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新型コロナウイルスで見える米中関係(1)【中国問題グローバル研究所】
*16:46JST 新型コロナウイルスで見える米中関係(1)【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信しているフレイザー・ハウイー氏の考察を2回に渡ってお届けする。
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米中間で第1段階の貿易合意が成立したのはわずか5週間前だが、随分昔のことのように思える。合意は米中関係の再出発になるはずのもので、焦点は合意内容の実施と遵守だった。米国の農家は中国からの買い付け保証に活気づいた。当局関係者は第2段階の交渉について聞かれると、交渉に入る緊急性は高くなく、その時期は米大統領選後になるかもしれないとして、当面は第1段階合意の円滑な実施確保が目標であることを示唆した。
しかしその後、正式には「Covid-19」と呼ばれる「武漢インフルエンザ」が、中国のあらゆるニュースを呑み込んでしまった。貿易合意で当時どんな約束がなされたにせよ、中国では人口の半分がこの1カ月間ほとんど外出していない。貿易合意がどんな段階にあったとしても、中国はもちろん、アジア全体の人々にとって、それは生存や安全の確保に比べれば二の次になった。新型コロナウイルスの影響は、中国が実施した前例のない措置への反応も含めて、全世界に広がっている。豪州クイーンズランドの畜産農家は、中国向けの冷凍肉を出荷できない状態になっている。中国の港湾が波止場の荷動き全面停止で満杯になっているからだ。世界の国々が中国人の入国を禁止した。韓国、日本、タイ、シンガポールなど近隣諸国の国民も、各国から入国禁止や隔離の制限を受けている。シンガポールでは、中国への渡航歴があるだけでなく、今後5カ月以内に中国を訪問する可能性のある市民にも詳細の報告を求めている。
このウイルスの発生で、米中関係や第1段階の貿易合意はどうなるのだろうか。米国との貿易合意における購入約束を中国が守れるかどうか疑問が高まっているが、それは驚くに当たらない。貿易合意の調印後数週間は、経済全体に幅広く及ぶ景気刺激策が発動されていた上、新型ウイルスの影響は比較的短期間で終結すると予想されていたため、通年の経済成長率や企業業績はさほど影響を受けないとみられていた。株式市場には明らかにこうした見方が反映されていた。経済が停滞する中でさえ、米金融会社オークツリー・キャピタルは、中国の巨大な不良債権市場に参入するライセンスを確保したと発表した。その背景に、貿易合意第4章に金融サービスの取り決めがあったことは明らかである。つまり、期待されていたように少なくとも一定の進展はあったということだ。
またトランプ大統領が最近、対欧州貿易に注目すると発表したことも、米中関係がかつてほど問題ではなくなっていることを窺わせた。トランプ氏は、大統領選のシーズンに入るために合意に調印したのであって、彼にとっては既に済んだ仕事だった。
しかし、「Covid-19」が米中関係を平穏にさせなかった。ウイルスの感染拡大が続くにつれて不信感も高まった。感染拡大に対する当局の対応や、発生初期段階の管理の在り方に不信感が広がり、中国は米政界の有力者に援軍を1人も作れなかった。米国家経済会議(NEC)のラリー・クドロー委員長は、中国による情報共有の欠如や、米疾病対策センター(CDC)が中国の現地状況を完全に把握できないことに対する米政府の失望を率直に表明した。クドロー氏は、貿易合意については依然評価しているが、中国側の協力欠如に対する自らの不満を隠そうとはしなかった。米国にはもっと極端な意見もあり、生物兵器の暴走とか、武漢の研究所からウイルスが流出した、といったことを公然と主張する者もいる。世界の専門家たちは、生物兵器に関する臆測を否定しているが、中国の統計や透明性に対する不信感がこのような臆測を煽る事態を招いている。中国当局が1月初旬から中旬にかけて情報を隠したのは確かで、武漢で重症急性呼吸器症候群(SARS)のようなウイルスが発生した可能性を懸念した医師を弾圧した。透明性に関してこれほど暗い経緯があると、たとえ証拠がなくても最悪の状況を人々が信じ込んでしまうというのも、驚くに当たらない。
中国の王毅外相はこのほど各国に対し、中国との国境を再び開放して人や物資の流れを再開するよう促した。しかし、中国自身が何億人もの国民を対象に隔離や移動制限を実施している状況では、外相の言葉を額面通り受け取る者は誰もいない。中国からの観光客や投資にとって重要な市場となったシンガポールのような国が、中国人観光客への門戸を最初に閉ざした国の一つになったことを、中国の人々はとりわけ厳しく感じているに違いない。しかしシンガポール政府が、王毅外相やその他政治局委員の多少の発言に左右されることはないとみられる。シンガポールは自国の利益を第一に行動するがゆえに、中国人観光客をすぐには受け入れないだろう。
「Covid-19」は、現在の米中関係の一部にすぎない。先に開かれたミュンヘン安全保障会議(MSC)で、米国のマイク・ポンペオ国務長官とマーク・エスパー国防長官はともに中国に対して非常に厳しい言葉を口にした。
ポンペオ長官は「中国はベトナム、フィリピン、インドネシアの排他的経済水域を侵犯している。その点において、中国は国境を接するほぼすべての国と、国境または海洋の紛争を抱えている」と述べた。さらに、「そして、もう一つの領域、サイバーセキュリティについても少し話そう。中国政府が支援するファーウェイなどのハイテク企業は、中国情報機関のトロイの木馬である」と続けた。
エスパー国防長官も率直さでは引けを取らず、中国政府はファーウェイを通じて「邪悪な戦略」を実行していると指摘、さらに国際社会に対して、「長年にわたる国際ルールに基づく秩序を操ろうとする中国の挑戦に対して目を覚ます」べきだと警告した。
(「新型コロナウイルスで見える米中関係(2)【中国問題グローバル研究所】」へ続く)
写真:ZUMA Press/アフロ
※1:中国問題グローバル研究所 https://grici.or.jp/《SI》
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