弁護士の常識は、社会の非常識? (2) 弘中弁護士はゴーン被告に”落とし前”をつけるべきでは?

2020年3月19日 11:46

印刷

 「不愉快だ。どう落とし前をつけようか考え中」とは、カルロス・ゴーン被告(ゴーン被告)の弁護を担当していた、自称”無罪請負人”弘中惇一郎弁護士が記者の質問に答えた言葉だ。

【こちらも】弁護士の常識は、社会の非常識? カルロス・ゴーン被告逃亡に責任を負うべきは誰?

 ゴーン被告がレバノンへ逃亡した直後に”ゴーン被告に向けられた”発言であれば、多少乱暴な言葉遣いであっても、納得感は高い。実はこの発言は、ゴーン被告の逃亡を幇助したと嫌疑が掛かる米国人の署名が記入された面会簿を、東京地検が弘中惇一郎事務所から押収したことに対する発言だ。

 東京地検に対して、弁護士が”落とし前をつける”と、一般人にはあまり縁のない言葉遣いをしているのだから、穏当ではない。

 ゴーン被告の逃亡直後には、「寝耳に水で大変当惑している。報道以上に知っていることはない。保釈条件に違反する裏切り行為だが、気持ちが理解できないかといえば別問題」と答えている。赤っ恥をかかされた割には随分と鷹揚な発言で、違和感を覚えた人が多くても不思議ではない。

 ゴーン被告の海外逃亡事件に関連して、東京地検特捜部は1月30日、ゴーン被告と元米陸軍特殊部隊グリーンベレーのマイケル・テイラー容疑者(59)および、その息子のピーター・テイラー容疑者(26)を含む4人の逮捕状を取った。

 報道によると、ピーター・テイラー容疑者は19年7月から再三にわたり、東京都千代田区にある弘中惇一郎弁護士の事務所で、ゴーン被告と面談しているという。12月29日に米国で警備会社を経営するマイケル・テイラーと、その警備会社関係者と見られるジョージ・ザイェクがはるばるドバイから来日し、音響機器の搬送に使われる大型のケースにゴーン被告を潜り込ませ、日本を脱出した事件の伏線を構成するかのような重大な事実だ。

 息子がゴーン被告と再三面談して、父親が逃亡に関与していたと伝えられているにもかかわらず、この親子に共謀関係がなく、それぞれ独自の判断でゴーン被告と関わったと考える方が不自然だ。

 もちろん、”無罪請負人”を自称している弘中弁護士は、「共謀関係を証明する証拠がなければ、”共謀”は成立しない」と高らかに主張するのだろうが?

 ゴーン被告には日産が依頼した警備会社の行動監視が張り付いていた。ゴーン被告の保釈に際して東京地裁が認めた保釈条件では、外出先でゴーン被告が事件関係者と会って証拠隠滅工作をすることが阻止できない、ことを懸念して止むを得ず取った措置だった。

 ゴーン被告は19年4月に保釈されて以後、東京地裁に届け出た住宅周辺で何者かに監視され、外出先でも尾行されていると、弘中弁護士に申し出ていた。それを受けた弘中弁護士は、当該警備会社を軽犯罪法違反と探偵業法違反容疑で、刑事告訴すると12月25日に表明した。そのため、終日行われていたゴーン被告の行動監視は4日後の29日に中止されている。

 ゴーン被告は行動監視が外れるのを待っていたかのようなタイミングで、29日の昼頃住宅を出て新幹線を利用しながら、関西国際空港に向かっている。

 弘中弁護士が逃亡計画に合わせて、ゴーン被告の行動監視を辞めさせるために刑事告訴を表明した訳ではないだろが、ゴーン被告との良すぎる連携に違和感を覚えることは当然だ。庶民たる筆者は、「ここまでコケにされていたら、”落とし前をつける”べきはゴーン被告に対してだろう」と考えるが、弁護士は違うのだろうか?(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事