相場展望8月28日号 米国株: パウエルFRB議長は、利上げに関しフリーハンドを得る  中国株: 日本産水産物の輸入禁止は拡大し、長期化の覚悟が必須  日本株: 8/25の大幅下落は、意味するところなし「単なる夏枯れ」

2023年8月28日 12:21

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)8/24、NYダウ▲373ドル安、34,099ドル(日経新聞より抜粋
  ・米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が8/25午前に国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」で講演する。金融引締めの長期化につながるような発言への警戒から、持ち高調整の売りが出て、7/10以来およそ1カ月半ぶりの安値で終えた。週初めから上昇していたハイテク株を中心に売りが膨らんだことも、相場全体を押し下げた。
  ・FRBが急ピッチで利上げを進めた後でも、米経済は底堅さを保っている。物価上昇は落ち着く方向にあるものの、パウエルFRB議長が8/25の講演で、金融引締めに積極的なタカ派的な発言をするとの見方が根強い。ボストン連銀のコリンズ総裁が8/24の米メディアのインタビューで、一段の利上げの可能性に言及した。
  ・週間の米新規失業保険申請件数が市場予想を下回り、労働市場の需給が引締まっているとの受け止めが広がった。FRBがタカ派に傾斜することへの警戒も重なって、8/24の米債券市場では前日に急低下した長期金利が上昇、「株式の相対的な割高感が改めて意識された」との見方があった。
  ・半導体のエヌビディアは小幅高で終えた。前日夕に発表した5~7月期決算では、売上と1株利益が市場予想を上回り、8~10月期見通しも市場予想を超えた。朝方には+7%高となり、人工知能(AI)や半導体に関連する銘柄を中心に買いが入り、相場全体を押し上げる場面がありNYダウは午前に上げ幅が一時+200ドルを超えた。
  ・もっとも、ハイテク株は週初めから上昇が目立ち、次第に持ち高調整の売りが優勢となり、ハイテク株全般が下落に転じた。エヌビディアも上げ幅を次第に縮小した。
  ・航空機のボーイングが大幅安。航空機部品の不具合が発覚し、機材納入に影響するとの懸念から売られた。スマホのアップル、ソフトウェアのマイクロソフト、映画・娯楽のディズニーなども下げた。電気自動車のテスラ、ネット通販のアマゾンなども下落した。

【前回は】相場展望8月24日号 中国株: 中国は「輝きを失い」、「終わりの始まり」に入った可能性

 2)8/25、NYダウ+247ドル高、34,346ドル(日経新聞より抜粋
  ・パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が米カンザスシティ連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で講演に臨んだ。金融引締めに積極的なタカ派的な内容だったとの受け止めから講演後は下げに転じる場面があったが、今の利上げサイクルの終わりが近いとの見方が相場の支えとなり、上昇して終えた。
  ・パウエル議長はジャクソンホール会議で、インフレが高水準にとどまっていることから「我々は必要ならば、追加利上げの用意がある」と年内追加引締めの可能性を改めて示唆した。市場では「タカ派的そのものだった。年内に今の引締めサイクル最後の追加利上げがあると見る」との受け止めがあった。講演後は米債券市場で長期金利が上昇し、相対的な割高感が意識された株式は売りが優勢となる場面があった。
  ・売り一巡後は、議長発言があまりにも想定内だと捉えた市場参加者による買いが入り、再び上昇に転じた。「昨年の今頃は利上げサイクルの終わりが見えなかったのに対し、今は終盤に差し掛かっていることが意識された。年内の追加利上げの有無は取るに足りない」との見方が、投資家心理の改善につながった。
  ・パウエル議長がコアインフレが減速基調にあることや、低い失業率を維持したまま労働需給のひっ迫が緩和している状況を評価したことも、株式市場では好感され、NYダウの上げ幅は一時+300ドルを超えた。
  ・個別株では、航空機のボーイングが+3%上昇で終え、NYダウを支えた。主力小型機である「737Max」の中国への納入を4年ぶりに再開する準備をしているとブルームバーグ通信が8/25に報じ、買いを誘った。クレジットカードのビザや建機のキャタピラー、化学のダウなども上げた。ネット通販のアマゾンや電気自動車のテスラ、ネット検索のアルファベットなどが買われた。半面、バイオ製薬のアムジェンと通信のベライゾンは下落した。

●2.米国株 :パウエルFRB議長は金利引上げについて「フリーハンドを得た」

 1)パウエル議長は、ジャクソンホール会議で講演した狙いは、「金融引締めについてフリーハンドを得る」目的だったと見る。そして、成功したと思われる。

 2)米国の物価上昇率は直近で3%であり、昨年8月と比較すると大幅低下した。この状況から、株式市場は「金利引上げ停止」「金利引き下げ」期待が高い。

 3)原油価格の減産を織り込んだ高止まりなどを考慮すれば、エネルギー価格の低下に多くは期待できない。

 4)米国の労働市場のひっ迫感は継続し、失業率は極めて低い状況で推移している。賃金は上昇が続いている。この状況で、物価上昇率がこれ以上低下すると思えない。したがって、FRB目標の物価上昇率2%達成は困難と見られる。

 5)米FRBの金利は「引上げのサイクル途上」にあると見る。
    

●3.米FRB高官の発言

 1)フィラデルフィア連銀総裁、利上げ終了の可能性を示唆した(フィスコ)

 2)ボストン連銀総裁、追加利上げの可能性を除外せず(フィスコ)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)8/24、上海総合+3高、3,082(亜州リサーチより抜粋
  ・自律反発狙いの買いが先行する流れとなった。
  ・上海総合指数はこのところ下落基調を強め、足元では昨年12/29以来、約8ヵ月ぶりの安値水準に落ち込んでいた。中国の景気支援策に対する期待感も持続した。
  ・不動産デベロッペーや地方政府の債務問題、消費活動の停滞など不安材料が山積みするなか、当局は追加支援策を打ち出すとの期待も根強い。
  ・業種別では、証券の上げが目立つ。当局は先日、市場活性化に注力すると明言。市場に「株式取引にかかる印紙税も引き下げられる」との観測が再び広がった。消費関連も高く、医薬品・ハイテク・素材なども買われた。

 2)8/25、上海総合▲18安、3,064(亜州リサーチより抜粋
  ・投資家の慎重なスタンスが強まる流れとなり、年初来安値を再び更新し、昨年
  ・米金融引締めの長期化観測や、中国指標の発表などが気掛かり材料になった。中国では8/27に7月工業利益、8/31に8月製造業PMIが公表される。
  ・業種別では、ハイテクの下げが目立ち、消費関連も冴えない。通信・医薬品・素材・運輸・インフラ関連なども売られた。半面、不動産はしっかり、金融・公益・エネルギーも買われた。

●2.中国株:日本産水産物の輸入禁止は拡大し、何年も続くと覚悟を決めること

 1)中国は政治中心の国、中国の政治的主張を通すためには経済も総動員が普通の国
  ・正当な対応でも、聞く耳を持たない中国。
  ・忘れてはならない「中国はイデオロギー、政治」の国であること。

 2)中国が怒る原因は、岸田首相の「対中国包囲網を米国と共同構築した」ことにある
  ・中国の安全保障にかかわる問題であるだけに、容易には日本産水産物の輸入禁止は取り下げない。日本産水産物の全面輸入禁止は、中国の対日圧力の手段の1つにすぎない。
  ・中国が日本に反発した理由
  ・米国の対中包囲網への参画(米韓日首脳会談、半導体の対中国規制強化)。
  ・日本産海産物を汚染水の影響すると本当の理由で輸入禁止したなら、尖閣諸島はじめ日本近海への中国漁船の出漁禁止を併せて実施すべきなのに出漁を公認している。
  ・日本の海洋放出を正当と認めたIAEAの調査団には、中国と韓国からの派遣者も含んでおり、彼らからの異論発表なし。

 3)中国の今後予想は、「中国の主張を通すために、反日圧力を増強」
  ・地球上で中国が影響力を持つアフリカ・太平洋諸国などを巻き込んで対日圧力行使に発展、増強すると予想する。
  ・根底にあるのは、岸田首相の「信念のなさ」と「圧力に対する弱さ」を見ている。

 4)中国の対日本のへの圧力強化と拡大を予想
  ・中国は対日圧力を拡大している。香港・マカオによる日本産海産物の輸入禁止。中国本土の日本産海産物の輸入禁止。輸入禁止エリアも、10県⇒日本全体に拡大。
  ・今後は、海産物⇒農産物への拡大。 ⇒農民から自民党に圧力をかけさせる。
  ・親中国の公明党の訪中をキャンセル。⇒公明党から自民党に圧力をかけさせる。
   そして、中国依存度の高い企業へのいじめ。⇒日本政府に圧力をかけさせる。
  ・親中国の沖縄県などへのアプローチをして、日本の分断を仕掛ける。  
  ・訪日中国人の団体客増加を抑制。⇒観光業界から日本政府に圧力をかけさせる。
   中国政府が中国人の海外観光を認めたのは、国内不満を抑えるため。

 5)同様の目にあった国、韓国・豪州
  ・正当な対応でも、聞く耳を持たない自己中心主義の政治主導の中国。
   韓国・米軍が防空レーダーとロケットの韓国内設置に対し、韓国を制裁。
  ・中国の北京などに設置した韓国企業の広告ネオンなどを撤去。
  ・韓国への観光禁止。
  ・中国は東北地区(黒竜江省)に探査範囲4,000kmのレーダーを設置済みで、韓国全土と日本一部をレーダー監視中にもかかわらず。
   豪州・中国もコロナ震源調査とする要求に対し、豪州産小麦・ワイン・石炭の輸入禁止。
  ・中国の小麦不作の事情で、今年から輸入再開。

 6)中国は政治と面子主導のため、今回の輸入禁止項目の拡大と長期化を予想
  ・中国が日本に歩み寄るまでは、関係改善は不可能。
  ・日本政府は、インドやアジア、アフリカ諸国などに働きかけ、脱中国を推進。

 7)中国には、毅然とした対応と国際的働きかけが有効
  ・日本政府は動揺して右往左往することなく、長期的視野に立ってドンと構える。農林水産大臣などの不用意な発言をしない。
  ・垂水・駐中国大使のような対応を、国際的外交に拡大する。国際世論に働きかけ、国際社会からの支持を高める。

●3.中国の工業部門利益(ブルームバーグ)

 1)工業部門企業利益    7月      1~7月  (前年比)
             ▲6.7%減少   ▲15.5%減少

 2)セクター別企業利益
  国有企業      ー      ▲20.3%減少 国有企業の脆弱性が際立つ
  外国企業      ー      ▲12.4
  民営企業      ー      ▲10.7    民間企業の耐性の強さ

●4.中国・不動産開発会社の恒大集団、1~6月決算は▲6,600億円赤字(ブルームバーグ)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)8/24、日経平均+276円高、32,287円(日経新聞より抜粋
  ・米半導体大手のエヌビディアが発表した好決算を手掛かりに、東京市場でも値がさの半導体関連株が買われて日経平均を押し上げた。前日に続く米株高への期待も支えになった。
  ・エヌビディアが8/23に発表した5~7月期決算は売上高と1株利益が市場予想を上回り、先行き見通しも良好な内容だった。米国の時間外取引でエヌビディア株は急伸。東エレクなど東京市場の半導体関連銘柄に買いが波及し、日経平均の押し上げに寄与した。
  ・日経平均は午後に一段高となった。取引時間中の米株価指数先物が堅調に推移。アジア株の上昇も追い風となった。香港市場でハイテク銘柄で構成する「ハンセンテック指数」が一時+4%超上昇した。
  ・米企業の景況感を示す指標が低調だったことから、米金融引締めの長期化に対する懸念が和らぎ、為替が円高・ドル安方向に振れた。トヨタや日産自など自動車株の一角が下げた。
  ・8/24~26に国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」は開かれ、8/25にパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が講演する。注目のイベントを控え、商いは引き続き盛り上がりを欠いた。
  ・個別株では、アドテスト・レーザーテクが買われ、ソフトバンクGも高く、味の素もしっかり。一方、第一生命が売られ、任天堂も安かった。

 2)8/25、日経平均▲662円安、31,624円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米ハイテク株安を受け、運用リスクを回避する売りが値がさ株を中心に出てたため、下げ幅は今年2番目の大きさとなった。8/25に香港ハンセン指数などアジア株が軟調に推移したことも、日本株の重荷として意識された。
  ・前日の米株式市場では米連邦準備理事会(FRB)による金融引締めが長期化するとの懸念から主要3指数が下落した。なかでもハイテク株への売りが目立ったことで、東京市場ではアドテストや東エレクといった半導体関連銘柄やソフトバンクGの売りが目立った。3銘柄で日経平均を▲300円超押し下げた。日経平均が前日までの4営業日で+800円超上昇していたことも、幅広い銘柄に利益確定の売りを促した。
  ・8/25の香港ハンセン指数や上海総合指数などのアジア株が下げたことも投資家心理の悪化につながった。日経平均は心理的節目の32,000円や75日移動平均線(32,102円、8/24)を割り込み、海外短期筋などの売りがかさみやすかったとの声が聞かれた。
  ・日本時間の8/25夜には国際シンポジウム「ジャクソンホール会議」でパウエルFRB議長が講演する。パウエル氏がタカ派的な発言をするのではとの警戒から、株価水準を切り下げた銘柄への押し目買いも限られ、下げ幅は一時▲700円を超えた。
  ・個別株では、ファストリ・京セラ・バンナム・信越化が下げた。一方、電通・オリンパス・クラレ・OLCが買われた。

●2.日本株 :8/25の日経平均▲662円安は、「単なる夏枯れ」で波及なし

 1)8/25の日経平均▲662円安は、下落のサインではなく「単なる夏枯れ」
  ・8/25の日経平均は▲662円安と今年2番目の下げ幅となったが、日経平均の寄与度が高い少数の銘柄の下落が影響しただけで、全体的には大した下げでない。したがって、相場の基調を崩すものではない
  ・新高値・新安値銘柄数からは相場の変化サインなし
           8/24  8/25
   新高値銘柄数   129   67
   新安値銘柄数    3   11
  ・先物は、海外投資家の売りはわずか▲182枚であり、8/25下落相場と関係が薄い。前日までの4営業日(8/21~24)で+837円高で、高値警戒感があった。前6営業日で売買代金が3兆円割れと薄商、売り優勢となりやすい地合だった。
  ・8/25の日経平均の大幅下落の下げ主導は、わずか4銘柄であった。4銘柄で日経平均に与えたのは▲409円と、下げ幅の61.7%も占めた。
   内訳 アドテスト  ▲133円安
      東エレク   ▲131
      ファストリ  ▲103
      ソフトバンクG▲ 42

 2)日米ともに「夏枯れ」
  ・日米の株価推移    7/31    8/25    下落幅  下落率
    NYダウ      35,559ドル 34,346   ▲1,213  ▲3.4%
    日経平均      33,213円  31,624   ▲1,589  ▲4.7
  ・日経平均の下落率が大きいのは、直近の 日経平均の上げ幅が大きかったための影響を受けたと見る。

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・4004 レゾナック    構造改革進展期待。
 ・4452 花王       構造改革進展期待。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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