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水素の時代がやって来る
『「宇宙で一番クリーンなエネルギーは、太陽光発電で得た電気を用いて、水を電気分解して取り出した水素だ」(原文英語・筆者訳)』
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「京都議定書」が採択された1997年12月、国立京都国際会議会館で開催された「第3回気候変動枠組条約締約国会議(地球温暖化防止京都会議、COP3)」に、BMWは水素エンジン車を展示していた。そこで入手したパンフレットに記載されていたのが、冒頭の言葉だ。
●当時の水素エンジン車
当時BMWは、既にドイツ国内のとある空港周辺の街で、実証実験を実施しているとの話しだった。
この会場でBMWの担当者に、「水素エンジン車に、どんな問題点があるのか?」と尋ねたところ、「長期に放置すると、タンクの燃料が自然に減って行く」との回答を得た。
筆者を素人だと考えて、当たり障りの無い回答をしたのだろうが、多分、水素の着火性と、レシプロエンジンの構造に起因する「早期着火(バックファイア)」、「ディバイスの熱対策」の問題解決に苦労していた筈だ。
●レシプロエンジンの水素化に関する課題
レシプロエンジンは、「吸入 -> 圧縮 -> 爆発 -> 排気」の行程を同シリンダーヘッド部分で行う。つまり、爆発行程で高温になった燃焼室に、次の行程の燃料が吸入される。
水素の着火性は高く、少しでも火種が残っていれば、プレイグニッションが発生する。
また燃料(=水素)供給に際しては、液体であるガソリンに比べて、シール類の性能も要求されるが、この部分のディバイスはシリンダーヘッドに近い位置に置く必要があり、熱の影響を受け易い。
これ等の課題が、既に解決済みであったとは考えられない。
●ロータリーエンジン(RE)との親和性
マツダが「水素RE車」で実証実験をしていたのはご存知だろう。
RX-8ハイドロジェンREは、2004年に国土交通大臣の認定を受けて、10月から公道試験を開始し、2006年にはエネルギー関連企業や広島県など、地方公共団体へのリース販売を始めた。
REはレシプロエンジンとは異なり、「吸入 -> 圧縮 -> 爆発 -> 排気」の行程を、繭型のロータリーハウジングの中を、三角おにぎりの形をした遊星運動するローターが回ることで行う。
REの行程は、「吸気」ポートから吸入された燃料は、「圧縮」されながらプラグのある燃焼室に相当する部分に送られ、点火されて「爆発」する。着火(爆発)した燃料は、「排気」ポートに向かい、排出される。
この様な行程をたどる為、吸入された燃料は、火種の無いチャンバーに入り、着火して燃えている燃料は、新たに吸入された新しい燃料と触れることが無い。従って、「早期着火(バックファイア)」が起こり難い。
また、吸気ポートは燃焼する部分と離れている関係で、シール類等も熱の影響を受け難い。
その後、噂ではBMWは水素エンジン車の開発を断念したと仄聞する。BMWの撤退で、「水素エンジン車」は「マイナーな内燃機関」であるロータリーエンジンのみとなり、相当の苦戦が予想された。
●レシプロの水素エンジン車
しかしトヨタが水素エンジン車で耐久レースに参戦し、2021年5月22日~23日の富士24時間レースで「ORC ROOKIE Racing Corolla H2 concept」が完走した。(参考: 『水素エンジン車耐久レース完走の意義』(2021年6月18日付))
この事実は、「早期着火(バックファイア)」と「ディバイスの熱対策」の問題を解決した上で、「過酷な耐久レース」に水素エンジン車を投入し、完走を果たものだ。水素エンジンとは親和性の高いRE車以外で「レシプロの水素エンジン」も現実のものとなったことを、広く知らしめた。
●実用化が進む水素エンジン車
今回、トヨタが水素エンジンのハイエースを、オーストラリアで実証実験を実施する。
日本国内の環境と異なり、オーストラリアでは未舗装路の極めて微細な土ぼこりの様な、特異な悪影響を及ぼす環境下にある。水素エンジンハイエースは現地の企業に委託して、実用に供する。
勿論、車の扱いは現地流の、結構荒っぽい運転の様だが、本来実証実験には手加減は無用なのだ。「ガソリンを燃やす」か、「水素を燃やす」かの違いだけで、それ以外は問題無く稼働するのが「実用化」である。
興味がある人は、トヨタイムズニュースに詳しい。
「水素エンジンのハイエース!?なぜオーストラリアを走るのか」(トヨタ許諾済)
●自動車の将来展望
昨今、過度なEV車シフトに対する反省が起こりつつある。
YouTubeでも、「EV車充電地獄」「EV車の墓場」「EV車発火事故」等々のEVに関する批判的な動画が溢れている。EV車は全固体電池搭載車に希望を託したい。
水を汲むにも遠くまで歩いて行かなければならない、電気も満足に使えない途上国が地球上には存在する。そんな地域には、内燃機関搭載車は欠かせないのであって、決して無くならない。
環境を重視する先進国は、従来型内燃機関搭載車やクリーンディーゼルエンジン車のさらなる改善、ハイブリッド搭載車の拡大、そして燃料電池車や、水素エンジン車の普及促進を図れば良い。殊に水素燃料電池や水素エンジンへのシフトが必要なのだ。
発電や船舶、製鉄にも注目される水素の活用が進めば、インフラの整備も進展するだろう。水素の時代が近づいている。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る)
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