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「1兆円の損失が出ても気にしない」ソフトバンクGが、1兆7000億円の損失を計上したら・・
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ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義社長兼会長は、4兆9,880億円の純利益を計上した21年3月期の決算に関して、「5兆円の利益が出ようと、1兆円の損失が出ようと気にしない」という趣旨の発言をしていた。発言を聞いた時の印象はスケール感に圧倒される思いだったが、今回の決算が1兆円の損失という壁をあっさりクリアしたことは、孫氏にとっても想定外の事態だろう。
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それでも、22年3月期の連結最終損失が1兆7080億円で、前期から6兆7000億円に及ぶ巨額の振れ幅に沈んだことを淡々と説明するところを見ると、本心ではそれほど堪えていないのかも知れない。
なにしろ、中国の武漢発祥と目されている新型コロナウイルス感染症が、世界で認知されてから既に2年以上の期間が経過しているにも拘らず、未だに根絶の兆しを見せていない。世界中でヒトとモノの流れを停滞させて来たコロナ過の前で存在感を見せて来たのは、ファイザーやモデルナのような製薬会社ばかりで、孫氏の慧眼で発掘されて来た企業にとっては逆風以外の何物でもなかっただろう。
決算前の締めくくりの時期に、米国金利の上昇や、ロシアによるウクライナ侵攻という事態が、低迷していた市況に更なる冷水を浴びせかけた。これも孫氏の投資判断の適否とは全く関係がなく、金利の上昇を除けば突発的で想定外の事態であったことは万人が認めるところだ。
ところが、どんな事態が発生しようとも結果を求められるのが投資会社の宿命である。疫病が蔓延しても戦乱が勃発しても、投資家にとっての関心事は最終損益と配分に集中する。
孫氏のかねてからの願望は、SBGの時価総額と、SBGの保有株式の価値から純有利子負債を控除した差額であるNAV(ネット・アセット・バリュー)が、同等程度の金額に収斂することだ。
22年決算時のNAVは18兆5000億円だったのに対して、12日現在の時価総額は7兆7400億円だから、SBGの株価がNAVの半値以下という状態に、孫氏は更なる鬱憤を募らせているかも知れない。だがNAVの過半を占めるのが、帰趨に不透明感が強いアリババで、残りはマーケットの洗礼を受けていないビジョンファンドの評価額の合計だから、SBGへのマーケット評価が伸び悩むのも故なきことではない。
投資環境の悪化により巨額の赤字を計上したと言っても、実態は評価損が増加しただけなので、本来キャッシュフローは発生しない。だがサウジとアブダビの政府系ファンド(SWF)がビジョンファンドに投資している合計600億ドルについては、投資資金としては異例なことに、7%の利払いが約定されている。投資資金に対する利払いは投資の成否に関係なく確定したものなので、帳簿上の評価額が変動するだけに止まらず、4000憶円程度の資金流失は避けられない。
孫氏が殊更に「手元現金等を厚くして、現在2兆9000億円を確保している」ことを強調するのも、マーケットの動揺を極力抑えたいという気持ちの表れだろう。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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