【日産の不正検査】「なぜ?」を5回繰り返せ カルロス・ゴーン会長の責任は?

2017年10月22日 18:15

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 日産自動車は新車検査を無資格者に行わせていたことを、公表後も繰り返していた。また新車検査を無資格者が行っていながら「安全である」ことを強調していた。この認識は根深い問題をはらんでいる。また、不良を認識し「ストップ」が掛かっていながら、現場まで浸透していなかったことは、組織の在り方が根本的に間違っている証で、経営の基本的姿勢が問われる。「経営者は現場に立て」。

【こちらも】日産の無資格者による出荷前検査、問題発覚後も継続

■形骸化している新車検査は、高品質の証

 「検査」と「品質保証」、「造り方」について、国民もメディアも理解を深めねばならない。現在の文明社会は「品質保証」で成り立っていると言っても過言ではない。工業製品の品質が「現在の中国社会のレベル」であると「民主主義」は育たない。マックナゲットの品質問題でマクドナルドの売り上げが激減したように、「品質が悪いとこの社会に存続しえない」と生産者に思わせる社会が、文明社会の原則だ。

 日産自動車の経営陣が「品質には問題ない」と説明しているが、これは非常識としても、現実の日産車の品質は問題のないレベルであることが予想される。それが「新車検査」そのものが形骸化する要因だ。「検査しなくても問題はない」との認識だ。確かに生産完了時点で問題が出るようでは、「商品」にならないのが「製造」の概念だ。そもそも「検査無用」にするのが「生産技術」なのだ。

■トヨタ生産方式の「あんどん」はどこに消えた

 現在の製造業の生産方式では、ラインで不良が出たとき、その場で「ごまかし」は許されていない。再発が防止できる手立てが打てられるまで、ライン全体を止めるのが原則だ。それがトヨタの社内暗号として生まれた「あんどん」の役割だ。ラインで不良が発見されたとき、すぐにそれを全ラインに知らせる「ランプ(あんどん)」が点灯されて、ライン全体がストップする。これは現代の全製造業の「掟」である。

 そして直ちに原因の究明と再発防止策が打たれる。再発がされないと確証されるまで、ラインを再起動しない。ラインが止まることで莫大な損害が出るが、「再発する」ことで出る損害は「再起不能になる」危険があることを知っているからだ。その意味で「日産の再発」は大打撃となることが確実だ。日産の「あんどん」は消えてなくなっている。再発防止策が立てられないうちに「再起動」したことは、「品質保証」の観点からは「万死」に値する間違いだ。

■「ファンド体質」はビジネスモデルを壊す

 当然にカルロス・ゴーン会長の責任が問われる事態だ。製造業のビジネスモデルの根幹である「品質保証体制がなぜ壊れたのか?」が、問題の根幹である。それは間違いなく「経営方針」の誤りだ。「何かが間違っている」のだ。

 アコーディア・ゴルフが経営陣のスキャンダルで問題となったことがあるが、その当時の経営陣には「労働基準法」を守る概念がなかった。アドバイスしても「なんで従業員の権利が株主の権利に優先する部分があるのか?」理解できない実態があったのだ。それはゴールドマンサックスが出資し、ゴルフ場運営の経営陣を選び、「投資効率」のみを価値観として、投資に対する短期での見返りのみを最優先する中では、社員の権利を考えない「ブラック企業」とまでは言えないが、実質違法状態の会社経営がまかり通っていた。

 ゴルフ場のメンテナンス費用などは、「切り詰める」程度を逸脱して「ケチる」状態となり、一部専門家から「雑草のグリーン」と言われてしまうほどであった。雑草が生えていても刈り折んでしまえば素人目には判別できないので、芝生の入れ替えなどをしていなかったことがある。

 現在の「投資感覚」の経営陣では、「品質保証」の原則をビジネスモデルの中心概念と位置付け出来ないのであろう。日産自動車は日本の企業であったので「品質の概念」は理解できており、実質倒産後ルノーの配下に入っても、これまで基本的「品質保証」の概念は堅持できていたのだろう。しかしカルロス・ゴーン氏の経営が長く続く中で「ファンド体質」「投資体質」に変化してきたことが、根本の原因と考えるべきである。

■「なぜ?」を5回繰り返せ

 これもトヨタの生産方式の中に組み込まれている品質管理の原則だ。原因を究明するとき「なぜ?」と考えなければ原因にたどり着けないことは明確である。それも1回だけでは不十分で、本当の原因にたどり着いて直してしまわないと再発してしまう。そこで「なぜ?を5回繰り返せ」。そうすればほとんどの問題の真の原因にたどり着くとの教えなのだ。

 【日産はなぜ?新車完成検査を形骸化してしまったのか?】を5段階、掘り下げながら繰り返してみることだ。すると「経営者は現場に立て」の原則の意味が解ってくるはずだ。そこでもう一度「取締役と執行役員」を分ける経営組織編制の考え方が「投資」の概念で行われていることが認識できるはずだ。それにより現実のビジネスモデルと遊離した投資が取締役によってなされていることが、ビジネスモデルそのものを壊していることに注目することだ。「品質保証」を「経営の中心課題」と捉えていたら、事件発覚後、誤りを続ける組織とはならない。

 「日産の組織の在り方と組織運用が間違っている」ことの証拠が、この不良の真の原因であろう。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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