待機老人問題 介護業界に見る新たな流れとは

2017年5月17日 11:54

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 老齢化社会。団塊の世代が全て65歳を迎える2020年には、65歳以上の高齢者が総人口の29.1%に達するという。その後も老齢化は進む。2050年には、人口の4割を占める見込みだ。

【こちらも】厚労省、入居条件変更した新制度下での特養への待機者は29万5000人と発表

 介護施設の入居を待つ「待機老人」問題が浮上している。高齢者対応の全てが「介護付き有料老員ホーム」「サ高住」など施設型ではない。「訪問介護」体制の充実など「在宅介護」の整備も進まなくてはならない。しかし、在宅介護の場合、介護される側(親)と介護する側(子供等)の間に「負担」という壁が存在する。「終の住いとし安心できる(介護)施設に」という老人層が少なくない。

 一方で、介護施設に入居し生活するためには費用が伴う。中小企業庁はこんな見方をしている。

 「30余年間コツコツと勤め上げ65歳時点で手にする厚生年金は月額約18万円。果たしてこれだけで施設入居が可能なのか。諸々考え合わせると“困難”に近い。在宅介護状況の整備と並行し厚生年金で可能な介護施設の増設も不可欠」

 週刊ダイヤモンドが斯界大手5位に数えられる企業の介護施設入居費用を試算している。入居後5年間にかかる総費用は5社の平均額で1,575万円。月額26万2500円。介護施設企業の8割は中小企業。大手資本と互角に戦うのは所詮、無理。「厚生年金18万円組」に施設入居は「夢」なのか。いま介護業界では3つの流れが入りかっている。斯界の大手による中小業者の買収。SOMPOホールディングスに代表される他業界大手資本のM&Aによる業界参入。力を蓄え成長してきた既存業者による全国展開。

 ウチヤマホールディングス(東証1部)を例に引く。介護付き有料老人ホームをはじめ7タイプの介護施設を全国展開中。最大の特長は「入居金ゼロ」。経営企画担当の山本武博専務はこう語った。
「高額の資金を用意できないため介護施設への入居が難しい高齢者が多い社会的背景を踏まえ、状況に対応するべく導入した施策です」

 同社が運営する介護付き有料老人ホームに入居し5年間が経過した場合の総費用は約810万円。月額13万5000円。介護保険を使用しても「18万円」の厚生年金で対応が可能。

 介護関連事業者以外からも「興味」深い動きが浮上している。

 昨年6月上場のキャリア。異色の人材仲介会社だ。09年の設立時から「人材」を高齢者に絞ってきた。「定年後に自身のキャリアを生かしたい」とする層と「キャリアを活用したい」企業の間に立ち事業を進めている。設立初年度の売上高8700万円が前9月期には85倍余の74億1500万円に達している。創業者社長の溝部正太氏は語る。

 「定年を迎えるシニア層は自分のキャリアを生かし働く機会を失うことで気力・体力・資力を削がれる。これを避ける事こそ介護の原点。」生き生きとした老後が強いては要支援・要介護を遅らせる。高齢化対応も広範な民活抜きには語れない。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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