水面下での自動車メーカー間バトル

2021年6月9日 20:03

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Photo:スカイライン打倒を果たした「第6回富士TT」で激走する加茂・増田組サバンナ(マツダレース委員会アーカイブ)

Photo:スカイライン打倒を果たした「第6回富士TT」で激走する加茂・増田組サバンナ(マツダレース委員会アーカイブ)[写真拡大]

 昔、大阪で開催されたモーターフェスティバルの展示に関するエピソード。

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●常勝スカイライン

 レース界では当時、日産スカイラインGTRは常勝を誇り、それまで49連勝していた。

 そこで日産は、「記念すべき“50連勝目”のレース」に、傘下のディーラー首脳をサーキットに招待して、その瞬間を祝おうとした。しかし、その夢はマツダサバンナによって無残に打ち砕かれた。

●サバンナが連勝阻止

 1971年12月12日に開催された「第6回富士ツーリストトロフィー500マイル(富士TT)」において、加茂・増田組がサバンナで「打倒スカイライン」を実現、スカイラインの連勝記録は49勝でストップしたのだ。

 このレースには、日産からは北野・長谷見、星野・辻本、トヨタからは蟹江・見崎、マツダも片山・従野、寺田・岡本と、錚々たるレーサー達が参戦した。

 公式レース結果は
 http://www.jaf.or.jp/CGI/msports/results/n-race/detail-result.cgi?race_id=1734である。(JAF MOTOR SPORT許諾URL)

 その後日産は、スカイラインのレーシングカーを「スカイライン50勝」とかアピールして、モーターショーにも展示していた。

●モーターフェスティバルの目玉展示

 大阪で開催されたモーターフェスティバルにも、日産がスカイラインGTRレース仕様車を出展してアピールするのが明白であったので、少し悪戯心が出てしまった。

 当初は出展する予定は無かったが、輸送コストが嵩んでしまうのは覚悟の上で、この「スカイラインを“49連勝でストップ”させたサバンナ」の現物レーシングカーを、大阪に搬送する事にした。

●ショーの展示スペース割り

 主催者によって、展示スペース割りは、出展メーカー各社相互の抽選で決められる。

 抽選の結果、マツダのスペースは日産の隣で、ダイハツが日産の通路を挟んだ向かい側スペースを獲得した。

 マツダと隣り合わせになった日産は、主催者が決めた隣接ブースとの境界に設ける高さ制限を超えた「目隠し」パティーションの設置工事をしていた。

 これが「第一次:マツダvs日産」バトル勃発である。

●トヨタ、ダイハツ連合

 ところが、トヨタからマツダに対して、「ダイハツはトヨタグループで、一体性を持たせた展示をしたいので、展示スペースをダイハツと交換して貰えないか」との申し出があった。

 当方としては何等支障が無いので、快諾してダイハツと入れ替わったので、結果的には日産と通路を挟んだ真向いに展示する事になった訳だ。

 そこで「第二次:トヨタ・ダイハツ連合vs日産」バトルが勃発した。

 トヨタ・ダイハツ連合軍は、高さ制限を超えたパティーションに関して、早速日産に修正を申し入れていた。

●敗者の退場

 展示車両の会場搬入が始まり、日産はスカイラインGTRレース仕様車を自社のスペース中央に目玉的に展示して、一般市販車をその周りに配置しようとしていた。

 マツダは、日産のスカイラインGTRレース仕様車の真向いに、1台分スペースを残したままに一般市販車を配置した。

 そして、一段落着いたところで、最後に展示会場建屋のマツダ展示スペース一番近くの搬入口間際まで車両運搬車を着けて、建屋の入り口までサバンナレーシングのエンジンを掛けて乗り入れた。

 展示場建屋内は、エンジンを掛けての自走は出来ないが、車両運搬車から建屋入り口までの僅かな距離であってもレーシングカーの排気音は凄まじい。当然、展示会場に居合わせた各社の関係者の注目を集める事態となった。

 入り口まで乗り入れてエンジンを切り、スタッフに押して貰って、展示スペースの、「開けて置いた」スペース、つまり通路を隔ててスカイラインGTRレース仕様の真向いに展示した。

 直近のレースで、「夢の50連勝を阻まれた敗者スカイライン」と、「スカイラインの連勝を49でストップさせた勝者サバンナ」が向かい合う形の展示となる。

 日産は、そそくさとスカイラインを自社の展示スペースから運び出して、各社が合同して展示しているスペースに移動させ、そこに展示場所を移した。

 「第三次:マツダvs日産」バトルはこうして決着した。

 悪戯心を満たすだけで、輸送費用で少々贅沢をしてしまったが、身内のディーラーからは大いに歓ばれた。また、モーターフェスティバル来場者からも、大好評を博した。

 モーターショー等の業界全体の催しでは、メーカー間では表立った対立は無いが、舞台裏では火花を散らしているのが実情だ。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

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