相場展望8月15日 米国株:理論上は上限到達、これ以上は「人気」が必要 日本株:売り手不在のなか、米株高を背景に短期筋の外国人買いで上昇

2022年8月15日 09:04

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)8/11、NYダウ+27ドル高、33,336ドル(日経新聞より抜粋
  ・8/11発表の米7月卸売物価指数(PPI)が前月比▲0.5%下落し市場予想の+0.2%上昇に反して低下し、米連邦制度理事会(FRB)が利上げを急ぐとの観測が後退した。消費関連や景気敏感株に買いが向かい、一時+340ドル余り上昇する場面があった。
  ・ただ、米長期金利が一時2.9%と上昇したのを受けて、ハイテク株に売りが広がると、NYダウは下げに転じる場面もあった。
  ・市場予想を上回る決算のディズニーが+5%近く上昇、原油高でシェブロン、資源高でキャタピラー、長期金利上昇で金融のJPモルガンチェースにも買いが波及した。

【前回は】相場展望8月11日 インフレ鈍化で楽観も、賃金高くFRBは利上げ継続へ 日本株:閑散相場の中、外国人先物買い減少に注視

 2)8/12、NYダウ+424ドル高、33,761ドル(NHK)
  ・8/12発表の米7月輸入物価指数が低下したことをきっかけに、インフレへの懸念が和らいで買い注文が増え、NYダウは3日連続の値上がり。
  ・市場関係者は「8/10発表の米7月消費者物価指数(CPI)が予想・前月を下回り、インフレが収まって行くとの見方が改めて広がった。今日発表の消費者景況感を示す別の経済指標が市場予想を上回ったことも買い注文につながった」と述べた。
  ・娯楽大手ディズニー・IT大手アップル・小売大手ウォルマートなど幅広く買われた。

●2.米国株:理論上、説明できる上限に到達。これ以上は「人気」で新規資金流入が必要

 1)6/17以降の米株式相場は、PERが急落したため、「買えば上がる・買うから上がる」状況にあった。

 2)理論上、説明できる範囲の上限に到達した。これ以上の上昇には「人気」が必要
  ・NYダウは1/4天井からの下落幅に対し、+65.6%の戻り幅達成。
   1/04 35,789ドル ⇒ 6/17  29,888(下落幅▲5,901、下落率▲16.5%)
   ⇒ 8/12 33,765(戻り幅+3,873、戻り率+65.6%、上昇率+13.0%)
  ・SP500のPERは17.8倍 ⇒ 8/12の10年長期金利からみた上限PERに一致。現在以上の株式相場上昇には、「株式への人気」「勢い」と『新規資金流入』が必要。

 3)恐怖指数(VIX)でみると、現在は20割れとなり「危険」⇒「安定」水準まで低下
  ・NYダウでは、6/16底値29,927ドルの時点でVIXは危険圏内の「32.95」
  ⇒ 8/12に33,761ドルで「19.53」まで低下(▲40.7%低下)。
   NYダウ、SP500ともに株価水準から「高値圏入り」と判断できる。これは、逆にみると、株価下落の可能性が高くなってきたとも言える水準であり要注意。

 4)6/16以降の株価上昇シナリオを眺めると、
  ・インフレ(物価上昇)率鈍化⇒長期金利低下⇒FRBによる緩和期待⇒株価上昇した。特に、長期金利上昇で割高感が意識され大幅下落したハイテク銘柄構成比率の高いナスダック総合の反発は大きかった。
  ・物価上昇率鈍化の主因は、「原油価格の下落」であり、景気後退を意識した「国際商品先物指数(CRB)」の低下である。米国では、高騰したガソリン価格の低下が、インフレ(物価上昇)率の鈍化に寄与した。
 
 5)ところがCRB指数が再上昇に転じる⇒物価上昇につながるリスクが再台頭
  ・CRB指数:6/9 329.59 ⇒7/14 276.36(▲16.1%)⇒8/11 295.06(+6.8%)
  ・WTI原油先物:6/18 122.11ドル ⇒8/5 88.53(▲27.5%)⇒8/11 94.34(+6.6%)
  ・つまり、「7月消費者物価指数(PPI)と生産者物価指数がともに予想以上に鈍化
  ⇒金利引上げ緩和期待の高まり・長期金利低下⇒株価上昇」のシナリオが、『逆回転』する可能性の芽が出てきた。

 6)8月消費者物価指数は上昇に反転か
  ・消費者物価指数はガソリン価格低下を除くと、食品価格はむしろ上昇ペースが加速。住宅の3割を占める賃貸住宅の家賃は、下方硬直性があり、上昇している。
  ・平均賃金はむしろ予想に反して上昇が加速し、労働需給の逼迫で賃金上昇は続きそう。
  ・ガソリン価格に反映する原由価格も上昇に反転している。
  ・したがって、7月消費者物価指数は鈍化したものの、8月指数は上昇に転じる可能性が高いと言えそうだ。
  ・足元の、米10年長期金利も反発して上昇の兆しを示している。

 7)FRB高官は相次いで「市場の期待に対して強く牽制発言」を発している。
  ・インフレとの闘いで勝利を宣言するには程遠い。
  ・政策金利は更に引上げられ、インフレが2%に低下するまで、高金利が維持される。
  ・インフレ抑制のため政策金利4%超に引上げ。

 8)今回の株価反発は「弱気相場の中の一時的な上昇」に過ぎないとみている。
  ・株価上昇の要因は、理論的には 
  (1)企業利益の上昇
  (2)長期金利の低下
  (3)株式相場の楽観による新規資金流入
  である。
  米企業の予想1株利益(EPS)は、240⇒234ドルと切下がっており、長期金利(10年)は、8/1の2.573%⇒8/11に2.888%に大幅上昇した。米株価上昇の残されたキーは、新規資金の流入であり、注視したい。BofA調査では、現金が取り崩されて、株式市場に流入していると確認されている。問題は、流入資金の拡大と継続性である。
  ・株式相場は短期的には底堅いと思われるが、次第にそうした展開は見込めなくなるだろう。

 9)主要イベント・指数の発表
  ・8/17   米7月小売売上高
  ・8/18   米7月FOMC議事要旨
  ・8/20・21 米ジャクソンホール会合
  ・9/13   米8月消費者物価指数
  ・9/20・21 米FOMC
  ・9/21・22 日銀金融政策決定会合

●3.米国、株と債券に投資資金が回帰、インフレ懸念後退で現金減らす(ブルームバーグより抜粋

 1)バンク・オブ・アメリカ(BofA)は、米物価インフレがFRBの目標2%付近に戻るのがまだ時間が掛かる可能性があり、FRBがインフレとの闘いが短期戦ではないことを強調していると、指摘。株式相場への圧力が続く可能性を示唆した。

●4.米株式相場の加熱ラリーが失速か、インフレ巡る不透明感晴れず(日経新聞)

 1)FRBが利上げペースを緩めることを期待した買いが一巡すれば、相場は勢いが弱まる可能性がある。

●5.ロシア、4~6月GDP▲4%減、制裁響く(共同通信)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)8/11、上海総合+51高、3,281(亜州リサーチより抜粋
  ・米利上げ加速の懸念が後退し、投資家に買い安心感が広がる流れとなった。
  ・米7月消費者物価指数(CPI)が市場予想を下回り、FRBが利上げペースを拡大するとの警戒感が薄らいだ。
  ・中国当局の景気下支えスタンスもプラスに働いた。中国人民銀行(中央銀行)は8/10、4~6月の金融政策執行報告を発表し、政策実施の強化と適度な流動性を確保する方針を示し、指数は徐々に上げ幅を広げる展開。
  ・業種別では、金融が上げを主導し、消費関連も物色され、医薬品・不動産も買われた。

 2)8/12、上海総合▲4安、3,276(亜州リサーチより抜粋
  ・中国の新型コロナ感染再拡大が不安視される流れとなった。
  ・新規感染が足元で急増する中、製造業の拠点が集中する複数地域でロックダウン(都市封鎖)が導入された。
  ・指標発表も気懸かり。中国では週明け8/15、7月の各種統計が公表される。(小売売上高・鉱工業生産・固定資産投資・金融統計など)
  ・企業業績は好調で、中国当局の産業支援スタンスなどが相場を支え、下値は限定的。
  ・業種別では、ハイテク関連の下げが目立ち、自動車も安いが、石炭は高い。

●2.中国で新たなウイルス「狼牙ヘニパウイルス」発生、35人が咳・発熱、死者はなし(テレ朝より抜粋

 1)中国東部の山東省や河南省で、動物から人に感染する新たなウイルスが見つかった。

 2)研究チームによると、トガリネズミがウイルスの自然の宿主とみられる。

●3.中国・国有会社5社、会計監査受入れ回避で米上場を廃止へ、8/12発表(時事通信より抜粋

 1)中国石油天然ガス(ペトロチャイナ)、中国人寿保険、中国アルミニウム、中国石化、上海石油化工など5社。

 2)上場廃止により内部情報の開示を回避する狙いがあるとみられる。

●4.中国、複合不況の足音、不動産の経営難が波及(日経新聞)

 1)地方政府の財政難  : 土地取引の売買停滞で、土地収入が▲3割減。

 2)銀行の不良債権増加 : 融資残高の26%が不動産関連。

●5.中国、夏休みを迎え感染拡大、天津市で大規模PCR検査(共同通信)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)8/11、祝日「山の日」で休場

 2)8/12、日経平均+727円高、28,546円(日経新聞より抜粋
  ・米市場でインフレ鈍化を背景に大幅利上げ観測が後退し、東京市場でも運用リスクを取る動きが波及し、1/12以来となる7カ月ぶりの高水準となった。
  ・米労働省が8/10発表した7月消費者物価指数(CPI)は前年同月比+8.5%上昇したが伸び率は前月の+9.1%から縮小し、市場予想+8.7%をも下回った。物価の伸びが鈍ったのを受けて米連邦制度理事会(FRB)の大幅利上げへの観測が後退し、米株式市場では8/10~11にNYダウが+1.7%上昇し、東京市場でも投資家心理が上向き、グロース(成長)株を中心に幅広い銘柄に買いが入った。
  ・国内では主要企業の4~6月決算発表がほぼ一巡した。ホンダや日揮など、市場予想に比べて堅調な決算や業績見通しを手掛かりにした個別銘柄の物色も相場の支えになった。
  ・短期筋のショートカバー(売り方の買戻し)が中心で、長期資金の流入は乏しいとの声が聞かれる中、28,500円近辺では、利益確定や戻り待ちの売りも出た。
  ・DOWA・太平金・ファナック・安川電・ソフトバンクGが高く、OKI・川重が安い。

●2.日本株:日経平均は8/12、売り手不在の中、値動きのよい半導体など値がさ株が牽引して+727円高と大幅上昇した

 1)日経平均は、直近高値3/24(28,252円)、6/9(28,246円)を上に抜け8/12に28,546円。6/20底値25,771円からの上昇幅は+2,775円・上昇率+11.2%となった。

 2)米国株の上昇を受けて、外国人先物買いが牽引し、半導体など値がさ株を中心に買いが入り日経平均は上昇した。個人(現金)の売りが縮小する中、短期筋の外人投資家と自社株買いの事業法人が相場を押し上げた模様。ただ、個別株でみると、8/1から多くの銘柄で株価の値動きに気迷いがみられた。

 3)業種別では、
  ・8/5~12で大きく買われたのは市況高を反映して、鉱業+7.6%・石油石炭+7%・非鉄金属+4.5%だった。繊維が+3%高とマイナスから切り返したのが目立った。
  ・6/24~8/12で一貫して買われたのが、医薬品・食料品・精密機器・建設・サービス・倉庫運輸の6業種。
   

●3.「いきなり!ステーキ」業績不振の責任をとり社長が8/21辞任(日テレ)

■IV.注目銘柄(投資はご自身の責任でお願いします)

 ・4911 資生堂    業績回復基調
 ・6967 新光電気   業績堅調
 ・8308 りそな銀行  業績好調

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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