【名城大学】マウス脳を広域カバーするフィルム型神経デバイスを開発 ~大脳皮質頭頂部から側頭深部まで光刺激と神経記録を同時に実現~
配信日時: 2026-04-30 11:21:02


名城大学理工学部材料機能工学科の関口寛人教授(電子工学)、松井壱渡研究員、同研究科修士課程1年の黒木瑠莉大学院生と、獨協医科大学先端医科学研究センター認知・記憶研究室の大川宜昭教授(神経科学)、引間卓弥助教(神経科学)らの研究グループは、16個の窒化ガリウム(GaN)系マイクロLEDと32チャンネルの皮質脳波(ECoG)電極を厚さ約25µm(1µmは100万分の1メートル)のフレキシブルシート上に一体化したデバイスを開発しました。このデバイスをマウスの頭蓋内に硬膜外から挿入し、脳を貫通せずに頭頂部から側頭深部まで大脳皮質の広範囲をカバーするように埋め込むことで、光による神経刺激と電気的な神経記録を同時に行う双方向神経インターフェースを実現しました。フィルム型デバイスでマウス皮質の背側領域を超え、側面最深部まで広域双方向アクセスを達成した初の報告です。
本研究成果は、2026年4月28日に応用物理学会の国際誌「Applied Physics Express」にオンライン掲載されました。
【ポイント】
● コプレーナ電極構造のGaN系マイクロLED薄膜を160℃の低温インジウム接合によりパリレンC基板上に転写する技術を開発し、厚さ約25µmのフレキシブルシートに16個のマイクロLEDと32チャンネルのECoG電極を一体化した。
● シート型デバイスを頭蓋骨と脳表面の間の硬膜外腔に滑り込ませ、頭頂部から側頭深部まで皮質の広域をカバーする双方向神経インターフェースを実現した。光刺激と電位記録を兼ね備えたフィルム型デバイスによる、マウス背側皮質を超えた広域皮質アクセスは世界初である。
● マウス脳において4つの感覚野(視覚・聴覚・体性感覚・嗅覚)からの同時記録と、光遺伝学的刺激による局所的な神経活動誘発を実証した。
【概要】
光遺伝学(オプトジェネティクス)注1)による神経活動制御は神経科学の強力なツールですが、従来の光ファイバーでは単一部位への照射に限られます。マイクロLEDとECoG電極注2)を一体化したフレキシブルデバイスはこの制約を克服しますが、これまでマウスではデバイスを頭頂部の皮質に留置することしかできず、島皮質や梨状皮質など機能的に重要な領域が存在する大脳皮質側頭・深部皮質へのアクセスは困難でした。
本研究では、低温インジウム接合によりGaN系マイクロLED薄膜をパリレンC注3)基板上に転写する技術を開発し、厚さ約25µmの超薄型シートに光刺激・記録機能を集積しました。Thy1-ChR2マウス注4)でのin vivo実験により、4つの感覚野からの誘発応答記録と、光遺伝学的刺激による局所ガンマ帯域応答の誘発を確認しました。野生型マウスでは応答が見られず、真の神経活動であることを実証しました。
【詳細な説明】
1.背景
光遺伝学的手法は、光感受性タンパク質を用いて特定の神経細胞の活動を光で制御する技術であり、神経科学研究における強力なツールとして広く利用されています。従来の光ファイバーを用いた手法は単一部位への照射に限られ、空間分解能の向上や動物の行動自由度の確保に課題がありました。これに対し、マイクロスケール無機発光ダイオード(µLED)をフレキシブルポリマー基板上に集積した埋込型光源が開発され、脳表面に沿ったファイバーフリーの精密光刺激が可能となっています。
一方、パリレンCなどの生体適合性基板上に形成したフレキシブルECoG電極は、脳を貫通することなく広範囲の皮質活動を記録できます。光刺激と神経記録を同時に行う双方向神経インターフェースの実現に向け、µLEDとECoG電極を単一のフレキシブル基板上に一体化するアプローチが複数のグループにより報告されてきました。しかし、これらのフレキシブルシート型デバイスは、げっ歯類において頭頂(背側)皮質表面への適用にほぼ限られていました。
大脳皮質側頭部・深部には、島皮質や梨状皮質など機能的に重要な領域が存在しますが、マウスにおいてはこれらの領域が側頭筋や頭蓋骨の下に位置するため、表面に配置するデバイスからのアクセスが困難でした。針型µLEDプローブは深部構造にアクセスできますが、脳組織を損傷し、カバーできる範囲は局所に限定されます。フレキシブルシートは脳表面に沿って硬膜外腔を滑るように挿入できるため、頭頂部から側頭部まで脳を貫通せずに広範囲をカバーできる可能性がありますが、光刺激機能を備えた広域対応のシート型双方向デバイスは実現されていませんでした。
2.研究内容および本成果の意義
本研究では、脳深部まで到達できる超薄型フレキシブルシートに、光刺激用のマイクロLEDと神経記録用のECoG電極を一体化する技術を開発しました(図1)。
デバイスを頭蓋骨と脳の間の狭い隙間に滑り込ませるには、厚さを20〜30µm以下に抑える必要があります。しかし、市販のLEDチップは50µm以上の厚さがあり、そのままでは使用できません。そこで、GaN系半導体の薄膜をフレキシブル基板であるパリレンC上に貼り合わせる手法をとりました。パリレンCは有機材料のため高温に弱く、耐熱性の評価から160℃以下での加工が必要であることを明らかにしました。この温度条件でLED薄膜を確実に接合するため、LED電極面を平坦にするコプレーナ電極構造と、インジウム金属を介した低温接合技術を新たに開発し、すべてのLEDを基板上に転写することに成功しました。
完成したデバイスは、厚さ約25µmのシート上に16個のマイクロLEDと32チャンネルのECoG電極を搭載しています。光遺伝学に必要な光強度を達成し、曲率半径2mmの曲げにも耐える柔軟性と信頼性を備えています。
このデバイスを光感受性タンパク質(ChR2)を発現するマウスの脳の硬膜外に挿入し、皮質頭頂部から側頭部・深部までを覆うように埋め込みました(図2)。4種類の感覚刺激(視覚・聴覚・体性感覚・嗅覚)に対して、それぞれの感覚野から誘発応答を記録することに成功し、1枚のシートで広範な皮質領域に同時アクセスできることを確認しました。さらに、マイクロLEDによる光刺激で刺激部位近傍に局所的な神経応答を再現性よく誘発することに成功し、本デバイスが光刺激と神経記録の双方向動作を実現することを実証しました(図3)。
本成果は、フィルム型デバイスでマウスの頭頂部を超えた広域の皮質領域にアクセスした初めての報告であり、これまで到達困難であった脳領域間のネットワーク機能の解明に新たな道を拓くことが期待されます。
【用語解説】
注1)光遺伝学(オプトジェネティクス):遺伝子導入により光感受性タンパク質を発現させ、特定の神経細胞の活動を光で制御する手法。
注2)ECoG電極:大脳皮質表面に電極を配置し、脳内を貫通せずに広範囲の神経活動を記録する手法。
注3)パリレンC:生体適合性に優れたポリマー材料。均一な薄膜として成膜可能で、埋込型医療デバイスの基板に用いられる。
注4)Thy1-ChR2マウス:Thy1遺伝子の発現システムを用いて、脳の広域の神経細胞に光感受性タンパク質のチャンネルロドプシン2(ChR2)を発現させた遺伝子改変マウス。青色光を照射することで、特定の神経活動を光で直接かつリアルタイムに活性化・操作できるため、神経回路や脳機能の解析に広く使われている。
【掲載論文】
雑誌名:Applied Physics Express
タイトル:Flexible MicroLED–Electrocorticography Sheet for Wide-Area Bidirectional Neural Interface in Mice
著者名:Kazuto Matsui, Ruri Kurogi, Takuya Hikima, Mitsuhiro Yamada, Atsushi Nishikawa, Alexander Loesing, Noriaki Ohkawa, and Hiroto Sekiguchi
掲載日時: 2026年4月28日
DOI: 10.35848/1882-0786/ae5ebe
【研究助成】
本研究は、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業 研究課題名「リアルタイム神経活動制御と診断を可能にするデバイス技術の開発」(JPMJFR2443)、日本医療研究開発機構(AMED) 革新的先端研究開発支援事業 ソロタイプ 研究課題名「多様な感覚情報を統合し記憶を構築する脳システムの理解」(PRIME・JP23gm6510021)、キヤノン財団からの支援により行われました。
【本件に関するお問い合わせ先】
・研究内容に関すること
名城大学 理工学部 化学・物質学科 材料機能工学専攻
教授 関口 寛人(せきぐち ひろと)
Tel : 052-838-2387
Email : sekigu@meijo-u.ac.jp
獨協医科大学 先端医科学研究センター 認知・記憶研究室
室長/教授 大川 宜昭 (おおかわ のりあき)
Tel : 0282-87-2478
Email : nohkawa@dokkyomed.ac.jp
・広報担当
名城大学 渉外部 広報課
Tel : 052-838-2006
Email : koho@ccml.meijo-u.ac.jp
獨協医科大学 企画広報部
Tel : 0282-87-2107
Email : kikaku@dokkyomed.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
Tel : 03-5214-8404
Email : jstkoho@jst.go.jp
・JST事業に関すること
加藤 豪(かとう ごう)
科学技術振興機構 創発的研究推進部
Tel : 03-5214-7276
Email : souhatsu-inquiry@jst.go.jp
▼本件に関する問い合わせ先
名城大学渉外部広報課
住所:愛知県名古屋市天白区塩釜口1-501
TEL:052-838-2006
FAX:052-833-9494
メール:koho@ccml.meijo-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
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