テスラはなぜCATLのLFPをモデル3に採用するのか

2020年3月2日 20:33

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 テスラが、中国のEV向け電池最大手・寧徳時代新能源科技(CATL)と、「コバルトフリー」の電池をモデル3用に採用すると一部で報道されている。関係者によれば、「コバルトフリー」の正極材としてリン酸鉄リチウム(LFP)が使用されているという。本記事では、EV用電池の正極に通常用いられている材料と比較して、エネルギー密度が低いLFPがなぜ採用されたかについて解説する。

 通常のEV用電池に採用されている正極材は、エネルギー密度の高いNCAやNMCといったものである。NCAは、ニッケル・コバルト・アルミニウム系の酸化物で、NMCはニッケル・マンガン・コバルト系の酸化物だ。航続距離を確保するためには、NCAやNMCといった高エネルギー密度の正極材を使用することが必要不可欠とされてきた。実際にテスラがこれまで採用してきたのは、パナソニック製のNCAリチウムイオン電池である。

 一方で、NCAやNMCはコバルトを使用しているため、コストや資源の面に問題がある材料とされてきた。これらの材料でコバルトの組成を減らしたりゼロにしたりすると、導電性が悪くなり高電流での充放電が難しくなる。つまり、EVに必要な出力が出せず、急速充電にも対応できなくなるのである。そのため完全にコバルトフリーを実現するには、LFPなど他の正極材を使用するしかない。

 LFPはエネルギー密度が低く、電池パックのコンパクト化がしにくいというのがEVに使用する際の課題である。また、エネルギー密度が低いことは、1Whあたりのコストも必然的に高くなることにもつながる。実際、NCAやNMCはコバルトを使っているにもかかわらず、平均的な1Wh当たりのコストはLFPよりも低い。

 だがテスラのEVの場合は、単価も高く、電池パックがコンパクトでなくてもよい車体設計となっている。そのため、上記のような問題がそれほど障壁にならずLFPを採用できたと考えられる。また、CATL独自の「Cell to pack」と呼ばれる技術で、電池パックの高密度化が可能になったことも大きい。

 さらに、CATLの生産するNMCやNCAの電池は、パナソニックの電池より品質が劣るという問題もある。NMCやNCAは「熱暴走」による発火や爆発が生じやすい正極材で、安全性を確保するには高度な技術が必要である。しかし、CATLのNMC、NCAの電池はテスラの要求する安全性を満たせなかったため、LFPを選択せざるを得なかったとも考えられる。

 上記のネガティブな要因の他に、LFPを採用することで電池寿命が伸ばしやすくなるということも、要因として挙げられる。LFPはNMCやNCAと比較してサイクル特性に優れていることが、テスラの戦略とマッチした可能性もある。長寿命なEV用電池を採用することによって、長距離走行が求められる車両にも応用が期待される。

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