相場展望9月30日 中国景気鈍化の中、電力危機は不動産業苦境に続き経済的打撃 日本株、下落は買い時(戻りねらい)

2021年9月30日 08:48

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)9/27、NYダウ+71ドル高、34,869ドル(日経新聞より抜粋
  ・米国で新型コロナ感染者数が減少傾向にあり、景気減速の懸念が薄れた。
  ・米長期金利や原油価格の上昇などを受け、グロース(成長)株から景気敏感株に資金を移す流れが強まった。
  ・9/22の米連邦公開市場委員会(FOMC)の翌日以降、長期金利の上昇基調が続く利ザヤ拡大の観測から金融のJPモルガン・チェースやGサックス株が上昇。
  ・米原油先物が7月上旬以来の高値をつけ、シェブロンなど石油株が上げた。
  ・新型コロナ感染が和らげば恩恵を受ける映画・娯楽大手のディズニーも高い。
  ・長期金上昇すると割高感が意識されるハイテク株が売られ、相場の重荷になった。

【前回は】相場展望9月27日 恒大「破綻」が示唆する、中国経済の先細り 『中国版、失われた20年』になる可能性

 2)9/28、NYダウ▲569ドル安、34,299ドル(日経新聞)
  ・FOMCの結果発表9/22以降、長期金利はほぼ一本調子で上昇している。米10年債利回りが一時1.56%に上昇し、6月中旬以来の高水準をつけ、PER(株価収益率)が高いハイテク株に相対的に割高感を意識した売りが出て、下げ幅を拡大した。
  ・債務上限問題を巡り米上院本会議で可決阻止されたため、10月以降の財源が確保できず。米連邦政府の閉鎖やデフォルト(債務不履行)の可能性が意識され、投資家心理が悪化し、幅広い銘柄に売りが広がった。
  ・ソフトウェアのマイクロソフトが▲3.6%下げ、顧客情報管理のセールスフォース、スマートフォンのアップルも売られた。

 3)9/29、NYダウ+90ドル高、34,390ドル(日経新聞)
  ・長期金利の上昇が一服し、製薬のメルク・日用品のP&Gなどディフェンシブ株を中心に買い直された。
  ・アナリストが投資判断を引き上げた、航空機のボーイングが大幅高となりNYダウを支えた。
  ・ただ、相場の上値は重く、NYダウは引けにかけて伸び悩んだ。
  ・米連邦債務の上限問題を巡る与野党の協議が難航している。10月以降の財源確保できず、米連邦政府機関の閉鎖やデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が意識された。

●2.米国株の見通しは、戻り高を予想

 1)9/28の急落の要因
  (1)債券上限が議会で可決できず=デフォルト懸念・政府機関閉鎖がサプライズ。
  (2)中国経済の不透明感強まる =電力供給不安・不動産業界全体に動揺波及。

 2)反発を予想
  (1)最近のNYダウは▲4%内の下落で、その後、反発している。
  (2)カネ余り現象に変化なし。
  (3)運用利回りで株式投資の利回りに対抗できる運用先はない。

 3)注意したい事柄
  (1)インフレの上昇。
  (2)FRBのテーパリングと利上げ。
  (3)9/29の戻り高は、前日下げ幅の16%であり、基調は強いとは言えないので注意

●3.JPモルガンのダイモンCEO「我々は米国の債務不履行に備えている」と語る(フィスコ)

●4.米上院共和党は9/28、債務上限凍結と暫定予算の抱き合わせ法案を阻止(ブルームバーグ)

 1)下院を先週通過した(1)債務上限凍結と(2)暫定予算の抱き合わせ法案を、上院本会議で採決するには賛成60票が必要だったが、賛成48票・反対50票と可決に満たなかった。

●5.米イエレン財務長官は、債務上限に10/18に達する公算大、と議会証言 (フィスコ)

●6.セントルイス連銀総裁「テーパリング終了後、速やかに保有資産縮小すべき」(ロイターより抜粋

 1)米国内総生産(GDP)がすでにパンデミック前の水準を超えている。FRBによる債券購入の終了時には、保有資産は約8.5兆ドルに膨らんでいる可能性が高く、保有し続ける理由はない、と指摘した。

 2)持続的なインフレ懸念と、景気回復の驚異的な速さを考慮すると、FRBの保有資産縮小は「時期尚早とは思えない」とした。

 3)ブラド―総裁は、「FRBの緩和的な政策が、想定以上に迅速かつ持続的なインフレにつながる」と懸念し、速いペースでの利上げを見込んでいる。

●7.米9月消費者信頼感指数109.3と、予想115.0・8月113.8を下回る(フィスコ)

 1)新型コロナデルタ株やインフレを懸念し、7ヵ月ぶりの低水準(ブルームバーグ)

●8.米9月リッチモンド連銀製造指数▲3と、予想+10・8月9を予想外に下回る(フィスコ)

 1)分岐点はゼロ。

●9.米7月SP20都市住宅価格指数は前年比+19.95%、予想下回るが過去最大伸び(フィスコ)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)9/27、上海総合▲30安、3,582(亜州リサーチより抜粋
  ・国内経済の先行き不安がくすぶる流れとなった。
  ・中国では南方や東北で、電力需給のひっ迫問題が深刻化している。一部エリアで実施された電力の供給制限により、鉄鋼・セメント・化学工業などを中心に多大な影響が広がると懸念される状況。
  ・また、デフォルトリスクに直面する中国恒大集団の巨額債務を巡り、不動産業界や周辺産業に打撃を与えるとの不安も続いている。
  ・朝方は、中国人民銀行(中央銀行)の資金供給スタンスを支えに、株価は上昇する場面がみられたが、上値は重く、徐々に下げ幅を広げた。
  ・景気動向に敏感な資源・素材・インフラ関連株が下げを主導した。不動産・公益・海運・銀行株も売られた。

 2)9/28、上海総合+19高、3,602(亜州リサーチ)
  ・中国人民銀行(中央銀行)は9/27、中国恒大集団の債務危機を念頭に、不動産市場の健全な発展を守る意向を表明し、株式相場に買い安心感が広がった。
  ・また、中国人民銀行が厚めの資金供給を連日行っていることも改めて材料視。
  ・ただ、上値は重い。全国各地で電力需給がひっ迫し、一部エリアで電力供給制限が実施されている。中国景気の先行き不安がくすぶった。
  ・業種別では、不動産が高く、発電・石炭・石油も急伸した。反面、酒造・自動車など消費関連の一角は売られた。

 3)9/29、上海総合▲65安、3,536(亜州リサーチより抜粋
  ・中国の電力需給のひっ迫を受けて、主要企業が操業停止や減産などが相次ぎ、中国の景気鈍化が改めて意識される流れとなった。
  ・モルガン・スタンレーの最新リポートでは、中国の電力不足が企業業績にマイナスの影響をもたらすと指摘。電力供給制限の影響は、まずは素材業界に、続いて自動車・消費財・不動産・建設などに波及していく、と予測した。
  ・景気敏感株に売りが先行している。
  ・業種別では、石油・石炭の下げが目立ち、セメント・鉄鋼・非鉄の素材株も急落。反面、銀行株は高く、食品飲料・保険株が買われた。

●2.中国景気鈍化のなか、「電力危機は、不動産業界の苦境・洪水被害に続く経済的打撃」

 1)中国経済の成長鈍化が8月に鮮明化
               7月     8月
  ・小売売上高(前年比)  +8.5% ⇒ +2.5%に急減速。
  ・鉱工業生産(前年比)  +6.4% ⇒ +5.3%と伸び悩む。
  ・固定資産投資(前年比)+10.3% ⇒ +8.9%と鈍化。
  ・新車販売(前年比)は、8月▲17.8%減に落ち込む。
  ・半導体不足、IT企業の統制、ゲームの規制強化、教育分野の規制強化も加わって経済鈍化が鮮明化している。

 2)中国ネットメディアによると、
  ・9月中旬以降、全国31の省・直轄市・自治区のうち約20(広東・江蘇・山東・遼寧など)で工場の操業停止が起きている。
  ・停電で、信号やエレベーターが止まった地域もある。

 3)日本貿易振興機構(ジェトロ)広州事務所によると、広東省で180の日系企業に影響が出ている。(読売新聞)

 4)習政権の二酸化炭素排出削減指示が電力不足を招いた
  (1)電力不足を招いた政策目標
   ・2030年までに二酸化炭素排出量を減少に転じさせ、2060年までに実質ゼロとする国際公約をした。
   ・来年の北京オリンピックでの「青空の下での開催」で、中国イメージアップ策。
   ・石炭火力発電に替わる、ガス・水力・太陽光などの代替発電強化の遅れ。
 
  (2)要因
   ・中国では、電力の約3分の2を火力発電が占める。
   ・地方政府が指示を受け、二酸化炭素排出量の大きい火力発電の抑制に動いたのがこの度の停電トラブルを起こしたようだ。
   ・また、輸入石炭の主要国だった豪州からの輸入停止策も、石炭価格急騰と石炭供給に影響を与え、電力不足を起因させた1つと思われる。

●3.米シティ、2022年中国成長率予想5.5%⇒4.9%に引下げ、恒大問題が影響(ロイター)

 1)不動産開発大手・中国恒大集団の債務問題が広がり、当局が金利引下げ▲0.25%、銀行預金準備率の10月▲0.5%引下げなどの政策緩和を実施すると予想した。

●4.中国恒大の電気自動車・中国恒大新能源汽車集団の株価9/27急落(ブルームバーグより抜粋

 1)同社は「深刻な資金不足」と警告を発した。

 2)来年の大量生産開始計画が実現できない可能性が高まっている。

●5.中国恒大の危機で、英HSBCやスタンチャート銀行に損失も(ロイター)

 1)米JPモルガン・チェースの調査リポートで。

●6.中国不動産開発会社・融創中国(北京市)は資金繰り難が拡大、支援要請(ブルームバーグ)

 1)中国では当局の不動産市場に対する規制強化で、恒大集団が経営危機に陥るなど、不動産業界全体の苦境が深まっている。(時事通信)
  当局による報道規制も強まっており、融創に関する証券時報網のニュースもすでに削減された。

 2)融創の負債総額は6月末時点で約1兆元(約17兆円)と、恒大集団の1.97兆元(約33兆円)を下回るが、新たな危機の火種となりかねない。

 3)融創は現在、中国本土の100以上の都市で不動産事業を展開している。

●7.中国不動産大手・華夏幸福産業(河北省)にも破綻リスク(朝日新聞)

 1)グループで800億元(約1.4兆円)を超える社債の元本や利息を期限を過ぎても支払いできず。

 2)重大な経営リスクがあるとして、上海株式市場で最大5日間の取引停止となった。

●8.中国各地で停電や電力制限、信号や水道ポンプ動かず、習氏政策も影響 (朝日新聞)

●9.アップルなどのサプライヤー、中国で電力規制順守のため生産を一時停止(ロイターより抜粋

 1)中国では、石炭の供給削減や環境規制の厳格化に起因する中国の電力不足で、一部地域で重工産業が低迷し、中国の経済成長に悪影響。

●10.中国国家電網は9/27表明、電力不足の解消のため総合的な対策導入へ(ロイター)

 1)中国の東部と南部の主要産業地域では、電力不足が悪化し数週間前からメーカーの生産が制限されているほか、北東部の一部の一般世帯にも影響が広がり始めた。

●11.広東省で電力需給がひっ迫、週5日の操業停止も(NNA)

 1)広東省発展改革委員会は9/25、計画的な操業停止を企業に通達した。多くの工業企業が週4日の操業停止、場合によっては週5日の停止を命じられ、企業の生産活動に多大な影響が出ている。一般家庭にはエアコンの温度設定を26度以上とするよう協力を呼び掛けている。

 2)広東省では9月以降も高温が続き、平均気温は34.4度と、例年より2.2度高い水準。1~8月の消費電力は前年同期比+17.3%。

●12.中国人民銀行は、民間の暗号資産を全面禁止、刑事責任も追及(時事通信)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)9/27、日経平均▲8円安、30,240円(日経新聞より抜粋
  ・日経平均は小幅に反落した。
  ・米ブルームバーグは、9/27に「中国の不動産大手・融創中国が浙江省紹興市の当局に支援を要請した」と伝えた。中国不動産市場の低迷を改めて懸念した売りが増えた。
  ・政府が緊急事態宣言を解除するとの観測が強まり、経済再開への期待で空運や鉄道・観光関連など景気敏感株が買われた。一方、新型コロナ禍で買われた巣ごもり関連や医療関連は下げが目立った。
  ・自民党総裁選を前に政策期待が高まり、相場全体を下支えした。
  ・9月末の配当取りに絡んだ買いも入った。

 2)9/28、日経平均▲56円安、30,183円(日経新聞)
  ・中国経済の先行きへの警戒もあって幅広い銘柄が売られ、一時▲200円超下げた。
  ・米長期金利が1.5%台に上昇し、割高感が意識されやすい高PER(株価収益率)の成長株の一部が下げたのも相場の重荷となった。
  ・もっとも、売り一巡すると日経平均は下げ渋った。新型コロナ感染対策の緊急事態宣言を9/30に全面解除を正式に決めたため、経済再開をにらんで内需関連銘柄の一角が物色された。

 3)9/29、日経平均▲639円安、29,544円(日経新聞)
  ・前日の米株式の下落と、米長期金利の上昇への警戒感から、グロース(成長)株を中心に幅広い銘柄で売り優勢となった。
  ・今日は配当権利落ち日で、配当落ち分の▲181円が日経平均を下押しした。
  ・今日の自民党総裁選挙で上位2氏による決選投票となったが、『結局は派閥の論理で決着するのか』との批判から、衆議院選挙で自民党が苦戦する可能性があると警戒する投資家が多くなり、日経平均は下げ幅を拡大し一時▲850円超の場面があった。

●2.日本株は一定の範囲内での値動きのため、下落時は買いチャンス

 1)悪材料 : 海外の懸念材料が相場の重石
  (1)中国(経済成長鈍化の鮮明化、電力不足、不動産の経営不安)。
  (2)米国(テーパリング接近、債務上限、金利上昇、インフレ、景気後退)。
  (3)アジア(コロナ感染で部品生産低下)。
  (4)半導体不足(自動車・家電など生産減産)。
  (5)株式先物のシェア6割を超えるバークレイズの売り転換。

 2)好材料 : 日本国内事情
  (1)ワクチン接種率の進展と緊急事態宣言解除による正常化。
  (2)円安で輸出採算向上。
  (3)衆院選挙による株高の経験則。
  (4)金利上昇で銀行株に妙味。
  (5)9月株安⇒10~11月株高の経験則。

 3)下落した時は買い
  (1)カネ余り現象の継続(運用先として株式投資が魅力)。

●3.GPIFは、中国国債を当面投資対象にしない方針(ブルームバーグ)

 1)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、国際決済システムや流動性の面で「ポートフォリオ運営上のリスクが大きい」と説明した。

●4.日本政府は、日本郵政株の第3次売却(約9,500億円)を年内実施へ(ブルームバーグ)

●5.企業動向

 1)IHI    アンモニア使った発電事業へ、マレーシアの電力会社と連携(HNK)
 2)大手商社  伊藤忠、三菱商事、丸紅は、アンモニア事業を強化し二酸化炭素の排出量抑制へ(NHK)
 3)NTT    光技術で2040年度までに温室ガス排出量を実質ゼロ目標(NHK)
 4)中部電力  ベトナム民間電力「ビテクスコパワー」に20%出資(時事通信)
 5)NTTドコモ 電力事業に参入、「ドコモでんき」2022年3月開始(Impress Watch)

●6.企業業績

 1)スギ    8月中間決算純利益▲2割減(時事通信)
 2)乃村工芸  3~8月期純利益+7.2億円と予想+0.2億円から上方修正(日経新聞)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・1332 日水   業績
 ・3105 日清紡  業績好調。
 ・6289 技研製  国土強靭化銘柄。
 ・8308 りそな  金利上昇による利ザヤ増の期待。業績堅調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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