治療薬輸送高分子ミセルの生理食塩水中での相互作用を解明~生体内での治療薬輸送挙動の詳細予測が可能に
配信日時: 2026-01-22 14:00:00
千葉大学大学院理学研究院の森田 剛 准教授、同大理学部の高松 駿佑 氏(研究当時)、同大大学院薬学研究院の齋藤 美波 氏、東 顕二郎 准教授、長浜バイオ大学バイオサイエンス学部の今村 比呂志 助教、室蘭工業大学大学院工学研究科の墨 智成 教授の研究グループは、優れた治療薬送達作用を持つドラッグナノキャリアとして重要な高分子ミセルについて、生理食塩水中でのミセル間相互作用を精密に定量化することに成功しました。これにより、より生体内条件に近い環境で、特徴的な治療薬の輸送や放出の挙動についての基本メカニズムの理解や予測が可能となりました。さらに今回の結果から、生理食塩水中に含まれる浸透圧調整物質(イオン)が、高分子ミセルなどの治療薬輸送の特性や徐放性に寄与している可能性も示唆されました。
この成果により、今後のドラッグナノキャリアの研究において、難溶解性治療薬の薬理効果を高め、治療薬投与における身体的・精神的な負担を軽減する技術の高度化などへの貢献が期待されます。
本研究成果は、2025年12月9日に、学術誌Journal of Colloid and Interface Scienceでオンライン公開されました。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/1110/15177-1110-62e5472db17863f9c05585a6b4fc2c8f-1447x1760.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:(a) 重要なドラックナノキャリアであるポロキサマー407の化学構造。三つの部分から構成され、両端に生体親和性にも優れた親水性部分、中央に疎水性部分を持つ。(b) 温度の上昇にともなうミセル化、ゲル化、および、ゲルの構造が崩壊する脱ゲル化の挙動。親水性・疎水性部分の色分けは(a)の図と対応。
■研究の背景
高分子ミセルは、高分子の鎖同士が自己集合し、例えば水溶液中では疎水性の部分が内側(コア:図1のオレンジ部)、親水性部が外側(シェル:図1の水色部)に配置された構造を持つ集合体です。図1は、両端が親水性部、中央に疎水性部を持つ「ポロキサマー407(P407)」とよばれる高分子鎖について、水溶液中でのミセル化、ゲル化、脱ゲル化の様子を、粘度変化とともに示しています。食品のゼリーなどとは逆で、温度の上昇によりゲル化し、ゲルは体温付近で最も安定になります。
近年、創薬研究において高い薬理効果を示す化合物の複雑化、分子サイズや疎水性の増加が顕著になり、服用に際する水への溶解性の低下が問題となっています。これを解決するため、様々な改善方法が研究されており、高分子ミセルによる包含もその一つです。疎水性の治療薬が、同じく疎水性であるミセルのコア部分に多量に包含されることで溶解度が大幅に改善されます。
さらに、一部の高分子ミセルは、優れた徐放性を持つキャリアとして知られ、治療薬による副作用の軽減や投与回数を減らすことにつながり、治療薬投与に際する負担を大きく和らげることができます。優れた徐放性は、図1bに示すゼリー状の固体であるゲル内で、ミセル間に特徴的な引き合う力が生じることによる特殊な安定性に起因しているとされています。
しかし、実際の生体内環境下や生理食塩水中において、どのような相互作用がミセル間に生じているかは解明されていませんでした。これは、高分子ミセルそのものの構造の複雑さに加え、生体内や生理食塩水中での複雑な環境においては、従来多く用いられてきた粒子間相互作用をモデル関数に基づいて表す手法では正確な情報を得ることは難しく、根本的な仕組みの理解には至っていなかったためです。
■研究の成果
そこで本研究では、特別に設計・製作した装置を用いた放射光X線散乱測定などによる精密な実験データと解析理論を融合させた独自の手法を適用することで、生体内環境を想定し、生理食塩水中における高分子ミセル間の相互作用の解明に取り組み成功しました。実験は、生体内環境での実験に広く用いられるリン酸緩衝生理食塩水PBS(−)中において、小角X線散乱法とよばれる実験手法で得られる数~数百ナノメートル程度(メゾスケール)での構造情報に、動的光散乱法により得られる単独のP407高分子鎖やミセル、これらの集合状態に関するサイズ等の構造情報を組み合わせることによって、ミセル同士の互いの位置関係を表す構造情報(構造因子)を計測解析し、この構造因子に基づいてミセル間相互作用を計算しました。
その結果、ゲルが形成される段階において、水中より生理食塩水中でミセル間の相互作用を表すグラフがマイナス側に大きな値を示しており、引力的相互作用が水中より生理食塩水中で強くなっていることが示されました(図2)。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/1110/15177-1110-3cbf90135e36919c1a93ab62d5762ff1-1054x551.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2:生理食塩水中での高分子ミセル間のゲル化段階やゲルの崩壊過程での相互作用場。横軸はミセル間の距離を示し、縦軸はマイナス方向が引力的な相互作用が強いことを、プラス方向は斥力的な相互作用であることを示す。 (左図) 水中での高分子ミセル間の相互作用場で、22℃、24℃、26℃がゲル化温度より低温でのゲル化段階であり、65℃と70℃はゲルが崩壊し非晶質の集合体に相当する状態。 (右図) リン酸緩衝生理食塩水PBS(−)中での高分子ミセル間の相互作用で、22℃と24℃がゲル化温度より低温でのゲル化段階であり、65℃と70℃はゲルが崩壊し非晶質の集合体に相当する状態。各相転移温度は、粘度測定(図1b)により決定。水中より生理食塩水中で、縦軸がマイナスにより大きな値を示しており、引力的相互作用が水中より生理食塩水中で強くなっていることを示している。
また、高分子ミセル、例えばP407は、結晶相であるゲルを形成する過程において、Alder(アルダー)転移とよばれる乱雑さの相違のみに起因し、非晶質(ゾル)から結晶相(ゲル)への変化を示しますが、関連した基本原理として、この結晶化過程では系を構成する粒子がより整然と整列しつつも粒子周囲の空間が増すことが知られています。本研究において、高分子ミセルのゲル化の過程で、ミセル間が互いに距離を離す挙動が突き止められました。例えば、図2の右図で、生理食塩水中での22℃(青線)から24℃(緑線)の変化において、安定化する位置や緑矢印部分の極小点位置が24℃で遠方にあります。この挙動から理解できることとして、生理食塩水中での脱ゲル化温度の低下があります(図1b)。より強い引力相互作用をミセル間が持つ場合は、ゲル化過程において、結晶化が均一でなくなり密集した凝集状態を残存させ、メゾスケールで観察される構造のゆらぎが生じます。この構造のゆらぎが、ゲルの崩壊を進行させることで、水中より生理食塩水中で、脱ゲル化が低温で生じるとするメカニズムが提案されました(図3)。
ナノキャリアとしての特性をつかさどる高分子ミセル間の相互作用の理解が進んだことから、複雑さのため従来の技術では困難であった生理食塩水中など、より生体内条件に近い環境での治療薬徐放性やゲル化挙動の詳細な基本メカニズムの理解や挙動予測が可能となりました。さらに今回の結果から、生理食塩水中に含まれる浸透圧調整物質(イオン)が高分子ミセルなどの治療薬送達特性や徐放特性に寄与している可能性も示唆されました。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/1110/15177-1110-39c2619b5393299a61b56431a06eb117-3379x1239.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図3:ポロキサマー407を例とした高分子ミセル間の相互作用やゲル構造への生理食塩水が与える効果の概念図。
■今後の展望
本研究により、生体内環境に近い複雑な状態での、相互作用に関するその場観測が可能となり、基礎科学的に重要な研究課題であるコロイド粒子間の相互作用に対する塩効果に関して、より深い知見を見出すことへの貢献はもとより、さまざまな治療薬キャリアや各種治療薬の作用への適用、体内条件での知見を得ることができるため、今後のドラッグナノキャリアの研究において、難溶解性治療薬の薬理効果を高め、治療薬投与における身体的・精神的な負担を軽減する技術の高度化などへの貢献が期待されます。
■研究プロジェクトについて
本研究は、科学研究費助成事業「高分子ナノミセルの相互作用場に立脚した治療薬徐放作用の起源に関する研究」(23K23156)の支援にて行われました。
■論文情報
タイトル:Clarifying Pair Interaction Potential between Poloxamer 407 Micelles Solvated into Phosphate-Buffered Saline in Sol-Gel-Sol Transition
著者:Takeshi Morita, Shunsuke Takamatsu, Hiroshi Imamura, Minami Saito, Kenjirou Higashi, and Tomonari Sumi
雑誌名:Journal of Colloid and Interface Science
DOI:10.1016/j.jcis.2025.139642
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