市井にも様々な車の専門家がいる

2021年5月18日 17:03

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Photo:D君はVWゴルフのスポーティモデルにキットを組み込んだ (トヨタ博物館所蔵)

Photo:D君はVWゴルフのスポーティモデルにキットを組み込んだ (トヨタ博物館所蔵)[写真拡大]

●ファクトリーとプライベート

 レースの世界では、ファクトリー製レーシングカーの方が、プライベートチームのレーシングカーよりもポテンシャルが高いことは、常識とされる。

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 「金に糸目を付けない」ファクトリーに対し、自分たちでスポンサーを探し、有限の資金の中から開発費を捻出するプライベートチームでは開発投資に大きな差がある。

●極めて例外的な話

 メーカー契約ドライバーであるK氏は、自身のプライベートチームも持っていた。

 或る日、鈴鹿サーキットを占有したファクトリーのマシンテストでの雑談中に、メーカーの開発担当に対する、同情的問題点を口にした事があった。それは、「ファクトリー製マシンが過剰品質」だと。

 K氏によれば、メーカーの開発陣は最善を尽くしてマシンを仕上げるが、自分が担当した部分が原因でリタイヤする事があってはならないと、「100でOKの部分」を、余裕を見込んで101とか103で仕上げる。

 例えば、本来100gで制作すれば良い部品は、強度に余裕を持たせて101gとか103gになる。

 するとその部分を支えるパーツを、「100gを支えるなら250g」で製造するところが、「101gだから255g」とか「103gだから265g」といった計算になった上に、この数値に対して、更に僅かながらも余裕を持たせる。

 結局、100gで良かった部品は103gになり、103gを支える為に本来250gで良かった物が265gプラスαとなる。

 ファクトリーチームでは、開発陣がサラリーマンだから仕方が無いのかも知れないと。

●K氏のプライベートマシン

 ところがK氏は100gの部品と、それを支える250gの部品で組み上げたマシンをドライブし、万一その部分が強度不足だった場合、そこだけを補強すれば良いとのスタンスでプライベートマシンを仕上げる。

 K氏曰く、「僕が乗って確かめるから、この方が効率的だ」とか。結果として、K氏のプライベートマシンの方がファクトリーマシンよりも軽く仕上がった。

●正規ディーラーと業販店

 東京都下の新チャネル発足に伴い、新しく設立した販売会社に駐在したことがある。出資母体は、既存チャネルの「特約販売店」、俗に云う「サブディーラー」、「業販店」だった。

 特約販売店とぃっても、従来から永年の付き合いがある顧客の要望に応じて、メインの扱いメーカー以外の車種も扱う。

 だから、ユーザーの要望に従って外車も販売していた。メインディーラーであれば、他社の車を売る事は有り得ないのだが。

 永年のユーザーから、どうしてもと懇願された母体の特約販売店が、設備の充実した新チャネルの店舗に「ドイツ車へのスポーツキット組み込み」を頼み込んで来た。

●街の修理業者出身D君

 新しく設立して、痩せても枯れても「メーカーの正規ディーラー」となるには、それなりの設備も要求される。従って、付帯の整備工場設備も「業販店レベル」とは格段に充実している。

 この新発足した会社に、関西の街のモータース店出身のD君が新規採用されて入社していた。

 彼は元の職場では、違法改造になる「タコ足」のエキゾーストパイプを自作したり、結構多彩な技術を持って居た。
 
 D君は取り寄せたドイツ車のスポーツキットを開梱しながら、「これだったら、スバルの“ボア×ストローク”がぴったり同じなんだよね」とぽつんといった。「元の職場だったら、こんなバカ高い純正キットなんて使わない」そうだ。

 ピストンヘッドの形状にしても同一とは限らず、ましてドイツ車に国産車の部品を組み込む発想自体が無いが、ボア×ストロークの数値まで知悉しているのには驚かされた。

 メーカーの専門家だったら思いもよらない様な分野の、互換性の知識も身につけている、彼の様な専門家が街にもいるものだ。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

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