知っていても意味はない」と言い、技術を実用化させ、島津の事業を大きく飛躍させた立役者でした。
例えば、国産初の医療用X線装置の開発や、現在のEVやスマートフォンに欠かせないバッテリー、昔の蓄電池の製造を開始したのは、実は島津製作所です。車のバッテリーにジーエス(GS)バッテリーという商品がありますが、このGSはGenzou Shimadzuのイニシャルから取られています。
149年にわたる事業継続の要因 -培ってきた強み-
望月:当社は創業149年と、非常に長い歴史があります。長きにわたり事業が継続してきた理由を振り返ると、我々は産業の進歩・発展に対応し、技術開発力を追求して、時代のニーズに応じた製品やサービスをあらゆる分野に提供してきました。
例えば、高度経済成長時代の石油化学産業を支えた国産初のガスクロマトグラフや、令和の時代に発生したコロナ禍においては、感染症対策としてPCR検査試薬やPCR検査装置を開発しました。
このように、時代の流れの中で発生した社会課題解決のための技術開発を続けてきたからこそ、社会に必要とされており、今日の島津製作所につながっているのではないかと考えています。
技術の高みへ
望月:当社は創業以来、技術力の向上に取り組んできました。一例として紹介したいのが、当社の社員である田中耕一が、タンパク質を分解させずにイオン化することに成功し、2002年にノーベル化学賞を受賞したことです。
この技術によって、質量分析システムでタンパク質を研究する道が開かれ、その後の技術の発展により、今では病気の診断や薬の開発に欠かせない技術となっています。
最近、治療薬などで話題となっているアルツハイマー病の早期診断にも、この技術が活かされた分析機器を用いて、研究を続けています。
研究開発体制
望月:研究開発体制についてお話しします。我々は、ものづくりの会社ですので研究開発には非常に力を入れています。スライド右下をご覧ください。SHIMADZU みらい共創ラボでは、我々の10年、20年先を見据えた要素技術を研究しています。
例えば、脳の研究やAI、バイオのような先進的な研究です。そしてここで培った技術を製品やサービスに転化するのが、スライド左下に記載しているヘルスケアR&Dセンターです。
また、課題やニーズは、国や地域によって異なります。分析計測機器を用いた先進的な分析手法を我々はアプリケーションと呼んでいますが、このアプリケーションの開発拠点は日本を含む世界5ヶ国に展開し、地域ごとのニーズを汲み取って開発につなげています。
直近の研究開発費は190億円、今後成長投資として、さらに研究開発を加速させていく予定です。
グローバル事業展開
望月:グローバル事業展開です。当社は世界25ヶ国に拠点を持っていて、全世界で事業を展開しています。海外売上高比率は56パーセントとなっています。
売上高・営業利益推移
望月:スライドに記載しているとおり、業績は成長を続けており、直近3年間で売上高は4,000億円を突破しました。今年度はさらに5,000億円を突破して売上高は5,100億円、営業利益は730億円と、過去最高の業績を目指しています。
坂本慎太郎氏(以下、坂本):ここからは、質問を交えながら進めていきたいと思います。多くの企業がコロナ禍でかなり売上利益を落としましたが、御社は右肩上がりの業績が続いている状況です。これは、コロナ禍に関連する仕事をされていたのかを含めて、どのような理由があるのか教えてください。
望月:当社は新型コロナに関する事業も行っており、それも業績を押し上げたのではないかと考えています。業績が上がった理由については、次のスライドでご説明します。
事業セグメント
望月:計測機器事業と産業機器事業が業績を押し上げたと思っています。
計測機器事業では、ヘルスケア市場の需要を取り込み、当社の主力製品である液体クロマトグラフや、質量分析システム、ガスクロマトグラフが非常に伸びました。コロナ禍においては、PCR検査試薬や全自動PCR検査装置が業績に貢献しています。
そしてもう1つ、産業機器事業のターボ分子ポンプが、半導体需要の拡大とともに年率でだいたい2割から3割伸び、それもかなり売上に寄与しています。
坂本:足元はそのような状況なのですね。続いて、事業概要についてご説明をお願いします。
望月:当社の事業は大きく分けて、計測機器、医用機器、産業機器、航空機器の4つの事業セグメントがあります。
計測機器事業では、見えないものを見る、測る分析計測機器を提供しています。例えば、医薬品開発や病気の早期発見、環境や水質管理に関わる分析、新素材の強度評価やEV向けバッテリーの非破壊検査など、さまざまな分野の研究開発や品質管理の場面で、当社の製品やサービスが活用されています。
医用機器事業では、X線画像診断装置を中心に展開しています。人間ドックに使われるX線テレビシステムやカテーテル治療に使われる血管撮影システムなどがあります。
産業機器事業の主力製品は、ターボ分子ポンプという高性能な真空ポンプです。これらは半導体製造装置に使用され、コロナ禍においては半導体需要を取り込んで売上高を大きく伸ばすことができました。
航空機器事業では、空調装置や飛行制御機器など、航空機向けの装備品を提供しています。主なお客さまは自衛隊です。現在自衛隊が運用している航空機の8割くらいに当社の空調機器が搭載されています。
スライド中央のグラフは各事業の売上高を示しています。主力の計測機器事業が、売上の6割強、利益の8割を占めています。
中間期決算業績サマリー
望月:11月に発表した中間期の決算についてお話しします。売上高は、計測機器、産業機器、航空機器事業が牽引して、過去最高を更新しました。営業利益は成長投資を進めた中でも、増収効果があり、こちらも過去最高を更新しました。
また、主力製品である液体クロマトグラフ、質量分析システム、ガスクロマトグラフの3つの製品を重点機種3機種と位置づけており、3機種ともに前年比プラス10パーセント以上伸びたことが、業績を押し上げた要因です。
そして、これらの結果や為替影響を踏まえ、今年度の通期業績予想を売上高5,000億円から5,100億円に、営業利益710億円から730億円に上方修正しています。
坂本:直近の中間期決算では重点機種が伸びたとご説明いただきましたが、その中でもどのようなところが貢献したのか教えてください。重点機種の伸びが営業利益の伸びに直結していると思いますので、この部分の例をご紹介いただけたらと思います。
望月:重点機種の伸びた背景についてですね。昨年度は部品部材不足の影響を受け、生産のリードタイムが長かったため、入手性の高い部品に設計変更するなど、対応策を講じました。
すると、今年の1月くらいから部品部材不足の影響がかなり緩和され、工場、販売、サービスが一丸となって、生産から販売までを急ピッチで進めました。それが、重点機種が伸びた要因だと思っています。
また、同時にヘルスケア分野の需要もかなり取り込むことができましたので、そのような要素も重点機種の販売が伸びた理由です。
株主還元
望月:株主還元です。業績の上方修正を行ったことにより、配当も上方修正しました。期初公表から2円増配、前年から4円増配としています。
今回、配当金は10期連続の増配ということで、配当性向は31.1パーセントとなりました。安定的な還元を目指して、業績拡大に努めていきたいと考えています。
坂本:配当性向は、近年30パーセント前後で推移していますが、30パーセントと定めているわけではなく、目処にしていらっしゃるのか、それとも増配を意識していらっしゃるのか、どちらのイメージでしょうか?
望月:30パーセントと定めているわけではなく、基本的に必ず30パーセント以上を維持しようということです。ご覧のとおり、配当性向は少しずつ上げていますが、基本的には安定的な株主還元を目指しており、増配に関しても、必ず増配を続けていく方針としています。
坂本:業績が伸びれば、配当金も伸びていくというかたちですね。
望月:おっしゃるとおりです。
株価推移
望月:株価の推移については、ご覧のとおり、9年間で約4倍に成長しています。継続的な株主還元の実施を方針としていますが、利益を積極的に成長投資に回し、業績をしっかり伸ばすこと、そして、株価へのリターンを実現させることで、株主や投資家のみなさまのご期待に応えていきたいと考えています。
当社の目指す姿 -3つのミッション-
望月:今後の成長戦略に入る前に、当社の目指す姿についてお話しします。
最近感じられる大きな変化として、新型コロナウイルスとの闘いを通して、「人の命と健康」への関心が高まってきたと感じています。また、気候変動が顕在化するなど、「地球の健康」が非常に重要な社会課題となってきました。
これらの変化は、我々にとって事業を成長させるきっかけになるのではないかと考えています。すなわち、「人の命と健康」「地球の健康」、そして、我々を支える「産業の発展、安心安全な社会の実現」への3つの貢献をミッションとし、「プラネタリーヘルス(人と地球の健康)」の追求を目指していきます。
また、これらのミッションを果たす領域を、ヘルスケア、グリーン、マテリアル、インダストリーと定め、この4つの領域で事業を展開していきます。
当社の技術力と社会実装力の両輪で社会課題を解決し、持続的な成長を実現することが当社の目指す姿です。当社の目指す姿を踏まえ、次は中期経営計画についてお話ししたいと思います。
中期経営計画最終年度(2025年度)経営目標
望月:今年の4月から新しい中期経営計画がスタートしました。スライドに記載している数字は、中計最終年度となる2025年度の経営目標です。売上高は5,500億円、営業利益は800億円、営業利益率は14.5パーセントを目標としています。
また、3年間で研究開発費は730億円、設備投資は800億円、これに加えて、人的投資やM&Aなどの積極的な成長投資を進めていく予定です。
経営指標は、ROEが12.5パーセント以上、ROICが11パーセント以上となっています。今回初めてROICを採用しました。資本効率の向上に努めていきたいと考えています。なお、為替は1ドル120円、1ユーロ130円を前提に算出しています。
株主還元は、配当性向30パーセント以上を維持し、株主のみなさまに対して、継続的な還元を行っていきます。
また、非財務目標の気候変動対策と女性活躍推進については、スライドに記載のとおりです。詳しくは、後ほどご説明したいと思います。
坂本:中計では、足元の業績がこれから伸びていくかたちになっています。これは最終年度に向けて大きく成長していくのか、あるいは均等に伸びていく見込みでしょうか? また、中計の数字の中にM&Aの計画は入っているのでしょうか?
望月:申し訳ありませんが、中計における各年度の目標値は開示していません。基本的に4つの事業セグメントとも、毎年の増収増益を狙っています。
また、成長投資のためのM&Aについては、もちろん考えています。昨年度、我々はリカーリング事業というアフターサービス事業の拡大のために、日水製薬(現:島津ダイアグノスティクス)を買収しました。今回の中計の3年間でも、M&Aを積極的に進めていきたいと考えています。
基本方針
望月:今回の中計では、世界のパートナーとともに社会課題を解決するイノベーティブカンパニーとして、持続的な成長を目指すことをコンセプトとしています。そのために、5つの事業戦略と、7つの経営基盤強化策を実施します。
本セミナーでは、事業戦略についてお話ししたいと思います。
ヘルスケアに向けた取り組み -Only Oneのトータルソリューション提供-
望月:当社が注力している領域の1つであるヘルスケア領域に向けた取り組みについてご説明します。
ヘルスケア領域の中に製薬分野があります。製薬分野の分析工程は、実験計画に沿ってメソッドを開発し、前処理を行い、成分を分析し、データを解析する流れとなっています。この流れの中で自動化やAI技術を活用し、業務の効率化を実現できる製品やサービスをトータルで提供することに取り組んでいます。
この取り組みでは、主力の液体クロマトグラフや質量分析システムを強化しています。中計最終年度には、液体クロマトグラフの売上高1,000億円以上、質量分析システムの売上高600億円以上を目指していきたいと考えています。
坂本:ヘルスケアを推進していく上で、自動化やAIの活用が必要となる部分は出てくると思います。御社の場合、そこをサポートする機器を出すことはもちろんあると推察しますが、これによって、何が変わっていくのでしょうか?
望月:年々、計測機器の裾野は広がっており、さまざまな分野で使われるようになっています。そこで問われているのが、機器を操作する際の経験です。
坂本:能力の差ですね。
望月:ノウハウがなくても、誰でも簡単に使えるということが、ユーザーから求められています。AIを使うことで、そのような属人性を解消することが狙いの1つです。
また、自動化によって人為的なミスをなくし、さらに業務の効率化を図ります。
坂本:スピードアップですね。
望月:おっしゃるとおりです。1つの業務を効率化できれば、その分他の仕事に時間を使うことができます。
坂本:実際、開発においてはスピード競争の部分もありますからね。
望月:そのような取り組みが、結果的にユーザーのメリットになっています。
また、各研究室や会社など、人手不足で専門家の育成に悩んでいるところは多くありますので、当社のAIや自動化を搭載した機器は、非常に大きなアピールポイントになると考えています。
GX(グリーントランスフォーメーション)向けトータルソリューション
望月:当社がもう1つ注力しているのは、グリーン領域です。国内のグリーン関連の投資は、今後10年間で150兆円になると言われており、年々拡大しています。
特に成長が見込まれるのが、スライドに記載した4つの分野です。微生物を活用したバイオものづくりや、水素やアンモニアなどの新エネルギー開発が挙げられます。この新エネルギーの純度を分析するために、当社の分析計測機器が使われています。
最近では、航空機に使用される持続可能な航空燃料であるSAF(Sustainable Aviation Fuel)の開発にも当社の製品が使われています。
また、マイクロプラスチックや最近話題になっている有機フッ素化合物(PFAS)の分析などの環境規制分野、そしてEVなどに使用される軽くて丈夫な新素材の開発といったマテリアル・次世代モビリティ分野も成長が見込まれます。この新素材の開発においても、素材の強度評価に当社の試験機が活用されています。
このような成長分野の研究開発や品質管理の場面で、当社の製品やサービスが活用されているということを、ご理解いただければと思います。
また、グリーン分野は非常に新しい市場ということもあり、評価方法や分析手法が統一されていません。そこで当社が現在進めているのは、分析手法の国際標準化です。国内ではJISやJAS、グローバルではISOなどの機関と連携し、当社の手法を国際標準とすることで、いち早く競争優位性を確保していきたいと考えています。
手法の標準化によって市場の拡大も見込めますので、これらの取り組みを今後一層、進めていく予定です。
GX事例紹介
望月:具体的な事例として、バイオものづくりについてご紹介します。これは微生物などの生物を用いて物質を生産する技術です。従来のように化石燃料に依存しないため、カーボンニュートラル社会を実現する技術として非常に期待が寄せられており、2030年には200兆円くらいの市場になると言われています。
物質を作る微生物は「スマートセル」と呼ばれていますが、当社は神戸大学と共同でこの「スマートセル」の開発を行っています。細胞が活発に動く最適な条件、完成した製品の評価などを、ロボットやAIを使って自律的に実験するシステムを開発し、研究を進めているところです。
また、神戸大学発のベンチャー企業にも出資し、日本初の微生物を活用したバイオファウンドリの構築を目指しています。
坂本:バイオものづくりはなかなかイメージが湧かないのですが、今までにない手法ということですよね。御社には、環境に負荷がかからない製品開発をサポートする体制が構築できていますが、元々持っていた技術や機器を上手く活用して今後のお仕事につなげていくイメージでしょうか? このあたりの具体的な取り組みがあれば教えてください。
望月:当社では現在、培養肉の実用化に取り組んでいます。大阪大学と、大手食品メーカーとでコンソーシアムを設立し、3Dバイオプリント技術を用いてお肉の構造そのものを再現するという、かなりユニークな取り組みをしています。
坂本:おもしろいですね。
望月:この技術によって、食糧不足の解消が期待できます。
また、お肉を作るのは非常に環境負荷がかかります。
坂本:牛のゲップとか、飼料とか、いろいろな問題がありますよね。
望月:そのとおりです。そのような環境負荷の軽減にも役立つということで、非常に期待の持てる技術だと思っています。そして、おもしろいのが、実はこの技術を使うと霜降り肉も再現できるのです。
坂本:そのあたりの生産にも環境負荷がかかりそうですよね。
望月:非常に楽しみな技術なのですが、培養条件や、培養肉の味や食感の評価に、当社の分析計測技術が使われています。ちなみにこの培養肉は、2025年の大阪・関西万博に出展する予定です。
坂本:すでに食べることができる状況に近づいているのですね。
望月:まだ研究段階ではあるのですが、本物にかなり近いところまできています。万博にお越しの際は、ぜひこの培養肉をご覧いただければありがたいと思います。
坂本:ぜひ見にいきたいと思います。今までの代替肉とはまったく違いますね。これまでは、例えば大豆から作った肉みたいなものでしたが、本物の肉を作りにいくというのは、非常に新しい取り組みですね。
望月:おっしゃるとおりです。
メドテック事業の強化
望月:それでは、メドテック事業についてご説明します。
メドテック事業は、健康管理、検査、診断、治療、予後管理において、当社の分析計測技術や、医用機器事業で培った画像処理技術を、臨床分野で活用する事業です。
新生児のマススクリーニングなど、質量分析システムを用いた病気の超早期診断の需要は拡大すると見込まれており、病院や臨床向けの分析機器市場は、2030年には2兆円くらいの規模になると言われています。
当社は医用機器と分析計測機器を両方持っていますので、質量分析システムによる超早期検査や、病気の可能性がある場合は、X線技術を使った診断・予後管理において、競合との差別化を図ることができると考えています。
海外事業の拡大
望月:海外事業についてお話しします。
ヘルスケア領域においては、北米が最重要地域となっています。現状は海外売上高の2割を中国が占めており、一番大きい地域となっています。
今後も中国の成長路線は維持していくのですが、北米をはじめとする他の地域も、市場特性に応じた顧客サポートを強化することで成長させ、海外売上高を全体的に底上げし、中国の依存度を減らしていきたいと考えています。
北米業績拡大に向けた製薬市場への取り組み
望月:海外事業の拡大を進める中で、当社は現在、北米における製薬市場の攻略に取り組んでいます。目指すところは、液体クロマトグラフや質量分析システムの先進技術を有する研究者や、重要顧客と共同で研究開発を行い、北米発の製品やアプリケーション(分析手法)を発信することです。
そのために今年度は北米R&Dセンター、西海岸にアプリケーション開発センターを開設しました。来年度は東海岸にも、アプリケーション開発センターを設置する予定です。ここで顧客のニーズを汲み取り、製品開発を進めていきます。
北米市場には、すでに顧客と共同開発した製品を投入しており、お客さまからは大変好評です。北米に密着した製品開発は、非常に期待が持てると考えています。それに加えて、製薬向けの販売員の増強にも取り組んでいます。機能も強化し、業績拡大につなげていきます。
荒井沙織氏(以下、荒井):あらためて、北米に注力する理由を教えていただけますか?
望月:我々の主力は計測機器事業であり、その大きな市場が製薬分野です。製薬分野において、最大かつ最先端の市場が北米ですので、北米に注力することで、当社はさらに伸びることができると思っています。
今までは国内で開発したものをアメリカに持っていく取り組みを行っていましたが、北米に開発拠点を設け、お客さまのニーズや要望に対して迅速に応えていくことで我々のプレゼンスが高まり、競合他社の牙城を切り崩せると思っています。
また、北米における製薬のトレンドは、我々が強みを持っているアジア市場にも広がっていきます。
したがって、北米で培った知見や技術は、アジア市場でも活用できます。北米を強化することでグローバルな業績拡大につながるという点も、北米に注力する理由です。
坂本:北米には、すでに多くの同業他社が存在するイメージがあります。「研究者はこの企業の製品をよく使う」という流れもあるのではないかと思います。そこは、薬の開発もどんどん変わってきていますので、新しい技術を持っていくことで、シェアを拡大していくイメージでしょうか?
望月:いろいろなモダリティが開発されているため、地域密着でお客さまとなる研究者と直接お話しし、その場で開発して答えを出すことが非常に大事になってきます。この北米戦略は、ぜひ成功させたいと思っています。
リカーリング事業の強化・拡大
望月:リカーリング事業についてお話しします。リカーリング事業は、消耗品やサービスメンテナンスなどで継続的に収益を得る事業です。安定的に収益が見込めるだけではなく、収益性が高いため、当社はリカーリング事業の強化・拡大を図っています。
具体的には、DXやIoTを活用したリモートモニタリング、メンテナンスサービス、M&Aを含めた商品ラインナップの拡充、消耗品メーカーとパートナーシップを強化することで販売体制の強化につなげていくなどの取り組みを進めていきたいと考えています。
スライド下部にある数字は、主力である計測機器事業のリカーリング比率です。直近は37パーセントとなっており、2025年には43パーセントに引き上げたいと考えています。さらに比率を伸ばせるように、事業強化を図っていきます。
坂本:非常に伸びていますね。これからも伸ばす予定ということですが、こちらの限界点はどのあたりでしょうか?
望月:この43パーセントが限界かと言うと、そうではありません。競合は50パーセントくらいのため、我々もそこを目指したいと考えています。日本には販売網やサービス網があり、その競合に近い水準まで達しているため、達成できない数字ではないと考えています。
「すべての製品のエコ化」を推進
望月:ESGに関してお話しします。
まずは「E」の環境についてです。我々はエコな製品づくり、例えば省電力や、コンパクトといったところに気を遣って製品開発を行っており、環境に配慮した製品を「エコプロダクツPlus」と社内で認定しています。
スライド右側の折れ線グラフは、お客さまが「エコプロダクツPlus」を使うことで抑制できたCO2が、島津グループが排出するCO2を上回ったことを示しています。
2030年までに、製品売上高の30パーセントを「エコプロダクツPlus」にしたいと考えています。
事業における環境負荷低減「CO2排出量の削減」
望月:CO2の排出量削減についてです。2050年にCO2排出量を実質ゼロにすることを目標としています。2017年度と比較し、2030年度は85パーセント以上削減、2040年度は90パーセント以上削減を中間目標としています。
そして、国際環境イニシアチブである「RE100」にも加盟しており、2050年までに事業活動で使用する電力を、すべて再生可能エネルギーにすると宣言しています。
ダイバーシティ経営の推進
望月:ダイバーシティは、「科学技術を生み出す源泉」だと考えています。スライドでは、女性活躍推進についてまとめています。当社は管理職候補の女性社員のための研修を開催しています。
こちらは、社内外からキャリアのロールモデルとなる方をお呼びして、話す機会を設け、自身のキャリアについて見つめ直してもらう場、あるいは、キャリアアップを前向きに考えてもらうきっかけを与える場となっています。
そして、フレックスやテレワーク、時間単位年休のほか、出産時の育児に関する制度を拡充し、女性が活躍できる環境整備を進めています。
現在、女性管理職比率は10.9パーセントですが、2030年度までに15パーセント以上に引き上げることを目標としています。
また、多様な女性の活躍が採用強化、ひいては人材戦略強化にもつながるため、このダイバーシティの取り組みは今後も続けていきたいと考えています。
コーポレートガバナンス
望月:コーポレートガバナンスです。当社の取締役会の構成は、8名のメンバーのうち半数が社外取締役となっています。また指名・報酬委員会の委員長は社外取締役が務めており、透明性と客観性を確保しています。
政策保有株式は、年々縮減を図っています。個別の銘柄については、保有の可否を毎年精査し、保有方針に合わないものは縮減を図っていくということです。
まとめ
望月:最後に、本日のまとめをご紹介します。強みはやはり技術開発力です。オンリーワン技術、No.1ソリューションを提供することで、ヘルスケア、グリーンイノベーションなどの成長分野で、業績拡大を図りたいと考えています。
また、2023年度から新しい中期経営計画がスタートしました。中計最終年度の目標として、売上高は5,500億円、営業利益は800億円、営業利益率は14.5パーセントを目標としています。
株主還元は、今年度は配当性向31.1パーセントと、10期連続の増配を予定しており、今後も安定的な株主還元に努めていきたいと考えています。
ESGにおいても、2050年にCO2排出量実質ゼロ、そして、ダイバーシティの推進により、科学技術の創造と社会課題の解決に取り組んでいきます。
当社は2025年に創業150周年を迎えます。さらに創業200年に向かって、世界のパートナーとともに社会課題の解決に取り組み、「プラネタリーヘルス(人と地球の健康)の追求」を続けたいと考えています。
今後も株主・投資家のみなさまに、少しでも当社に興味を持っていただければうれしく思います。これからの島津製作所に、ぜひご期待ください。
質疑応答:北米での開発拠点について
坂本:今後は北米に力を入れていくとご説明いただきました。現在は国内に開発部門がありますが、こちらを維持しながら、北米に国内の開発部門を少し移設する、あるいは新しく開設する見通しなのでしょうか?
望月:もちろん国内にも開発拠点がありますが、プラスアルファで北米に開発拠点を設けるということです。国内の開発拠点をそのまま持っていくわけではありません。
質疑応答:万博への出展について
坂本:2025年の大阪・関西万博への出展について、興味がある方が多いようです。旧来の万博であればおそらく、日本館、アメリカ館、もしくは企業の館があるような形式だと思います。島津館があるのか、あるいはどこかブースに出展されるのか、現状の様子や、構想があれば教えてください。
望月:我々が島津館などを作るわけではないのですが、やはり培養肉は非常に新しい取り組みであり、環境負荷軽減という点からも、おそらく新しい技術を集めたようなパビリオンで出展されるのかなと思っています。
坂本:御社の技術であれば、それ以外の出展の可能性もありますか? 現状は培養肉での出展のみでしょうか?
望月:今のところは、培養肉を出展する予定です。
坂本:私もぜひ見てみたいと思います。
質疑応答:メドテック事業のシェアと今後の拡大について
坂本:「メドテック事業におけるシェアと、今後の拡大についての見通しがあれば教えてください」というご質問です。
望月:メドテック事業は、まだ研究開発的な段階のため、今から強化していくところです。欧州では体外診断に関して、質量分析システムの需要が非常に高まっており、今年度もオーダーをいただきました。
質量分析システムを臨床展開していくと、試薬なども出ます。機器とともに試薬が売れると、リカーリング比率も高まっていくため、そのようなことで、メドテック事業の強化を狙っています。
坂本:AIをどんどん使うことにより精度が上がるという考え方もありますが、視点は少し違って、試薬が出れば機器が売れるというのは御社のビジネスの強みの1つですね。
質疑応答:航空宇宙産業での商機について
荒井:「航空宇宙産業は、民間でも国内外で参入が増えていますが、そこで御社の商機はありそうでしょうか?」というご質問です。
望月:民間向けの航空宇宙産業についてご質問をいただきましたが、実は当社の航空機器事業における売上は、防衛関連が約8割を占めています。当然民間航空機にも対応しているのですが、防衛関連が主となっており、防衛と民間の割合は8対2くらいです。
航空機器事業は、まず収益性を確保していくことに注力をしています。最近はずいぶん筋肉質な体制になってきたため、さらに収益性の確保に努めたいと考えています。
荒井:防衛予算が倍増されるという話もありますが、そのあたりの恩恵があると見てよいのでしょうか?
望月:防衛予算が増えれば、当然我々にも少なからず恩恵があるとは思っています。ただし、報道のとおり予算が2倍になったとしても、それによって我々の受注や売上が2倍になるかというと、そうではありません。
我々は航空機や船などをつくっている会社ではなく、装備品をつくっているメーカーのため、そこまで恩恵はないと見ています。
質疑応答:医用機器事業の利益率について
坂本:「近年、医用機器事業の利益率は向上していますが、計測機器事業と比較するとまだ低いです。医用機器事業の利益率を計測機器事業並みに引き上げることはできるのでしょうか? また、課題や業界環境などがありましたら教えてください」というご質問です。
望月:利益率は伸ばしていきたいと考えています。伸ばす方策としては、医用機器にもAIや自動化などの機能をつけた、いわゆる高付加価値な製品を今後拡販していき、全体的にプロダクトミックスの改善を目指していきます。それにより、利益率の向上も可能だと思っています。
しかし、機器の販売だけでは少々難しいとも思っています。やはりリカーリング比率を伸ばすことが重要です。
医用機器は、故障したら人の命に関わるため、機器の保守点検や、日々のメンテナンスが欠かせません。そこで我々が取り組んでいるのは、IoTを活用し、リモートでモニタリングやメンテナンスを行うサービスです。そのようなところで、リカーリングサービスのご契約を獲得し、利益率を上げていきたいと考えています。
質疑応答:分析手法の国際標準化について
坂本:「分析手法を国際標準化するというご説明がありましたが、かなり時間がかかるものなのでしょうか?」というご質問です。
望月:すぐには実現できないと思います。
坂本:1社でも難しいですよね?
望月:おっしゃるとおりです。国際標準化を行うことにより、どのようなメリットがあるかについてお伝えします。
このような新しい分野は、まだ分析手法などが統一化されていないとお話ししましたが、今後はいろいろな規制が出てきます。例えばこのようなグリーンの基準を満たすため、いろいろな規制の規定集に、「この機械で測って、この基準をクリアしなさい」と機器の型番や、基準となるデータなどが示されるようになります。そうすると、それを見たお客さまは、書いてある型番の機器を絶対に買いますよね。
そのような取り組みを、競合は展開しているため、我々も負けずにこの分野で国際標準化を目指していきたいと考えています。
しかし、やはり一朝一夕とはいかないので、時間をかけて、きっちりと行っていきます。
当日に寄せられたその他の質問と回答
当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。
<質問1>
質問:財務基盤はしっかりされていますが、投資側からすると割安性を感じられません。今後株式を保有しようと考えている方に対して、決め手となるインパクトのある施策は考えていらっしゃいますか?
回答:当社はヘルスケア・グリーン領域を特に成長する領域と位置づけています。主力製品である液体クロマトグラフや質量分析システムを強化し、AIや自動化技術を活用することで分析工程全体の業務効率化を実現させた製品やサービスを提供し、拡販を図ります。
海外事業では、当社の最重要市場である北米製薬市場攻略に向け、研究開発拠点を設け、顧客ニーズに対応した製品を提供し、要望にも迅速に応えることで、シェア拡大につなげています。
また、昨年買収した日水製薬(現:島津ダイアグノスティクス)の活用などで、当社グループ全体の消耗品の開発強化により、リカーリング事業を強化し、収益性の拡大に努めます。これらの施策に加えて、M&Aを含めた成長投資を進めて業績を伸ばします。
<質問2>
質問:中国での工場展開は、地政学リスクもあると思います。経済安全保障上の観点から、技術の流出や社員の安全確保など、さまざまなリスクについてどのように考えていらっしゃいますか?
回答:中国による自国生産優遇政策への対応から、中国事業を継続するために中国内での開発・製造を強化しています。一方、コア技術を有する部品は日本国内で製造し、厳格な輸出管理の元、中国へ輸出するなど技術の流出を未然に防止しています。
また、有事の際は中国及び相手国在住の従業員が速やかに避難できるよう安全対策を講じています。当社は各地域に生産拠点を設け、地産地消を進めています。特定の国や地域で発生した事象がグループ全体に影響を及ぼさないよう、グローバルでの分業や代替生産を可能とすることでリスク分散に取り組んでいます。
<質問3>
質問:想定レートはどのように決めているのでしょうか?
回答:足元の為替相場や、年間の為替相場を考慮し、設定しています。当社が公表している想定レートは米ドル・ユーロのみとなります。
<質問4>
質問:女性リーダーの育成は国の指針を意識して行われているものなのか、それとも会社的に「そもそも女性の活躍が重要だ」という意識で行われているのか、どちらでしょうか?
回答:ダイバーシティは科学技術の源泉であると考えています。女性活躍だけではなく、性別、国籍、年齢、性自認、性的指向、障がいなどに関わらず、従業員一人ひとりが高いパフォーマンスを発揮することを目指し、ダイバーシティ経営を推進しています
<質問5>
質問:2050年CO2排出実質ゼロの達成目標はチャレンジングなものなのか、それとも必ず達成できる目標となっているのか、どちらでしょうか?
回答:当社の事業は他業種と比較してCO2排出量が少ないことや、事業所でのエネルギーを再生可能エネルギーに順次切り替えるなど、現状の進捗を考慮して、2050年CO2排出量実質ゼロにする目標は必ず実現できると考えています。
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