小規模ロットで世界水準を目指す 白鶴酒造が神戸ワインに投じる数億円の意味

2026年3月1日 18:09

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記事提供元:エコノミックニュース

「大量生産」を捨てる老舗の決断。白鶴酒造、神戸ワインに投じる数億円の正体

「大量生産」を捨てる老舗の決断。白鶴酒造、神戸ワインに投じる数億円の正体[写真拡大]

今回のニュースのポイント

・設備規模の最適化:最盛期の収穫量(1,000トン)を想定した過剰設備を、現在の収穫量(約220トン)に合わせ、タンク容量を従来の3分の1(10kL)へ小型化・集約。

・高付加価値化への投資:数億円を投じ、独立温度調節機能付きの最新タンク19基と冷蔵倉庫を新設。区画別の小規模ロット醸造により、1本1万円超の価格帯を見据えた品質管理を徹底。

・醸造技術のシナジー:日本酒造りで培った精密な発酵管理技術をワインに応用。原料特性を最大限に引き出す体制を整え、成熟する酒類市場で「高価格帯・少量生産」の事業モデル確立を目指す。

 酒類市場が成熟局面に入り、老舗メーカー各社には高付加価値化と事業ポートフォリオの再設計が求められています。そうした中、日本酒メーカー「白鶴酒造」が2024年12月に神戸市の外郭団体(一般財団法人神戸農政公社)から引き継ぐ形で新規参入した神戸ワイン事業は、単なる話題づくりではありません。高品質・高価格帯ワインを安定的に生み出すための製造基盤を、地道に整え直す取り組みです。

 神戸ワイナリーは、年間最大1,000トンのブドウ加工能力を想定した設備を有していました。これは、当該地域における最盛期のブドウ生産量に合わせた設計であり、現在の収穫量である約220トンに対しては、過剰な規模であることが課題となっていました。

 こうした状況を踏まえ、白鶴が打ち出した解決策は、製造規模をあえて縮小することによる品質重視への転換です。同社は数億円規模の設備投資を行い、元のタンク容量の半分から3分の1に相当する10キロリットルのワインタンク19基を新たに導入します。各タンクには独立した温度調節機能を備えており、発酵中の品温を自動で管理できる点が特徴です。

 この設備更新によって可能となるのが、高品質・高価格帯ワインで行われている小規模ロット醸造です。品種別や圃場別、区画単位で仕込みを分け、それぞれの特性を丁寧に引き出す体制が整います。大量生産を前提とした設備から、品質を最優先する設計へと醸造の考え方そのものを転換した形といえます。

 品質管理体制の強化は、収穫後のブドウの管理工程にも及びます。新たに設置される冷蔵倉庫により、収穫後から搾汁工程までの間に起こりやすい品質劣化を抑制し、ブドウの品質を安定的に維持したまま醸造することが可能となります。醸造スケジュールに柔軟性が生まれることで、休日出勤の削減など、労務面での改善効果も期待されます。    一方で設備面だけでなく、日本酒の製造技術の応用による高付加価値化も期待されます。発酵管理や温度制御、原料の特性を見極める技術といった同じ「醸造酒」の日本酒で培った知見が、ワイン造りに活かされる余地は十分にあります。そのための基盤整備が、いま着実に進められている段階といえるでしょう。

 1本5,000円から1万円の価格帯のワインは、原料、設備、工程、人材が揃って初めてうまれるものです。白鶴酒造が神戸ワイン事業で進める取り組みは、派手な成長戦略ではありませんが、高品質ワイン市場で競争するための条件を一つずつ整える、堅実な投資と評価できます。(編集担当:エコノミックニュース編集部)

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