相場展望5月23日 米国は金利上昇とインフレで、景気後退に突進 『過剰マネー相場終焉』で、株式市場に注目

2022年5月23日 10:42

印刷

■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)5/19、NYダウ▲236ドル安、31,253ドル(日経新聞より抜粋
  ・今週は低調な小売企業の決算発表が相次ぎ、インフレが企業業績を圧迫するとの懸念が売りを誘い、一時▲473ドル安、下げ渋ったがNYダウは年初来安値を更新した。
  ・百貨店のコールズの1~3月期決算は利益が予想に届かず、通期見通しも引下げた。ウォルマートやターゲットも市場予想を下回る決算で、市場ではコスト高が企業収益を圧迫するとの見方が強まっている。
  ・消費関連が売られ、ウォルマートは▲3%安と3日続落、ナイキ・ビザも安い。
  ・米長期金利低下を受けて金融が売られ、売上減少発表のシスコシステムズは▲14%安。

 2)5/20、NYダウ+8ドル高、31,261ドル(日経新聞より抜粋
  ・インフレと米連邦制度理事会(FRB)の積極的な金融引締めが、米景気を冷やすとの懸念から、下げ幅は一時▲600ドルを超えた。ただ、前日までに連日で年初来安値を更新しており、短期的な戻りを見込む買いが入り、引けにかけて急速に下げ渋った。
  ・NYダウは週間で▲934ドル(▲2.9%)下落し、8週連続、90年ぶりの連続下落。
  ・今週は小売大手が発表した決算で、燃料費や人件費などコスト増による収益悪化が浮き彫りになった。インフレと金融引締めが企業収益や消費の減速につながるとの懸念が広がり、投資家のリスク回避姿勢が強まった。
  ・多くの機関投資家が運用指標とするSP500は、1月過去最高値から下落率▲20%超となり、▲20を超えると弱気相場入りしたとみなされる。
  ・「足元で下げがきつかった銘柄を中心に、短期投資の売り方が買い戻した」との声。
  ・前日急落したシスコシステムズ、セールスフォース、J&J、コカコーラが相場を支えた。

●2.米国株:

 (1)米国は金利上昇とインフレで、景気後退に突進

 (2)『過剰マネー相場終焉』で、株式市場に注目

  1)米インフレは高水準での高止まりを予想
   ・小売大手のウォルマートとターゲットが決算発表をしたが、売上は堅調な伸びを示したものの、賃金・運輸コストなどの上昇を受け利益は予想値に届かず、期待から大きく外れた。加えて、堅調な売上ながら、低・中間所得者層がインフレの影響を強く受けていることも判明し、米景気後退に対する懸念が強まった。両社の売上高合計は7,000億ドルと大きいため、株式市場全体に影響を及ぼした。
   ・米国では5~8月は観光など自動車の活動でガソリン需要が増す。そのガソリン価格が高水準圏で推移しており、物価上昇の大きな要因となっている。その状況の中でのガソリン需要の高まりが加わるとことになり、家計や企業の負担が増すことになる。
   ・さらに、食品価格が天候不順やウクライナ情勢の影響から高騰している。
   ・家賃の上昇は遅効性があり、高騰が始まったばかりである。その家賃は、下方硬直性があり、物価上昇要因の3分の1を占めるだけに、インフレ抑制は難航が予想される。

  2)米連邦準備制度理事会(FRB)は6・7月と+0.5%の大幅引上げを予想⇒景気後退へ
   ・米FRBによる金融引締め(金利引上げ・量的引締め)は3月から始まったばかり。「遅すぎるFRB」の判断で、インフレが膨張した後での抑制となる。それだけに、インフレ退治は困難を極めるだろう。
   ・FRBの超金融緩和策が、強い需要を招き人手不足となり、求人件数が1,000万件を超えた。そのため、賃金上昇が年率5%超となり、企業負担が増した。企業は値上げで対応したが、インフレによるコスト高で企業収益悪化状況にある。
   ・家計もインフレの影響を受け、消費支出を抑える傾向が出ている。それが、企業収益にマイナスを及ぼすのはこれからとなる。
   ・FRBはインフレ退治を優先し、「景気後退はむしろインフレ抑制に貢献」と歓迎するだろう。それだけに、FRBの積極的な金融引締めは長く続くと予想する。FRBの金融量的引締め(QT)も6月から月額▲475億ドルで開始し、9月には倍増となる月額▲950億ドル(約12兆円)となり、市場から資金回収する。QTも金利引上げに寄与する。金利上昇と物価高の中での米国景気後退は始まったばかりである。

  3)米金融市場、特に株式市場に与える影響に注目
   ・コロナ禍を克服するためにFRBが取った政策が「超金融緩和」策である。それが『超過剰マネー相場』へと誘引し、『高株価はその申し子』である。
   ・今回のFRBの方向転換は、現在の『高株価終焉』となる可能性がある。米株式指数は年初高値から下落し、弱気相場入りの目安となる▲20%割れ近辺に位置する。
   ・FRBの金融政策転換は始まったばかりである。株式市場は6カ月先を見た動きをするといわれるが、FRBの引締め政策は1年以上続くと思われる。パウエルFRB議長は、「インフレ目標を現行+8%超⇒2%にする」というが、長くつらい道程である。株式市場もその影響は避けられないだろう。

●3.JPモルガン、米GDP予想を下方修正、株価下落で個人消費に打撃(ブルームバーグ)

 1)2022年7~12月期 3.0% ⇒ 2.4%
   2023年1~ 6月期 2.1% ⇒ 1.5%、 失業率 3.5% ⇒ 3.2%

 2)米国の2023年の景気見通し
  ・JPモルガン :ソフトランディング(軟着陸)を予想。
  ・ドイツ銀行 : 深刻なリセッション(景気後退)に陥ると予想。

●4.世界的なリスク資産売却はまだ始まったばかり=市場関係者の見方(ブルームバーグより抜粋

 1)懸念材料
  ・一段とタカ派的な米連邦制度理事会(FRB)
  ・ロシアのウクライナ侵攻がもたらすリスク
  ・中国での厳しい新型コロナ対策
  ・スタグフレーションへのリスク

 2)現象面
  ・MSCIオールカントリー・ワールド指数は弱気相場入りに迫っている。
  ・米国債利回りは2018年以来の水準付近に上昇。

 3) 市場関係者コメント
  ・サクソ・キャピタルのチャナナ氏は、「金融引締めは始まったばかり、スタグフレーションリスクも加わり、まだ序の口に過ぎない」。
  ・ACYセキュリティーズのベネット氏は、「世界的な経済減速を織込みつつあるが、まだ初期の段階。調整局面が半年~1年半か、3~6年とより深刻か分からない」。
  ・JPモルガンチェースのコラノビッチ氏は、「悪いことの殆どは今年既に起こった」。

●5.米株は一段安の可能性、バークレイズとゴールドマンが予想(ロイターより抜粋

 1)バークレイズ (1)米企業収益の圧迫 (2)中国都市封鎖 (3)ウクライナ戦争 (4)米金利上げ

 2)ゴールドマン (1)米経済2年以内に景気後退確率35% (2)株価は現在から▲11%安

●6.米物価高でFRBを批判高まる「対応の後手」、景気悪化との懸念も(共同通信より抜粋

 1)パウエル議長が、高インフレを「一時的」と見誤り、利上げを今年3月にずれ込み「対応が後手に回った」と問題視されている。

 2)FRBが重視する個人消費支出(PCE)物価指数は、3月に前年同月比+6.6%上昇と40年2カ月ぶりの大きさとなり、FRB目標の2%を大きく超えた。

 3)インフレによる景気悪化の懸念から5/18、NYダウは▲1,000ドル以上急落した。

●7.米カンザスシティー連銀総裁、株式市場「大荒れ」でも金融引締め変わらず(ブルームバーグ)

●8.米FRB副議長候補バー氏、「インフレは高すぎる。2%達成に尽力」(ロイター)

●9.米4月中古住宅販売561万戸、前月比▲2.4%減、金利と価格上昇が響く(ブルームバーグ)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)5/19、上海総合+10高、3,096(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済への期待感が相場を支える流れとなった。
  ・李克強・首相は5/18、景気下振れ圧力が強まる中、迅速果断な対応が必要との認識を示し、5月に導入が可能な措置はできるだけ早期に実施する必要があると強調した。
  ・政府関係部局は雇用やインフラ投資、産業支援、消費振興などに向けた政策を相次ぎ発表しているが、新型コロナ対策の行動規制強化が警戒され、指標はマイナスで推移。北京市や隣接する天津市では、新規感染者数が増加しつつあり、行動規制が強化。
  ・業種別では、不動産・ハイテクが買われ、酒造・食品・家電など消費関連が冴えない。

 2)5/20、上海総合+49高、3,146(亜州リサーチより抜粋
  ・前日の好地合を継ぐ流れの中、経済対策への期待感が持続し、投資家はリスク選好。
  ・中国人民銀行(中央銀行)が公表した5月最優遇貸出金利に関して、5年物が4.45%と予想4.55%以上に引下げられた。住宅ローンの金利や製造業への貸出金利が予想以上に引下げられ、市場は「当局は景気重視のタンスに転換した」との声。
  ・業種別では、消費関連・金融が高く、エネルギー・素材・運輸・インフラが買われた。

●2.中国4月住宅価格、主要都市7割で下落、経済減速で市況悪化(毎日新聞)

 1)中国政府は住宅ローン金利引下げや購入規制緩和を進めているが、テコ入れ効果は未知数だ。

 2)地方都市のほか、天津市や重慶市など大都市でも下落した。首都・北京市や南部の中心都市・広東省広州市では上昇、都市封鎖の上海市は横ばい。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)5/19、日経平均▲508円安、26,402円(日経新聞より抜粋
  ・米株式市場が主要3指数で大幅安となった流れを受け、東京市場でも値がさ株を中心に幅広い銘柄に売りが出て、一時▲700円を超える場面があった。
  ・その後、日経平均先物に短期筋の買いが入り、下値が切り上がった。
  ・米株式市場では小売企業の決算が予想を下回り、急速なインフレ進行を背景に景気減速懸念が強まった。米連邦制度理事会(FRB)の進める積極的な金融引締めが景気を冷やす「オーバーキル」になるとの警戒が強まり、東京市場でも投資家心理が悪化し、終日売り優勢。
  ・ヤマト・郵船・リクルートが大幅下落、IHIは年初来高値、コナミ・東ガスが上昇。

 2)5/20、日経平均+336円高、26,739円(日経新聞より抜粋
  ・前日▲508円の大幅安を受け、値ごろ感からファストやリクルートなど値がさ株を中心に自律反発狙いの買いが優勢だった。
  ・米国株先物の上昇、中国の金融緩和発表も支援となり、投資家心理を強気に傾けた。
  ・「日本株は、米国株と比較して打たれ強い」との指摘があった。
  ・自社株買い発表のエプソン、川崎汽船・日製鋼が高く、東ガス・東電が下落した。

●2.日本株:米国株に比べ、日経平均は堅調だが、個別株では3割下落株が散見

 1)外国人は、「株式先物では売り、現物株式は買い」が続いているが、合計の金額ベースでの「買い」はかつての力強さはない。国内勢の買いが、相場を支えている。日銀の金融政策へ、厳しい視線が集まり始めている。特に、超円安を起点に、日銀への風当りが強くなっている。

 2)外国人の日本株への寄与度の弱さを見ると、外国人は日銀の政策転換を注視しているからかもしれない。 

 3)日本を代表する注目銘柄で高値から大きく下落しているのが散見される
  ・6594 日本電産  ▲45%安
  ・6645 オムロン  ▲39%安
  ・6758 ソニー   ▲25%安
  ・6861 キーエンス ▲35%安
  業種的には偏っているが、日本を代表する企業で外国人保有も高いだけに注目したい。

●3.米国金利急騰で地銀の外債運用が苦境、61地銀で損益▲1,000億円悪化(産経新聞)

●4.企業動向

 1)エプソン   プリンターなど1,271品目を7/1から4~12%値上げ(時事通信)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・2412 ベネフィットワン 割安
 ・5726 大阪チタニウム  受注拡大期待
 ・6758 ソニー      成長期待

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

記事の先頭に戻る

関連キーワード

関連記事