早大ら、きぼう実験棟の「CALET」で高精度のスペクトル硬化を観測

2021年1月20日 17:38

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国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟に設置された「CALET(高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)」(c) JAXA

国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟に設置された「CALET(高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)」(c) JAXA[写真拡大]

 早稲田大学は14日、銀河宇宙線中の炭素と酸素のテラ電子ボルト領域で、スペクトル硬化を観測したと発表した。実験は国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟の船外に備えつけられた、「CALET(高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)」が使用された。

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■高エネルギー宇宙線が明かす暗黒物質の謎

 宇宙空間では、「宇宙線」と呼ばれる陽子や原子核、電子等の粒子が数多く飛び交っている。宇宙線は太陽や天の川銀河など、さまざまな場所から飛来している。その中でも高エネルギーの宇宙線は太陽系外から飛来し、一部は天の川銀河内の超新星爆発によって加速される「銀河宇宙線」と呼ばれている。

 可視光などで直接観測されない「暗黒物質(ダークマター)」や、宇宙の加速膨張の原因である「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」は、宇宙の全質量のうち約95%を占める。現代の宇宙物理学で解決が急がれているのは暗黒物質の問題であり、宇宙線の観測はこの謎を解く鍵だと考えられている。

 暗黒物質の存在を確かめるために必要なのが、高エネルギーの宇宙線やガンマ線の観測だという。これを実現するCALETは、宇宙を飛び交う粒子の種類や飛来する方向を測定できる。

■宇宙線の加速や伝播の新しい理論モデルが必要

 宇宙空間で観測される物体の放射現象は、黒体輻射など熱を原因とするものだけではない。熱以外の放射は「冪(べき)型スペクトル」によって特徴づけられ、その背景には宇宙線の加速や伝播が隠れているという。

 今回の研究には、早稲田大学の他に、イタリア・シエナ大学や、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの研究者が参加。CALETによって、宇宙線中の炭素や酸素のテラ電子ボルト領域で「スペクトル硬化」と呼ばれる、従来の理論的枠組みで予期される冪型スペクトルと矛盾するような現象を高精度に検出した。こうしたスペクトル硬化の検出は、宇宙線の加速や伝播について新しい理論モデルの必要性を示唆する。

 スペクトル硬化の原因を解明するためには、鉄など重い原子核のスペクトルを測定する必要がある。研究グループはすでにこうした重い原子核のスペクトルを高精度で観測し、発表する予定だとしている。

 研究の詳細は、国際学術誌Physical Review Lettersに2020年12月18日付で掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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