米軍アフガン撤退の影響と、バフェットも指摘するESG投資との不都合なアンバランス 後編

2021年8月18日 08:01

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 世界の警察であることを止め、パリ協定を脱退するなど、時流に逆らうような反グローバリズムかつナショナリズム回帰の姿勢は、決してトランプ前大統領の独自路線ではなく、国力の振り先を考え直し、アメリカを再び強い国に戻さなければならないという原点回帰の時期が来たと解釈したほうがよい。

【前回は】米軍アフガン撤退の影響と、バフェットも指摘するESG投資との不都合なアンバランス 前編

 ともあれば、まず俎上に載るのが、アフガニスタンからの米軍撤退となる。これはトランプ政権の公約でもあった。ではなぜアメリカは、中東の原油に固執しなくなったのだろうか。それは、アメリカにおいて「シェール革命」が起こったからである。

 2000年代後半より、アメリカでは「シェール」と呼ばれる種類の岩石の層に含まれている石油や天然ガスを掘削できる、新しい技術が開発された。結果として、今やアメリカは、サウジアラビアやロシアと並ぶ世界最大規模の原油生産国となったのである。もはや、原油の利権に興味はない。

 しかしながら、「対テロ」という大義名分やタリバンの女性蔑視の圧政などを掲げて、つまりはグローバリズムを味方につけながら戦いを続けてきたアメリカにとって、原油の利権が不要となったので撤退するという主張は通らない。

 ましてや、国際連合というグローバリズムの象徴が掲げるグローバルコンパクト、SDGs (持続可能な開発目標)、そして、ESG投資(従来の財務情報に加え、環境・社会・ガバナンスの要素を考慮した企業への投資)などの考えには逆行したものとなってしまう。ESGのS(social)が持つ意味には、人権対策や女性活躍の推進も含まれる。

 中国におけるウイグル人問題の議論が活発となり企業の対応が揺れるなかで、女性蔑視が大きな問題となっているタリバンの復権を容易に見逃したアメリカに対して、批判の声が上がることは容易に想像できる。アメリカ政府のアフガン放棄によって、ESG投資に懐疑的な動きが出てくる可能性もゼロではない。

 かのウォーレン・バフェットはESG投資にそもそも否定的な立場であり、会社の利益は株主のためにあるという原理原則に従って考えを述べている。つまりは、ESGを念頭においた投資、たとえば脱炭素を推奨する企業にとっては、その目的を達するまでに多大な費用がかかる。その費用を負担するのは投資家であり、消費者であるという考えである。

 この考えはある意味全うに聞こえるが、この考えを企業ではなく国として考えてみれば、まさに自国第一主義、個人主義、ナショナリズムにつながりはしないだろうか。ともあれば、グローバリズムの考えに基づくESG投資は、EUを脱退したイギリスにとっても、アフガンから撤退したアメリカにとっても、居心地の悪い不都合なアンバランスとなる。

 もちろん、株式市場にとっては「テロの脅威」が地政学的リスクにつながることも念頭においておきたい。アフガン撤退がテロリズムの勝利という思想につながれば、今後もアメリカのみならず、各国がテロの脅威にさらされることになるだろう。

 アメリカ同時多発テロの際には、翌日から世界的な株安となり、アメリカ市場が休場に追い込まれたことからも、再び「テロの脅威」に対してセンシティブとなり、価格が乱高下するような時代が戻ってくるかもしれない。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る

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