関連記事
【経済分析】騰落レシオ150%は危険サインか?
【6月23日、さくらフィナンシャルニュース=東京】先週は日経平均が週間で250円上昇し、15300円台まで回復してきました。
一方で、相場の基本的なテクニカル指標である東証一部の騰落レシオ(25日移動平均)が20日には151.6%と昨年5月以来の150%台まで上昇し、相場の過熱感を気にしている投資家も少なくないと思います。
一般に、騰落レシオが120%を超えると「買われ過ぎ」のサインとされていますが、それが150%まで上昇したことは、果たして相場の調整が近いことを知らせる兆候なのでしょうか。
実は、騰落レシオが150%を超えたのは、2000年以降では、2010年4月と12月、2012年12月、2013年5月のたった4回しかありませんでした。
この騰落レシオと株価の関係をこのグラフで調べてみると、2つのパターンがあることに気づきます。
1つは、2010年4月や2013年5月のように、騰落レシオが150%を超えて間もなくピークをつけ、その数日後に株価がピークを迎えるケース(グラフのA)です。このケースでは、150%まで上昇した騰落レシオが相場の調整が近付いていることを教えてくれるサインとなりました。
もう1つのパターンは、2010年12月や2012年12月のように、相場が底を打って上昇に転じると同時に騰落レシオも一気に上昇し、相場のピークではなく、むしろ相場の底に近いところで(相場の底打ちから約1か月後に)150%に達するケースです(グラフのB)。
このBのパターンに共通するのは、その前の相場の低迷期間が長かったことで、その原因は景気動向にあったとみられます。2010年の時には9月のエコカー減税の期限切れに伴う乗用車販売の落ち込みで、自動車メーカーが減産したことから景気が一時踊り場に入りました。11月に生産が回復に転じると同時に株価も上昇に転じ、騰落レシオは翌12月に150%まで一気に上昇しました。
2012年の時も同様に、4月から後退局面に入っていた景気が11月に底を打つと同時に株価も上昇に転じ、翌12月に騰落レシオは150%を超えています。ちょうどアベノミクス相場が始まって間もない時期でした。このBのパターンは、景気が低迷を脱して回復に転じたことで相場も一気に動意づき、その結果騰落レシオが150%まで急騰したと解釈できます。
上昇相場の初期に現れるBのパターンでは、騰落レシオ150%はAのように相場がピークを迎えるサインではなく、逆に相場が本格的な上昇に転じるサインと見ることができます。
さて、今回はこのAのパターンとBのパターンのどちらに該当するのでしょうか。
年初から軟調に推移していた相場が5月後半から上昇に転じると同時に騰落レシオも一気に上昇し、約1か月に騰落レシオが150%に達しているので、Bのパターンであると考えることができます。
これを景気動向と関連付けると、年明け以降の相場の低迷は消費増税に伴う駆け込みの反動で景気が一時的に落ち込むことを織り込んだためであり、相場が5月後半から上昇に転じたのは、景気が消費増税の影響を脱して持ち直しつつあることを反映したものである、と考えることができます。
今回騰落レシオが150%まで上昇したのは、消費増税の影響という景気の先行き不透明要因が払拭されたことにより、相場が一気に動意づいた結果であり、必ずしもそれを相場の調整が近々始まるサインとみる必要はなさそうです。
ただ、今回は、過去2回のBのパターンと同じように、相場が本格的な上昇局面に入るサインであると単純に捉えることにも問題があります。
今回の場合には、2010年や2012年のように景気が循環的に回復に転じたというよりも、消費増税前の駆け込みと反動という特殊な一時的要因で景気が落ち込んだもので、景気が回復したというよりも元に戻った、と言った方が適切だからです。景気が循環的に回復に転じたのであれば回復に持続性があるので、上昇相場が続くことが期待できますが、今回は消費増税の影響で一時的に落ち込んだ景気が元に戻ったあとも回復が続くかどうかは保証の限りではないからです。
その点で、今回とよく似ているのが、東日本大震災により景気が一時的に落ち込んだ2011年の春から夏にかけての株価と騰落レシオの動きです(グラフのC)。震災の影響で株価は6月前半まで低迷が続きましたが、景気が震災の影響から立ち直るとともに6月後半から上昇に転じ、1か月後の7月前半に騰落レシオは150%には届きませんでしたが145%まで一気に上昇しました。しかし、株価の上昇は続かず、その後再び下落に転じました。2011年後半の欧州や新興国の景気減速の影響を株価が織り込み始めたためです。
このように考えてくると、今回騰落レシオが150%の大台にのせたことは、相場に過熱感が強く調整入りが近い警戒サインと捉える必要はないものの、かと言って、上昇相場が開始したサインと単純にみなすこともできない、それ自体なかなか投資判断の材料にはしにくい数字ではないかと思います。
目先の相場にとって、騰落レシオよりもむしろ警戒すべきサインと私がみているのが、このグラフに示した海面水温の動きです。
4/21のブログでは、株価に平均4ヵ月先行している海面水温の動きから、「株価は5月にいったん底を打って急ピッチで戻る可能性があるが、上昇は続かず、高値更新は難しいのではないか」と予想したわけですが、足元の株価はまさに4か月前の海面水温が示唆していたような動きとなっています。
海面水温は今年2月をボトムに急上昇(グラフでは逆メモリになっているため急低下)しており、5月以降の上昇分を完全に打ち消すような下げ相場がやがてやってくることを暗示しています。
そのような「変化」がいつ訪れてもおかしくない。それが私の現在の相場観です。【了】
野田聖二(のだせいじ)/埼玉県狭山市在住の在野エコノミスト
1982年に東北大学卒業後、埼玉銀行(現埼玉りそな銀行)入行。94年にあさひ投資顧問に出向し、チーフエコノミストとしてマクロ経済調査・予測を担当。04年から日興コーディアル証券FAを経て独立し、講演や執筆活動を行っている。専門は景気循環論。景気循環学会会員。著書に『複雑系で解く景気循環』(東洋経済新報社)、『景気ウォッチャー投資法入門』(日本実業出版社)がある。著者のブログ『私の相場観』より、本人の許可を得て転載。
■関連記事
・【コラム 金澤悦子】正しい『自分探し』のススメ
・【コラム 黒薮哲哉】小沢一郎氏の不正議決事件に見るメディアによる世論形成 最高裁事務総局の責任は自然消滅
・【お知らせ】本誌コラムニストの山口三尊氏が出席する株主総会
※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
スポンサードリンク