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尻尾だけ残して消えた猫? 激しい共倒れを表す「Kilkenny cats」
「Fight like Kilkenny cats(キルケニーの猫のように戦う)」。英語には、想像力を刺激する奇妙なイディオムが多いが、これほど凄惨かつ滑稽なイメージを持つものは少ないだろう。
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このイディオムはアイルランド由来の表現で、「死に物狂いで戦う」や「互いに破滅するまで争う」といった意味を持つ。今回は、このナンセンスでグロテスクな伝説に由来する表現を掘り下げたい。
■マザーグースにも描かれた共倒れの物語
「Kilkenny cats」の伝説は、マザーグースの一節としても広く知られている。内容はこうだ。
「アイルランドのキルケニーにいた2匹の猫が、ある日激しい喧嘩を始めた。彼らは互いにひっかき、噛みつき、ついには相手を頭から貪り食ってしまった。喧嘩が終わったとき、そこに猫の姿はなく、2本の尻尾だけが残されていた。」
谷川俊太郎による名訳で知られる『マザーグースのうた』にも収録されているため、この不思議な詩に触れた記憶がある人もいるかもしれない。
自分を食べている相手を、同時に自分が食べているという状況は、物理的にはあり得ない矛盾である。こうしたナンセンスな物語から、「Fight like Kilkenny cats」というイディオムは、利益のない不毛な争いや、双方が全滅する共倒れを皮肉る際に使われるようになった。
■歴史に埋もれた悲しい起源
そもそもなぜキルケニーの猫はこれほど獰猛だとされたのか。その起源には諸説あるが、歴史的な対立が背景にあるというのが定説だ。
一つは14世紀まで遡る。当時、キルケニーという地域は、アイルランド先住民が住む「アイリッシュタウン」と、英国系入植者が住む「イングリッシュタウン」に分断されており、自治権や境界線を巡って長年激しく対立していた。この終わりなき自治体間の争いが、「互いを食い合う猫」として寓話化されたという説である。
また、このような逸話もある。
1798年に起きたアイルランド反乱の際、キルケニーに駐留していたドイツ人の傭兵たちが、退屈しのぎに2匹の猫の尻尾を結びつけて戦わせていた。そこへ上官が通りかかった際、兵士たちは証拠を隠滅するために、暴れる猫の尻尾を剣で切り落として逃がしてしまった。残されたのは2本の尻尾だけで、兵士たちは「猫たちが互いに食べ合った」と言い訳をしたという。
■地元では不屈の魂のシンボル
このような血なまぐさい由来を持つ言葉だが、現代のキルケニーの人々がこの表現を嫌っているかというと、決してそうではない。むしろ彼らは、自分たちを「The Cats」と呼び、その名をある種のアイデンティティとして大切にしている。
実際、アイルランドの国技「ハーリング(Hurling)」の強豪であるキルケニーのチームは、「The Kilkenny Cats」という愛称で呼ばれている。ちなみにハーリングとは、スティックとボールを使い、激しい肉弾戦を伴うことから、「世界最速の球技」とも呼ばれる荒っぽいスポーツだ。
ここでは、「Kilkenny cats」は共倒れの象徴ではなく、最後まで諦めずに戦い抜く不屈の闘志のシンボルに昇華されている。 イディオムとしてはオールドファッションな表現だが、地元の人々にとっては、歴史と誇りが詰まった愛すべきモチーフなのだ。(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る)
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