相場展望6月29日 米国: 市場は過剰流動性の時代⇒資金不足⇒株式市場は困難な道へ 日本: 慎重な運用スタンスを!!

2023年6月29日 10:06

印刷

■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)6/26、NYダウ▲12ドル安、33,714ドル(日経新聞より抜粋
  ・米国の利上げ継続観測などからハイテク株の一角に売りが出た。一方、このところ下げが目立っていた景気敏感株や消費関連株には値頃感からの買いが入り、NYダウの下げ幅は限られた。
  ・米国の利上げ継続観測が強まっており、景気悪化懸念が広がっている。前週末までは景気敏感株や消費関連の持ち高を減らす動きが続いていたが、6/26は最近までの相場上昇を牽引してきたハイテク株への売りが出た。
  ・一方、市場では「景気敏感株は出遅れ感があり、買い直す動きが出ている」との見方があり、NYダウは+100ドル近く上昇する場面があった。建機のキャタピラーやスポーツ用品のナイキなどが買われ、相場を下支えした。
  ・6/28には欧州中央銀行(ECB)主催の金融シンポジウムでパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が日米欧の中銀トップとのパネル討議に参加する。発言内容を見極めたいとの雰囲気もあり、相場全体の動きは小さく、持ち高調整の動きが続いた。
  ・ソフトウェアのマイクロソフトやスマホのアップル、製薬のアムジェンが下落。アナリストが投資判断を引下げた電気自動車のテスラ、ネット検索のアルファベットが下げた。半導体のエヌビディアは▲4%安だった。

【前回は】相場展望6月26日 米国: 楽観的な米相場も、ついに景気後退を意識し始めるか? 日本: 買い筋は減少し、外国人の現物株買い筋の「1人旅」 6月末~7月上旬は、要注意の季節

 2)6/27、NYダウ+212ドル高、33,926ドル(日経新聞より抜粋
  ・6/27に発表された米経済指標が軒並み市場予想を上回り、米景気悪化への懸念が和らいだ。NYダウは前日まで下げが続き、主力銘柄に値頃感から買いが入り、7営業日ぶりに反発した。
  ・朝方発表の5月の耐久財受注額は前月比+1.7%増と市場予想▲1.0%減に反して増えた。5月新築住宅販売件数も、前月比+12.2%増と市場予想▲1.2%減に反して伸びた。6月米消費者信頼感指数は109.7と市場予想104.0を上回り、2022年1月以来の高水準となった。市場では「金融引締めが続くなかでも米経済は底堅さを維持しており、企業業績にとっても朗報だ」との声が聞かれた。
  ・中国の李強首相は6/27、中国の2023年の+5%経済成長は「実現可能」と述べた。中国経済の回復期待も投資家心理を改善させた。
  ・NYダウの構成銘柄では景気敏感株や消費関連株への買いが目立った。ホームセンターのホームデポやスポーツ用品のナイキ、航空機のボーイング、建機のキャタピラーが高い。前日に下げが目立ったハイテク株にも買いが入り、相場を支えた。ソフトウェアのマイクロソフトとスマホのアップルが+2%近く上げた。アナリストが目標株価を引上げたメタは+3%高、半導体関連も総じて高い。電気自動車のテスラは+4%上げた。通期1株利益見通しの引下げを発表したドラッグストアのウォルグリーンズは▲9%安。工業製品・事務用品のスリーエムやバイオ製薬のアムジェンも下落。

 3)6/28、NYダウ▲74ドル安、33,852ドル(日経新聞より抜粋
  ・6/28の欧州中央銀行(ECB)フォーラムで、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長、ラガルド総裁らがパネル討論に参加している。今後の金融政策を巡る発言への警戒から、持ち高調整の売り優勢となっている。
  ・米欧の中央銀行による金融引締めによる景気悪化への懸念があるなか、物価や金融政策への言及を見極めたいという雰囲気がある。
  ・ウォールストリートジャーナル(WSJ)が6/27夕、「バイデン米政権は人工知能(AI)に使われる半導体の中国向け輸出で新たな規制を検討している」と報じた。NYダウ構成銘柄ではないが、半導体のエヌビディアやAMDが下げている。米中間の対立が再び激しくなることへの懸念も投資家心理の重荷になっている。
  ・半導体のインテルや保険のトラベラーズ・化学のダウが下落している。日用品のP&Gや飲料のコカ・コーラも安い。一方、航空機のボーイングや顧客情報管理のセールスフォースが高い。

●2.米国株:市場は過剰流動性の時代⇒資金不足の時代へ⇒株式市場は困難な道へ

 1)米国株は6/15に34,408ドルに上昇も、2022年1/4高値を下回る
  ・2022/01/04  36,799ドル
   2022/11/30    34,589
   2023/06/15    34,408
  ・NYダウは2023年に入って下落後に反発するが、2022/11/30高値を抜けず。

 2)FRBによる金利引上げ効果と、量的金融縮小(QT)の効果が効き始めた可能性。
  ・金利は+5%程度上昇し、市場から約1兆ドル超の資金が引き揚げられている。
  ・連邦政府の債務上限問題が解決したものの、米財務省の金庫には資金が枯渇している。
  ・そのため、米財務省は年末までに1兆ドルの資金を市場から吸い上げる予定。さらに、来年2024年も1兆7,000億ドルの資金を必要としているといわれる。加えて、FRBは2023~2024年にQTで2兆4,000億ドルの資金回収を予定する。つまり、2年間で米財務省とFRBは市場から5兆ドル強もの資金を吸い上げることになる。2021年からでは約6兆ドルもの膨大な資金引き揚げとなる。

 3)過剰流動性の時代から、市場は資金不足の時代へ
  ・コロナ禍でFRBが対策として市場に流した資金は5兆ドルであった。その5兆ドルが過剰資金の源泉となり、異常な株高を生んだ。その過大な5兆ドルを超える資金となる6兆ドルを市場から吸収することになる。
  ・当然、市場での資金が不足し、過剰流動性の時代は終焉を迎える。

 4)米政府は債務上限問題解決のため、野党と「政府支出の削減」を受諾した。
  ・つまり、政府支出による大盤振る舞いができないことになった。市場から見ると、「市場への資金供給が細る」ことになる。

 5)当然、株式市場は困難な道へ
  ・過剰資金をエンジンにして株価上昇してきたが、市場から資金が吸収されて株式市場に滞留していた資金が消えるため、株式市場は苦難の道をしばらく歩むことになろう。
  ・インフレ退治の問題もあり、景気後退は必然的に訪れ、株式市場の「宴」は終了となる可能性に留意したい。

●3.米国株に不安の壁、大幅な調整リスクが顕著=モルガンSのウィルソン氏(ブルームバーグより抜粋

 1)S&P500は、年末の水準から▲10%下回る3,900と予想。来年4~6月には4,200まで上昇すると見ている。

 2)今年の企業利益が1株当たり185ドル(アナリスト予想は220ドル)。価格決定力の低下と、期待外れの売上高が予想以下の利益につながると見ている。

 3)要因は、(1)企業利益の低下リスク、(2)FRBの量的金融引締め、(3)財政支援の縮小。物色は、バリュー株が成長株をアウトパフォームするとの見方を示した。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)6/26、上海総合▲47安、3,150(亜州リサーチより抜粋
  ・景気不安が投資家心理を冷やす流れとなり、4日続落し、約5カ月半ぶりの安値。
  ・端午節の3連休(6/22~24)の中国国内旅行者数は新型コロナ流行前の2019年を上回ったものの、同年の旅行支出はコロナ流行前水準に届かず、消費活動が停滞している実態が鮮明化した。
  ・足元では、5月の中国経済指標が軒並み低迷している。
  ・人民元安の進行も懸念材料。中国人民銀行(中央銀行)は6/26朝方、人民元レートの対米ドル基準値を3営業日連続で元安に設定した。上海外国為替市場では人民元安に歯止めがかからず、2022年11月以来の水準で推移している。
  ・資金流出の警戒感、本土休場中の香港株安も重しとなった。
  ・業種別では、金融が下げを主導し、ハイテクも急落、不動産も安い。半面、発電は物色された。

 2)6/27、上海総合+38高、3,189(亜州リサーチより抜粋
  ・値頃感に着目される流れとなった。
  ・上海総合指数はこのところ急ピッチに下落し、足元で今年1/4以来、約5カ月半ぶりの安値水準に落ち込んでいた。
  ・中国景気の回復遅れが指摘されるなか、当局の経済対策に対する期待感が高まっている。
  ・前日までの軟調な地合いを継いで小安くスタートした後、指数は程なくプラスに転じた。
  ・また、外国為替市場では、人民元安・米ドル高の動きが一服した。資金流出の過度な警戒感も薄らいだ。
  ・市場からは「中国人民銀行(中央銀行)は急ピッチな元の下落を望んでいない」との声も聞かれた。中国の主要国有銀行が6/27、オフショアのスポット市場で米ドル売りを行っているもよう・・・などと伝えられた。
  ・業種別では、不動産の上げが目立ち、ゼネコンや素材のインフラ建設関連も高く石油・石炭もしっかり。金融・ハイテク・医薬品・消費関連なども買われた。

 3)6/28、上海総合▲0.07 安、3,189(亜州リサーチより抜粋
  ・投資家の慎重スタンスが強まる流れとなった。
  ・欧米の金融引締め長期化や、米国の対中国圧力が警戒された。外電は6/27、人工知能(AI)用高性能半導体チップの対中国輸出を巡り、米バイデン政権が新たな規制を検討しているもよう・・などと報じた。
  ・中国景気の過度な減速懸念が薄らぎ、上海総合指数の下値は限定的だった。6/27開幕した夏季ダボス会議で中国の李強首相が演説し、「2023年の+5.0%の経済成長は実現可能」などと自信を示した。
  ・上海総合指数は一進一退で、全体としては方向感を欠いた。
  ・業種別では、ハイテク関連の下げが目立ち、通信ネットワークも冴えない。不動産・医薬品・エネルギー・海運なども売られた。半面、発電は高く、軍事関連・食品・酒造・空運などが買われた。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)6/26、日経平均▲82円安、32,698円(日経新聞より抜粋
  ・前週末の米株安の流れを引き継ぎ、東京市場では利益確定目的の売りが出た。値がさの半導体関連銘柄などへの売りが指数を下押し、下げ幅は朝方に▲380円を超えたが下げ渋り、押し目買いが入って上昇する場面も多かった。
  ・米国株安に加えて四半期末に伴う国内機関投資家のリバランス(資産の再配分)売りや、7月上旬の上場投資信託(ETF)の分配金捻出に伴う売りへの警戒感が前週に引き継ぎ重荷となった。半導体関連株のほか、このところ上昇基調だった商社株も売りが目立った。
  ・ロシア情勢を巡る不透明感も投資家心理の重荷となった。民間軍事会社ワグネルによる反乱はいったん収束したものの火種は残り、引き続き地政学リスクとして意識される。そのため、投資家は積極的な買いを入れにくいとの見方があった。
  ・一方、指数は上げる場面も多かった。これから3~5月期決算の発表が本格化するが、値上げの進展やインバウンド(訪日外国人)需要の回復が続く日本企業への業績期待は根強く、押し目買いが相場を支えた。海運や化学といった景気敏感株の一角にも上昇が目立った。
  ・東電・楽天・電通・NTTデータが売られた。半面、ニコン・SUMCO・イオン・信越化・トヨタが買われた。

 2)6/27、日経平均▲160円安、32,538円(日経新聞より抜粋
  ・日経平均が4日続けて下げたのは今年初めてで、2022年12月中旬に5日続落して以来の長さ。米連邦準備理事会(FRB)による利上げ長期化観測を背景に、値がさの成長(グロース)株の一角が売られ、日経平均の下げ幅は一時▲400円に迫った。一方、押し目買いも入って底堅い展開となった。
  ・前日の米株式市場でハイテク株が売られた流れを引き継いだ。生成AI(人工知能)関連の半導体大手エヌビディアが大幅安となったことを受け東京市場はアドテストなど関連銘柄への売りが目立った。
  ・日経平均の上昇を牽引してきた海外投資家が前週、11週ぶりに現物と先物合算で売り越しとあって、海外勢が売りに転じるのではないかとの懸念が強い。今週は月末で四半期末とあって、年金基金などからリバランス(資産の再配分)に伴う売りが出ると見られており、需給悪化を警戒して先物主導で下げる場面があった。
  ・半面、下値では押し目買いが入り、日経平均が下げ渋る場面も目立った。
  ・ソフトバンクGが売られた。三菱商・サイバー・住友不も安かった。一方、OLCが大幅高となり、終値で時価総額が10兆円台になった。東エレクが堅調、川崎汽船は+11%超高で取引を終えた。

 3)6/28、日経平均+655円高、33,193円(日経新聞より抜粋
  ・景気悪化懸念の後退で6/27の米国株が上昇した流れを受け、前日まで下げが続いていた日本株に押し目買いが入り、5営業日ぶりに今年2番目の大幅反発した。
  ・為替相場の円安基調も追い風となり、東証プライム市場の9割超の銘柄が上昇する全面高の展開だった。日中を通して買いが続き、日経平均は高値引けした。
  ・四半期末を控え、年金基金などのリバランス(資産配分の調整)の売りによる需給悪化が警戒されている。
  ・日経平均は前日までの4日続落で▲1,000円強下げていた。もっとも、日銀の金融緩和と内外景気の回復期待などを背景に日本株の先高観は強く、米株高をきっかけに押し目買いの好機と見た投資家の買いが入った。
  ・外国為替市場で144円/ドル近辺まで円安・ドル高が進むなか、トヨタなどの自動車株が高かった。オークマなどの機械株も大きく上げた。前日の米半導体株指数の大幅高を受けて、東エレクなどの半導体関連株も総じて上昇した。
  ・ヤマハ発・野村・東海カが上昇、25株分割発表のNTTも+5%高と大きく上げた。半面、川崎汽船・中外薬などは下げた。

●2.日本株:慎重な投資スタンスが求められる可能性

 1)前日のNYダウが+212ドル高に対して、日経平均の+655円高は反応が高過ぎる。
  ・NYダウは6/15~26で▲694ドル下落した。
   6/27は+212ドル高と反発したが、戻り率は+30.5%である。
  ・日経平均は、6/16~27で▲1,168円下落し、6/28に+655円高。
   戻り率は56.1%である。
  ・日経平均の強さを物語っている。

 2)ただ、NYダウは過去高値を超えられず、上昇支持線を割り込んで、下方を見始めている。
  ・日本株は米国株と連動性が高かったが、果たして離脱できるのか?

 3)日経平均は、「上昇⇒軟調」に転換か?
  ・6/27は新高値銘柄数が大幅減vs新安値銘柄数が増加し、逆転現象が発生
          6/19    6/27    6/28
   新高値     306     36     162
   新安値      12     48     12
   日経平均   ▲335円安  ▲160円安  +655円高
  ・日経平均のこの上昇期には見られなかった現象である。日経平均が下落時でも、新高値銘柄数が新安値銘柄数を下回ることがなかった。明らかに、相場の転換点が近いことを示唆している可能性がある。
  ・6/28は、新高値銘柄数が増加し逆転が解消されたが、過去と比べ少ない状態。また、日経平均が+655円高と大幅上昇の割に、新高値の銘柄数が物足りない。

 4)短期筋の外国人の株式先物は、6/28の日経平均大幅高であっても売り越した。
  ・外国人は、株式先物で6/22~28の5日間連続で売り越している。
  ・6/16~28までの10日間で見ても、買い越し2日間に対して売り越し7日間。
  ・海外投資家の現物株買いと歩調を合わせていたが、先物筋が売り転換したのことに注目したい。

 5)慎重な投資が求められている可能性
  ・上記のことから、慎重な投資スタンスが肝要と思われる。

●3.日銀の国債保有、過去最大の53%、3四半期連続で5割超え(産経新聞)

 1)今年3月末時点の国債発行残高は1,079兆9,593億円、日銀保有高は576兆643億円。

●4.塩野義 抗菌薬開発の米製薬会社キュ-ペックスを200億円で買収(時事通信)

●5.企業業績

 1)スギ   3~5月期純利益+21%増、化粧品が好調(日経新聞)
 2)ハニーズ 5月期営業利益60⇒76.7億円上方修正、配当35⇒50円(日経新聞)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・3141   ウエルシア    業績堅調。
 ・6594   ニデック     業績好調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

記事の先頭に戻る

関連キーワード

関連記事