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日本製鉄のUSスチール買収、禁止命令で気になる今後の影響は?
●バイデン氏が日鉄のUSスチール買収中止を命令
米国のバイデン大統領が、日本製鉄によるUSスチールの買収に関して、国家安全保障上の懸念を理由に禁止を命じた。バイデン氏の判断を受けて、日鉄の株価は一時約3%下落し、USスチール株も6%超下落した。
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日鉄のUSスチール買収計画は、2023年12月に発表されたが、バイデン大統領も全米鉄鋼労組(USW)などの有力な労働組合も反対しており、トランプ次期大統領も反対の姿勢を示していた。
両社はこの命令を不服として、バイデン大統領らを提訴したと発表した。
買収計画はこのまま頓挫するのか、そして、両社はどうなるのだろうか?
●買収計画が頓挫すれば・・
日鉄からすれば、国内需要が頭打ちの中、USスチールの買収は渡りに船だった。
米国内にある高炉8基、電炉5基の生産能力は魅力的で、経営不振のUSスチールにとっても、買収により製鉄所の閉鎖や数千人の解雇を免れ、ウインウインの買収だった。
買収が成立すれば、世界第3位の鉄鋼メーカーの誕生となるはずだった。
日鉄は買収失敗によって、5億6500万ドル(約890億円)の違約金を支払う可能性があり、そうなれば今期の純利益が大幅に減少し、大きな痛手である。
今後両社だけでなく、日米関係にも大きな亀裂となる懸念もある。
●それぞれの思惑
任期終了前のバイデン大統領による決断の背景には、自らを「史上最も労組寄りの大統領」と呼ぶバイデン氏の思惑と、全米で約85万人の組合員を抱えるUSWへの民主党支持をつなぎ留めたいという思惑があるとの指摘もある。
昨年の米大統領選では、USスチールが本社を置く、“ラストベルト”の1つペンシルバニアでは、トランプ氏が勝利した。
トランプ氏も買収に反対していた1人だが、カナダやメキシコなどへの高関税を課すと表明しており、関税によって国内の需要が回帰し、USスチールを守るという思惑がある。
トランプ氏は6日にSNSで、「関税によってUSスチールの収益力と企業価値が高まる。なぜ売却するのか?」と買収に反対し、再建に自信を見せていた。
政争の具となりつつある今回の買収阻止だが、トランプ氏の思惑通りにUSスチールが再建できるかは不透明で、中国との競争を考えれば、方向転換を迫られる可能性も否定できない。
日鉄にとっては、訴訟しても決定が覆ることには大きな期待は出来ず、海外戦略の見直しを迫れる。
そもそも市場からは必ずしも歓迎されていなかった今回の買収劇は、新たな局面を迎える。(記事:森泰隆・記事一覧を見る)
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