「子猫を生む」? 猫にまつわる英語イディオム (27)

2025年11月8日 14:05

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 イギリス英語には「to have kittens」というイディオムがあるが、何を意味するかわかるだろうか。直訳すれば「子猫を生む」だが、実際はまったく異なる意味を持つ。かわいらしい響きとは裏腹に、人間の強い感情を表現するこのイディオムについて、今回は紹介しよう。

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■To have kittens

 英語では、驚きや怒りを誇張して表すために動物を使う表現がいくつかある。たとえば、アメリカ英語では、「to have a cow」で、「牛を持つ」をではなく、「かっとなる」「激怒する」を意味する。そのほか、「to go ape」(「猿になる」ではなく、「我を忘れて取り乱す」)や「to get someone’s goat」(「ヤギを盗む」ではなく「人をいら立たせる」)といったイディオムも有名だ。

 「to have kittens」もその種のイディオムの一つで、「子猫を生む」ではなく、強い不安や動揺を表すときに使われる表現だ。たとえば、「My mum will have kittens if she finds out(お母さんが知ったら気が気じゃないだろう)」のように、誰かが心配や怒りで取り乱す状況を指す。

 この表現の由来には、中世ヨーロッパの人々が抱いていた出産への恐れと迷信が深く関係している。医学的知識が乏しかった当時、妊娠中の激しい痛みや合併症は、しばしば魔女の呪いや悪霊の仕業と結びつけて説明された。なかでもスコットランドや北イングランドの一部では、「女性の腹の中で猫が暴れている」というおぞましい想像が広まっていた。

 実際、17世紀のスコットランドの法廷記録には、「腹に猫がいる(cats in her bellie)」と訴えた女性の例が残っている。彼女は耐えがたい腹痛に苦しみ、それを「子供ではなく猫を宿したせい」と信じて中絶の許可を求めたという。このような迷信は、魔女狩りが盛んだった時代の社会心理とも重なり、呪いや動物を恐怖の象徴として語る文化を反映している。

 当時の人々にとって、猫は魔女の使い魔として知られる存在だった。夜の闇を歩き、気まぐれで、理解不能な行動を見せる猫は、超自然的な力の化身とみなされた。そうした想像の延長線上で、理性を失うほどの恐怖や混乱を「猫が体内にいる」と表現するようになったのだろう。

 例文
 ・He almost had kittens when he couldn’t find his passport at the airport.
 (空港でパスポートが見つからず、彼はほとんどパニック状態になった)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る

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