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トヨタのPCU(パワー・コントロール・ユニット)。(画像: トヨタ自動車の発表資料より)[写真拡大]
トヨタ自動車の寺師茂樹副社長は4月3日に開催された記者会見の場で、トヨタのお家芸とも言えるハイブリッド車(HV)と電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)に係わる計2万3740件の特許を、30年末まで開放することを発表した。FCV関係の特許5680件は既に15年から20年まで解放されているが、同時に30年末まで期間を延長する。
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対象となる特許には電池以外の、HVのモーターやパワーコントロールユニット、システム制御関係全てが含まれる。電池はパナソニックとの協業であるため今回の対象からは外れている。
世界を驚かせたこの発表は、トヨタの真意を巡って様々な憶測が飛び交う状況を生み出した。開発中のバッテリー電気自動車(BEV)用プラットフォーム「MEB」を、他社に販売する計画を持つフォルクスワーゲン(VW)に対する対抗策と見る意見があれば、HV車を生産するメーカーを増やしてHV市場が拡大する主導権を狙っているとする見解もあった。
世界の自動車メーカーがEVへの傾斜を強めている理由は、ヨーロッパから始まった環境意識の高まりだ。17年7月にフランス政府が40年までに国内でのガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針を示し、イギリス政府も同時期まで完全に電動化されていない新車の販売を禁止する方針を明らかにした。環境問題にエネルギー問題が加わって、世界各国でZEV(ゼロ・エミッションヴィークル:一切の排出ガスを出さないEVやFCVを指す)を求める動きがますます高まっている。
従来から深刻な環境問題を抱えていた中国では、国民の環境意識の高まりを受けて、EVへの傾斜を強めており、消費者は減税、メーカーは補助金と言う形で政府からの補助を受けてきた。
中国は国内の新エネルギー車産業を育成する目的で、10年からEVの販売台数に応じた補助金をメーカーに支給してきた。メーカーはこの補助金を車両価格値下げの原資として使い、海外メーカーとの競合に対処してきた。加えて、大都市での自動車登録ではガソリン車が厳しい制限を受けているのに対して、EVは優先的にナンバーを手にすることができ、有料道路や駐車料金などの割引サービスもあるなど、EVが目に見える形で優遇されて来た。
他社の追随を許さないほどの特許で鎧(よろ)われたトヨタのHVは、中国の規制ではガソリン車として分類されてきたため、販売面では不遇の時代が続いていた。EVに露骨な肩入れをする中国に対しては、「自国の自動車メーカーを育成するためではないのか」と、うがった見方もされていた位だ。
ガソリンエンジンの分野で、中国メーカーが海外の先進メーカーに追い付くのは不可能だが、EVという新しい分野であれば対等な競争に持ち込めるはずだ、という思惑があると取り沙汰されていた。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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