相場展望6月20日 『底がみえない米国株』、下落は道半ば 米国株に比べ堅調な日本株も、日銀しだいで変調

2022年6月20日 09:48

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)6/16、NYダウ▲741ドル安、29,927ドル(日経新聞より抜粋
  ・NYダウは一時▲928ドルまで反落したが、終値は2020年12月以来安値となる。米連邦制度理事会(FRB)が6/15の米連邦公開市場委員会(FOMC)で通常の3倍に当たる+0.75%の利上げを決めたが、急激な金融引締めが景気後退を招くとの警戒が強まり、幅広い銘柄が売られた。SP500、ナスダックも年初来安値。
  ・FRBは2022年末の3.25~3.5%まで政策金利を引上げる見通しで、景気を冷やすもふかすもしない中立金利(2.5%)を大幅に上回る。
  ・市場では「大幅利上げはインフレ抑制より先に景気悪化を招く」との声があった。
  ・景気本感や消費関連の下げが目立ち、アメックスとナイキが▲6%安、シェブロンとキャタピラーは▲5%、アップルなどハイテクが軒並み売られた。業績に左右されないディフェンシブは底堅く推移し、P&GとJ&Jは上昇した。

【前回は】相場展望6月16日 米国株6/15の上昇は、大幅下げに対する「速度調整」 金利上昇⇒株の割高⇒株価下落シナリオの途上

 2)6/17、NYダウ▲38ドル安、29,888ドル(日経新聞より抜粋
  ・米原油相場が大幅下落してインフレ懸念が和らぎ、買い優勢になる場面があった。
  ・ただ、米連邦制度理事会(FRB)の急激な金融引締めが景気悪化を招くとの懸念は強く、上値が重い展開だった。
  ・3連休を控えてリスク回避の売りも出て、引けに掛けて下げに転じた。
  ・NYダウは今週▲4.8%安となり、週間の下落率では今年最大となった。
  ・6/17の米原油先物相場は▲7%安と急落し、一時1カ月ぶりの安値を付けた。原油価格の下落が続けば、ガソリン高に歯止めが掛かり、消費者心理は上向くと期待され、消費者心理が上向くとして消費・景気敏感が買われた。アメックス・+5%高・ボーイング、急落したハイテクにも押し目買いが入った。

●2.米国株:『底値が見えない米国株』、株価下落はまだ道半ば

 1)米消費者物価指数(CPI)は急上昇(5月で比較)
  ・2020年 +0.1% ⇒ 2021年 +5.0 ⇒ 2022年 +8.6
  ・パウエルFRB議長は、「物価上昇は一時的」と発言し、金融政策変更に否定的発言を繰り返し、インフレ高騰を招いた。イエレン米財務長官もインフレを「一時的」として、FRBの見方を支持してきた。この2人のミスリードで、米経済の「ソフトランディング」は無理になった。
  ・今やCPIは+8.6%と高水準すぎて、米経済は「ハードランディング」を回避できない。

 2)現在の株価は、「利上げと景気後退の恐れ」を織込みに始めた初期の段階にある。今後の株価の推移については、
  (1)『利上げと景気後退が、企業収益に与える影響』はこれから織込まれる
  (2)『景気後退の悪化が、現在の株価には十分に織込まれてはいない』
  (3)『過剰マネー相場を産んだがQEも、QTによる資金収縮が6月から始まり、9月には加速する』こともあるため、
株安はさらに続く可能性がある。

 3)米株式市場全体は、「弱気相場入り目前」にある。SP500は既に弱気相場入り
  ・NYダウ   1/4高値36,799ドル ⇒ 6/17終値29,888 = 下落率▲18.78%            
   SP500    12/27高値4,791   ⇒ 6/17終値 3,666 = 下落率▲23.48%
  ・チャートから見ると、NYダウも運用担当者が指標とするSP500も下げ止まるイメージがしない。つまり、現状からは「底値が見えない」状況にあると、思われる。

 4)今後のNYダウの予想底値
  ・NYダウの上昇幅は、コロナショックの最安値から+18,208ドル上昇した。
    2020年3月23日  18,591ドル
    2022年1月04日  36,799ドル ・・・+18,208ドル上昇
    つまり、コロナショックの安値から、NYダウは2倍になった。
  ・上昇幅+18,208ドルの下落率を38.8%とすると、下落幅は▲7,064ドル。
   ところが、1/4⇒6/17の下落幅は▲6,911ドルであり、ほぼ到達してしまった。この状況でチャートからは、「底が見えない」。
  ・FRBによる(1)金利引上げ (2)量的緩和の縮小(QT)は、始まったばかりである。
   インフレ率は5月で前年比+8.6%と、インフレ抑制が見えない状況にある。
  ・1/4高値から▲38.8%下落と見ると、NYダウは高値から▲14,278ドル下落となる。つまり、『NYダウ底値は22,521ドル』と試算される。1/4から6/17までの下落は、まだ「中間値」にあるといえる。
  ・なお、上げ幅の▲61.2%下落とした場合、下落幅は▲11,143ドル。『NY底値は25,656ドル』が予想値となる。6/17のNYダウから、さらに▲4,232ドル下がるという数値となる。

 5)FRBの金利引上げは6月の+0.75%を意識して、景気後退の懸念から「需要減少」を見込んでWTI原油先物など資源含む商品先物指数(CBR指数)が下落を見せ始めている。
  ・インフレ率が下がる可能性が出てきたことは朗報である。しかし、過剰マネー相場を引き起こしたFRBなど各国の中央銀行による量的緩和の縮小はやっとFRBが始めたばかりで、欧州中央銀行のECBも夏頃には縮小開始の予定である。
  ・市場が注目しているのは「金利引上げ・インフレ抑制」であり、『QTによる過剰マネー相場終焉』を織込んでいないと思われるので警戒したい。そう見ると、警戒はまだまだ続行すると思われる。

●3.米国株が示すリセッション確率は85%、政策ミスが背景に(ブルームバーグより抜粋

 1)JPモルガンチェースは、SP500が示唆する米国のリセッション(景気後退)確率は85%だと指摘した。米金融政策の誤りに対する懸念が背景にある、という。
 
 2)SP500は、過去11回のリセッションでは平均▲26%下落しており、それを基に分析し、警鐘を鳴らした。SP500は6/13に、高インフレと大幅利上げを巡る懸念から弱気相場入りした。

 3)「政策ミスやそれに続く政策反転の関する市場の懸念は強まっている」と言及した。

●4.サマーズ氏、FRBは「深刻さ過小評価」、失業率はるかに上昇と警告(ブルームバーグより抜粋

 1)サマーズ元財務長官のシナリオでは、失業率は現在3.6%だが「5.6%以上」となる。
 
 2)サマーズ氏は、「リセッション(景気後退)を経験することなくインフレ率が2.5%(5月は8.6%)に下がるとしたら、私としては非常に驚くだろう」とも述べた。

●5.売りの幅広さで前例のない相場、大恐慌まで遡るデータが示す(ブルームバーグより抜粋

 1)大恐慌にまでさかのぼるデータを見ても、今回ほど広範囲な損失に並ぶものはない。
  ・6/16まで下落の7営業日中5営業日で、SP500を構成する銘柄の90%以上が下落。
  ・これほどの幅広い下げが続いたのは史上初だった。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)6/16、上海総合▲20安、3,285(亜州リサーチより抜粋
  ・上海総合指数はこのところ急ピッチに上昇し、足元では約3カ月ぶりの高水準を切り上げていたため、利益確定売りが広がる流れとなった。
  ・原油安も重石で、需要減の警戒感で、昨夜のWTI原油先物は▲3.0%安と急落した。
  ・米金融当局が大幅利上げを決定するなか、景気が落ち込むと見られている。
  ・中国経済対策の期待感などが持続し、指数は高く推移したものの、中盤から下落した。
  ・業種別では、エネルギー関連の下げが目立ち、金融も安い、反面、ハイテクが急伸。

 2)6/17、上海総合+31高、3,316(亜州リサーチより抜粋
  ・上海総合は安くスタートしたものの、徐々に買い戻しが入り、中盤からプラス転換。
  ・ただ、上値は限定的。高インフレ抑制のため、米国や欧州各国が相次いで利上げに踏み切るなか、「引締めが経済成長を鈍化させる」と不安視された。
  ・業種別では、医療機械の上げが目立ち、バイク・非鉄金属が上げ、造船は安い。
 

●2.「奇跡の都市」深圳が暗転、中国経済の未来を暗示か(ロイターより抜粋

 1)過去40年間は、毎年少なくとも+20%の経済成長を記録、昨年10月時点で2020~2022年に深圳が世界トップの成長率を達成すると予想していた。しかし今では、米カリフォルニアのサンノゼにその地位を奪われた。

 2)深圳は人口1,800万人で、今も中国最大の輸出都市であるが、3月のロックダウンの影響で海外向け出荷が▲14%近く落ち込んだ。

 3)外国の商工会議所は中国政府に対し、海外人材が大量流出すると警告している。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)6/16、日経平均+105円高、26,431円(ZUU)
  ・前日の米国株が大幅高となったことから買い戻しを急ぐ動きで買い優先となったが、買い一巡後は節目となる27,000円を意識して上値が重くなると、手仕舞い売りに押されて上げ幅縮小となった。
  ・米国株高に連動して上昇したが、日本でも日銀の金融政策決定会合が開催されており買い上がるような雰囲気ではない。米国では悪材料出尽くしで買い戻しがあったが、買い戻しだけでもあり、日本では買い戻し一巡感が強まっていることもあり、戻り売りに押された。

 2)6/17、日経平均▲468円安、25,963円(日経新聞より抜粋
  ・世界的な金融引締めのリスクが改めて意識され、下げ幅は一時▲700円を超えたが、日銀が同日までに開催した金融政策決定会合の結果が伝わると下げ渋った。
  ・市場では「米国のインフレは容易に抑えきれず、景気を犠牲にしつつ利上げが長期化する可能性が高い」との指摘がある。 
  ・急速な金融引締めに伴う景気後退への懸念が改めて強まり、東京市場でも自動車・鋼といった景気敏感を中心に売りが出た。
  ・日産自・三菱自・JFE・日本製鉄の下げが目立ち、京王・小田急・明治が上昇した。

●2.日本株 : 米国株に比べて堅調な日本株も、日銀しだいで変調も

 1)日経平均の下落
  ・2021年9/14高値30,670円⇒2022年6/17時点25,963円=下落率▲15.34%
  ・米国株(NYダウ▲18.78%、SP500▲23.48%)と比べて、堅調といえる。

 2)日本株が堅調な要因
  ・FRBは金融引締め(利上げ・QT)を実施しているが、日銀は「金融緩和の継続」という中央銀行の政策の違いが「日本株堅調」の要因と見られる。

 3)日本でも物価高に焦点を当てた論調が加速し始めた
  ・物価高の要因は、(1)原油など資源・穀物の上昇 (2)円安による物価上昇の追い打ちである。
  ・特に、物価上昇を加速させている「円安」を導いている黒田・日銀の政策と発言が注目され始めている。
  ・黒田総裁の失言ともいえる記者会見・議会での答弁をきっかけとして、今年度に入って3回も大きな円安を招いた。
  ・黒田・日銀総裁が注視するのは「政府」であり「株価」である。『国民の生活苦』ではない、ことが明確になった。

 4)米FRB、欧ECBの「利上げ・QT」は世界の金融界の潮流となった。
  ・日銀は、いつまで、世界の孤高を続けられるか。
  ・速かれ遅かれ、世界の金融界の流れに従うしかない。
  ・なぜなら、日銀が誘導する「円安」が「日本のGDPを毀損」し始めているからだ。物価高は今年の春から秋に掛けて加速し、消費者は支出抑制を始めている。つまり、日本のGDPは縮小に向かっている。
  ・日銀は、過去の物価統計しか見ていない。先行きの物価がどうなるかを見た金融政策に移行しないと判断が遅れることになる。

 5)日本株の「堅調」は、いつまで続くか? 注視したい。
  ・『波乱含みの日本株』と見たほうが良さそうである。

●3.NTT、「勤務場所は自宅」「出社は出張扱い」、来月から新ルール(NHK)


●4.毎日新聞調査、「物価高苦しい」68%、内閣支持48%で▲5ポイント減(毎日新聞より抜粋

 1)物価上昇で、家計が苦しくなったと「感じる」が66%、「感じない」は17%。原油などエネルギー価格が高騰し、食料品などの値上げが続いている。

 2)岸田政権の物価対策については、「評価しない」は62%で、「評価する」の14%を大きく上回った。「評価しない」と回答した層の64%が内閣不支持だった。政府は4月に原油高・物価高に対する総合緊急策を決定したが、物価上昇が抑えられていないことへの不満が、内閣支持率下落に影響している。

■IV.注目銘柄(投資はご自身の責任でお願いします)

 ・2607 不二製油   業績堅調
 ・3401 帝人     業績堅調
 ・6768 タムラ製作所 業績好調

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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