相場展望5月22日 米国株: 「金利引上げ休止」が浮上、インフレ対策は? 日本株: 買主役(海外・証券)の売転換に注目の季節を迎える

2023年5月22日 09:40

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)5/18、NYダウ+115ドル高、33,535ドル(日経新聞より抜粋
  ・米債務上限問題への懸念が後退しつつあり、ハイテク株などへの買いが広がった。半面、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引締め長期化が米景気を冷やすとの見方が重荷となり、NYダウは下げる場面もあった。
  ・米連邦政府の債務上限引上げについて野党・共和党のマッカーシー下院議長が5/18、「合意に至る道筋が見える」と述べ、来週にも下院で採決できるとの見通しを示した。関係者が協議を重ねており、6月にも米政府の資金繰り策が尽きて債務不履行(デフォルト)に陥る最悪の事態は避けられるとの見方が広がりつつある。
  ・NYダウは▲200ドル余り下げる場面もあった。ダラス連銀のローガン総裁が5/18の講演で「ここ数週間の指標はまだ利上げ見送りが適切だとは示していない」と述べた。タカ派で知られるセントルイス連銀のブラード総裁も5/18のインタビューで「インフレ抑制を確実にするための保険としていくらかの追加利上げが正当化されるかしれない」との見解を示した。FRBが利上げを続ける可能性が意識され、景気懸念につながった。
  ・NYダウの構成銘柄では、半導体のインテルが上昇、顧客情報管理のセールスフォースやソフトウェアのマイクロソフトなどハイテク株も買われた。5/18発表の2023年2~4月期決算が市場予想以上で、通期の業績見通しを引上げた小売のウォルマートも高い。広告付きプランの利用者拡大が好感された動画配信のネットフリックスが大幅高。5/18に日本の工場へ5,000億円の投資を発表した半導体メモリーのマイクロンなど半導体関連株の上昇も目立った。一方、不動産やヘルスケア、生活必需品など業績が景気に左右されにくいディフェンシブ株は売られた。NYダウではアナリストが投資判断を引下げた日用品のP&Gが下落。医療保険のユナイテッドヘルスも安い。

【前回は】相場展望5月18日 米国株: 債務上限問題の騒ぎは「いつもの季節的お祭り」 日本株: 「上がるから買う・買うから上がる」局面、忍び寄る「不安」を忘れずに

 2)5/19、NYダウ▲109ドル安、33,426ドル(日経新聞より抜粋
  ・米債務上限問題を巡る政府と野党・共和党の協議が難航していると伝わった。双方の見解になお隔たりがあることが改めて意識され、先行きの不透明感から売りが優勢となった。
  ・米メディアの報道によれば、共和党の交渉担当者であるギャレット・グレイブス下院議員が5/19の協議を打ち切り、記者団に「生産的ではないため、(協議を)中断することを決めた」と述べたという。週末に協議を再開するかどうかについては「今はわからない」と話した。前日にかけては交渉の進展を期待した買いが入っていたが、売り直された。
  ・米地域銀行株が下げたのも米株相場の重荷だった。米CNNはイエレン米財務長官が米大手銀行の経営者に対し、さらなる銀行合併が必要になる可能性があると語ったと報じた。地銀の経営不安が意識され、パックウェスト・バンコープやウェスタン・アライアンス・バンコーポレーションに売りが出た。
  ・半面、米株相場の下値は堅かった。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は5/19、銀行の信用状況が引締まっていることを踏まえて「政策金利は想定されていたほど上昇する必要がないかもしれない」と述べた。一段の利上げで米景気が冷え込むとの懸念が和らいだ。
  ・個別株では、スポーツ用品のナイキや娯楽・映画のディズニーの下げが目立った。ネットワーク機器のシスコシステムズや製薬のメルクは上昇した。ネット通販のアマゾンや半導体のエヌビディアが下げた。

●2.米国株:

 ・NYダウは昨年11/30高値を超えられず、高値切り下げの「弱さ」に注目

 ・「米利上げ休止」問題が浮上
  1)NYダウは昨年11/30高値から切り下げており、高値更新が出来ていない「弱さ」に注目
         11/30     1/13  2/13  4/28  5/18  5/19
  ・NYダウ  34,549ドル  34,302  34,245 34,098 33,535 33,426

  2)米連邦政府の債務上限問題は難航し大詰め迎える、6/1にも上限超えの可能性も
   ・バイデン米大統領は5/21、G7広島サミットからの帰国の機上で、野党・共和党マッカーシー米下院議長と電話協議すると述べた。(共同通信)
   ・一方、バイデン大統領は、「共和党の条件は受入れず」と述べた。(ロイター)
   ・マッカーシー米下院議長は5/21、「妥協点を見いだすことで、債務上限を引上げることが出来る」と述べた。(共同通信)
   ・野党・共和党は、主張する政策実現に向け、民主党・バイデン大統領との駆け引きに「債務上限問題」を絡めているが、いよいよ期限切れを前にして交渉決着が近づいている。
   ・株式相場にとって、交渉決着が「織込み済み」なのか「これから織込む」のかの判断になると思われる。交渉決着により、いったんは雲が晴れたということで「株価上昇」するだろうが、長続きするかは不透明と思われる。

  3)次の視点は、「6月利上げ休止」に
   ・市場の視点は「6月以降に目が向き」、次は「6月FOMCでの利上げ問題」に移行するだろう。
   ・パウエルFRB議長は5/19、「6月利上げ休止」のサインを送った。「休止」の要因としては、「地方銀行の相次ぐ経営破綻」によって「信用収縮が発生した」ためとしている。信用収縮とは、銀行の貸出条件厳格化による融資減少を指す。それによる、米経済の景気後退への懸念が増している。

  4)「利上げ休止」は吉と出るか凶と出るか
   ・株式市場が望んでいるのは「金利引下げ」であるが、「金利引上げ休止」も「小吉」となる可能性がある。
   ・ただ、「材料出尽くし」と評価される可能性もあり得る。随分と蒸し返された事項だ。
   ・また、この「休止」により、FRBが「インフレ高止まりの長期化容認」と受け止められる恐れがある。依然として、総合インフレ率とコアインフレ率は、FRB目標の2倍を超えている。FRBは「インフレ率の抑制のために金利引上げ」策を採用した。副作用として「信用収縮」は予定されていたハズである。インフレ抑制の政策は、「需要を後退」させて「インフレ低下」させることにある。そのシナリオ上に、信用収縮があったハズなのに、いざ現実化すると「FRBが及び腰」になって、政策修正をするのはいかが?なことに陥るリスクが浮上してくる。
   ・パウエルFRB議長の「信念の強さ」が試されている。長い視点で見ると、インフレの高止まり長期化は「株式相場にとって凶」である。特に、米国のGDPの7割が「消費部門」にあるだけに、インフレが消費減退を招くことは米経済にとって経済後退をもたらす大きな要因となるためである。

  5)注目イベント
   5/23  米5月製造業PMI
       米4月新築住宅販売
   5/24  FOMC議事録要旨
   5/25  米1~3月GDP
   5/26  米4月PCAコアデフレーター
       米4月耐久財受注

●3.債務上限「6月1日に期限」と5/21に米財務長官が強調(共同通信)

●4.パウエルFRB議長は5/19、「6月の利上げ休止」の明確なシグナルを送る(ブルームバーグ)

 1)最近の銀行業界の信用引締めを巡る不透明感への対応

 2)今までの利上げ効果を見定める

●5.FRB高官発言

 1)ローガン米シカゴ連銀総裁、「物価高で、利上げ停止の論拠が見られない」(フィスコ)
 2)ダラス連銀総裁、「米データから、6月利上げ停止が適切との裏付けなし」(ロイター)
 3)ジェファーソンFRB理事、「米インフレ高すぎる。利上げ累積効果はまだ」(ロイター)
 4)セントルイス連銀ブラード総裁、「追加利上げに傾斜も、中立」     (フィスコ)
 5)パウエルFRB議長、「金融政策の前途は不確実に、次の一手はまだ決定せず」(ロイター)
  「インフレは我々の2%目標をかなり上回る」(フィスコ)
  「将来の引締めを巡り、まだ決定していない」

●6.米地銀株が下落、イエレン長官が「さらなる銀行合併」に言及との報道で(ブルームバーグ)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)5/18、上海総合+13高、3,297(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済対策に対する期待感が改めて意識される流れとなった。
  ・4月の中国経済指標は、多くが景気持ち直しの鈍化を示す内容だっただけに、当局は景気腰折れを回避するため、金融緩和を含む追加の経済対策を打ち出すとの見方が根強い状況だ。ただ、上値は重い。
  ・人民元安の進行が懸念されている。人民元の対米ドル相場は5/18、オフショア人民元が前日に続き1米ドル=7人民元台で推移した。大台乗せは2022年12月以来である。通貨安を背景に、海外からの資金が流出すると不安視されている。
  ・業種別では、金融が相場を牽引し、エネルギーもしっかり、メディア・娯楽・ハイテクの一角が買われた。半面、医薬品が冴えず。

 2)5/19、上海総合▲13安、3,283(亜州リサーチより抜粋
  ・中国景気の回復遅れが懸念される流れとなった。
  ・人民元安・米ドル高を背景に、海外への資金流出が不安視された。人民元の対米ドル相場は5/19、オフショア、オンショアで共に1米ドル=7人民元台で、推移した。2022年12月以来の元安水準となっている。
  ・業種別では、メディア・エンターテイメント関連の下げが目立ち、造船も冴えない。半面、家電は高く、バイオ製薬・電子部品・醸造・医療機器などが買われた。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)5/18、日経平均+480円高、30,573円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米株式相場が上昇した流れを受けて投資家のリスク選好が高まり、一時は上げ幅を+570円超に広げ、連日で1年8ヶ月ぶりの高値を更新した。
  ・バイデン米大統領が野党・共和党のマッカーシー下院議長と会談し、債務上限問題について、合意が近づいたと受け止められた。株式相場に買い安心感が広がり、前日の米株式相場が大幅上昇した流れを受けて5/18の東京市場でも主力の値嵩株を中心に買いが優勢となった。
  ・為替市場で円相場が1ドル=137円台後半と円安・ドル高に傾いていることも、輸出関連株には追い風となった。4月以降、日本株には海外投資家の買いが続く。市場では「低ボラティリティ(変動率)のディフェンシブセクターなどもしっかり上昇し、主力の大型株一辺倒の買いではない。中長期でロング運用を目指す機関投資家の買いが入ってきているようだ」との指摘があった。
  ・ソニーが大幅上昇し、東エレク・アドテストが高かった。三井物産も買われた。一方、東電・サイバー・楽天が売られた。

 2)5/19、日経平均+234円高、30,808円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米株式市場で主要株価指数が上昇した流れを受け、東京市場でも買いが優勢となり、2021年9月14日につけたバブル経済崩落後の高値30,670円を上回り、1990年8月以来およそ33年ぶりの高値となった。
  ・前日の米株式市場では、NYダウなど主要指数が上昇した。米債務上限問題に対する過度な警戒感が後退し、ハイテク株が買われた。ナスダック総合株価指数は9ヶ月ぶりの高値で終えた。
  ・為替市場では、138円台まで円安・ドル高が進み、輸出関連にも追い風となった。
  ・5/19の米株価指数先物が堅調に推移したことも、海外勢による日本株買いにもつながった。日経平均の上げ幅は、寄り付き直後に+300円を超える場面があった。
  ・日経平均は伸び悩む場面もあった。日本株はこのところ急ピッチで上昇してきたため、短期的な過熱感を警戒した売りが出た。市場では「国内の年金基金や銀行勢から、リバランスや持高調整に絡んだ売り注文が出ている」との声があった。
  ・ファストリが8日続伸し、1銘柄で5/19の日経平均を+70円超押し上げた。東エレク・信越化・ファナック・オリンパス・安川電が買われた。一方、アドテスト・ソニー・任天堂など足もとで上昇が目立っていた主力株の一角に、利益確定売りが出た。三菱UFJなど銀行株の下げも目立った。

●2.日本株:

 ・日経平均は、NYダウに対して「非常に強い」展開を示した。

 ・今年の日経平均上昇の主役は、海外投資家・証券会社(自己部門)だったが「買枠上限」に到達し可能性があり。今後の「売転換」に注目したい。

  1)NYダウは「弱含み」に対し、日経平均は「強い」展開となっている
          4/28  5/19  変動幅   変動率
   ・NYダウ  34,098 33,426  ▲672ドル ▲1.97% 昨年11/30高値下回る
    日経平均  28,856 30,808 +1,952円  +6.76% 昨年9/14高値を超える
   ・格言「5月に売れ」は、5/1~19にかけて、NYダウについては証明されたが、日本株に対しては外れた格好。
   ・日経平均全体は上昇したが、値上がり・値下がり銘柄数は拮抗しており、強弱感は同レベルの状況にある。

  2)先週までの株価上昇のまとめ
   ・G7サミットの広島での開催で、市場は高揚感があり、売りが引っ込み、強気一辺倒の日経平均の上昇だった。特に環境は、
    (1)東京証券取引所によるPBR1倍割れ企業への改善要請⇒自社株買い
    (2)バフェット効果による日本株購入意識の刺激
    (3)円安効果を見込んだ輸出関連企業の買い
    もあり、「野原の一本杉」状態で、日経平均は急騰した。

  3)日本株の買い主体と、売越し主体の市場に対する対処は対照的だった。
   ・買い主役、売り主役が明確に分離された展開となった。
    買い手:海外投資家、証券会社(自己)、事業会社(自己株式買い)
    売り手:年金、個人(現金)
   ・売り買い主役の状況:4月以降、買いは「海外投資家」、売りは「年金・個人」の対決
      買い手              売り手
    海外投資家   証券会社   年金基金  個人(現金)
    年初~5月2週計 +4兆6,745億円 +2兆102  ▲2兆4,382 ▲2兆360
    4月1週~5月2週+4兆3,056    ▲0兆1,831 ▲0兆9,639 ▲1兆4,129
   ・海外投資家の買いに対して、売り向かっているのが年金・個人(現金)の構図になっている。
   ・証券会社(自己部門)の買いは止まった。むしろ、証券会社の自己部門の買いは、「一時的買い」に限定されている。その観点から、2兆円もの買い残高は異常ではないか?
   ・今後の予想:買い主役の「売転換」に注意海外投資家の買枠限度が4兆円半ば、証券の自己も2兆円が限度と思われる。今後、この買い主役が「売転換」してきた場合のリスクを見る必要があるのではないだろうか。

  4)高揚感が去り、現実の足もとを見る展開を予想
   ・G7広島サミットが5/21に終了した。市場に高揚感を与えた環境も去り、足もとを見る時期になる。
   ・日経平均の上昇を主導したのは、日経平均の寄与度の高い、外国人好みの値嵩ハイテク株など一角に限定された。これ以上、日経平均を上昇させるには、新たなテーマと買い主役の交替が必要ではないのではないか?

●3.企業動向

 1)ソニー   100%子会社のソニーフィナンシャルを上場前提で分離を検討(ブルームバーグ)
 2)丸紅・住商など 英国に洋上風力発電などクリーンエネルギー分野に3兆円投資(時事通信)

■IV.注目銘柄(投資はご自身の責任でお願いします)

 ・2685  アダストリア    業績好調。
 ・6095  メドピア      業績好調。
 ・6098  リクルート     業績堅調。
 ・2175  エスエムエス    業績堅調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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