高ナトリウム血症がミクログリアへ及ぼす影響

プレスリリース発表元企業:学校法人藤田学園

配信日時: 2024-08-09 10:00:14





藤田医科大学(愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪1番地98)内分泌・代謝・糖尿病内科学の椙村益久教授、布施裟智穂大学院生、藤沢治樹講師、鈴木敦詞教授らのグループは、高ナトリウム血症がミクログリア※1へ及ぼす影響について研究を行いました。急性および慢性の細胞外高ナトリウム濃度はいずれも、NOS2※2発現を亢進させ、NO※3産生を上昇させることを明らかにしました。また、その機序として、高ナトリウム濃度によるNFAT5※4の発現亢進が重要であること、さらにNa+/Ca2+交換体(NCX)を介したCa2+の細胞外流出が関与していることを明らかにしました。さらに、ミノサイクリン※5が高ナトリウム濃度によるNOS2発現とNO産生を抑制することが示されました。これらの成果により、今後、高ナトリウム血症患者における中枢神経系の機能障害のさらなる機序解明や臨床分野への応用が期待されます。
本研究成果は、米国・ニューヨークの学術ジャーナル「Peptides」 (2024年9月179号)で発表され、オンライン版が2024年6月20日より公開されています。
論文URL :https://doi.org/10.1016/j.peptides.2024.171267


<研究成果のポイント>

脳内免疫担当細胞であるミクログリアが細胞外高ナトリウム濃度(高Na環境)によって、NOS2発現とNO産生を亢進することを証明。
高Na環境で、ミクログリアが活性化する機序にNFAT5が重要な役割を果たしていることを初めて発見。
高Na環境は、ミクログリアにおいて、NCXを介してCa2+を細胞外へ流出させ、NOS2発現とNO産生に関連していることを初めて発見。
高Na環境でのミクログリア活性化をミノサイクリンが阻害することを証明。
高Na血症患者におけるミクログリアの機能変化が中枢神経系の機能障害に繋がっている可能性を示唆。
高Na血症に関連する神経学的症状に対する新たな治療法の可能性を示唆。



<背 景>
ミクログリアは脳内免疫担当細胞で、炎症、感染、神経変性疾患など多くの脳神経疾患の病態にミクログリアの活性化が関与することが知られています。過去に同グループは、低ナトリウム(Na)血症の急激な補正による浸透圧性脱髄症候群(ODS)の病変部にミクログリアが集積すること、およびミノサイクリンがミクログリアの活性化を抑制することによってODSを予防することを証明しました。
各組織に存在する免疫細胞のマクロファージは、高ナトリウム(Na)濃度環境においてMAPK※6の活性化やNFAT5の発現の増加を介して、NOS2依存性のNO産生を上昇させることが報告されていますが、高Na血症のミクログリアへの影響はほとんどわかっていません。本研究では、マウスミクログリア細胞株BV-2を用いて、高Na濃度環境下におけるミクログリアのNO産生の変化、NFAT5やMAPKの関与、ミノサイクリンの効果について検討しています。


<研究手法>
マウスミクログリア細胞株(BV-2)に対し、2日毎に培地交換を行い、5回目の培地交換時にLPS※7刺激を行いました。急性高Na濃度群は、LPS刺激と同時に細胞外Na濃度を20 mmol/L、40 mmol/Lずつ上昇させました。慢性高Na濃度群は、培地交換毎に細胞外Na濃度を5 mmol/L、10 mmol/Lずつ上昇させ、最終的に20 mmol/L、40 mmol/Lの上昇が得られるようにしました。 LPS刺激の6時間後と24時間後に細胞を回収しました。また、NFAT5の関与を評価するため、LPS刺激の24時間前にsiRNAでNFAT5の発現を低下させた後、LPS刺激を行い、細胞を回収しました。


<研究成果>
急性・慢性の高Na濃度環境はいずれも、Nos2 mRNAの発現とNO産生を増加させることが示されました(図1)。また、高Na濃度環境ではNFAT5の発現が増加することも示されました。NFAT5の発現をノックダウンすると、高Na濃度環境によって誘導されるNos2 mRNAの発現とNO産生が抑制されました(図2)。主要なMAPK経路について解析すると、高Na濃度環境ではLPS存在下でERK※8のリン酸化が亢進することが示されました。さらに、高Na濃度環境により細胞内Ca2+濃度が低下し、Na+/Ca2+交換体阻害剤により高Na濃度環境により誘導される細胞内Ca2+濃度の低下、Nos2 mRNAの発現およびNO産生が抑制されました。ミノサイクリンは高Na濃度環境によって誘導されるNos2 mRNAの発現とNO産生を抑制しました。
以上より、高Na濃度環境によるミクログリアの活性化は、NFAT5と、NCXを介した細胞外へのCa2+流出が関与し、ミノサイクリンはそれを抑制することが示されました。また、ERKリン酸化の関与も示唆されました。

[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2299/93186/300_411_2024080818162466b48ce8bae5a.jpg


コントロールメディウムと比べて、急性高Na濃度(+40mM)と慢性高Na濃度(+20 mM, +40mM)の条件では、
ミクログリアのNO産生量が有意に増加した。
*, p<0.05; **, p <0.01; ***, p <0.001.



[画像2]https://digitalpr.jp/simg/2299/93186/400_287_2024080818162866b48ceca441e.jpg


急性高Na濃度(+40mM)と慢性高Na濃度(+40mM)の条件では、siRNAを用いてNFAT5の発現を抑制することにより、
ミクログリアからのNO産生量が有意に減少した。
*, p<0.05; ***, p <0.001.


<今後の展開>
本研究の結果は、高Na血症によるミクログリアの調節異常が中枢神経系に悪影響を及ぼす可能性を示唆しています。今後、高Na血症による中枢神経機能障害について、さらなる機序解明が進むとともに、新たな治療法の開発が期待されます。


<用語解説>
※1 ミクログリア:
中枢神経系の免疫を担い、サイトカイン放出、異物の貪食、シナプス剪定等を行う。

※2 NOS2 (誘導型一酸化窒素合成酵素):
細菌感染などに伴って誘導される、NO合成酵素の一つ。

※3 NO(一酸化窒素):
神経伝達や免疫反応等に関与するフリーラジカル。

※4 NFAT5 (Nuclear Factor of Activated T-cells 5):
浸透圧ストレスに関する遺伝子の発現を調節する転写因子。

※5 ミノサイクリン:
抗生物質であるが、ミクログリアの活性化を抑制することが知られている。我々は、血清Na濃度の急速上昇に伴う浸透圧性脱髄症候群の動物モデルで、ミノサイクリンがミクログリアの活性化を抑制し、脱髄の発症・進展を予防することを報告している。

※6 MAPK (Mitogen-Activated Protein Kinase):
細胞内シグナル伝達システム。細胞外の環境変化や、増殖因子などの情報を伝え、細胞の分化、増殖、アポトーシス等を制御する。

※7 LPS(リポ多糖):
グラム陰性菌の外膜に存在する成分で、炎症性サイトカインの分泌を促進する。

※8 ERK (extracellular signal-regulated kinase) :
MAPKファミリーの一つ。


<文献情報>
●論文タイトル
Effects of hypernatremia on the microglia

●著者
布施裟智穂1、藤沢治樹1、村尾直哉1、岩田尚子1、渡邊崇2、清野祐介1、竹内英之3-5、鈴木敦詞1、椙村益久1

●所属
1藤田医科大学医学部 内分泌・代謝・糖尿病内科学
2藤田医科大学 腫瘍医学研究センター 
3横浜市立大学 医学部医学科 神経内科学・脳卒中医学
4国際医療福祉大学 医学部 脳神経内科
5国際医療福祉大学熱海病院 神経難病・認知症センター

●DOI
https://doi.org/10.1016/j.peptides.2024.171267



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