開発が進む量子コンピュータ その現状と今後の展望

2023年4月14日 11:27

印刷

 量子コンピュータに関するニュースが増えてきている。2023年3月24日に理化学研究所は、国産量子コンピュータのクラウド上での稼働開始を発表した。また4月7日には、そのコンピュータの愛称も募集している。

【こちらも】理研、国産量子コンピュータ初号機の愛称を募集

 それに先行して2021年7月には、国内初のゲート型商用量子コンピュータ(IBM製)が、稼働を開始している。こちらは、東京大学、川崎市と連携し、産官学共同で利活用の研究を図るものだ。

 量子コンピュータは、従来のコンピュータとは全く違った原理で動作する。原子や電子といった量子力学の性質を応用することで、スーパーコンピュータでも何億年とかかる計算を数分で処理してしまうと言われている。

 量子コンピュータも何種類かに分類でき、大きくはゲート型とアニーリング型に分けられる。前者は汎用的(アルゴリズムが確立されている必要があるが)に活用が可能であると考えられており、後者は「組み合わせ最適化」と呼ばれる問題に特化していることが特徴である。

 量子コンピュータはその処理性能から、従来は計算量が多すぎて解くことができなかったような問題や、超高速で計算する事象への適用が期待されている。具体的なケースの例としては、創薬やゲノム解析といった医療分野でのシミュレーション、複雑なデリバティブのプライシングや最適ポートフォリオ構築といった金融分野での活用が想定されている。

 但し、その実現にはまだ5~10年の時間がかかると言われている。その要因となっているのが、量子という極ミクロの世界を扱う技術が十分に確立していないことである。現段階では、ちょっとしたノイズにより計算エラーが発生することや、現実的な問題の解を得るために必要な量子ビット数が足りない等の課題がある。

 量子コンピュータが実際に活用できる段階になった場合、そのインパクトは計り知れず、既存ビジネスに大きなゲームチェンジをもたらすと言われている。先行者が総取りする可能性もあるため、個々の企業レベルだけでなく、国家単位での研究が進められている。

 中国や欧米は多額の政府投資をしており、中国は1兆円規模、ドイツは3,300億円、アメリカは1280億円というレポートがある(出典:デロイト トーマツ)。日本はそれに比べて投資規模は小さく、500億円となっている。

 同じゲート型の量子コンピュータでも、シリコン方式、超電導方式、イオントラップ方式、光方式、中性原子方式と複数あり、それぞれに長所短所があるため技術的趨勢の決着はついていない。その意味では、日本がこれから巻き返す可能性もあるだろう。

 また「量子コンピュータxAI」、「量子コンピュータx既存のコンピュータ」といった、組み合わせによる実ビジネスへの適用領域もあるため、まさに勝負はこれからといった様相である。技術の開発はある日突然劇的に進むことがあり、それにより一瞬で世界が変わってしまう可能性もあるため、今後も目が離せない。(記事:Paji・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事