円安は“もう戻らない”のか? 家計を直撃する金利差と資源高の現実

2026年3月21日 18:41

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 円安は損か得か。答えは立場による、ではない。「輸出企業の得、家計の損」という非対称な構造が固定化されている。その事実を、2026年3月の現実が改めて証明している。

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 今、日本の家計は三重の圧力にさらされている。米が5kg4,400円超と2年前の約2倍。ガソリンは一部地域で196円に達し、政府が緊急補助金を発動した。電気・ガス代もこの夏に1割超の上昇が見込まれる。これらはすべて別々の問題ではない。根底に流れる構造は一つ、円安だ。

 なぜ円は売られるのか。答えは金利差だ。FRBは2022年から積極的な利上げを実施し、ピーク時に5%超に達した米政策金利は、その後の段階的な利下げを経てもなお3.5~3.75%で高止まりしている。対して日銀の政策金利は0.75%程度。日米の金利差は約2.75%に達する。

マネーは金利の低い円を売り、高いドルを買う。2022年初に115円だった為替は、2024年夏に一時161円まで下落した。さらに2026年に入っても高市政権の積極財政路線と、トランプ政権による対日関税圧力が重なり、市場では財政拡張による円安継続と貿易摩擦リスクが同時に意識されている。

 円安の影響が家計に直撃するのは、日本がエネルギーの約9割、食料カロリーの約4割を輸入に依存する構造だからだ。米価格高騰の主因は猛暑と減反政策だが、肥料・農業機械の燃料費など生産コストの多くは輸入価格に連動しており、円安がそれを押し上げた。一見、金利と無関係に見える米の値段にも、円安という回路で金利差は忍び込んでいる。

2026年2月の米・イスラエルによるイラン攻撃で、世界の石油輸送の要所ホルムズ海峡が事実上封鎖状態となり、国際原油価格が一時1バレル120ドル近くまで急騰した。ウクライナ侵攻時の2022年と原油価格水準は近いが、当時より円安が進んだ分だけ日本への打撃は大きい。

 見落とされがちな構造変化がある。円安になれば輸出が増えて円高に戻る——その教科書の常識が、今の日本では通じなくなっている。

2011年の東日本大震災後、原発停止による燃料輸入の急増をきっかけに貿易赤字が定着した。製造業の海外移転が進み、輸出で稼ぐ力が落ちた一方、エネルギー・食料の輸入依存は変わらない。円安になっても輸出数量が増えず、輸入コストだけが上がる構造だ。

さらにサービス収支でも直近12カ月で約5兆円の赤字を計上している。動画配信、海外旅行、スマホアプリやソフトウェアの利用料。日本人が海外に支払うドルが増え続け、円安になっても円高に戻す力が働きにくい。

 3月19日、日銀は金融政策決定会合で政策金利の据え置きを決めた。中東情勢の悪化を理由に、利上げによる円安是正の一手は見送られた。金利差は縮まらない。圧力は続く。

 円安は数字の話ではない。スーパーでお米を手に取るとき、ガソリンスタンドで値札を見るとき、その価格の根っこにあるのは日米金利差という太平洋の向こうで決まった数字だ。FRBが金利を動かすたびに、日本の食卓は静かに変わる。

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