カルロス・ゴーン被告が保釈、異例の展開が続く「特異な事件」に新たな局面

2019年3月7日 11:43

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 日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン被告は3度目の保釈申請が認められて、6日午後東京拘置所から保釈された。庶民には宝くじの1等に当選でもしない限り縁のない10億円という保釈金を用意することも、長年多額の報酬を受け取っていたゴーン被告にとっては造作のないことだったろう。

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 18年11月19日に東京地検特捜部がゴーン被告を金融商品取引法違反(有価証券報告書への虚偽記載)容疑で逮捕して以来、拘留は既に100日を超えていた。だが東京地検特捜部の案件で、被告が全面的な否認姿勢を堅持したまま保釈されることは、ほとんど前例のない異例なことだと伝えられている。

 裁判所は、起訴された被告に証拠隠滅の懸念を認めた場合には、刑事訴訟法を根拠として、職権により拘留を行う。否認を続けている被告の保釈が、公判前整理手続きや公判開始前に認められるのは珍しい。

 異例づくめの事件である。最初の逮捕容疑からして、報酬を先送りして有価証券報告書に記載していなかったというものだった。有価証券報告書に役員報酬を過少に記載していたとして、罪に問われた初めてのケースである。逮捕して取り調べを行うほど悪質な事件なのか、を問う意見は当初から漏れていた。

 12月10日に、金融商品取引法違反容疑で再逮捕されたゴーン被告の拘留延長を、認めなかったことも異例だ。裁判所が検察による拘留請求を却下した割合は、17年に3.9%だった。拘留延長請求に対する却下率は0.21%のため、平たく言うと1000件に2件だ。特に特捜部が捜査を進める事件で、拘留延長が認められなかったケースは、ゴーン被告が初めてではないかとすら言われた。

 1月8日に行われた勾留理由開示手続きも、あまり一般的ではない。憲法で被疑者の権利として認められ、被疑者からの要求があれば公開の法廷で、裁判官が被疑者と弁護人に勾留理由を説明する手続きであるが、本人が意見を述べることも認められている。当日の法廷では多田裁判官が、特別背任とされる逮捕容疑の概要と勾留に正当な理由があることを説明した後、ゴーン被告本人が「無罪であり不当に拘留されている」と主張を述べた。さながら、独演会の舞台となったような趣さえあった。

 1月11日の1回目の保釈請求時には、住居としてフランス国内や駐日フランス大使公邸を希望する、という大胆さを見せたが却下された。2度目の保釈請求後には「保釈に当たってのあらゆる条件を受け入れる」との声明を発表し、自分で取り外しの出来ない全地球測位システム(GPS)装置を体に装着する、という屈辱的な譲歩までしたが、再度却下の憂き目に遭った。2度に渡る保釈請求の不首尾が、その後の弁護士交代に影響を与えた可能性も指摘されている。

 3度目の保釈請求は、後任となった弘中弁護士の手によって行われ、東京都内の監視カメラを設置した住居に居住し、事件関係者との接触禁止と、通話以外の外部接触ができない携帯電話や、パソコンのみの利用に制限された上で、パスポートを弁護人に預けて海外渡航が出来ないことも条件とした。事前に弘中弁護士から提案された、ほとんど自宅軟禁状態となるような条件に対して、ゴーン被告は不快感を表現したようだが、目の前に便器がある狭隘な拘置所から脱出したいという思いが勝ったようだ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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